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高専生チームがすごかった! AI技術と事業性と契約トレンド【勉強になります】

高専生がディープラーニングを活用したビジネスプランをプレゼンテーションし、その「事業性」評価を競い合うというコンテストの模様を、テレビで観ました。いやはや、高専生ってあたまがいいだけじゃなくて、技術力があって、なおかつこんなにビジネスのことをすみずみまで考え抜けるんだなあと、心底感心させられました。すごい。


ビジネスコンテストとしてのおもしろさ

最終的に企業価値の「評価額」と想定の「投資額」、つまりお金でランク付けされるところも、たんなる技術だけではなくて事業性の評価であることがあらわされていて、ユニークな企画でした。

最優秀賞は「東京工業高等専門学校 プロコンゼミ点字研究会」の「:::doc」(てんどっく)というプランでした。ネーミングセンスにも驚きです。これは視覚障害等で目の見えない方が、チラシやプリントされた案内(特に、文字と表や画像が混在しているもの)などの、紙媒体の文字を点字翻訳して読む際に、すべてを翻訳すると情報量が膨大になって技術的な難しさがあるらしいのですが、これをある程度AI技術で要約して自動翻訳することで解消するといったものでした。

一見、この課題解決には自動音声などで「読み上げる」という手段も思いつきそうです。実際審査員のひとりからも、読み上げではなくあえて「点字」翻訳としたのはなぜか? という意味の質問が飛んでいました。

そして、その質問にたいし、高専生のリーダーが「現場の声です」と即答(!)したのが非常に印象的でした。

読み上げられればたしかに意味が分かる。けれど、文字じゃないと「残らないから・・・」というひとことに、はっとさせられます。たしかに、記録としてとっておいたり、あとで知りたいところだけ読んだり、といったこと(あたりまえすぎて見落としていたけれど大事な利便性)が享受できるのはテキスト化(点字化)されてこそですよね。なるほどなあ。ものをつくる側が、こうした思いやりを忘れたらいけないですよね。


AI活用ビジネスアイデア

また、僕が注目したのは「柑橘類の育成支援システム」をつくりあげたチームでした。このチームは、惜しくも最優秀賞は逃したものの、5億円の企業価値評価と、7000万円の(想定)投資額の評価を得ていました。プラン内容はAI(ディープラーニング)技術を用いて、果樹園などの農家に機器としくみを提供することにより、水やりのコントロールなどを組み合わせて、収穫や果実の糖度に有意なメリットを出せるというものです。

見ていて思ったのですが、こうした農林水産業へのAI活用は、すでに無数のアイデアが存在していそうです。この分野では多くの作業が「人の手」や「目」によるおびただしい労働時間と、長年の「経験則」によってまかなわれていると想像できますし、まさしく画像認識などの技術がここにあてられれば、人の負担を減らし、不便さを解消できるだろうからです。

この、人間が「労力」をかけているところを「技術」でカバーする、という流れそのものは単純明快なのですが、「事業性」というフィルターをとおしたときに、なお魅力を発揮できるアイデアは、意外と少ないと思います。

でもこのチームによる「柑橘の育成支援システム」は、優れた技術を使いながらも手の届きやすい低コストで、しかも収量や糖度といった定量的でわかりやすい具体的成果につなげられるところが素晴らしいと思いましたし、初期費用が明確だったことや、月額の利用料は成果に応じたロイヤルティ方式だったりと、かなりリアルに料金想定がされていました。

審査員である投資家筋からは、十数万円とされる「初期費用」の負担感が大きく、農家は躊躇するはずでは? みたいなツッコミが入り、高専生チームが回答に窮する場面もありました。

技術や努力を評価するというより、あくまでも事業性がテーマのビジネスプランコンテストならではのシビアな意見でしたが、厳しすぎか? と思ったその矢先、土壇場で、チームから「農家も新規技術導入に前向きであることを示す調査結果」を披露するなど、負けてはいませんでした。また、実際の農家さんで実証実験が行われており、すでに育成支援自体の成果に裏付けがあったところなどは、取り組みの真剣度に感動すらおぼえました。

高専生によるコンテストであることから、事業の「実現」となるとまた別問題なんだと思いますが、決して机上の仮設ではなく、常に「現場」を意識した具体的な活動と、わかりやすいプレゼンテーションが本当にすばらしかったです。これらを「優秀なコンテスト作品」で終わらせるのは惜しいと思うくらい、応援したくなるアイデアばかりでした。(彼らのなかから実際に起業する例はないのでしょうか?)


データ提供ライセンス契約の意義

こうした、ディープラーニング活用のベンチャービジネス化が促進すれば、その開発のための取引も増えるはずです。契約の典型例をイメージすると、たとえば開発の途中で「大量の画像データ」が必要になったりするため、データを収集する企業と、AI開発を行う企業とのあいだで「データの提供や利用に関する契約(ライセンス契約)」が頻繁に締結されるでしょう。

少し法的なことをいえば、データそのものには一般的に「排他権」(他の人が使えないという権利)がないため、個別の法律に触れない範囲であれば誰もが自由に活用できてしまいます。よってビジネス上のデータを提供したり利用許諾したりする取引においては、法的な根拠を積極的に整理し、ライセンス契約のかたちでまとめることよって、可視化すべきといえます。

データのなかに個人情報や、著作物や商標権といった知的財産権が含まれることは容易に想定されますし、それは排他的権利となりえます。また、そもそもその情報にアクセスできるものが限られているために、アクセスできる企業からできない企業が対価を支払って提供を受ける場面もあると思われます。結局、この契約の本質は、どのようなデータを何の目的で、誰に許諾し、相手はどの範囲で活用することができるのかを明細化して示すことにあります。

加えて、利用料はもちろんのこと、データに対するなんらかの保証や免責、なんらかの不利益が生じてしまった場合の賠償、ノウハウの流出を予防するための条項などを加えて、データ提供契約などとして完成させるべきでしょう。


データ提供ライセンス契約のつくりかた

ではどうやってつくればよいかですが、非常に参考になりそうな情報があります。経済産業省による「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」です。

経済産業省は、民間事業者等が、データの利用等に関する契約やAI技術を利用するソフトウェアの開発・利用に関する契約を締結する際の参考として、契約上の主な課題や論点、契約条項例、条項作成時の考慮要素等を整理したガイドラインを公表しています。

同ガイドラインには総論や解説とともに、もちろんモデル契約書も示されていて、論点の整理からドラフティングまで、十分に対応可能な内容となっています。関心のある方は一読をおすすめします。

「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001.html


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竹永 大 / 契約書のひな型と解説
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