再委託条項の書き方がわかる文例まとめ
持続化給付金の事業が、経産省からとある一般社団法人に委託された後、電通に委託され、さらに電通は、子会社等に外注していたという、いわゆる“中抜き”が話題になった「再委託」ですが、これはモラル的にかなり問題な気がします。
ただ、契約書の実務においては再委託は、ごく普通に登場する典型的な条文です。業務委託契約には頻繁にでてくる条文ですので、作成やチェックの際に使えるように、再委託の条文の考え方と、文例をまとめます。
再委託は原則として合法
再委託そのものは違法でもなんでもなく、多くの業務委託契約で取り入れられている方法です。ただし、通常は業務を受託した業者がさらにその業務の一部を他社に委託することをいい、「丸投げ」のことではありません。とはいえ丸投げであっても、それ自体は原則として問題はなく、仲介手数料を得るビジネスモデルも原則として正当なものです。
豆知識
準委任契約においては、委任者の許諾を得たとき又はやむを得ない事由があるときでなければ再委託をすることができない(民法第644条の2第1項)とされています。
再委託のデメリット
ただし、再委託は頼まれた仕事の全部又は一部を、別の誰かにやってもらうことですので、果たしてその業者選定は正しいのかという問題と、安全なのか(セキュリティ上の問題や、秘密保持、営業秘密の漏洩などといったリスクがないか)という問題があり、こうした懸念を増やしてしまうことが、再委託のデメリットといえます。
つまり、発注者の視点にたてば、①頼んだことをちゃんとやってくれるのか? ということと、②責任の所在が不明確になったり、企業秘密が漏れたりしないだろうか? という心配がでてくるということですね。それでも再委託が活用されるのは、そのほうがコストメリットが出せることがあるからです。
業務委託契約の再委託
そんなわけで、業務委託契約のなかで再委託を定める際は、そもそも再委託を認めるかどうか、認めるとして、制限をつけるかどうかという観点で起案をする必要があります。
再委託を認めるというのは、業務を依頼する発注者が、その業務の一部を他社に再発注してもよいと認めるということです。これが妥当かどうかは依頼する業務の内容によりますが、たとえばセミナー講師や講演、芸能関係や有名コンサルタントなど、その人の個性に着目してお仕事を依頼している場合には、再委託を認められないことが多いでしょう。
しかし、大規模なシステム開発の業務などですと、今度は一社だけで業務を引き受けることが現実的でなく、むしろ得意分野ごとに手分けをして取り組ませた方が、納期やコスト面でも有利だということがあります。その場合はむしろ再委託を認めることに意義があります。
再委託の条項パターン
では、再委託の具体的な条文はどのようにすべきでしょうか? 代表的な2つのパターンを紹介します。
まず、再委託には事前に発注者の承諾を求めるもの。いわば「事前承諾型」です。ただ、実際に事前の承諾がかえって手間になることもあります。そこで二つ目のパターンは、原則として再委託は受注者におまかせして、そのかわり発注者は再委託の中止を求めることができるという方法です。
再委託のパターン整理
・事前承諾型・・・発注者にあらかじめ承諾を得てからであれば再委託してもよい、とするもの。
・中止請求型・・・発注者は受注者に再委託のことはまかせる。しかし、中止させたいときは中止させられる。
では、具体的な文例です。
事前の承諾を要する場合の条文例
(再委託)
第○条 乙は、事前に甲の承諾を書面で得た場合又は甲が指定した再委託先に再委託する場合、各個別業務の一部を第三者に再委託することができるものとする。なお、甲が上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。
2. 乙が、前項の承諾に関して、甲に対して再委託開始時期の○日前までに当該再委託先の名称及び住所等を記載した書面による再委託承諾申請を通知し、甲から当該通知受領後○日以内に具体的理由を明記した書面による承諾拒否の通知がない場合、甲は当該再委託を承諾したものとみなす。
3. 甲の承諾拒否により、乙が他の再委託先を選定することが必要になった場合は、作業期間若しくは納期又は委託料等の個別契約の内容の変更については、別途甲乙協議して定めるものとする。
4. 乙は当該再委託先との間で、再委託に係る業務を遂行させることについて、本契約に基づいて乙が甲に対して負担するのと同様の義務を、再委託先に負わせる契約を締結するものとする。
5. 乙は、再委託先の履行について甲に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。但し、甲の指定した再委託先の履行については、乙に故意又は重過失がある場合を除き、責任を負わない。
原則再委託を認め、中止オプションを付ける場合の条文例
(再委託)
第○条 乙は、乙の責任において、各個別業務の一部を第三者(甲が指定する再委託先も含む。)に再委託することができる。但し、乙は、甲が要請した場合、再委託先の名称及び住所等を甲に報告するものとし、甲において当該第三者に再委託することが不適切となる合理的な理由が存する場合、甲は乙に、書面により、その理由を通知することにより、当該第三者に対する再委託の中止を請求することができる。
2. 前項但書により、甲から再委託の中止の請求を乙が受けた場合は、作業期間若しくは納期又は委託料等の個別契約の内容の変更については、別途甲乙協議して定めるものとする。
3. 乙は当該再委託先との間で、再委託に係る業務を遂行させることについて、本契約に基づいて乙が甲に対して負担するのと同様の義務を、再委託先に負わせる契約を締結するものとする。
4. 乙は、再委託先の履行について甲に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。但し、甲の指定した再委託先の履行については、乙に故意又は重過失がある場合を除き、責任を負わない。
いずれにしても、再委託の妥当性は納期やクオリティといった、委託業務のゴールが守られるかどうかです。あとで再委託が原因でトラブルにならないように、実情に合った条文を起案またはチェックしたいですね。
少しでも参考になれば幸いです。
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