“好きなことでしっかり稼ぎたい“フリーランスのための契約書ひな形集 2024年版【フリーランス新法に対応しよう!】
【フリーランス向けひな形集】フリーランス新法の施行間近に
2024年11月1日に、いよいよフリーランス新法が施行されます。フリーランスと、フリーランスにお仕事を発注する企業の両方にかかわりのある、新しい法律です。
ということで、これを機に僕もあらためて「フリーランスと契約」について考えておきたかったのもあり、また少しでも実際的なお役にたてる情報発信をテーマに、フリーランス向けのひな形集をつくりました。トラブルを予防し、起業、副業、複業、フリーランス活動を楽しみましょう。フリーランスの皆様にとってなにかひとつでも参考になれば幸いです。
思ったより長文になってしまったので、ファイルとして「ダウンロード」して読めるようにPDF版もつくりました。ひな形を活用したいときやサイト上だと読みづらいときなどにどうぞ。
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第1章 契約書の基礎知識
1. 契約書はなぜ大事なのか?
フリーランスにとっての契約書の重要性
フリーランスの皆さん、契約書を作成していますか? 企業や個人から受注した仕事をする上で、契約書は重要です。いうまでもなく契約書は、あなたと依頼主との間の取り決めを明確にし、双方の権利と義務を定めるためのものです。企業とのお仕事では相手が用意してくれるかもしれませんが、個人からの依頼ではそうはいかないでしょうし、企業とのお仕事をする上でも、自分の契約書案を持っていた方が(結果的にそちらは使わなかったとしても)安心です。
契約書が重要な理由を簡単に整理すると、以下の通りです。
① 法的保護のため
契約書は、仕事の内容、報酬、納期などの重要な事項を明文化することで、トラブルが発生した際の法的な根拠となります。
② 期待値の調整のため
契約書を作成する過程で、依頼主との間で仕事の詳細について話し合うことができ、お互いが望んでいることを、お互いに明確にできるため、適切に必要な調整をすることができます。
③ プロであることの表現
適切な契約書を用意することは、フリーランスといえども、エキスパートであること、プロフェッショナルであることを示す機会です。
④ 後で読み返せる利点
契約書は、仕事の履歴としても役に立ちます。案外重要な側面です。日記のように振り返ることができ、以前はこういう条件でやっていたのか、と振り返ることができます。将来同様の仕事を受ける際の参考資料です。
報酬の未払いを防ぐ契約テクニック4選
未払いのリスクは少しでも減らしたいものです。フリーランスにとって、報酬の未払いは心理的にも(もちろん経済上も)深刻な問題です。契約書は未払いリスク対策でもあります。契約上の具体的なテクニックとしては、以下の4つが挙げられます。
① 支払条件の明確化
支払時期、方法、分割払いの場合はその詳細、を契約書に明記します。これが動かぬ証拠となります。
② 遅延利息の設定
相手方の自分への支払が遅れた場合、遅延利息を取ることができます。この利率を高めておくことは、プレッシャーを与え、早期の支払を促すことができると考えられています。同じ支払先が複数ある場合、遅延利息の高い方に先に支払うという判断が推測されるためです。
③ 部分払いの設定
一般的に、高額の取引や長期プロジェクトの場合、前金や中間金など、「部分的」に支払いを受けることをいいます。作業の進捗に応じて中間支払いを設定することで、リスクを分散させるわけです。
④ 成果物や著作権の移転時期を遅らせる
発注者へ納入した成果物の所有権を、報酬の完済まで留保することで、支払いを確保します。あるいは納入した作品の著作権を譲渡する場合でも、やはりその報酬の支払いが完了するまでは、著作権はフリーランサーに帰属する(ようするに代金を全部もらうまでは著作権はあげない)と明記するのが、未払いリスクの予防という意味で、フリーランス側にとって得策です。
契約内容の不一致の防止策
いわゆる「言った/言わない」というトラブルの可能性はどんな仕事にもありますが、フリーランスもやはり気を付けるに越したことはありません。やはりお客様との期待のすれ違い、契約内容の不一致は、フリーランサーと依頼主の間で深刻なトラブルの原因となるからです。
実際の業務内容によりますが、契約書では、以下のような対応のアイデアがあります。
① 業務範囲を明確に記載する
契約書に、具体的な業務内容、成果物、納期を明記します。「そんなの当り前じゃないか」、と思われるかもしれませんが、せっかく契約書を作ったのに、ここが抜けている例が意外と多いのです。特に注意したいのが成果物の定義です。できるだけ仕様書などを添付して、どのような物品、サービスが提供されるのかを具体化すべきです。
② 変更手続きも規定しておく
契約書に、業務内容の変更が必要な場合の手続きを定めておくことは、継続的な仕事においてはおすすめのテクニックです。ようするに追加や変更への原則的対応を決めておくということです。
これは契約書にかぎらず、ホームページやご案内資料にも使える考え方です。たとえば以下のような規定を加筆することが考えられます。
③ コミュニケーション方法の指定
連絡手段や頻度を明確にし、情報の行き違いを防ぎます。電話だとタイミングが合わないときにお互いに不便ですし、やり取りの記録が残らないので、メールやメッセージアプリなどの連絡手段を使うことをおすすめします。たとえば以下のように加筆することが考えられます。
④ 成果物の受け入れ基準
成果物が受け入れられる条件を明確にし、主観的な判断による不一致を防ぎます。これは最初の項目(①)で紹介した考え方と同じですが、理想的なのはやはり「仕様書」による判断基準をつくることです。相手が受領する場面までイメージして、数量やクオリティについて(仕様書などによる)共通認識をつくることが、トラブルを予防します。
2. 知っておきたい契約書関連の法的用語集
契約書を正しく理解し、作成するためには、いくつかの重要な法的用語を知っておく必要があります。以下に、特に重要な用語をまとめました。
契約の基本用語
① 当事者(とうじしゃ)
契約の主体となる、自分と相手。契約を結ぶ個人または法人のこと。
つまり「甲(フリーランサー)」と「乙(クライアント)」など。ちなみに契約書では伝統的に「甲」とか「乙」のように略します。これは絶対ではないので、たとえば発注者/受注者としてもいいし、お客様/当方、などでも間違いではありません。
② 契約の申込(もうしこみ)と承諾(しょうだく)
契約を結ぶ際の意思表示のプロセスを法的に表現する際、申込と承諾という用語が使われます。申込に対して承諾があり、その意思表示が合致していたとき、契約が成立すると説明されます。
例:見積書の提出(申込み)と発注書の発行(承諾)。
③ 債権(さいけん)、債務(さいむ)
他人に何かを要求することができることを法律上は債権といいます。契約は債権の発生原因のひとつです。債権を反対から見ると債務という義務になります。契約をすると、当事者間に債権と債務が生まれます。契約上、フリーランサーの「業務遂行義務」、クライアントの「報酬支払義務」などが債務です。
④ 契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)
提供した成果物に欠陥があった場合、売主には一定の責任があるという考え方や、その責任のことを民法上、契約不適合責任といいます。民法の規定は少し複雑ですが、実生活におきかえれば、ようするに商品を売った後の保証(たとえばデザインの修正、プログラムのバグ修正など)のことです。具体的にどのような保証をどの程度の期間にわたって実施するべきかについては、原則的には民法に詳細な規定がありますが、契約でこれを明確化したり、変更したりすることができます。
権利と義務に関する用語
⑤ 秘密保持義務(ひみつほじぎむ)/守秘義務(しゅひぎむ)
契約に基づく義務。契約で当事者間において課される「秘密を守るべき」義務のこと。「守秘義務」との主な違いは、適用範囲、発生源、対象となる職業・人であり、「秘密保持義務」は契約に基づく義務。守秘義務は法定(国家公務員法、地方公務員法、自衛隊法、独立行政法人通則法、国立大学法人法、刑法など)の義務であり、職務上知り得た秘密や個人情報を開示しない義務が特定の職業に課せられるもの。一般的に企業秘密に該当する情報や、未公開のプロジェクト情報など、その契約で知られる可能性のある情報については、契約で秘密保持義務が課せられる。
⑥ 著作権(ちょさくけん)
著作権とは、思想や感情を創作的に表現した著作物を保護するための権利。著作物には、文芸、学術、美術、音楽などの範囲に属する作品が含まれる。ただし、単なるデータや他人の作品の模倣、ありふれたもの、アイデアのみのもの、工業製品などは著作物とは見なされない。著作物でなければそもそも著作権がはたらかないため、あるものが著作物かどうかは重要なポイントとなる。
著作権には大別として著作財産権と著作者人格権という分類があり、さらにそれぞれがこまかい権利(たとえば、著作財産権は複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権、翻訳権・翻案権、展示権、頒布権・譲渡権など)の集まりである。ちなみに著作財産権は譲渡可能であるが、著作者人格権は譲渡できないと著作権法に規定されている。
契約の変更・終了に関する用語
⑦ 変更契約(へんこうけいやく)
業務範囲の拡大や報酬の変更、契約期間の延長など、すでに締結したあとで契約内容を変更するための、新たな合意(契約)。変更契約は原則として口頭でも有効に成立するけれども、あとで揉めやすいので、やはり変更契約も契約書を交わすことが望ましい。
⑧ 解除(かいじょ)
解除とは、契約当事者の一方が相手方に対して単独の意思表示を行うことで、契約の効力を遡及的に失わせること。つまり契約違反など具体的な原因により、契約を遡って無かったことにすることやその手続き。
相手方が契約の内容を履行せず、義務を果たさなかった場合(債務不履行)には、民法上の解除が認められる。これによりたとえば、納期に商品が届かない、約束した金額を支払わないなど、相手方が約束を履行しない場合には、民法上、契約を解除できることになる。また、契約書においては、特定の条件(解除事由)が発生した場合に契約を解除できることを定めることがあり「約定解除」と呼ばれる。約定解除権は、具体的に何を解除事由とするかなど、契約書に明確に記載されたルールに従って行使される。
ようするに解除には約定解除権と法定解除権があり、解除の仕組みを通じて、契約当事者は契約関係を終了させることができる。
尚、そもそも当事者が合意すれば、原則としてその合意によって契約を解約することも可能であり、この合意による解除は「合意解除」とか「合意解約」と呼ばれている。
紛争解決に関する用語
⑨ 準拠法(じゅんきょほう)
その契約に適用される法律。紛争が生じた場合にどの国の法律に従って契約が解釈・適用されるかを決定するもので、国際取引には必須の考え方。利用規約など、国境を超えた当事者間で取引が生じ得る場合にも、指定される。ちなみに、日本では、「法の適用に関する通則法」等の法律に基づいて準拠法が決定されるが、当事者自治の原則という考え方によって、契約当事者が合意していれば準拠法を選択することは可能である。
⑩ 合意管轄裁判所(ごういかんかつさいばんしょ)
訴訟を提起する裁判所をあらかじめ合意しておくことやその合意。合意管轄は民訴法第11条に基づいており、この規定により当事者は第一審に限り事前に書面で管轄の合意することが可能とされる。
たとえば「本契約に関する一切の紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」などのように、契約書で合意管轄裁判所を定める意義は、裁判手続を予め定めることにより、経済的、あるいは時間的負担の軽減や、紛争解決の予測可能性を高めることにある。
合意管轄には「専属的」合意管轄と「付加的」合意管轄の2種類があるとされ、専属的というのは指定された裁判所のみで訴訟を提起できる意味であるから、ビジネス契約においては専属的合意とするのがほぼ定着している。(もう一方の「付加的」というのは法定の管轄裁判所に“加えて”合意した裁判所でも訴訟を提起できる意味。)
これらの用語を理解し、適切に使用することで、より明確で法的に堅牢な契約書を作成することができます。また、クライアントとの交渉や契約内容の確認の際にも、これらの用語を知っておくことで、より的確なコミュニケーションが可能になります。
第2章 フリーランスの契約書ひな形集
フリーランスのための契約書のひな形を提供します。ひな形は、企業(発注者)からフリーランス(受注者)への業務委託を想定して作成されています。
これらのひな形は一般的な条項であり、絶対にこうすべきという意味ではありません。いわば料理のレシピのようなもの。実際に使用するときは個々の状況に応じて調整しましょう。「生兵法は大怪我のもと」などといいます。少しでも気になることやご心配な点があれば、手間を惜しまず専門家に相談しましょう。
1. フリーランス新法に準拠した、「取引条件確認書」
どうしても「契約書」では難しいときに
これから契約書のひな形を紹介しますが、その前に、契約書まで交わすのは心理的な抵抗があるという方もいらっしゃると思います。
ところで、フリーランス新法によれば、発注者はフリーランスに対して業務委託をした場合に、「直ちに書面または電磁的方法で取引条件を明示する義務」があります(新法第3条)。つまり、原則としてフリーランスに対しては口頭での発注はNGとなります。
発注側は「取引条件の明示」が義務づけられます
新法により、取引条件の明示は「直ちに」することとされていますので、発注者には発注とほぼ同時に取引条件をフリーランスに対し明示する義務があります。その手段は「書面又は電磁的方法」であり、一般的にはいわゆる発注書やこれに準ずる書式が使われます。
「契約書」に限られず、たとえばメールや、SNSのメッセージ等でも、明示すべき項目の要件さえ満たせばセーフです。(電磁的方法の例は、電子メール、チャットツール、SMSです。またSNS、ウェブサイト、アプリケーション等のメッセージ機能を用いて送信する場合も同様です。)
以上の事情を重ね合わせて、ルールの範囲内で実情に合わせた手段として、簡易な書式を作成したので、ご紹介します。
取引条件確認書のつくりかた
簡易な書式とは、取引条件確認書(あるいは、発注書、覚書、お仕事確認書など、任意のタイトルの書式)を作成する方式です。つまり、当事者の一方から相手方に対する通知(確認のための通知書または仕事の依頼の通知書)という形をとることで、フリーランス新法の規定に従いながら、契約書ほどは作成の負担もないかたちで、いわゆる「言った」「言わない」という行き違いの予防ができます。ベストとは言いませんが、これは実際的で便利な方法だと思います。
書面の作成方法に決まりはありませんので、レイアウトなどは自由に決めてオリジナルに作成して構いません。とはいえフリーランス新法が明示すべき事項を定めているため、記載内容はこの要件を満たす必要があります。そこで、参考例を作成しました。
この書式例はシンプルに発注内容を確認できるとともに、フリーランス新法が定める明示事項の項目をすべて含んでいます。また内容が簡易なので、オリジナルな書式のたたき台にするにも便利だと思います。参考にしてください。
取引条件確認書のサンプルWord版
取引条件確認書の記入のポイント
前述の通り、この法律により発注事業者がフリーランスに対して、発注時に直ちに取引条件として明示すべき事項は9つの項目です。取引条件確認書には、これらの明示項目がすべて含まれています。
各項目について、記入の際に迷いやすいポイントを説明します。
①日付について
まず、日付は、明示項目の「業務委託をした日」に対応しています。「業務委託をした日」とは、業務委託事業者とフリーランスとの間で、業務委託をすることについて合意した日をいいます。実際に仕事に取り掛かる日などのことではありません。業務委託契約をすると決まった日です。
②当事者の名称について
当事者の名称は、もちろん明示項目の「業務委託事業者・フリーランスの名称」に対応しています。発注者とフリーランスの名前を特定できる程度に具体的に記載しましょう。
フリーランスの名前がペンネーム等でもいいか? というご質問がよくありますが、ペンネーム等も可です。法的には「当事者間でトラブルにならない程度に双方を特定できるものであれば」足りるので、登記されている名称や戸籍上の氏名である必要はなく、当事者間で双方を特定できるものであれば、ハンドルネームやペンネームでも記載可能といえます。
(ただ、このような場合でも、正確な氏名や名称などをあらかじめ把握はしておくことでトラブルが発生した場合の備えになると考えられます。)
③委託業務について
このセクションは、明示項目の「給付・役務の内容」「給付を受領する日/役務の提供を受ける日」「給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所」「(検査をする場合)検査完了日」の各項目に対応する部分です。給付・役務の内容や納期、納入場所等を具体的に記入する必要があります。尚、検査は検査をする場合にその完了日を記載します。仕様書、図面、検査基準等が別に交付される場合は、そのことも記入してください。
給付や役務の内容について、どの程度具体的に書けばよいかですが、業務内容の全てを記載することは困難であったとしても、フリーランスから見て「給付の内容」を理解でき、発注事業者の指示に即した成果物を作成できる程度の情報を記載することが必要とされています。「給付・役務の内容」の記載は、仕上がりを見て発注事業者がやり直し等を求める際は、その根拠となるものでもあるので,必要な限り明確化することが望ましいといえます。
また、著作権の帰属などについて具体的な合意があるときは、それも「知的財産権の譲渡・許諾等が取引に含まれる場合」の欄に記載してください。これはたとえばフリーランスが成果物の著作権を発注者に譲渡(あるいは許諾)すると合意したり、著作者人格権の不行使を特約したりした場合には、そうした取引条件が「給付の内容」に含まれることから、記入すべきものです。実際の合意内容に合わせた記入が必要です。
以下はその記載例文です。
ところで業務内容が未定の場合はどうするかですが、たとえば発注時点では企画の方向性だけが決まっている場合のように、発注の具体的な内容が契約時点では明確に決められないこともあると思います。その内容が事前に決められない項目がある場合で、正当な理由があれば、すぐに明示しなくても構いません。その場合この項目には「未定」などと記入します。ただし、事前に決められない内容がある場合、その「理由」と、いつ内容が決まるのかの「予定期日」を明示しなければならないと定められているため、そのように記入してください(公取規則第1条第4項)。
「正当な理由」の例としては、ソフトウェアの作成委託において、業務委託時では最終ユーザーが求める仕様が確定しておらず、フリーランスに対する正確な委託内容を決定することができないため、「給付の内容」を定められない場合、が挙げられます。
④報酬について
このセクションは、明示項目の「報酬の額」「支払期日」「(現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項」に対応しています。報酬とその支払期日を明確にすべき点は、特に重要ですので明確に記入されるべきポイントといえます。支払期日は、「〇年○月○日」に支払う、または「末締め翌末日に支払う」などのように、特定の期日が明確にわかるように記載しなければなりません。フリーランス新法の観点からは、たとえば「納入後〇日以内に支払う」といった、日付を特定できない表記は認められませんので
注意してください。
また、フリーランス新法の趣旨から考えれば、報酬はできる限り現金(金融機関口座へ振り込む方法を含みます。)で支払うべきです。現金以外の方法で支払う場合には、当該支払方法が、フリーランスが報酬を容易に現金化することが可能である等、フリーランスの利益が害されない方法でなければなりません。よって事実上は、支払方法は「銀行振込」が一般的だと考えられます。
尚、明示項目の「現金以外の方法で報酬を支払う場合」にいう「現金以外」とは、「手形の交付」、「一括決済方式」、「電子記録債権」、及び「資金移動業者の資金移動業に係る口座への資金移動」をいいます。
この項目は現金以外の方法で報酬を支払う場合にそれを通知するためのものですから、そもそも現金で支払う場合は、この項目自体が必要ありません。確認の意味で、現金支払、や、指定金融機関への振込による支払、といった記載を残すことはかまいません。
蛇足ですが、銀行振込の場合で、振込手数料をフリーランスに負担させることについて合意がないにもかかわらず、振込手数料の額を報酬の額から差し引くことや、振込手数料をフリーランスに負担させることについて合意があったとしても金融機関に支払う実費を超えた振込手数料の額を報酬の額から差し引くことは、フリーランス新法によって禁止されている「報酬の減額」に該当するおそれがあります。
取引条件確認書に印紙を貼るかどうかについて
収入印紙を貼るべき紙の文書のことを「課税文書」といいます。取引条件確認書を作成した場合、印紙は貼るのでしょうか? 参考例の「取引条件確認書」は、原則として「単に受注者からの確認事項の通知」や「発注者からの仕事の依頼文書」として作成された場合(請負契約の成立を証明するための文書ではないため)、課税文書には該当せず、印紙は貼りません。
ただし、タイトルで判断しているわけではなく、あくまでも実質的にこの文書が、単なる通知の意味なのか、発注者とフリーランスとの間で「請負契約が成立したことを証明するために作成された文書」なのかどうかで判断されます。
よって、ご注意いただきたいのは、取引条件確認書に当事者の一方が署名や押印をして相手方へ返送したり、「承諾します」といった言葉を添えて返送したりした場合、その返送された文書は「請負契約書」とみなされるため課税文書となり、印紙を貼る義務を負います。
2. フリーランスのための、著作権に関する取引条件の考え方(難問)
著作権を譲渡するかどうかについて
フリーランスが企業から業務委託を受けて、イラストやデザイン、プログラム、写真などの成果物を納入した場合、その成果物の著作権の帰属が問題になります。前提として、著作権を企業に譲渡すると決まっているわけではありません。著作権を譲渡するかどうかは任意であり、まさに当事者が契約によって決めることです。よって、契約時には、この点をよく確認して、ひな形を合意内容に沿って適宜修正して締結するようにしてください。
仮に、譲渡を契約で明確にしなかったらどうなるのでしょうか? 著作権法では、著作権は原則として成果物を作成したフリーランス本人(著作者)に帰属します。
著作権を発注者等の他者に譲渡する場合には、契約書に「著作権を譲渡する」という明確な条項を入れる必要があります(尚、著作権は部分的な譲渡も可能なため、全部の譲渡なのかどうかといった点について当事者間に誤解が生じないように、丁寧に定めなければなりません。)。
発注者の中には、「代金を支払ったのだから、何も言わなくても著作権ごと手に入る」と考えている人もいますが、あくまでも著作権の譲渡はその旨の合意によって定まるため、代金を払ったかどうかとはまた別のお話なのです。
そのようなわけで、明確な合意がなかったら、著作権はフリーランスに残っていますから、その場合は、著作物を企業に貸している(利用許諾している)ような格好になります。利用許諾とは、発注者は一定の範囲で成果物を利用する権利を得るということです。つまり、いわば作品を借りている状態になり、この場合はその著作物の使用範囲、期間、地域など、いろいろと細かい条件をつけるのが普通です。いつまで貸すのか、何をするために貸すのか、どのようなことに使って良く、どのようなことに使ってはだめなのか、などの指定をするのです。
譲渡は「不利」なのか?
私見ですが、フリーランスが成果物の著作権を譲渡するかどうかは、もっぱら選択の問題です。取引条件は対価も含めてケースバイケースなものであり、譲渡だから不利だとか、許諾だから有利だということでもありません。お互いが納得しているか、明確に合意できているかの違いの方が重要です。
ではどうするかですが、成果物の著作権の帰属には、一般的には以下のような選択肢(パターン)があります。
著作権の帰属のパターンと記載例
どの選択肢が良いかは一概にはいえません。
企業とフリーランスとの業務委託に限っていえば、①(譲渡)のパターンが非常に多い気がしますが、かといってそれは不当な状況なのかといえば、私はフリーランスが明確に納得していれば問題ないと考えています。ただもちろん、明確な合意がなくて、単に帰属の問題が曖昧なまま、事実上譲渡させられているような状況は避けるべきです。
そこで、以下に一般的な著作権の帰属に関する条文例を挙げます。実態にフィットする記載となるように、十分に注意してください。
3. フリーランスのためのシンプルな業務委託契約書 “厳選” 9パターン
上記では簡易な方法として取引条件確認書の参考例を紹介しましたが、詳しい取引条件を定めたいときは、やはり契約書の方が向いています。とはいえ、あまり複雑なものは使いづらい面もあるでしょう。そこで、フリーランスが発注者からお仕事を発注された場合を想定して、条文数をコンパクトにまとめたシンプルな契約書のひな形を厳選して、9種類紹介します。
一般業務向け標準ひな形(参考書式02)
汎用性重視のスタンダードな内容。幅広い業務に応用が可能な、基本的な条項を含んでいます。
電子契約で締結する場合の後文の記載例
電子契約は紙の契約書と違い、収入印紙が不要となり、製本や郵送の手間もいらないなど、多くのメリットがあります。現在、いわゆる電子契約クラウドサービスが多数登場しており、比較的簡単に電子契約を始められるようになってきていますので、フリーランスの方もご利用になるかもしれません。
一般的に、紙の契約書では、後文(契約書の末尾の記載)が「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。」となっています。(ちなみに、「記名」とは、名前を何らかの方法で印字するという意味です。「署名」といった場合は、手書きでサインすることを指します。)
以下は、電子契約を利用する場合の後文の記載例です。
後文記載例
使用する電子署名サービス名は、実際に利用するサービスに合わせて変更してください。
デザイン業務向け標準ひな形(参考書式03)
フリーランスのデザイナーを想定して、デザイン制作に特有の条項(修正回数、使用範囲など)を含んでいます。
ライティング業務向け標準ひな形(参考書式04)
フリーランスのライターを想定して、文章制作に特有の条項(文字数など)を含んでいます。
プログラミング業務向け標準ひな形(参考書式05)
フリーランスのIT技術者やプログラマーを想定しています。著作権の帰属、セキュリティ要件、保守・サポートなどの条項については、十分に協議の上で決定してください。
イラスト又は写真制作業務向け標準ひな形(参考書式06)
写真やイラストなどの視覚的コンテンツを制作する業務を想定しています。
動画制作業務向け標準ひな形(参考書式07)
フリーランスのクリエイターが、プロモーション動画やウェブ用動画コンテンツの制作を委託する際の契約を想定しています。
翻訳業務向け標準ひな形(参考書式08)
文書や資料の翻訳サービスを提供する際の契約を想定しています。翻訳の対象言語、分量、専門分野、納期、品質基準などに関する条項を含んでいます。
通訳業務向け標準ひな形(参考書式09)
会議や商談などでの通訳サービスを提供する際の契約を想定しています。通訳の種類(同時通訳、逐次通訳など)、言語、日時、場所、報酬の計算方法などに関する条項を含んでいます。
講師業務向け標準ひな形(参考書式10)
セミナーや講演会、研修などで講師を務める際の契約を想定しています。
4. 契約関連書類
業務終了報告書のひな形
この業務終了報告書のひな形は、フリーランサーが委託された業務を完了した際に、クライアントに提出することを想定しています。
業務の概要、成果、実施期間、報酬などを明確に記載することで、業務の完了を正式に報告し、報酬請求の根拠とすることができます。また、今後の改善点や追加提案を記載することで、継続的な取引につながる可能性もあります。
契約解除通知書のひな形
フリーランサーが契約を解除する際に、使用することを想定しています。契約解除の理由、効力発生日、未完了業務の取り扱い、精算方法などを明確に記載することで、トラブルを防ぎ、円滑な契約終了を図ることができます。ただし実際の使用に当たっては、元の契約書の内容や解除に至った経緯に応じて調整してください。
第3章 契約書のカスタマイズ
1. シンプルな契約書のメリットとデメリット
前章で、汎用的で「シンプル」なひな形を紹介しました。契約書は業務を円滑に進めるための重要なツールですが、契約書が複雑すぎると、逆に理解がしにくかったりして使いづらいことがあります。
シンプルな契約書と、より詳細な内容を盛り込んだ具体的な契約書について、それぞれのメリットとデメリットを比較しましょう。
シンプルな契約書のメリットとデメリット
メリット
デメリット
より具体的な契約書(カスタマイズされた契約書)のメリットとデメリット
メリット
デメリット
比較表
シンプルな契約書から始める
もしあなたが契約書に不慣れでしたら、まずはシンプルな契約書で契約に慣れてみてください。シンプルな契約書にもメリットがたくさんあります。取引額や業務が増えてくるにつれて、リスクや利益保護の観点から、より詳細な契約書にブラッシュアップすることを考慮するとよいでしょう。
2.トラブル回避のためのカスタマイズの着眼点
シンプルな契約書もカスタマイズすれば、よりリスクを減らし、自分の利益を守ることができます。
契約書カスタマイズの前に (3つの心構え)
最適な契約書カスタマイズのための着眼点
以下に、契約書をカスタマイズする際の着眼点を紹介します。ご自身で契約書を作成するときのヒントにしてください。
着眼点① 報酬と支払条件の明確化
報酬はいつ、どのように支払われるか(支払期日)が明確に(〇年〇月〇日等により)記載されているかを確認しましょう。(契約書に記載がなくても、別途発注書や個別契約書で定義されている場合もあります。)「納品後30日以内に銀行振込」などの記載は、期日を特定できないため不明確な記載といえます。
また、仮に「支払遅延」が発生した場合に備えて、遅延損害金を規定することで、報酬の遅れを防ぐ効果が期待できます。支払期日までに支払がないと、「利息」が発生し、これを「遅延損害金」といいます。「遅延損害金」の「利率」の合意がない場合には、法定利率(改正民法施行時は年3%で、3 年ごとに見直される変動制。)が適用されます(改正民法第404 条)。遅延損害金を設定するには、支払方法を定める条項の下に、以下のような条項を追加します。
遅延損害金を定める条文例
遅延損害金の利率について
そもそも契約書で利息を約定する趣旨は、法定利率の3%よりも「高い」利率にするためです。ただし高くしすぎれば各種法令違反や公序良俗違反とされるリスクがあります。そして一般的に、遅延損害金の利率には「14.6%」が用いられます。この利率になった理由は諸説ありますが「国税通則法による延滞金の利率が年14.6%である」ことに由来するといわれています。また、消費者契約法などの法令でも遅延損害金の限度(超えると無効になる利率)としてこの利率(14.6%)が用いられています。以上のことから、民事契約における遅延損害金の慣習的限度額として、14.6%が一般的と言えます。
着眼点② 成果物や業務範囲(発注内容)の明確化
業務委託契約において、委託された業務の明確化は非常に重要です。業務の範囲が曖昧だと、あとから追加作業が多く発生したり、まさに「言った」「言わない」となり、クライアントとの間で誤解が生じやすくなったりします。発注内容に不明確な点が無いかチェックし、なるべく具体的な基準とすることを目指しましょう。
発注内容は、必ずしも契約書本文にすべて書かなければならないわけではありません。合意内容が明確になればよいので、必要であれば「別紙」を活用しましょう。
尚、同様の趣旨により、やむを得ず発注後に業務が追加された場合は、その追加業務についてもできるだけ書面化することが望ましいです。
発注内容記載例
詳細を「別紙」に規定するテクニック
契約書のカスタマイズにおいて、別紙の活用は便利なテクニックです。詳細な業務内容や、成果物の仕様、納品物のリストとその説明、業務スケジュールの詳細、料金の内訳など具体的な情報を、別紙ならより詳しく表現できます。複雑な業務は、契約書の本文にすべてを記入するよりも、締結のたびに異なる情報は別紙にまとめたほうが、契約書の編集や管理も楽になります。
別紙の作成手順は、まず契約書本文に「別紙の存在を示す条文」を入れます。たとえば以下のような文言です。
本契約における業務の詳細は、別紙「業務仕様書」に定めるとおりとする。
そして、別紙を作成します。別紙のタイトルは契約書と関連付け(「〇年〇月〇日付 業務委託契約書 別紙 仕様書」)、(紙の契約の場合は)契約書と別紙を一緒にホチキスで綴じましょう。その際、契約書と別紙の継ぎ目にまたがってハンコ(契印)を押すことで、契約書と別紙とが一体のものであることを分かりやすく表示します。
追加業務の規定の例
前述のように、やむを得ず後から追加の業務を委託された場合でも、なるべく文書化していったほうが、当事者間における誤解のリスクは減ります。そこで、追加の業務について文書化すべきことをあらかじめ契約書に定めておく場合の、条文例を挙げます。
着眼点③ 損害賠償条項のカスタマイズ
ビジネス契約では一般的に、業務の受注側が損害賠償責任の範囲や賠償金額を制限する条件が付けくわえられます。これは仮に損害賠償をすることになってしまった場合に備え、その賠償額にリミットをつけておいて、賠償リスクを一定の範囲内に限るためです。
フリーランス側は、損害賠償の範囲や上限を明確にすることで、万が一の際のリスクを軽減することができます。(ただし、消費者契約法などの法律により、一定の制限が設けられている場合もあるため、個々の契約内容によって十分な注意が必要です。)
賠償責任を制限する条項には5つのパターンがある
具体的に、どのような論理で損害賠償責任の範囲や賠償金額を制限するかには、さまざまな方法があります。これらのパターンを理解しておくと、契約書の損害賠償条項を確認する際に非常に役立ちます。そこで、代表例を5つ挙げます。
(1) 帰責事由による限定
損害賠償の成立を帰責事由(責任の原因となる事実)がある場合に限定する方法とは、たとえば、「甲及び乙は、本契約の履行に関し、相手方の責に帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。」などと定めることをいいます。
(2) 請求期間の限定
損害が発生してから、一定期間内に請求しなければ損害賠償を請求できないとするものです。損害賠償請求ができる期間を短く限定する主旨です。たとえば「損害賠償請求は、当該損害賠償の請求原因となる契約に定める納入物の検収完了日から○ヶ月間が経過した後は行うことができないものとする。」などと定めることをいいます。
(3) 賠償金額の上限設定
発生する賠償金額の上限を事前に決めておき、それ以上の金額は請求できないとするものです。たとえば「損害賠償の総額は、請求原因の如何にかかわらず、本契約に定める委託料の金額を限度とする。」などと定めることを言います。
(4) 損害の範囲の制限
賠償の対象となる損害の範囲について制限を設ける方法です。典型的には、「通常損害」のみについて責任を負い、「特別損害」、「逸失利益についての損害」(「間接損害」と表現する例もあります)については責任を負わない、などと定めます。それぞれの用語の意味は、定義にもよりますが、イメージしやすいように一般的な説明をすれば以下の通りです。
a) 「通常損害」のみの賠償とは、たとえば「商品の不良による直接的な修理費用のみを賠償対象とする。」などとすることです。通常損害とは、債務不履行によって社会通念上、通常に発生すると認められる損害のことを指します。民法416条1項では、「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする」と規定されています。
b) 「特別損害」の除外とは、たとえば「商品の不良により特別な事情で生じた損害(例:重要な商談の失敗)は賠償対象外とする。」などとすることです。特別損害とは、通常損害には含まれない、特別の事情によって生じた損害を指します。民法416条2項では、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる」と規定されています。
c) 「逸失利益」の除外とは、「逸失利益については、賠償責任を負わないものとする。」などとすることです。たとえば「商品の故障により営業ができなかったことによる甲の損失(稼働できていれば得られたであろう営業利益)」を、乙の賠償責任の対象外とするようなケースを想定しています。同様の趣旨で「間接損害」と表現されることもあります。
(5) 特定事項の免責
「〇〇損害」といった用語では結局、解釈に委ねられる可能性があるため、契約上合意された条件設定により、一定の事項を賠償責任の対象外とする方法です。たとえば「〇〇業務の結果、特定の成果が出ることは保証しない」とか「自然災害による遅延については、乙は賠償責任を負わない」などと定める方法です。
着眼点④ 秘密保持条項の具体化
秘密保持条項を具体的に定めることは、情報の保護、責任の明確化につながります。特に、IT関連やクリエイティブ関連の業務では、知的財産が重視されるため、この条項の重要性がより高くなります。フリーランスと発注者との業務委託契約における秘密保持条項のポイントは以下の通りです。
(1)秘密情報の明確な定義と保護
何を秘密としたいのかを定義することが望ましいといえます。業務委託の取引において、両者間で交換される重要な情報を明確に定義し、適切に保護するためです。たとえば、フリーランスは開発中のアプリケーションのソースコードを、発注者は顧客リストやマーケティング戦略を、それぞれ秘密にしたいと考えたとしましょう。そうであるならば、これらの情報を契約で明確に「秘密情報」として定義することで、漏洩するリスクを管理するわけです。
定義の方法としては「相手方が書面(電子的形式を含み、以下、同様とする)により秘密である旨指定して開示した情報、又は口頭により秘密である旨を示して開示した情報で開示後○日以内に書面により内容を特定した情報」のように、秘密情報の指定方法を規定する例があります。
秘密情報に明確な表示をさせる例もあります。たとえば書類に「秘密情報」というスタンプを押す、「CONFIDENTIAL」というウォーターマークを入れるなどの対応が考えられます。実際にこれらの処理ができる場合は、形式的に判別できるため、当事者は秘密情報を即座に識別でき、効率的です。
(2)責任の明確化
定義した秘密情報について、フリーランスと発注者の双方の責任を明確にする必要があります。つまり、秘密情報を第三者に開示しない義務や、秘密情報の管理方法などを明確化するということです。権利保護の確実化のために、違反時のペナルティ(損害賠償額など)を明記することもあります。
(3)期間、契約終了後の取り扱いの明確化
秘密保持義務を負う期間を定めること、秘密保持義務が契約終了後も一定期間継続すると定めることが、一般的です。たとえば「契約終了後も2年間は秘密保持義務を負う」等と定めます。あるいは特定の情報については「永続的に秘密保持義務を負う」と定められることもあります。
2. 修正依頼対応テンプレート
あなたがせっかく作成した契約書ですが、相手から見ると、まだ条件が足りなかったり、削除してほしい部分があったりするかもしれません。というより、立場の違う当事者から見ると、契約書は有利性も全く逆になるところもありますし、不都合なことや書かれたくないこともでてきます。そういうものですから、取引相手から契約書の修正を求められることも、むしろ当たり前だと思って想定しておかなくてはなりません。
そこで、以下に、修正依頼をされた場合への対応方法について解説します。
修正依頼への対応方法(心構え)
修正依頼への対応方法(心構え)は、ビジネス上で信頼を築く上でも重要なスキルです。以下に、そのポイントをより深めて詳しく解説します。
① 冷静に受け止める
修正依頼は、契約やビジネス交渉の場面ではごく自然なプロセスです。相手方から修正のリクエストがあったからといって、それが必ずしも契約の成立を妨げるものではなく、交渉の出発点であり、むしろより良い合意に向けたプロセスと考えるべきです。そのため、修正依頼が来た場合にもあまり感情的にならず(気持ちはよくわかりますが)、冷静に対応することが大切です。
② 依頼内容を正確に理解する
冷静になり、まずは依頼の内容を正確に理解することです。どの部分に対してどのような修正を求めているのか、またその理由は何かをしっかりと把握する必要があります。それから、相手は常に絶対に正しいわけではありませんし、相手の修正理由が不明瞭か、意図がいまいち分からないみたいなことも実際はよくあります。その場合は丁寧に(しかし遠慮せずに)相手に質問することです。不明点をそのままにせず、相手方に確認を行うことで、誤解を防ぎ、双方が納得できる解決策を見つけることができます。
③ 検討の時間をもらうのも大切
一般的にはレスポンスは早いほうが良いです。その意味では修正依頼を受けた際にも、即座に回答するのは、スピーディーな手続きにつながりますので良い対応といえます。とはいえもし、少しでも迷いがあるとか、納得がいかない点があるならば、即答は避けるべきです。すぐに判断がつきかねる場合、後で後悔しても遅いわけですし、そうした複雑な契約条項の変更を求められたならば「検討の時間をいただけますか」といったん伝えて、その後、十分な時間を確保してからあらためて相手に回答するのが賢明といえるでしょう。
④ 専門家に相談する
契約全体に影響を与えるような重要な変更を求められた場合は、法律や専門的な知識が必要となることがあります。このような場合には、無理をせずに専門家に相談することを検討しましょう。専門家からのアドバイスを得ることで、修正依頼に対して適切な対応が可能となり、リスクを最小限に抑えることができます。また、結果的に同じ対応になった(専門家に相談する前に自分で決めていたのと同じ判断をした)としても、専門家の意見を聞いた上であれば安心です。
修正依頼への返信テンプレート
修正を断る際のプロフェッショナルな対応方法
もし、相手からの修正依頼に同意できない場合も、プロフェッショナルな対応を心がけましょう。つまり修正が受け入れられない理由を丁寧に、明確に示し、相手方が理解できるように説明すべきです。修正を完全に拒否すると、そこで話が終わりになってしまいかねませんから、できるだけ代替案を提示して、双方が納得できるようにしましょう。
修正を断る際の回答テンプレート
3. 報酬交渉テンプレート
いくらで売ればいい? と、価格や報酬の金額で迷ったことはないでしょうか。仕事の打診を受けたものの、提示された報酬額が低く感じられたときは、どうしたらよいでしょうか? もちろん、戦略的に安くてもお引き受けすることが実績を作るうえで重要な面は、あると思います。一方で、フリーランスにとって、適切な報酬を得ることは重要です。いつかは、報酬交渉も必要になってきますので、報酬引き上げの提案方法について基本的な流れを説明します。
報酬引き上げの交渉方法
① 準備を整える
基準となる自分の料金表をつくりましょう。実際は「都度見積り」になることも仕方ありませんが、その場合も標準的な指標は必要です。まずはインターネットを駆使して、市場相場を調査(リストアップ)し、自身のスキルや経験に見合った報酬額を決めましょう。市場調査や価格の傾向分析は、自分でやるとなかなか客観的になれない場合があります。なるべく客観的な視点で検討しましょう。同時に、フリーランスのオリジナルなサービスにおいては相場をあまり意識しすぎると、個性が失われ、自ら差別化を妨げることもあります。独自性を見極めた上で、遠慮なく価格設定することも大事です。まとめますと、相場をしっかりと踏まえたうえで、オリジナルな部分を明確にし、ポジティブに価格設定することが必要となります。
② 引き上げ交渉に適切なタイミング
できれば報酬引き上げ交渉は、プロジェクトの成功後や、長期的な取引関係が築けた後など、適切なタイミングを選びましょう。特にそういったタイミングがなければ、「価格改定のお知らせ」として、数か月単位で前もって見込み顧客向けに予告するとよいでしょう。たとえば、「三か月後にこの値段に改訂させていただきます、〇月○日までにご予約をいただいた方には旧価格を適用いたします。」のような趣旨のメッセージを送ったり、公式ページ等で後悔したりする方法です。
③ 具体的な数字を示す
「もう少し上げてほしい」ではなく、シンプルに、具体的な金額や割合を提示しましょう。
また、単に増額を求めるのではなく、クライアントにとってのメリットも考え、具体的に説明しましょう。
報酬引き上げ交渉のテンプレート①
報酬引き上げ交渉のテンプレート②
報酬減額要求への対処
「安くしてほしい」といった意味のことを言われることも、ゼロではないと思います。単に断るのではなく、冷静かつ戦略的に対応することが重要です。以下に、対処法のポイントを詳しく解説します。
① 冷静に受け止める
まずは感情的にならず、減額要求をビジネス交渉の一環として捉えましょう。クライアントの立場にも何かしらの理由があるはずです。感情的に反応すると、信頼関係に悪影響を与える可能性があるため、プロフェッショナルとして落ち着いて対応することが大切です。
② 影響を説明する
減額が実際にどのようにサービスの質や提供範囲に影響するかを、具体的に説明しましょう。たとえば、「この金額であれば、リサーチにかける時間が減るため、納品物の精度が下がる可能性があります」や「これ以上の減額は、対応するリソースに制限がかかり、納期に遅れが生じるかもしれません」といった具合に、クライアントが理解しやすい形で影響を伝えることが重要です。これにより、単なる拒否ではなく、価格に伴うサービスの違いを客観的に示すことができます。
③ 代替案を提示する
クライアントの減額要求に対して完全に拒否するのではなく、妥協点を見つける意識を持ちましょう。たとえば、「報酬を減額する代わりに、納期を少し延ばさせていただけますか?」や「業務範囲を縮小する形で対応可能です」といった代替案を提示することで、クライアントも交渉に応じやすくなります。また、少しでも双方に利益がある提案を模索する姿勢を見せることは、関係を維持しつつ、取引を進める有効な手段です。
ようするに、減額要求に対して冷静かつ柔軟に対応し、クライアントのニーズを理解しつつ、適切な条件の中で最適な解決策を見つけるわけです。妥協しつつも、自身のサービスの価値を守るためのバランスが鍵となります。
報酬減額要求への対応テンプレート
報酬減額要求への対応例文
成果報酬交渉のコツ
フリーランスの業務にも、成果報酬がフィットするビジネスモデルもあります。たとえば、ウェブマーケティングやSEOのフリーランスであれば、クライアントのウェブサイトのアクセス数や検索エンジンの順位向上など、具体的な成果に基づいて報酬を設定することができます。また、広告運用を行うフリーランスであれば、インプレッション数、クリック数やコンバージョン数等の、クライアントの広告キャンペーンの成果に応じて報酬を設定することがあります。
成果報酬の設定例
ただし、成果報酬交渉においては、相互の期待値を調整し、リスクを適切に管理することがポイントです。ここでも重要なのは、当事者双方の認識がズレないように、上手に規定することです。以下のポイントを検討してください。
① 明確な成果指標を設定する
成果報酬型の契約においては、何を「成果」として認めるかが非常に重要です。そのため、具体的かつ測定可能な成果指標(KPI)を設定することが基本となります。例えば、「売上が何%増加したら」「新規顧客が何件獲得できたら」など、数値で明確に判断できる目標を合意しておくことで、双方が満足できる形で報酬が支払われます。
曖昧な指標だと後々トラブルに発展することがあるため、双方の理解を一致させることが大切です。
② リスクとリターンのバランスを考える
成果報酬型の契約は、リスクとリターンのバランスを慎重に考慮する必要があります。高リスクなプロジェクトに関しては、成果を達成した場合の報酬を高く設定し、リスクに見合ったリターンを確保することが大事です。一方、リスクが低いプロジェクトや安定した基本報酬を確保できる場合は、成果報酬部分を適度に抑えることで、リスクを最小限にしつつ適切な報酬が得られるように調整することができます。このバランスをしっかりと考えることが、成果報酬交渉の成功につながります。
③ 段階的な報酬体系も検討する
複雑にならないように注意が必要ですが、理論的には、成果の達成度合いに応じて、段階的に報酬が増加する仕組みを取り入れることも考えられます。たとえば、目標の50%達成で一定の報酬を受け取り、100%達成でさらに追加報酬を得られるような、報酬体系です。
利点として、プロジェクト進行中に少しずつ報酬を確保でき、最終成果が達成できなくても一定の報酬が保証される仕組みになります。
成果報酬交渉のテンプレート
成果報酬型SEO施策の提案例
価格設定は「本音ベース」の方が売れる
報酬も、契約で明確化すべき重要なポイントです。適正な報酬というテーマは一朝一夕に答えがでる問題でもありません。ひとついえることは、何であれいずれ「変化するもの」だということです。絶対的な答えを出そうとせず、柔軟に考えてみるのも良いと思います。
お恥ずかしい話ながら、私も開業したての頃を思い出すと、「自分の仕事に自分で値段をつけなければならない」ことに抵抗があり、かなり悩みました。考え方の「軸」も定まっておらず、正直あてずっぽうな決め方になっていたと思います。価格決定は、学問的には高度な計算や理論もありますが、最終的にはエモーショナルに決まるものだと思います。つまり、結局は自分にとって「情熱が維持できる価格」こそが良い価格です。経験上、本音ベースのほうが売れるようになります。
ともあれ、報酬交渉はフリーランスとしてのキャリアを通じて何度も直面する場面です。常に自身の価値を客観的に評価し、また、交渉は相手との良好な関係を維持することも目指しながら、ご自身の「感情」、「気持ち」とも折り合いがつく価格を見つけてまいりましょう。
第4章 契約後の対応と関係維持
1. 進捗報告と中間チェック
せっかく契約を締結したクライアントと、良好な関係を維持するには何が必要でしょうか? いろいろな要素はあると思いますが、継続的な取引の場合は、進捗報告が大切だと思います。つまり、忙しくてつい連絡をおろそかにすると、クライアントは不安に思うかもしれないためです。進捗報告を業務の中心的なルーティンとしてとらえましょう。具体的な方法は、以下の通りです。
効果的な進捗報告の方法
① 定期的な報告スケジュールを設定する
週次や月次など、プロジェクトの規模や期間に応じて適切な頻度を決めます。
② 報告フォーマットを標準化する
以下の要素を含む簡潔なフォーマットを作成し、一貫性を保ちます
・報告期間
・完了したタスク
・進行中のタスク
・次のステップ
・課題や懸念事項(ある場合)
③ 見通しも含め、簡潔かつ明確に伝える
専門用語を避け、クライアントにも理解しやすい言葉で説明します。
また、今後の見通しや、効率化のための提案を積極的に行います。
進捗報告テンプレート
進捗報告例文
クライアントとの中間チェックポイントの設定
納入までに時間を要するプロジェクト型の業務の場合には、必要に応じて、スケジュール全体をいくつかのパートに分けてご説明するのも、進捗を分かりやすくすることに役立ちます。以下のような考え方ができるかどうか、ご自身の業務に当てはまるところがあれば参考にしてください。
① プロジェクト開始時にチェックポイントを設定する
主要なマイルストーンや成果物の完成時期に合わせて設定します。
② チェックポイントの目的を明確にする
進捗確認、品質チェック、方向性の再確認など、目的を明確にします。
③ チェックポイントでの確認事項をリスト化する
以下のような項目を含めます
・現在までの成果物の確認
・スケジュールの遵守状況
・予算の使用状況
・クライアントの満足度
・今後の方向性や調整の必要性
④ フィードバックを積極的に求める
クライアントの期待と現状のギャップを早期に把握し、対応します。
⑤ 次のチェックポイントまでの行動計画を立てる
確認された課題や新たな要望に基づいて、具体的な行動計画を立てます。
中間チェックポイント設定例
ようするにお客様を迷わせない、不安にさせないことも重要という趣旨です。定期的なコミュニケーションと透明性の確保が、フリーランスとしての評価と長期的な関係構築につながります。
2. 契約変更への対応
契約内容が変更されることは珍しくありません。クライアントの都合に合わせることもサービスのひとつだと思います。ただし、クライアントの「いいなり」になってしまうと、やがて疲弊します。状況を適切に把握しながら対応することで、クライアントとの良好な関係を維持しつつ、自身の権利も守ることができます。
契約内容変更の手続き
① 変更内容を明確にする
クライアントと話し合い、変更の具体的な内容と理由を明確にします。
② 影響範囲を分析する
変更が納期、費用、作業量などにどのような影響を与えるか分析します。
③ 変更内容を文書化する
変更内容、理由、影響を文書にまとめます。変更理由は必須ではありませんが、やはり書いてあると状況が把握しやすいので、できれば記入しておきたいところです。
④ クライアントと合意を形成する
変更内容と、それに伴う条件の調整について合意を得ます。
⑤ 契約変更覚書を作成する
合意した内容を基に、契約変更覚書を作成し、双方で署名して締結します。
契約変更の覚書のテンプレート
追加作業の取り扱い方
① 追加作業の定義を明確にする
当初の契約範囲を超える作業を「追加作業」として定義します。
② 追加作業の依頼を文書化する
クライアントからの追加作業の依頼を必ず文書(メールなど)で受け取ります。
③ 影響を評価する
追加作業が納期、費用、他の作業への影響などを評価します。
④ 見積もりを提示する
追加作業に必要な時間と費用の見積もりを作成し、クライアントに提示します。
⑤ 承認を得る
クライアントから追加作業と見積もりの承認を得ます。
⑥ 契約に反映する
承認された追加作業を契約変更覚書または別途の追加作業契約書として文書化します。
追加作業依頼への回答テンプレート
契約変更や追加作業の取り扱いは、良好な関係の維持に重要です。常に文書化を心がけ、変更内容と適切な対価について明確な合意を形成することが大切です。
3. 長期的な関係構築のためのアイデア
成果物の納入やサービス提供の終了後は、いったん契約が終了しますが、その後もクライアントとの関係を維持する事で、顧客満足度が向上します。一般的に、企業のマーケティングではカスタマーライフタイムバリュー(CLTV)の向上を目的として、サービス終了後もなんらかの方法で連絡が維持されます。規模は異なりますが、フリーランスでも基本的には同様の考え方ができ、適切なアフターフォローは信頼につながる可能性が高いです。場合によっては業務に対する感想など、顧客体験のフィードバックが得られるかもしれません。
そこで、フリーランスにも可能な、フォローアップのアイデアを挙げます。
フォローアップのアイデア
① プロジェクト完了後のフォローアップ(感謝)メール
プロジェクト完了から1~2週間後を目安に、成果の活用状況や追加サポートの必要性を確認する内容のメールをお送りします。
② 定期的な情報提供
直接のメールまたはSNSなどを通じた間接的な方法により、業界のトレンドや新技術に関する情報を定期的に共有し、価値提供します。
③ アニバーサリーメッセージの送付
プロジェクト完了から半年後、1年後などの節目に、その後の状況を尋ねるメッセージを送ります。
④ ポートフォリオの更新通知
新しいスキルや実績を獲得した際に、近況報告としてメッセージを送ります。
⑤ 季節のご挨拶
年末年始や季節の変わり目に、はがき等の挨拶状を送り、関係性を維持します。
フォローアップ(感謝)メールのテンプレート
顧客満足度向上のためのアンケート
サービス提供後にクライアントからアンケートを取ることは、顧客満足度の向上に非常に効果的です。アンケートの実施は簡単で、例えばGoogleフォームを使えば、誰でも無料で簡単にアンケートを作成して配布できるため、導入ハードルも低いです。通常はスマートフォンやPCから数分で回答できるため、回答する側の負担も少なく、また、多くのツールでは回答の集計も行えるので、分析も簡単です。
フリーランスがアンケートを実施するメリットは以下の通りです。
① サービス改善のアイデアが得られる
「このサービスに追加して欲しい機能や改善点はありますか?」などの自由回答欄を設けることで、クライアントから直接フィードバックを受け取り、自分のサービスのどこに改善点があるのか、もしくはどこが評価されているのかを客観的に知ることができます。自分が望まれていると思っていることと、実際に他人が期待していることは、大きく違っていることも多いものです。フリーランスにとって、クライアントの声は貴重な成長のヒントです。
② 顧客との信頼関係を築く手段になる
アンケートを通じて「クライアントの意見を大切にしています」という姿勢を伝えることができます。フィードバックをもとに何らかの改善や対応策を提示すれば、その誠実な姿勢が信頼につながる可能性があります。
③ 定量的なデータでサービスの質を測定できる
「非常に満足」「満足」「不満足」といった評価項目を設定すれば、サービスの質を数値で把握することができます。定量的なデータを積み重ねれば、自分のサービスがどう改善されているか、具体的に測ることもできます。
アンケート収集フォームの作成例
第5章 資料、Q&A
1 フリーランス新法Q&A
この新しい法律は、フリーランスの方々が安心して働ける環境を整備することを目的としています。自身の権利を理解し、適切に行使することが重要です。あくまでも発注事業者側の義務が中心ではありますが、フリーランスの側もこの法律の内容を正しく理解することで、契約のスムーズな締結につながると考えます。
Q1 フリーランス新法の対象となる「フリーランス」とは誰のことですか?
A この法律における「フリーランス」は、以下の条件を満たす個人事業主を指します。
・ 発注事業者から業務委託を受けている
・ 従業員を使用していない
逆にいえば、以下の場合はこの法律にいうフリーランスの対象外となります。
・ 従業員を使用している場合
・ 消費者を相手に直接取引をしている場合
・ 不特定多数に商品やサービスを販売している場合
Q2 副業でフリーランス活動をしている場合、この法律の対象になりますか?
A はい、対象になる可能性があります。特定の事業者との関係で従業員として雇用されている個人が、副業で行う事業について、別の事業者から業務委託を受けている場合は、この法律における「フリーランス」に該当します。
Q3 発注事業者にはどのような義務が課されますか?
A 発注事業者の規模や業務委託の期間によって義務の内容が異なりますが、主な発注事業者の義務には、以下のものがあります。
特に1番目の「書面等による取引条件の明示」が重要で、これにより企業とフリーランスとの間の取引にも、契約書等による明確化手続きが必要となります。
1. 書面等による取引条件の明示
2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払
3. 禁止行為(受領拒否、報酬の減額、返品など)
4. 募集情報の的確表示
5. 育児介護等と業務の両立に対する配慮
6. ハラスメント対策に係る体制整備
7. 中途解除等の事前予告・理由開示
Q4 取引条件はどのように明示されるべきですか?
A 「発注事業者」は、フリーランスに業務委託をした場合、以下の事項を書面等により「直ちに」明示する必要があります。つまり発注するということは事実上、以下の事項を契約書等で明確に示すこととほぼ同義となります。
・業務の内容
・報酬の額
・支払期日
・発注事業者・フリーランスの名称
・業務委託をした日
・給付を受領/役務提供を受ける日
・給付を受領/役務提供を受ける場所
・(検査を行う場合)検査完了日
・(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項
Q5 報酬の支払いに関して、どのような規定がありますか?
A この法律により「発注事業者」は、発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定し、その期日内に報酬を支払わなければなりません。
Q6 発注事業者による禁止行為とは具体的に何ですか?
A 1か月以上の業務委託の場合、発注事業者は以下の行為を行ってはいけません。
1. 受領拒否
2. 報酬の減額
3. 返品
4. 買いたたき
5. 購入・利用強制
6. 不当な経済上の利益の提供要請
7. 不当な給付内容の変更・やり直し
Q7 育児や介護と業務の両立に関して、どのような配慮が求められていますか?
A 6か月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
例えば、以下のような対応が考えられます。
・ 子の急病による納期の短期延長
・ 介護のためのオンライン業務への切り替え
「発注事業者」が、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合は、その理由について説明する必要があります。
Q8 契約の中途解除や更新しない場合、どのような手続きが必要ですか?
A 発注事業者が 6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は
・ 原則として30日前までに予告する必要があります。
・ 予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合には、理由を開示しなければなりません。
Q9 この法律に違反した発注事業者に対して、どのような対応がとられますか?
A 法律の内容によって所管官庁が異なりますが、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省(都道府県労働局)が監督を行います。違反があった場合、指導や助言、さらには勧告などの措置が取られる可能性があります。
Q10 この法律についてさらに詳しく知りたい場合、どこに問い合わせればよいですか?
A 法律の詳細や最新情報については、以下の機関のホームページをご覧になるか、直接お問い合わせください。
・ 公正取引委員会
・ 中小企業庁
・ 厚生労働省(都道府県労働局)
なお、取引条件の明示や報酬支払いに関する事項は公正取引委員会・中小企業庁、就業環境整備に関する事項は厚生労働省が担当しています。
2. よくあるご質問とその回答
フリーランスの活動や、契約に関してよくある質問とその回答をまとめます。初心者の方から経験豊富なフリーランサーまで、様々な状況で参考になるはずです。
Q1 契約書なしで仕事を始めてしまいました。今からでも契約書を作成すべきでしょうか?
A はい、今からでも契約書を作成することをお勧めします。口頭での合意や簡単なメールのやり取りだけでは、トラブルが発生した際に双方の権利や責任が不明確になる可能性があります。以下の手順で対応してください。
① 現在の合意内容を文書化する
② お客様に契約書の必要性を説明する
③ 本ガイドブックのひな形を参考に契約書案を作成する
④ お客様と内容を確認し、必要に応じて調整する
⑤ 双方で合意の上、署名する
契約書を後から作成する際は、既に合意済みの内容を正確に反映させることが重要です。
Q2 クライアントから提示された契約書に不利な条項がありますが、どのように交渉すればよいでしょうか?
A 契約条項の交渉は重要です。
以下のステップで対応してください。
① 問題のある条項を特定し、なぜそれが不利なのかを明確にする
② 代替案を準備する
③ クライアントとの話し合いの場を設ける
④ 穏やかかつ専門的な態度で懸念を伝え、代替案を提示する
⑤ Win-Winの解決策を模索する
たとえばですが「本業務に関連するすべての知的財産権はクライアントに帰属する」という条項があり、フリーランスに不利だと感じられる場合などに、以下のように交渉できます。
参考例
Q3 プロジェクトの途中でクライアントが要求を大幅に変更しました。どう対応すべきでしょうか?
A クライアントからの要求変更は珍しくありませんが、適切に対応することが重要です。
① 変更内容を文書化する
クライアントに変更内容を書面(メールなど)で確認する
② 影響を評価する
納期、コスト、作業量への影響を分析する
③ クライアントと話し合う
変更による影響を説明し、対応案を提示する
例:「この変更により、納期が2週間延びる可能性があります。また、追加で約20時間の作業が必要となり、○○円の追加費用が発生します。」
④ 契約の変更
合意した変更内容を反映した契約変更覚書を作成する
⑤ 今後の対策
類似の状況を防ぐため、今後のプロジェクトでは変更管理プロセスを事前に契約に含める。
もし、要求の変更が当初の契約範囲を大きく逸脱する場合は、丁寧に断ることも検討してください。
Q4 クライアントからの支払いが遅れています。どのように対応すべきでしょうか?
A 支払いの遅延は深刻な問題です。以下のステップで対応してください。
① 契約書を確認する
支払い条件や遅延時の対応が明記されているか確認する。
② クライアントに連絡する
まずは丁寧に状況を確認する。
例:「先日の請求書について、お支払いの状況を確認させていただきたく連絡しました。何か問題がございましたでしょうか?」
③ 支払い計画を提案する
分割払いなど、クライアントの状況に応じた提案をする。
④ 正式な催促状を送る
支払期日から一定期間経過後、書面で催促する。
⑤ 法的手段の検討
上記の方法で解決しない場合、弁護士に相談するなど法的手段を検討する。
支払いの問題は、今後の取引にも影響する重要な問題です。毅然とした態度で対応しつつ、可能な限り穏便な解決を目指しましょう。
Q5 フリーランスの確定申告について、注意すべき点は何ですか?
A フリーランスの確定申告には、普段の準備が重要です。以下の点に注意しましょう。
① 適切な記録管理
収入と経費の詳細な記録を日々つける。
領収書やインボイスを保管する(電子化推奨)。
② 経費の把握
仕事関連の経費(交通費、機材費、ソフトウェア利用料など)を漏れなく記録する。
按分が必要な経費(自宅の一部を仕事場として使用する場合など)の計算方法を理解する。
③ 納税資金の確保
収入の一定割合(20-30%程度)を納税用に別口座で管理する。
④ 期限の厳守
確定申告の期限(通常3月15日)を厳守する。
期限に間に合わない場合は事前に延長申請を行う。
⑤ 専門家の活用
確定申告時は、税理士に相談することを検討する。
⑥ マイナンバーの管理
確定申告にはマイナンバーが必要。適切に管理する。
⑦ 青色申告の検討
条件を満たせば、青色申告を選択することでより多くの控除を受けられる可能性がある。
⑧ e-Taxの利用
オンラインでの申告(e-Tax)を活用し、効率的に手続きを行う
確定申告は複雑で、誤りがあると後から修正が必要になる場合があります。不安な点は早めに税務署や税理士に相談することをお勧めします。
Q6 契約書には印紙を貼るのですか?
はい。紙の契約書には、印紙を貼る場合があります(貼らないで良い場合もあります。)。電子契約の場合は印紙税がかからず、単なる契約書のコピーには、印紙を貼る必要はありません。印紙を貼る文書を印紙税の課税文書といいます。課税文書かどうかや、課税額の判断は非常に複雑なため、全てを理解するのは至難の業です。
ただ、フリーランスが使うこととなる契約書の内容は、売買契約か請負契約であることが多く、印紙税額一覧表の第1号文書(譲渡に関する契約書)か、第2号文書(請負に関する契約書)にあてはまることが多いです。その場合は印紙を貼ることとなり、印紙税額は記載された契約金額に応じた金額となります。税額は、最新の印紙税額一覧表を検索して、確認してください。
尚、収入印紙は通常、当事者がそれぞれ負担(=納税)します。よって特に定めない場合は、相手の分まで買う必要はありません。収入印紙を貼った後、必ず消印をするのを忘れないでください。
おわりに
「“好きなことでしっかり稼ぎたい“フリーランスのための契約書ひな形集 2024年版」をお読みいただき、誠にありがとうございます。
私はビジネス契約書専門の行政書士として20年以上にわたり、数多くのクライアントの皆様の契約書作成をサポートしてまいりました。特に、仕事の受注直前で急ぎの契約書が必要となる場面に数多く携わってきました。ビジネスの大きなチャンスが目の前にあり、時間が限られている中で、迅速かつ信頼できる契約書が求められる時、最適なサポートを提供することが私の使命だと考えています。適切な契約書があれば、皆様は自信を持って仕事を獲得し、安心して次のステップに進むことができるはずです。
近年、フリーランスを取り巻く環境は大きく変化しています。副業(復業)が一般的になり、働き方の多様化が進む一方で、2024年11月にはフリーランス新法が施行されるなど、法的な枠組みも整備されつつあります。このような時代の変化の中で、好きなことで活躍されるフリーランスの方々が、契約や法的義務を正しく理解し、適切に対応できるようサポートすることが、今まさに求められていると思います。
本ガイドブックは、このような背景を踏まえ、フリーランスの皆様に実践的で信頼できる情報を提供することを目的としています。同時に、フリーランスと取引する企業の方々にとっても有用な内容となるよう心がけました。契約書のひな形や法的知識だけでなく、実際のビジネスシーンで直面する課題やその解決策についても触れています。
私は、このガイドブックが、フリーランスの方々と企業の双方にとって、より良い関係を構築するための橋渡しとなることを願っています。適切な契約関係の構築は、フリーランスを取り巻く労働環境の改善にもつながるはずだからです。皆様の日々の業務やキャリア構築に、本書が少しでもお役に立てれば幸いです。
末筆となりましたが、皆様のフリーランスとしての成功と、充実したキャリアを心よりお祈りしております。
ビジネス契約書の専門家 竹永 大
ご注意:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に関する法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、適切な専門家にご相談ください。
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