見出し画像

「管轄裁判所とする」と「専属的合意管轄裁判所とする」の違い 【契約書でやってしまいがちな表記ミス】

契約書をチェックしているとよく見つかる頻出のミス、やってしまいがちな間違いがあります。

語尾の不統一


一番多いのは、語尾が統一されていないもの。

・・・するものとする。

・・・とします。

のように、文体が混ざってしまうものです。特に説明不要の単純なミスですが、かなり多いですね。

おそらく、いろいろなひな形をくっつけていくうちに、いつのまにかこうなってしまうのです。これと同じ原因だと思いますが、本業務、本件業務、本件委託業務・・・と、同じ趣旨の言葉が表記ゆれを起こしていることも、大変多いです。

法律用語の表現上の選択ミス


合意管轄を定めた条項で、

本契約に関する訴訟については、〇〇地方裁判所を管轄裁判所とする。」

としている例は非常に多いです。 
また、

「本契約に関する訴訟については、〇〇地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。」

というのもよくみかけます。

どちらが自社にとって良いか、判断できるでしょうか?

違いは、
「管轄裁判所とする」
「専属的合意管轄裁判所とする」
の部分です。

単純に「管轄裁判所とする」と書いた場合は、付加的合意と解されます。「付加的」な合意なので、法定管轄も排除されないことになります。つまり「法定管轄」に加えて(付加的に)指定した裁判所にも訴えを提起できるという意味になります。

「専属的合意管轄」と書いた場合は、特定の裁判所だけに訴えを提起できる、という意味の合意であることがほぼ明確になります。つまり訴訟の相手方の住所地に関係なく、その合意された裁判所に提訴できるわけです。

付加的合意でも、戦略的にそうしている場合は構いませんが、通常は管轄の合意をするのは、自分にとって都合の良い(近隣の)裁判所に提訴ができるようにしたいためでしょうから、ようするに「専属的合意管轄」が自社にとって望ましい場合に「管轄裁判所とする」としてしまわないように、注意したいです。実際の意図と表記とがズレないようにしたいですね。(もちろん、あえて「付加的合意」をする戦略もあり得ますので、「付加的合意が間違いだ」といいたいわけではありません。)


めずらしいけどやりたくないミス

それほど多いミスではないですが、日付の打ち間違いは特に印象に残ります。なぜ起きてしまうのかわからないけれど、西暦と和暦があたまのなかで混じってしまうのか、契約書作成日の年のところを間違えていることがあります。やりたくないミスの代表ですね。

この、「数字」関連のミスは怖くて、

・条文を飛ばしてしまう(たとえば第10条の次に第12条と続けてしまう)
・引用条文を間違う(たとえば本契約第〇条の、という表記が違う条文数になってしまう)
・金額の打ち間違い
・期間の間違いや表記ミス

などがあります。

解釈のわかりづらい表記

ミスというのか、とにかく文意がわかりづらいものも多く、契約書ならではかもしれません。句読点の位置を変えるだけでも読みやすくなるので、ぜひ心がけてみて下さい。

たとえば

「私は泣きながら走る子供の後を追いかけた。」

とある場合、泣いているのは「私」にも「子供」にも読めます。これに読点をつけると、

私は、泣きながら走る子供の後を追いかけた。(泣いているのは子供)

私は泣きながら、走る子供の後を追いかけた。(泣いているのは私)

とわかると思います。

これと同じことが契約書の文章でも起こります。

たとえば
「A及びBであって仕様書で定めたもの。」
とある場合。
読点の位置によって解釈が変わってきます。

「A及びBであって、仕様書で定めたもの」
とすれば、A、Bのうち、ともに仕様書で定めたもののことを言っていると読めるし、

「A及びBであって仕様書で定めたもの」
とすれば、仕様書で定めたものはBのみであって、Aは仕様書に定めたものではなくなります。

文書作成において気を付けたいこと

文体がそろっていなくても、それだけで契約が無効になったりするわけではありません。そんな小さなことを気にかけてどうするのか、なにか意味があるのかなと思わなくもありません。しかし、「小さなこと」が守られていないことで、どこか不親切な印象を与えるものです。まったくミスのない、怪しいところのない契約書、というのもまた難しいものですが、何度も読み直して、少しでもミスを減らしていきたいですね。


用途別に、契約書のひな型をまとめています。あなたのビジネスにお役立てください。


もしこの記事が少しでも「役に立ったな」「有益だな」と思っていただけましたら、サポートをご検討いただけますと大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。