契約不適合責任を免除できるか 後編【契約テクニック】
契約不適合責任の免除は原則として有効
昨日の記事に続き、あなたが親から受け継いだ家を売るといった場合に、あとで修理だとかをいわれると厄介だと考え、契約不適合責任を免除する特約をいれた売買契約を締結して回避しようとするケース、を検討します。
テーマは中古住宅を売買する際の売主の「契約不適合責任」は特約で免除できるか、です。結論としてはこれは有効です。でも念のため、逆を考えてみましょう。つまり、例外的に免除の特約をしても無効になる場合を確認していきます。
逆に、免除「できない」ケースを考える
まず民法上の問題から。これは、民法に「担保責任を負わない旨の特約」という規定があります。
民法第572条(担保責任を負わない旨の特約)
売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
前提として契約不適合責任の免除特約は有効。ただし、572条によれば、「知りながら告げなかった事実」については免れない、とあるので、自分は知っていながらお客さんには黙っていた事実については無効だよということですね。まあこれは当然といえば当然です。だって、自分は不良品だと知っていて売ったのに、その責任を契約で排除できてしまったら悪用できちゃいますから。この点だけは注意が必要です。
あとは他にも注意すべき法律をみていきましょう。不動産の売買に関する法律としては、住宅品質確保促進法(品確法)や宅建業法があります。また、売る相手が素人の場合は、消費者契約法も関わります。
宅地建物取引業法で無効になるかどうか
まず宅建業法には、不動産を「宅地建物取引業者が自ら売主」となって売買する場合は、その宅地建物取引業者は、売主の瑕疵担保責任の規定を民法よりも買主に不利に設定することができない、という意味の規程があります。
(瑕疵担保責任についての特約の制限)
第40条
1.宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物の瑕疵を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第570条において準用する同法第566条第3項 に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条 に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2.前項の規定に反する特約は、無効とする。
「契約不適合責任を免除する特約」は、明らかに民法よりも買主に不利な規定といえますから、この法律に触れる場合は免除の特約は無効といえます。ただ、今回想定しているのは、宅建業者ではなく個人が売主になって中古住宅を売るケースですので、該当しません。
消費者契約法で無効になるかどうか
消費者契約法というのは、「事業者と消費者」とが契約を結ぶ場合に、消費者が不利にならないようにするため、いろいろな規定を設けている法律です。特に事業者側の責任を全部免責するような条項は無効と定められています。
今回のことに限らず、ビジネスをしていくうえで事業者側が特に注意したい条文は、消費者契約法の第8条です。
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
2 前項第一号又は第二号に掲げる条項のうち、消費者契約が有償契約である場合において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合には、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき。)。以下この項において同じ。)に、これにより消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任を免除し、又は当該事業者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与するものについては、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一 当該消費者契約において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに、当該事業者が履行の追完をする責任又は不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合
二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに、当該他の事業者が、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことにより当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、又は履行の追完をする責任を負うこととされている場合
ちょっと長いですが、意味としては、売主が履行の責任をとらず、賠償しないという規定をしても、それは無効ですよということですね。よって、契約不適合責任を一切免除してしまうと、これに抵触してしまいます。
ただし、消費者契約法は「事業者」と「消費者」との間の契約に適用する法律なので、個人間の契約には適用されません。
品確法で無効になるかどうか
住宅の品質確保の促進等に関する法律によれば、新築住宅の売買契約においては、引渡しの時から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵(かし)について、担保責任を負うこととされている(第95条)ため、これに反する特約は無効になってしまいます。
ちなみに品確法における「瑕疵」は、種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう、と定義されています(2条)。
(新築住宅の売主の瑕疵(かし)担保責任)
第 95 条 新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡さ
れたものである場合にあっては、その引渡しの時)から十年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵(かし)について、民法第415条、第541条、第542条、第562条及び第563条に規定する担保の責任を負う。
ただ、これは「新築住宅」についての法律なので、今回の例にはあてはまらず、以上のことから、個人間で中古住宅を売買しようとする今回の想定シチュエーションでは、契約不適合責任を特約で免除できます。
まとめ
契約不適合責任を特約で排除することで、売主にとって有利な契約をすることができます。逆に、あなたが買主の場合は事前に目的物の状態をよく確認するなど注意が必要です。
今回のように、複数の法律の適用が考えられる場合に、一般法と特別法とでは特別法の方が優先的に適用されます。以下のように右へ行くほどその法律の優先度が高くなります。
民法 < 消費者契約法 < 宅地建物取引業法 < 品確法
それぞれ、当事者の一方が事業者の場合は消費者契約法が、売主が宅建業者だった場合は宅建業法が、住宅が新築だった場合は品確法が適用されます。そして今回の例はたまたま3つとも該当しなかったので、民法が適用となり、「知りながら告げなかった」場合を除いて特約が有効と判断できます。