空き家を知り合いに貸すときの契約書をつくってみよう!【賃貸でもセルフリノベーションOK?/契約書ひな型】
日本に空き家が増えている
空き家は増加傾向にあります。平成30年の「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数はおよそ846万戸もあり、平成25年の前回調査の数値を超え、過去最高を記録しています。
空き家を放置するのはリスクがあります。古くなるほど傷みもはげしくなり、壊れたりしたときに、事故の危険もあります。じゃあ「活用」しようかと思っても、なかなか難しいものです。僕の親の実家も空き家になりましたが、実感として非常にやっかいです。空き家になるにもそれなりの理由がある(偶然ではなく、本質的にニーズがなくなったから空き家になる)からです。
知り合い同士、個人間で家を貸してもいい
とはいえひとつの方法としては「賃貸」があります。一般に募集するのが難しくても、親戚や知り合いなどに貸せばいいのです。空き家オーナーとして、毎月賃料が入ってくるなら助かりますよね。
問題は、・・・お家賃です。こういう場合、借り手は「もともと空き家なのだから安く住めるだろう」と期待します。逆にオーナーは「老朽化などもあってメンテナンス費用がかさむから、しっかり家賃をとらなくては」と考える(実話)ものです。ここにギャップがうまれます。
どちらの言い分も分かる気がしますが、借りる方は、相場の家賃なら新築のアパートにしようと考えるでしょう。オーナーからみると、やっぱり固定資産税もあるし、貸すなら清掃費用もかかるしで、大変なわけです。
ギャップを埋めるには付加価値を考えるしかありません。そこでひとつのアイデアとして、空き家を現状のままで貸して、借主にセルフリノベーションを許可してはどうでしょうか。こうすればオーナーは初期コストを抑えて賃貸に出せる、借り手は安く借りられる、というわけです。
空き家ならではのDIY/セルフリノベーション?
古い空き家を買い取って、自らリノベーションを楽しむ人がいます。最近は素人の方でも驚くほどのDIYスキルを持っていますよね。そういう方に空き家を賃貸して、賃貸にもかかわらずリノベーションをしてもいいという条件にすれば、そうした手間をいとわない借り手にとっては魅力にうつるかもしれません。
普通の賃貸ではありえない条件
これはもちろん、本来の賃貸借契約とは矛盾します。普通は賃貸借した物件というのは変更を加えないことが前提であり、返すときも原状回復の義務が生じるはずです。つまり、従来の賃貸借契約の常識からみると、相当奇抜な、非常識なアイデアということになります。
オーナーにとっても、借り手のセルフリノベーションが前提なら、自分がキレイにして貸す必要はなく、相場よりも賃料を安くすることが可能かもしれません。
賃貸借は一般的にはどんなトラブルが多いのか?
賃貸借のトラブルで特に多いのは、やはり原状回復です。退去するときに、賃借人がどこまできれいにしていくべきかは、事前によく確認しておかないと判断がつかない場合があります。退去時に畳をかえるべきなのか、障子やふすまを貼りなおすべきか、部分的に傷つけた壁は全部クロスを張り替えるべきかなど、考え出すときりがなくなります。
そもそも「原状回復義務」がないと、部屋を貸したオーナー側は、部屋を傷つけられたり、勝手に備品を設置されたりしても文句が言えないことになり、不利になります。作り付けの家具など、新たに物品を付け加えられた場合にはその所有権が、オーナーにあるのか借主にあるのかが不明確になったり、退去する際にオーナーが買い上げなければならないのかなどの問題が生じます。ようするに借りた部屋に変更を加えること自体が、賃貸借を難しくしてしまうのです。
借主が手を加えること自体、常識ではありえないわけですから、賃貸の空き家のセルフリノベーションを可能にするには、原状回復や退去時の取扱いについて、契約書で明確に定めておく必要があります。口約束では、みすみすトラブルを招くようなものです。この場合は当事者がよく確認をして、しっかりと契約しておくことが必須といえます。
契約書をつくってみよう(参考ひな型)
そこでこのシチュエーションにおすすめの書式を紹介します。国土交通省が、DIY型賃貸借契約を提案し、その契約手法を公開しています。
国土交通省のDIY賃貸借とは、貸主が修繕を行わず現状有姿で賃貸することで賃料を相場より安く設定し、借主は自費で改修(セルフリノベーション)を行うことを想定した賃貸借のことです。
さらに国土交通省は、賃貸借契約の締結にあたり「賃貸借契約書」「増改築等の承諾についてのお願い(申請書兼承諾書)」「合意書」という、このスキームにそった3種類の書面を想定して、参考書式を公開しています。以下にリンクを貼っておきますので、ぜひこれを参考にしてください。
・賃貸借契約書 ・・・DIY工事以外の事項(賃貸借の目的物、契約期間、賃料等)を規定します(国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」)。但し特約において、DIY工事部分における修繕や原状回復等の取扱いについては、承諾書や合意書の規定に従うことを規定します。
・ 申請書兼承諾書と合意書・・・DIY工事の実施内容について、借主が貸主の承諾を得るための書面と、双方の権利義務を含む合意事項を明確にするための書面。
このようにDIY型賃貸借においては、「賃貸借契約書」、「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)、そして「合意書」の3種の書面を作成することとなります。
合意書の作成例
合意書とは、以下のような書式です。
合 意 書
貸主(以下「甲」という。)及び借主(以下「乙」という。)は、契約書第8条第2項に基づき、令和 年 月 日に乙が申請した増改築等の実施に際し、以下の事項について合意する。
(施工及び施工状況の確認)
1 乙は、契約書第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」(以下「増改築等」という。)に際して、本物件(契約書第1条の「本物件」をいう。以下同じ。)及び第三者に損害を与えないように充分留意し、万一損害を与えたときは、その責任において問題の解決にあたらなければならない。
増改築等の実施前にその内容について甲と乙は十分に協議を行うとともに、実施前の原状の確認及び実施後の施工状況の確認のため、甲又は乙の一方が書面等による確認又は立ち会いを求めた場合、他方はそれに応じなければならない。
(所有権の帰属)
2 乙が申請した「増改築等の概要」(別表)(以下「概要表」という。)に記載された増改築等に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。以下「工事部分」という。)に係る契約期間中の所有権の帰属については、概要表に記載のとおりとする。
概要表において、乙の所有物とし、明渡し時に残置するとした工事部分については、乙は、明渡し時にその所有権を放棄し、又は甲に譲渡することとする。
(契約期間中の管理及び修繕)
3 契約書第9条の定めにかかわらず、契約期間中における工事部分に関する必要な管理及び修繕については、乙がその責任と負担で行わなければならない。
(明渡し時の収去等及び原状回復義務)
4 本物件の明渡しに際し、工事部分に係る残置又は撤去の別、残置する場合の補修の要不要及び契約書第15条に規定する乙の原状回復義務の有無については、概要表に記載のとおりとする。
残置する場合に補修を要するとされた工事部分については、明渡し時に工事部分の本来有する機能が失われている場合には、契約書別表第5の規定に準拠して乙が補修を行うこととする。
原状回復義務ありとされた工事部分については、乙の責任と負担で工事部分を原状回復し、又は乙が原状回復費用を負担しなければならない。
(明渡し時の精算等)
5 本物件の明渡しに際し、工事部分についての諸費用の精算又は買取り(以下「精算等」という。)の有無については、概要表に記載のとおりとする。
精算等をありとする場合、本契約が終了したときは、甲は工事部分の残存価値又は時価を乙に対して支払わなければならない。
精算等をなしとする場合、工事部分の精算等に関しては、乙は甲に対し、その事由、名目の如何に関わらず一切の請求をすることはできない。
下記貸主(甲)と借主(乙)は、本物件について上記のとおり合意したことを証するため、本合意書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自その1通を保有する。
以上
令和 年 月 日
貸主(甲) 住所 〒
氏名 印
借主(乙) 住所 〒
氏名 印
まとめ
個人間の賃貸というのは、以前からよくありました。契約書もシンプルなものが多く、連帯保証人をつけない形も多いと思います。今回ご紹介した、セルフリノベーションを許可するタイプは、事前によく確認し合うことが大切ですが、うまく話がまとまれば、双方にメリットのある方法です。
空き家の活用がすこしでもすすむといいと願っています。