前編:2023年、国はどんなロボットに投資するのか?(経済産業省編)
一昨年、昨年に続き、今年もやってみます、「国はどんなロボットに投資するのか?」シリーズ。8月末に2023年度の概算要求が出ていましたので、それをもとに、どんなロボットの開発や導入に予算を投入しようとしているか、そして、これまでのどのような成果がオープンになっているのかを調べてみます!(21年度(その1・その2)、22年度(その1・その2))
今回もまずはロボット産業の大本命、『経済産業省』の概算要求のホームページを見てみます!!
ロボット技術開発
昨年度に引き続き、最もロボットの要素技術っぽい研究開発を含むのが「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」。予算も本年度の9.5億円から来年度は18.3億円と大幅増額での申請です。21年度6.6億円、22年度9.5億円だった予算が23年度どうなるのか?確か昨年も概算要求時点では同じくらいの金額だったはずなので、個人的には要注目です。
内容としては、「ロボットフレンドリーな環境を整備」するものと「ロボットの要素技術の研究」を行うという2本柱なことに変化ありません。
一昨年度から開発が始まっている事業で、ロボットフレンドリーな環境整備としては、施設管理、小売、食品製造などの人手不足が顕著な分野へロボットを導入していく上で、導入コストの低減につながるロボットを導入しやすくする環境(ロボットフレンドリーな環境)の整備に関する研究開発が行われています。施設管理はエレベータとの通信規格、小売りも新しいプロジェクト、食品製造も共通的なデモやサービスレベルの考え方などが既に取組みとして発表されており、いよいよ成果が楽しみなフェーズになってきそうです。
また、屋外環境の構築に関しては、「ラストマイル宅配」を対象とした配送ロボットなどの開発が2020年度より実施されています。2022年4月には、「道路交通法の一部を改正する法律案」も可決され、いよいよサービス立ち上げというタイミングが迫ってきています。
22-24年度の取組みということでは、京セラコミュニケーションシステム、ZMP、パナソニック ホールディングス、Yperの取組みがNEDOプロジェクトに採択されています。
一方、要素技術の開発に関しては、主にマニピュレーションの研究として、4つの研究開発がなされています。研究開発項目①「汎用動作計画技術」では、自動的かつ汎用的なロボットの動作計画技術の開発。研究開発項目②「ハンドリング関連技術」では、多用な対象物に対応できるセンシング機能やエンドエフェクタなどのハンドリング技術の開発。研究開発項目③「遠隔制御技術」では、離れた場所から安定的にロボットを操作できる遠隔制御技術の開発。研究開発項目④「ロボット新素材技術」では、ロボットを構成する部材へ適応できる非金属や複合素材等のロボット新素材の開発。
20-22年度は以下の3つのテーマが推進されています。
特に、「技術研究組合 産業用ロボット次世代基礎技術研究機構」【ROBOCIP (ロボシップ)】は、川崎重工業、デンソー、ファナック、不二越、三菱電機、安川電機、ダイヘン、セイコーエプソン、パナソニックが参画企業となり、様々な研究開発活動が産学連携も活用されながら、進められています。あまり纏まった形で成果発表はされていませんが、共同研究先の大学からは少しずつ成果発表がなされているようです。
AI・IoTなど
AI×ロボットの中でも、基盤的技術の開発とともに、出口を意識したものになっているのが、「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発事業」です。このプロジェクトでは、「生産性」や「移動」というのを切り口に、「交通」「プラント」「発電」「土木」「流通」で新たな領域へのAI導入を加速するAI技術の開発・実証とかを行っているようです。いよいよ2018年から2023年までの6年プロジェクトの最終年度ということで、最後の総まとめという感じになるかと思われます。 推進されている具体的な内容は、NEDOのページや「パンフレット」で確認することができます。
AIの研究開発ということで、⼈との協調性や信頼性を実現するAIシステムの研究開発や、⾃律・リモートシステムに必要なAI技術の研究開発を行うという目標になっているのが、「IoT社会実現に向けた次世代人工知能・センシング等中核技術開発」プロジェクト。(1)次世代人工知能基盤技術開発の中では、人間と協調できるAIなどの開発もされているようです。また、2022年5月にはそれまでの成果報告会も実施されています。
この他、半導体強化の流れの中で、AIのチップそのものの研究開発というプロジェクトもありました。ダイレクトにロボットという取り組みはなさそうですが、成果物は確実にロボットにも関連するものになるのではないかと思います。
製造業
明確に「ロボット」というキーワードの予算は見つけられませんでしたが、「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業」というのが関連が深そうです。
5G等無線通信技術とデジタル技術の活用により、その時々の状況に応じた加工順の組換えや個々の生産設備の動作の変更といった柔軟・迅速な組換えや制御が可能な生産ライン等の構築や、経営資源を管理する情報技術(IT)と製造現場で制御を行う制御・運用技術(OT)の連携やデジタルツインの活用等を通じた工場の自律的かつ全体最適な稼働の実現を目指す、とちうことなので、個人的にはかなり重要な取り組みだし、他のロボットの領域にも広がれば良いのにとも思います。
自動運転
自動運転、MaaS関係では2020年度から5年間のプロジェクトとして新たに始まった「無人自動運転等の先進MaaS実装加速化推進事業」が昨年度名称変更された「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業」が引き続き実施されるようです。目標自体は、40以上の地域で無人自動運転サービスが実現、技術としても「遠隔監視技術により1名の監視者が3台以上の車両の運行管理技術」などは変わっていません。
細かい関係は十分理解していませんが、関連するプロジェクトとして、「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(Road to the L4)」があります。これは、経済産業省と国土交通省とが連携し、自動運転レベル4等の先進モビリティサービスの実現・普及に向けて、研究開発から、実証実験、社会実装まで一貫した取組みを推進していこうとするものです。今年度で終わるSIPの内容も引き継いでいくことになるそうです。
物流
最初の方の「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」の中でも、屋外環境の整備として配送ロボット関係の取組みがありましたが、より実用フェーズのものとして「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金」というのが引き続きあるようです。
資源エネルギー庁の予算と言うことで、省エネという点がポイントになってくるようですが、「①新技術を用いたサプライチェーン全体の輸送効率化推進事業」として、倉庫内でのAGVの活用や無人配送ロボットを使った配送作業の効率化というのもスコープには入っているようです。国交省との共同事業?のようです。
ちょうど今、今年度分の2次募集を行なっているようです。
エネルギー消費削減率が1%以上などいくつかの要件を満たせば、申請でき、採択されれば、1/2の補助が出るという仕組みのようです。
また、予算化どのようになっているのかはわかりませんが、21年度に議論が行われていた「フィジカルインターネット」は22年3月にロードマップが取りまとめられる形で終わっています。今後何か動きがあるかないかはわかりません。
ドローン
22年度から始まった「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」も続いています。Realization of Advanced Air Mobility Project:ReAMo(リアモ)プロジェクトというそうです。
22年度は推進する組織の公募、採択が発表され、多くの大学、事業会社、コンサル会社などが採択されています。
目標となっている「大阪関西万博での空飛ぶクルマ」の活用に関しては、大阪府の補助事業も動いているようです。
医療・介護
ヘルスケア領域でロボットを明確に記述しているのは、今年度に引き続き、「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業」の中の「ロボット介護・福祉⽤具開発プロジェクト」だけですかね?
このプロジェクトの中では、ニーズ由来のロボット介護・福祉⽤具の開発が行われ、2027年度までに9件のロボット介護・福祉⽤具の実⽤化が目標となっています。また、安全性や効果評価等海外展開につなげるための環境整備が引き続き行われる予定です。
また、引き続き、関連しそうな内容としては、「健康・医療分野におけるムーンショット型研究開発等事業」の中では、「負荷を低減したリハビリなどで身体機能の改善や在宅での自立的生活をサポートする技術」の開発が行われたり、「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」の中では、「有効性、安全性、再現性の高いヒト細胞加工製品の効率的な製造技術基盤の確立」などロボット技術が活用されそうな内容は沢山あります。予算も増額申請がされています。
福島プロジェクト
東日本大震災の後に始まった「福島イノベーション・コースト構想」。しっかりと来年度も続きそうです。ロボット関連では、陸・海・空のフィールドロボットの開発や評価・実証を行うことができる「福島ロボットテストフィールド」などの整備が進められています。
特に、実用化開発においては、地元企業だけでなく、地元企業と連携した地元以外の企業の活動も支援がされています。そして、自治体連携推進枠というのが設定されており、大企業が2/3、中小企業は3/4と補助率が非常に高いという特徴があります。また、単に開発を支援とか、場所を作って、運営するということだけではなく、教育・人材育成、情報発信など、場所をいかに活用するのかということも検討されそうですね。
この予算に絡んでいるのかはわかりませんが、福島におけるスタートアップの取組みも加速している印象です。先週、岸田総理も福島訪問し、デモをしていたMELTINや、コネクテッドロボティクス、人機一体などが取り組んでいることを発表されていましたね。
その他
22年度に引き続き、IPA「デジタルアーキテクチャ・デザインセンター」(DADC)において、自律移動ロボット等の分野で、産学官で連携してユースケー スの具体化やシステムのプロトタイプ試作を行いながら、アーキテクチャやインターフェース等をアジャイルに設計する取り組みが進められています。また、結果を踏まえて使用が推奨される標準・ 技術の評価を行い、システム連携した場合に全体として円滑に機能するためのリ ファレンスやルールの策定し、公開されるようです。
既に色々議論もされているようで、22年度の検討結果は以下で公開されています。
また、地域振興という視点では、「地域未来DX投資促進事業」というのもあります。地域の特性や強みとデジタル技術を掛け合わせ、地域企業等が行う新事業創出の実証を行うものです。
というわけで、ざっと見てみたところはこんな感じです。ほぼ自分の情報収集のために調べていますが、何かの参考になれば幸いです。
では、また来週〜。
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安藤健(@takecando)
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