損害賠償条項の書き方が分かる文例まとめ
契約交渉で「もめる」ことが多いのが、損害賠償の規定です。そこで、具体的にどんな損害賠償条項があるのか、損害賠償条項の文例パターンを挙げます。条文のパターンをおさえることにより、効率的にチェック、作成ができるようになります。
相手方の帰責事由があれば損害賠償ができると定める条文例
(損害賠償)
第○○条 甲及び乙は、本契約及び個別契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。
損害賠償の請求ができることを確認するシンプルなものです。ポイントは「損害賠償責任の成立」を相手方の「帰責事由のある場合」に限定している点です。つまり相手のせいで損害を受けたのだから、それを相手方が賠償すべきだといっていることになります。
こちらのバリエーションとして、損害の範囲に制限を設けるものがあります。幅広くすべての損害の責任を負うのではなく、概念上限定された損害についてのみ責任をおうことで、賠償すべき損害の範囲を狭める効果があります。それには以下のような文例があります。
(損害賠償)
第○○条 甲及び乙は、本契約及び個別契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、【○○○の損害に限り】損害賠償を請求することができる。
【】カッコ内のバリエーション
①「通常損害」のみについて責任を負う
②「特別事情による損害」「逸失利益についての損害」「間接損害」については責任を負わない
③「直接の結果として現実に被った通常の損害に限定して損害賠償を負う」
損害賠償が請求できるけれども、一定期間を過ぎるとできなくなると定める条文例
(損害賠償)
第○○条 甲及び乙は、本契約及び個別契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。ただし、この請求は、当該損害賠償の請求原因となる当該個別契約に定める納品物の検収完了日又は業務の終了確認日から○ヶ月間が経過した後は行うことができない。
一定期間経過後に賠償請求ができなくなる旨の定めをおくものです。別段の規定がない限りは、ここで定めた期間が請求可能期間となります。納品してから数か月などの期間を設定し、リスクを限定します。
損害賠償の金額に上限を定める条文例
本契約及び個別契約の履行に関する損害賠償の累計総額は、債務不履行(契約不適合責任を含む、)不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、帰責事由の原因となった個別契約に定める○○○の金額を限度とする。
2. 前項は、損害賠償義務者の故意又は重大な過失に基づく場合には適用しないものとする。
原則として、損害賠償には上限額を設定することができます。そこで文例では請求原因の構成如何に関わらず上限が設定できる内容になっています。たとえば契約金額の総額を限度とすることなどが一般的ですが、契約金額に限られるわけではなく任意に設定できます。当然、相手方としては上限を嫌がりますので、あまり少額にすると契約交渉が難航するでしょう。
但し書きとして、損害発生の原因が故意による場合と、重過失による場合には、判例などからもはや免責を認める必要がないと考えられるので、確認の文言をいれています。
損害賠償がもめやすい理由
損害賠償条項が契約書に入っていると、必ずと言っていいほど売主と買主との間で意見が対立します。それは、売主にとっては賠償を制限するほど、買主にとっては制限を外すほど、それぞれ有利になるからです。逆にいうと損害賠償が規定されることでどちらかが不利になるため、その点がひとたび気になりだすと、交渉が難航し、なかなか締結に至らないこともあります。
結局は、どちらかがある程度妥協するしかありません。あくまでも万が一のことを想定した条文であるため、実際問題として損害賠償の問題になりやすい契約なのか、あるいは現実にはほとんどありえないくらいリスクが小さいのかを検討して、後者であれば戦略的に締結を優先するという判断もあり得えます。
全部組み合わせた条文例
帰責事由、損害の範囲、請求期間、賠償金額による制限を全部を組み合わせると以下の条文例ができあがります。
繰り返しになりますが、一般的に「売主」は損害賠償を制限するほど「有利」になります。逆に買主側は、不当に損害賠償責任が制限されることがないよう、目を光らせなければなりません。
(損害賠償)
第○○条 甲及び乙は、本契約及び個別契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、【○○○の損害に限り】損害賠償を請求することができる。但し、この請求は、当該損害賠償の請求原因となる当該個別契約に定める納品物の検収完了日又は業務の終了確認日から【○】ヶ月間が経過した後は行うことができないものとする。
2. 本契約及び個別契約の履行に関する損害賠償の累計総額は、債務不履行(契約不適合責任を含む、)不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、帰責事由の原因となった個別契約に定める【○○○】の金額を限度とする。
3. 前項は、損害賠償義務者の故意又は重大な過失に基づく場合には適用しないものとする。
こうした「制限」のパターンを知っておくことで、素早く条文の確認ができるようになります。少しでも実務の参考になれば幸いです。
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