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解除条項の真実【裁判例から見た解除条項の有効性】

目立たない条項に潜むリスク 

あなたは契約書のひな形をみて「ここはたぶん、こう書いておくものなんだろうな」のように、気軽な気持ちで読み飛ばしてしまったことはありませんか? 

特に、契約書の一般条項(様々なビジネス契約書等に共通的に用いられる条項)は、かなり「定型化」していますから、あまり深く考えなくても、それなりに契約書らしく見えるものです。

しかし、実は一般条項にも大きなリスクが潜んでいるかもしれませんし、典型的な条文であっても、なぜその条項が必要なのか、どうしてこのように規定したのかが明確になれば、より自信を持って起案できるというものです。

そこで、今回はビジネス契約書で頻繁に使われる一般条項のひとつとして、「解除条項」について解説します。この条項の意義と機能を深く理解すれば、誰でも適切な契約書の作成と運用ができるようになるでしょう。


解除条項の例は、以下のようなものです。

一般的な解除条項の例

第○条(解除)
 甲又は乙が 本契約に違反した場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、直ちに本契約の全部若しくは一部を解除することができる。
2 甲又は乙が次の各号のいずれかに該当した場合には、相手方は前項の催告をすることなく、直ちに本契約を解除することができる。
(1) 債務の全部の履行が不能であるとき。
(2) 債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(3) 債務の全部又は一部の履行が不能である場合又はその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは本契約をした目的を達することができないとき。
(4) 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ本契約をした目的を達することができない場合において、履行をしないでその時期を経過したとき。
(5) 前各号に掲げる場合のほか、その債務の履行をせず、相手方が前項の催告をしても本契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
3 甲又は乙による本契約の違反が相手方の責めに帰すべき事由によるものである場合には、相手方は、本条により契約の解除をすることができない。

一般的な解除条項の例

この条文の意義とポイント

この条項は、契約当事者の一方が契約に違反した場合に、相手方が契約を解除できる要件と手続きを定めたものです。
契約解除は、契約関係を終了させる重大な効果を持つため、その要件と手続きを明確に定めておくことが重要です。

第1項は、契約違反に対する契約解除の一般的な要件と催告解除の手続きを定めています

具体的には、一方の当事者が契約に違反した場合、相手方は一定の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がなければ、契約の全部または一部を解除できるというルールを表しています。要するに事前に予告(催告)したうえで、それでもだめなら解除しますよということです。
この規定により、契約違反をした当事者に改善の機会を与えつつ、改善がなければ契約関係を終了させることができます。

第2項は、催告を要せずに直ちに契約を解除できる場合を列挙しています

第2項は、契約の履行が不能である場合や、履行拒絶の意思が明確な場合など、催告をしても契約目的を達成できない場合には、すぐに契約を解除できることを確認するものです。
もはや催告を待たずに直ちに契約を解除することで、契約関係を迅速に処理することができます。

第3項は、契約違反が相手方の責めに帰すべき事由による場合、相手方は契約を解除できないとしています

自らの責任で生じた事由を理由に契約を解除することを防ぐための規定です。これにより、当事者間の公平性を確保しています。

解除の予見可能性を高めるために

このように解除条項は、契約解除の要件と手続きを明確化し、当事者の予見可能性を高める意味があります。催告解除と無催告解除が使い分けられ、より実際的な条文となっています。

ただし、この条項にも、「本契約に違反」「相当の期間」「履行の不能」など、抽象的な概念が含まれています。言葉自体は間違いではないし、契約の性質上仕方がないところでもありますが、突き詰めて考えれば、これらの概念の解釈をめぐって、当事者間で見解の相違が生じる可能性もあります。

したがって、もし大きな契約書を交わすときは、より具体的な解除事由が必要ないかどうか? をあわせて検討すべきでしょう。また、解除の効果(解除された場合の事務処理等の詳細)についても、別途規定を設けることが望ましいです。

例:「具体的な」解除事由
中央建設業審議会による「建設工事標準下請契約約款」第37条には、元請負人の解除権について以下の規定があります。

(元請負人の催告による解除権)
第三十七条 元請負人は、下請負人が次の各号のいずれかに該当するときは、相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、この契約を解除することができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がこの契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
一 下請負人が第五条第四項の報告を拒否したとき又は虚偽の報告をしたとき。
二 下請負人が正当な理由がないのに、工事に着手すべき時期を過ぎても、工事に着手しないとき。
三 下請負人が工期内又は工期経過後相当期間内に工事を完成する見込がないと明らかに認められるとき。
四 正当な理由なく、第三十五条第一項の履行の追完がなされないとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、下請負人がこの契約に違反したとき。

中央建設業審議会による「建設工事標準下請契約約款」第37条

解除は難しいものである

解除条項を検討する際にもっておきたい心構えとして「そもそも契約の解消はむずかしいものだ」と知っておくことは非常に大切です。解除について当事者の認識が一致することはまれだからです。当事者の一方が解除したくても、もう一方は解除したくないと行ったことは普通であるため、「解除したいときにできないかもしれないリスク」を予測しなければなりません。

何が解除を妨げるのか?

「解除は揉めやすい」と知っていてこそ、解除条項を自社の都合にあったものに仕上げておこうという意識をもつことができるというものです。
では、どんなことが、解除にブレーキをかけているのでしょうか? もっと具体的にイメージしてもらうために、契約解除の「壁」ともいえる性質を2つ説明します。

①「継続的契約」は解除を制限されることがある

まず典型的には、継続的契約の解除が制限されるということです。
契約には一回限りの売買のようなスポットのものと、賃貸借やコンサルティング、継続的な業務委託サービスのように、継続的なものとがあります。

どちらにも契約解除の可能性はありますが、「継続的な取引」は、当事者間(あるいは当事者の一方)に、契約が「そのまま継続するだろう」という見込みや期待が生じます。この事情が一定程度保護されることがあり、解除を妨げることがあります。

詳しく言うと、継続的契約(その契約の内容や商慣習上、事実上一定期間継続するタイプの契約)は、債務不履行が無く、解除権を特約していない場合には、「やむを得ない事由」がない限り中途解約は制限されると考えられています。解除権の特約があったとしても、解除が「信義則違反」や「権利の濫用」にあたるとみられる場合には、やはり契約の解除が制限されます。

継続的契約該当性と解除の制限

よって、継続的契約を締結する際は、必ず自社からの解約の可能性を検討し、必要に応じて中途解約に関する特約条項を入れることが推奨されます。あるいは自社が意図せずに長期的な契約を締結したと判断されるのを防ぐ意味で(継続的契約を理由に解除できないと相手方から主張されにくいように)、あえて契約の期間を「自動更新」とはせずに、契約期間を明確に区切ることも検討できます。

以上を簡単にまとめると、継続的契約を締結するときは、自社が「解約したくてもできない状態になるリスク」を検討し、もしそのように考えられるときは、自社からの解約権を規定するか、契約の有効期間を明確にする、あるいはその両方を契約書に含めておく対応が望ましいです。

②「軽微な不履行」による解除は制限されることがある

解除の「壁」のもう一つのパターンとして、「軽微な不履行」による解除の制限、があります。

簡単にいえば、附随的な義務違反による契約解除は制限されます。相手方の契約違反によって契約を解除できるのが原則ですが、契約違反の程度が小さい場合には、民法上、解除が認められない(債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき/民法541条ただし書き)ためです。

これを自社の契約リスクとして考えれば、仮に相手方の債務不履行を理由に契約を解除しようとした際に、その相手方から「これは軽微な不履行に過ぎないから解除事由にはならない」と主張されて、解除の可否が争われる(解除したいのにできない)可能性が想定できます。

学説から改正民法へ

そうなると問題は、解除できる契約違反と、そうでない契約違反(軽微な不履行)とがどう見分けられるのかです。
この点、従来の学説には「要素たる債務であるか、附随的義務であるか。」「契約目的が達成できるか、できないか。」「重大な契約違反にあたるか、あたらないか。」などの判断基準がありました。

さらに民法の改正後は、こうした学説や判例法理の明文化によって「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微」かどうか、という基準が用いられることとなり、一般的に軽微な違反かどうかに加えて、その「契約」にとってはどういうレベルの違反だったのかという観点からの判定基準となりました。

とはいえ、これらはいずれにせよ抽象的な話なので、現実への当てはめが必要となります。そこでこの、不履行の軽微性と契約解除という論点について、以下の裁判例で具体的にイメージしておきましょう。

裁判例から見た解除条項の有効性

ある売買契約の不履行の軽微性と解除可否の関係について、以下の裁判例を紹介します。

マンションの売買契約を解除した事例

ある買主がマンションの購入をした際、そのマンションの「検査済証」(建築基準法に合致していることを示す証書)が受けられなかったことを理由として、売買契約を解除しようとしました。売主はこれを拒否し、はたして「検査済証の交付ができなかったこと」を「債務不履行」として、売買契約を解除できるのか? が争われた裁判例です(東京地裁 平成5年12/16判決 判例タイムズ849号210頁)。

軽微な不履行では解除できない原則

この事例で「検査済証」が交付できなかった理由は、その物件が建築基準法上の道路斜線制限に違反していたからでした。ちなみに、その後の是正工事により違反は解消した背景があります(ただし、当該是正工事は契約解除後)。
前述のとおり、軽微な不履行では契約の解除が制限されるので、検査済証の不交付という契約違反の重みを、どう評価するかが問われました。

「検査済証が交付されなかった」という、一見すると「軽微」な違反によって、マンションの売買契約まで解除できるかどうかといわれると、たしかに物件の売買という契約全体の大きさからすると、ささいな違いにも見えますから、なんとなく契約解除まではできないような気がします。

結論としては裁判所は、催告したうえでこの売買契約を「解除できる」と判断しました。

契約書に書いてあるかどうかで結果が変わる

理由は、買主にとってこのマンションの購入(売買契約)は、「転売」を目的としたものだったことです。しかも売買契約には(弁護士のアドバイスにより)検査済証の交付が必須である趣旨の特約がしてあり、さらには転売を見越して依頼した仲介業者からは、違法物件では後々問題になるから扱えないなどとして、仲介を断られていたこと、等の要素も加わって、結局「検査済証の交付は買主の契約目的達成に不可欠」だったと認定されています(ゆえに、軽微な不履行ではないことになります)。

検査済証の発行は、そのマンションの「転売」を意図していた買主からすれば、間違いなく契約の「重要な要素」です。それが発行されないとすれば、とても「軽微」などとはいえない不履行にあたります。

逆にいえば、こうした(この場合でいう「転売」のような)個々の契約における具体的事情が読み取れなかったとしたら、裁判所の判断も、もしかしたら逆転していたかもしれません。やはり民法の規定どおり、軽微な不履行であるため解除は認められなかった可能性があります。

このように、解除は常に自由にできるものではなく、一定の理論的な枠組みの中で制限を受けるものです。だからこそ、具体的な契約書の解除条項が重要になってくるといえます。当事者がどのような場合に解除できるのかを具体化することで、その契約の予測可能性を高めることができます。

途中で契約を解除した場合の報酬問題


以上のような「解除の難しさ」ということに加えて、契約解除のもうひとつの重要な論点として、有償契約が解除された場合の報酬の問題がありますので、これも説明しておきます。

ここは実感としても非常に分かりやすい部分だと思いますが、たとえば業務委託契約が途中で解除された場合に、その業務の受託者としては、途中だろうがなんだろうが代金を(一部にせよ)もらえないと困るわけです。しかし支払額で双方の認識が異なるなどして、ここは現実のビジネスでも非常に揉めやすい部分となります。契約書においても必ず検討しておくべきポイントです。

基本的な考え方として、まず民法上、請負契約や準委任契約における割合的報酬請求権が規定されていますので、期間の途中で契約が解除された場合にも、受託者に報酬が支払われることは、法的にも矛盾はありません。

先にこの点を簡潔に説明しますので、まず確認しましょう。

請負契約と委任契約の規定(重要)

民法上、請負契約では、注文者は仕事の完成までは、いつでも損害を賠償して解除できるとされています(民法641条)。ただし、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、請負人は報酬の一部を請求できます(民法634条)。

次に、準委任契約では、任意解約権を放棄していない限り、中途解約が可能です(民法651条1項)。ただし、相手方の不利な時期に解除した場合や、受任者の利益をも目的とする場合は、損害賠償責任を負うことになります(民法651条2項)。受任者は、既履行の割合に応じて報酬を請求でき(民法648条3項)、また、成果完成型の委任(民648条の2)が履行の中途で終了した場合は、民法634条の規定が準用され、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できます

民法の規定を契約で補足する

さて民法は上記のように、請負人や受託者に報酬請求権を認めていますから、契約が途中で解除されたときは民法の規定通りに判断すれば解決するような気もします。
ただし、法律の規定というのは抽象的な基準を示したものにすぎませんから、現実問題として解除時に具体的な報酬金額(割合)を決定することは非常に難しいのです。つまりこれが、契約書でわざわざ解約時の報酬まで定めておくべき理由です。

民法がいくら「履行の割合によって」などと示しているといっても、具体的にその割合等を判定、決定するのは用意ではありません。立場が違えば仕事の成果への評価は全く違ってしまいますから、往々にして互いの意見は食い違うものです。
よって、契約書ではじめから決めておくことが得策といえます。民法上の「履行の割合」や「仕事の結果のうち可分な部分」「注文者が受ける利益の割合」といった抽象的な概念ではなく、リスクが大きい場合には、具体的な金額を算定できるような規定を用意しておきたいところです。

清算条項の注意点

たとえば「(途中で契約が解除された場合は)委託者は受託者に対し、以下の計算により算出した額の報酬を支払う」と、具体的な計算方法を規定しておくことが望ましいです。

このような条項は「清算条項」とも呼ばれ、解除時の報酬計算の基準となってくれます。ただし注意点として、もし清算条項を規定するなら、報酬を具体的に計算できるような内容にすることです。
なぜなら、せっかく清算条項があっても、「出来高によって定める」とか「進捗率に従って定める」など、抽象的な決め方では逆にトラブルになりやすくなるためです。

かえってトラブルになりやすい清算条項の例

たとえば以下の清算条項は、かえってトラブルになりやすいためおすすめできません。

第〇条(中途解除時の報酬)
1. 本契約が中途解除された場合、受託者は、解除までに完成した業務の割合に応じて、委託料の支払いを請求することができる。
2. 前項の業務の完成割合は、解除時点における業務の進捗状況を委託者と受託者が協議の上で決定するものとする。

かえってトラブルになりやすい条項例


清算条項を設けるなら具体的な計算式を明記するべきだし、それが難しければいっそ違約金(例えば、解約日から契約期間満了日までの業務委託料相当額など)を定めておく手もあります。

より具体的な清算条項の参考例①:明確化のため、解除時までの作業時間と単価に基づくとした例

第〇条(中途解除時の報酬)
1. 本契約が中途解除された場合、受託者は、解除までに実際に費やした作業時間に基づいて、委託料の支払いを請求することができる。
2. 前項の作業時間は、受託者が作業記録を提出し、委託者が確認した上で決定するものとする。
3. 作業時間に適用する時間単価は、○○○○円とする。これは、契約締結時に委託者と受託者が合意した金額である。

作業時間と単価

より具体的な清算条項の参考例②:解除時までの完成部分と作業時間の組み合わせによるものとした例

第〇条(中途解除時の報酬)
1. 本契約が中途解除された場合、受託者は、以下の方法で算出された金額の支払いを請求することができる。
(1) 解除までに完成した業務部分については、当該部分に相当する委託料の金額
(2) 解除時点で未完成の業務部分については、解除までに実際に費やした作業時間に基づいて算出された金額
2. 前項第1号の業務の完成部分は、解除時点における業務の進捗状況を仕様書と照合することにより受託者が決定するものとする。
3. 第1項第2号の作業時間は、受託者が作業記録を提出し、委託者が確認した上で決定するものとする。作業時間に適用する時間単価は、契約締結時に委託者と受託者が合意した金額とする。

完成部分と作業時間

より具体的な清算条項の参考例③:月額による報酬などの場合を想定して、解除までの経過期間に応じた報酬の支払いとした例

第〇条(中途解除時の報酬)
1. 本契約が中途解除された場合、受託者は、契約期間全体に対する解除までの経過期間の割合に応じて、その1日当たり○○円の額で計算された、応分の委託料の支払いを請求することができる。
2. 前項の経過期間は、契約締結日から解除日までの期間とする。

経過時間

計算方法について、いくつかの条文例を示しましたが実際の契約書では、業務の内容や特性、委託者と受託者の関係性などを考慮して、最も適切な計算方法を選択することが重要です。

まとめ


契約の解除条項は、契約関係の終了という重大な局面を規律する重要な規定です。解除の要件や手続きを明確に定めることで、当事者の予見可能性を高め、円滑な契約関係の処理を図ることができます。そこで本記事では特に、継続的契約該当性債務不履行の軽微性によって解除が制限されることがあることを説明しました。また、また有償契約においては、中途解除時の報酬の扱いが揉めやすいので、具体的かつ明確な清算条項を設けるべきことも、条文例を挙げて説明しました。

契約の解除は、当事者にとって望ましくない事態であることは間違いありません。しかし、そうであるからこそ、解除条項の重要性を認識し、適切な条項設計を心がける必要があります。

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竹永 大 / 契約書のひな型と解説
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