『仮面ライダークウガ』第7話感想
第7話 傷心 (その3)
品川区・東大井。朝9時30分ごろ。
見張りの警察官が規制線の前に立つ。その奥にブルーシートが張られ、その先は見えないようになっている。
一条刑事が規制線とブルーシートをくぐる。現場ではすでに何人もの刑事や鑑識の職員がいて、それぞれに仕事をしている。先に到着していた杉田刑事が一条刑事に気づいて声をかける。
杉田刑事は倒れた自転車と、その横で布を掛けられているご遺体のそばに立っている。一条刑事は杉田刑事に駆け寄りながら現場の様子を尋ねる。杉田刑事が、さっぱり分からないと首を横に振る。
手袋をはめ終わった一条刑事を、しゃがんで記録を取っていた鑑識官が見上げる。スッとしゃがんだ一条刑事に、鑑識官がここを見てくれと示す。示された所に目をやる一条刑事に、鑑識官が「頭頂から入った何かが、心臓を一瞬のうちに通過した挙句」と説明し、ご遺体にかけられた布をめくる。「大腿部から抜けています」……ええええええ、何それエグイんだけど!
「つまり、頭から足に」と鑑識官が一条刑事の顔を見ながら、自分の頭の上に右手を持って行き、指先でてっぺんをつつきながら言う。一条刑事が鑑識官に顔を向ける。鑑識官は「ほぼ垂直に」と、右手の人差し指を下向きに伸ばし、その状態でまっすぐに手を下に動かす。
「ほぼ垂直」と繰り返す一条刑事にうなずく鑑識官。
頭から足にって鑑識官が言ったとき、台本または演出通りなのか、アドリブなのか何なのか分からないけど、自分の頭に手をやってポリポリしていた杉田刑事はかわいかった。
「しかし」と言って上を見て、一条刑事は「いったい何が貫通したって言うんですか」と不思議そうに立ち上がる。頭上には青空が広がり、午前の光がまぶしいほどに地上を照らしている。
同じように空を見上げた杉田刑事が「さあな」と言う。一条刑事が彼に顔を向けると、彼も一条刑事に目を向け、少なくとも弾丸のようなものは見つかっていないと話す。
地表に目を戻し、改めて周辺を探る二人の刑事。ここは駐輪場のようで、建物の壁に沿って自転車やスクーターが並んでいる。
先ほどの記録を取っていた鑑識官が、被害者の体を貫通した何かがどこから降ってきたのか、被害者が倒れた位置から逆算するように立ち上がる。被害者が立っていた場所を探り当てようと周辺を探り、「ん?これは……⁉」と声をあげる。
その声を聞き、「どうしました⁉」と駆け寄る一条刑事。杉田刑事や他の鑑識官も集まってくる。「この穴……」と発見した鑑識官が指をさした先には、アスファルトを深々と貫く穴が開いていた。じっと見つめる一条刑事。
城南大学・考古学研究室。午前10時近く。
パソコンのキーボードをたたく桜子さんと、その横で椅子に座ってモニターを眺めている五代雄介。
五代に声をかけ、桜子さんはモニターに表示された古代文字を指す。ある程度の法則性が分かってきたようで、今回は表音文字の説明である。
桜子さんの解析によれば、この古代文字を使っていた民族は【リント】であり、【リント】を殺戮の対象にしていた種族が【グロンギ】だという。未確認生命体たちの種族名が分かり、「グロンギって言うのか、ヤツら」と感心したように五代が言う。
ということで、これからは○○型のグロンギって呼ぼう。でもなあ、未確認生命体って言う字面も捨てがたい……なんか、浪漫(とあえて漢字で書く)にあふれてるじゃん?
研究室のドアをノックする音が聞こえる。二人はそちらに目を向け、桜子さんが返事をする。そりゃそうだ、ここの正式な職員は桜子さんだ。
「失礼いたします」の言葉とともにドアを開けて入ってきたのは、夏目夫人とミカちゃんである。夏目夫人は中にいた桜子さんに目を止めると、一礼をする。
五代が「あ」と声をあげる。恐らくミカちゃんに気づいたのだろう。桜子さんは立ち上がって「夏目先生の……」と言うと、そのまま母子の前へと出て行く。その節はどうも、と夏目夫人は心なしか一条刑事に対してより丁寧に頭を下げる。
桜子さんが母子に椅子をすすめようとしたが、どの座席にも本やら何やらが広げてあって散らかし放題である。「散らかってますけど」と言いながら、手近なテーブルの上を五代と桜子さんで片づけ始める。
固い声で「お構いなく」と夏目夫人が言うが、ざざっと桜子さんがテーブルの上の物をどかし、五代がそれを受け取って別の場所に移動させる。夏目夫人は研究室のドアを閉めると、ミカちゃんと共に椅子に座る。
席には着いたものの、黙ったままの母と子。二人の雰囲気に、桜子さんも声を掛けあぐねている。静まり返った部屋の中で、五代はミカちゃんを見つめている。五代の視線に気づいたのか、そっと見上げるミカちゃんに、五代は微笑みかけながら「こんにちは」と声をかける。するとミカちゃんは目をそらし、うつむいてしまう。
ミカちゃんのガードの固さに思うところがあるような表情になる五代だったが、彼女が持つトートバッグの飾りに気づくと、再び笑みを浮かべ「かわいいね、その貝」と話しかける。
しかし、逆効果だったようで、ミカちゃんはうつむいたまま、片手で桜貝の飾りを握るように隠してしまう。さすがの五代も眉毛がぴくっと動き「おおっと……?」という表情になる。
突破口を探るように、桜子さんが「よくここがお分かりになりましたね」と声をかけ、コーヒーを淹れる。夏目夫人が警察の方からこちらで調べてもらうように言われたと話す。
「調べる?」と尋ねる桜子さん。夏目夫人がミカちゃんに声をかけると、ミカちゃんが一条刑事に見せた道具箱をトートバッグから取り出す。テーブルの上に置き、今度はミカちゃんがふたを開け、桜子さんたちに見えるように箱の向きを変える。
箱の中を覗き込む二人。桜子さんが驚きの声をあげる。五代は中に収められたものに触れ、ミカちゃんに「すごく古そうだね」と話しかける。
するとミカちゃんは箱を手にして立ち上がって五代の方に体を向け、「あの、これ、第0号の謎を解くのに使えますよね?」と訴えかける。即答しない五代に、使えますよねとミカちゃんが重ねて尋ねる。「……そうだね」とうなずく五代。
でもその人、謎を解くどころか、倒してるんだよね。などと言えるわけもなく、桜子さんは「この人、ここの人じゃないんだけど」と断りを入れる。
桜子さんの方を向いて「えぇ……」と泣きそうな声をあげ、ミカちゃんが唇をかむ。
明らかにガッカリしたミカちゃんに、桜子さんが歩み寄って「でも、この分野専門の研究生はいますから」とフォローする。
研究室のドアが開き、ハイと言って、笑顔でジャンが入ってくる。ジャンの顔を見た瞬間に良かったと心の声をダダ洩れさせると、桜子さんはジャンをミカちゃんの前に立たせながら「この人が専門家です」と言う。
ようやく役に立ちそうな大人が来たと思い、今までで一番力強い声で「あの、これ」と言って、ミカちゃんは道具箱をジャンの前に差し出す。
満面に笑みを浮かべて「オー、これは素晴らしい」と興味津々に箱の中に収められたものを見つめるジャン。どこで見つけたのかと聞かれ「あの……九郎ヶ岳の……」と言葉を濁すミカちゃん。
九郎ヶ岳と聞き、事件ではなく、日本で発見されたものと言うほうに意識が向き、表面の色合いやきめ細かい肌合いなど、どれをとってもワクワクする研究対象だとジャンのテンションがますます上がる。
なだめるように桜子さんが声をかけるが、ジャンの暴走は止まらない。これで論文を書いたら自分はすごい有名人になるかもなどと言い出し、それほど素晴らしいものだとミカちゃんに力説する。ジャンが話している間、桜子さんは気遣わし気にジャンとミカちゃんに交互に視線を送る。
それまで黙ってジャンの話を聞いていたミカちゃんだったが、ジャンが道具箱に手を伸ばすと「触らないで!」と拒んで、横を向く。とうとうブチギレしたミカちゃんに、夏目夫人は驚いたように立ち上がって名前を呼ぶ。
「どうして……?どうしてそんな、何もなかったみたいな言い方するの?」と、ミカちゃんがずっと心の中のモヤモヤを吐き出す。悲痛な面持ちで見守る五代。
未確認生命体の何かの手掛かりになるかもと思って持ってきたのに、そんなのどうでもいいみたいと言うミカちゃんに、そんなことないと桜子さんが言う。
ミカちゃんに一番近い立場なのは、この中では桜子さんだけど、中学生のミカちゃんが、お父さんの大学と共同研究していた他所の大学の研究者のことまで分かるわけないしな。
「警察だって!全然0号のこと調べてくれないし!」と怒りが収まらないミカちゃん。「そんな……」とつぶやく桜子さん。
「お父さんは死んだのに!」と叫ぶと、空いているほうの手でトートバッグを掴み、道具箱を抱えたまま研究室を飛び出していく。娘の名前を呼び、後を追う夏目夫人。
夏目母子が出て行った後も、その場に立ち尽くしたままの五代と桜子さんとジャン。桜子さんが五代の方を振り返る。五代は事の展開に目を見張っていたが、ふと何かを思い決めたような強さがその目に宿る。
静かな研究室に、桜子さんの携帯電話の呼び出し音が響き渡る。3人は一斉に振り返り、桜子さんが電話に出る。「……一条さん?」桜子さんの言葉に、五代が目を丸くする。
飛び出していったミカちゃんの行方、夏目教授の遺品の正体、一条刑事の電話の用事の内容と、気になることがてんこ盛りになったところで、その4に続きます。
初出:2021年8月19日 2024年5月2日加筆修正
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