若者が政府に要求するべきこと
先日大学生と話をしていて、彼は「政府はもっと若者に投資するべき」ということを強く主張していました。主張自体は理解できますが、「政府はなぜ若者に沢山投資しないのか?」と尋ねると「若者が投票に行かないから」という答えでした。しかし、若者が投票に行って、若者の代表が議会に増えても若者への投資が増えるとは限りません。若者が政府に要求するべきことは他にあるのではないか、という話です。
若者に投資しない原因はどこにあるのか?
今の政府も若者に投資したくないと思っているわけではないと思います。実際奨学金制度や授業料の減免など施策は少しづつですが行われています。
若者に投資できない最大の原因は、今の高齢者にお金を払わなければならない金額と、借金の返済に使わなければならない額が大きすぎて、若者世代に投資する十分なお金がないということなのです。
日本の財政を考えるから参照すると、下図のように日本では社会保障費と国債費ばかりが伸びています。
そして、高齢者はますます増えます。
しかも、国の社会保障無しに満足な生活ができる高齢者はそう多くありません。そのような高齢者に死ねとは言えないので、社会保障費を払い続けるしかありません。
しかし、収入も借金で3割を賄っているので、どんどん借金の支払い費は増えます。このような状況で「若者に投資せよ!」と叫ぶだけでは状況は変わりません。若者がより多く投票に行っても、そこで選ばれた政治家も同じ問題に直面して立ち止まってしまうでしょう。
若者がまず認識しなければならないことは、もはや「政府にお金の面で期待することは難しくなっている」ということです。そして、将来を難しくている根本的な原因は支えられるべき高齢者に比べて、若者が少なすぎるということです。これをどう解決するかにあたって2つの方法があります。
2つの解決策
第一の解決策は、一人ひとりが自分自身に投資してもっと稼いで豊かになり、より多く税金を払ってもらい、高齢者を支られる良い社会を作ることです。
現在の財政状況では、そう遠くない将来に国が高齢者を支え続けるのは難しくなるでしょうから、若者は今のうちに将来自分を養ってくれる存在を作るしかありません。それは結婚して配偶者を作り、子供を作って、教育を施すことです。また、自分の力になってくれる友人を多く作ることです。そして、自分を守ってくれる共同体に属し、貢献することです。
そんなの無理だと言われるかもしれませんが、国が高齢者を支えられるようになったのはつい最近で、ホモサピエンスが誕生して以来人はそうして生きてきたのです。
菅総理が政策理念として掲げている「自助・共助・公助」というのは基本的にはこの方向性だと思います。この解決策を取る考えに従えば、若者は政府に若者への投資を求めることになるでしょう。ただし、先に述べたように政府にお金の面で期待するのは相当難しい状況になっています。国債を増発してもたかが知れているのみならず、崩壊が早まるだけです。日本よりはるかに大きい投資ができる中国や米国に打ち勝てるかどうかが問われます。
この解決策は、経済を良くして社会を良くする、という日本が明治以来実行してきた保守的、伝統的な考え方です。
一方、第二の解決策は、今の良い社会をさらに良いものし、良い社会に引き付けられる外国人を受け入れて経済を活性化させることです。
要は観光と移民です。しかし、この解決策は様々な副反応を起こす劇薬でもあります。今のままの日本社会では、副反応は必ず出てしまうでしょう。
副反応を起こさずに明るい豊かな未来を作るためには、日本社会をより良いものに変え、開かれた、多様性に満ちたコミュニティを形成していく努力が必要です。それは、多くの制度の変更と、市民の考え方と行動を変え、全ての人の挑戦を増やしていく努力です。
この解決策に従えば、投資によって経済を活性化させるよりも、制度と慣習を変え、世界から憧れられる社会を作ることが優先されます。若者が政府に要求すべきは若者への投資ではなく、制度の変更です。
この解決策は容易ではありませんが、日本は一億人を超える人口があり、大きなGDPを持つ国としては各段によい社会を形成しているのですから、中国や米国に対し一日の長がある可能性があります。
ただ、この解決策を取るためには、若者はまず自らの考え方と行動を変えなければなりません。明治以来の保守的な考え方を捨て、社会を良くして経済を良くする、という革新的な発想への転換です。
これからの保守と革新の対立軸
今後の保守と革新の対立軸はこの2つの解決策の対立になると私は思いますが、現在与野党ともに多くの議員が、第1の解決策を支持しているように感じられます。だから国会での議論は自然と政策論争ではなく、揚げ足取りに終始するのでしょう。
しかし、第1の解決策は十分な投資を行うお金がない、という限界に達しており、明るい展望が描けそうにありません。一方、第2の解決策を正面から主張すると「制度の大きな変更は国民から受け入れられない」とか「慣習を変えるなど不可能」という揶揄を受けます。
2020年後半の現在、ハンコをなくす、政府のIT投資の決定方法を変える、などの「比較的軽微な」制度変更でさえ難航が予想されています。大規模な制度変更である通称大阪都構想も敗退しました。このような状況を変えるのは、やはり若者が考え方を変え、行動を起こしていく必要があります。若者が政府に要求するべきことは、お金だけではないのです。