あなたが後輩や同僚から、”業務委託”契約書のひな形ってない? と聞かれた際の、理想的な回答例とひな形を提案します。
おつかれさま!
業務委託契約書をつくりたいんだって?
じゃあ、以下に、一般的な業務委託契約書のポイントについて説明するね。
なんの業務委託?
業務委託契約っていう契約は、直接には民法に定めがない。つまり法律で業務委託契約そのものは定義できないことになるわけ。実際、契約内容は結構バラバラなんだ。たとえば、何か「モノ」を作ってもらう業務なのか、「サービス」なのかとか。ただ大まかにだけど「請負」か「準委任」に大別されると言われている。
請負か準委任かっていう議論は複雑なんだけど、よくわからなかったら最初はそこまで気にしないで、最初はとにかく「モノの業務委託か、サービスか」みたいなところからひとつひとつ具体的にする、くらいのイメージでいいと思う。
基本契約の選択
あと、契約方式のことも検討しましょう。今回は、金属部品の製造を外部委託するんだって? じゃあ、いわゆるモノづくりの業務委託になるね。部品てことは、継続的に発注するのかな? じゃあ同じ取引を繰り返し何度も発注できるように「基本契約」が選択できる。つまり、「成果物のある業務委託」の「基本契約」という方向性がみえてきたね。
逆に、継続的な発注じゃなくて、いったん今回限り、いわゆる「スポット」で契約する場合は、わざわざ「基本契約」にする必要はないから、ただの「業務委託」にしましょう。
一応説明はこのまま、基本契約の前提で進めるよ。
契約書のタイトルは、特に決まりはないんだけどこの場合「製造業務委託基本契約書」でいいと思う。もし他にアイデアがあったら任意に変更してかまわないよ。
成果物に着目する
ビジネス契約ではお金の流れについて具体化することが何よりも重要。でも業務委託契約の場合、お金の流れとともに業務内容、この場合は成果物がはっきりしているから、その「モノの具体化」も重要になる。実際の工程までリアルにイメージしておくと、契約書をつくりやすいよ。
たとえば今回は「金属部品」を作るわけだから、実際どんな仕事なのかをつかんでおきたい。想像だけど、以下のようなものだったとしましょう。
実際には聞くなり調べるなりして、こうやって具体化しておけば、各種のリスクが推測しやすくなるから、起案の品質も大きく外さなくなるよ。逆に、作るものをよく知らないまま書いていくと、実際はほとんどありえないリスクを過大に心配したりして、無意味な条文を増やしがちなんだ。
自分で作る場合はよく知っていることだろうから必要ないけど、たとえば他部署から頼まれて契約書を作るような場合は、ヒアリングの心構えとして参考にしてね。
契約と管理限界という話
それから、上記と少し矛盾するかもしれないけど、実際のモノづくりの現場って、結構いろんな要素が絡み合ってすすんでいくから、ようするに変更や軌道修正はつきものなんだよね。「具体的にイメージしろ」と言っておいて、逆のことをいうみたいで気が引けるけど、正直、契約締結の時点ではまだ決まってないこともあるわけだよね。だから教科書のようにはいかないというか、契約書に書けることには限界もあるのもまた事実なわけ。
じゃあ諦めてしまっていいのかというと、そうでもない。なぜならこの問題の難しいところは、業務委託のトラブルって、ほとんどはこの委託業務内容に起因してるから。
「これはそっちでやるっていう話だったでしょう?」「いやそこまでは対応していなくて、やるとしてもオプションになるという話でした」「そんなのどこにも書いてないじゃない」「書いてはありませんが、どこの支店でも通常そのように対応していますので」・・・みたいな。
「修正しろ」「いやそれは今からではできない」とかもね。
どこかで誰もが一度は聞いたことがあるやりとりなんじゃないかな。
法務的な観点でいうと、「理想」は契約書でこまかいところまで全部書いておくこと。それは正しい。だから具体的にヒアリングしましょうねという話なんだけど、言ったように、現実とのすりあわせの話がある。これは売り手とクライアントとの交渉力やプロジェクトマネジメント上も重要な論点で、契約書に絶対の正解がない理由のひとつなんだよね。
この問題を解決する唯一の方法は、業務を分解して管理限界の分岐点を見つける・・・あ、この話は少し重ためだし、売り手と買い手の立場にもよるから、また今度にしよう。今の段階だとかえって混乱させちゃうかもしれないから。
今は、残りの一般的な注意点を伝えておくね。
業務委託契約の一般的な注意点
業務の具体化
業務委託契約書をつくることになったら、まずは言ってきたように、業務の内容、成果物の仕様や納期についての明確な合意事項を確認することが重要だよ。原則的には、業務内容を契約書に明確に記載した上で、業務を進めることで双方の認識が一致し、トラブルを回避できるということになります。
品質基準の確認
成果物がある場合は、必ず納入のときに検査をすることになるから、製品の品質基準を明確にするのが一般的。ただこれは契約書に書ききれないから、別途仕様書や基準書を作成するとだけ規定している例が多いね。こうした別紙がちゃんと作成されているかどうかもチェックポイントになります。
支払条件の確認
それから支払い条件を明確にすること。支払条件、支払方法などを明確にしておかないと、債権回収の問題につながるし、もし支払遅延等が起きた時にも対応がとりにくくなってしまうから注意してね。
知的財産権の帰属の確認
成果物の著作権など、製品に関する知的財産権の帰属について、契約書に明確に定めることで、トラブルを予防しよう。これは見落としがちだけど本当によく「いった」「いわない」になりやすいところだよ。紛争に発展しないまでも、ここが決まっていないことでずいぶんと時間をロスしてしまうことがあるので、気を付けたいね。
秘密保持について定める
契約期間中、取り扱う情報や製品に関する情報などを秘密として保持することで、知財漏洩や不正競争行為を防止する趣旨だよ。事前にNDAを締結している場合は、それと矛盾がないかもよく確認しよう。
契約解除について定める
あまり考えたくないことだけど、契約を期間の途中で解除しなければならないことがある。今回のように基本契約とする場合は、継続的な契約になるので、解除についての規定が万が一の際は重みをもつことになります。慎重に規定したいところだね。
損害賠償について定める
契約違反やトラブルが発生した場合に備えて、損害賠償についての規定を明確に定めることが重要です。ただし損害賠償条項は、自社が売主の立場の場合は免責や上限などでリスクを制限することが重要になる。つまり自社が売主か買主かで見方が変わるから、注意してね。
以上が、業務委託契約書の基本的なことだよ。
何かわからないことがあったら、気軽に聞いてね。
え? 「いいからひな形をくれ」だって?
・・・だと思って、今回も用意してあるよ。
Wordでもダウンロードできるようにしておくから、ちょっとでも参考になればいいな。
Wordファイルダウンロードはこちら。
追伸
実例に基づく推奨ひな形を多数ご提供しています。ぜひこの機会にあわせてご覧ください。