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『王様戦隊キングオージャー』スピンオフ〈ラクレス王の秘密〉第3話感想

第3話


前回のあらすじ

 シュゴッダム国王ラクレス・ハスティーはゴッカン国王であり国際裁判長であるリタ・カニスカに対し、自らを研究員のべダリアを殺害した罪で告発した。
 ゴッカンでラクレス王の殺人罪について裁判が行われる中、シュゴッダムの殺人現場が襲撃され、べダリアの死体が消えたと報告が入る。
 予測していたかのようなラクレス王の様子に、彼が遭遇したバグナラクをおびき出すために利用されたと気付いたリタ。そのバグナラクに聞くことがあると話す彼に、リタは驚くべき事実を告げる。

「べダリアの死体に付着していた成分は、人類でもバグナラクのものでもなかった」

 それすらも知っていたかのようなラクレス王。だが、何も語らない。
 下された判決は〈証拠不十分による無罪〉。

 トウフ国まで逃れたシデジームは、カメジムにシュゴッダムの壁画の謎を解き明かせと命じられる。しかしそのためには、もう一度シュゴッダムに戻ってべダリアの死体を体内に取り込まなければならない。カメジムはシデジーム潜入のための一手を打つ。

 ゴッカンで釈放されたばかりのラクレス王は、シュゴッダムに巨大サナギムが現れたとの報告を受ける。彼はオージャカリバーZEROをかざし、キングオージャーZEROを降臨させる。
 シュゴッダム郊外では、進撃してきた巨大サナギムとキングオージャーZEROの戦いが始まる。キングオージャーZEROの強さは計り知れず、巨大サナギムはなす術もなく倒されたのだった。

 同じころ。シュゴッダム・コーカサス城の王の間。潜入に成功したシデジームが壁画の謎を解こうとしていた。そこへ、キングオージャーZEROを操縦して巨大サナギムと戦っているはずのラクレス王が現れる。キングオージャーZEROを自動操縦とすることで囮となし、カメジムの陽動の裏をかいて王の間に戻ってきたのだ。
 ラクレス王は、シデジームを強い眼光で見据える。
「さて、何から話を聞こうか?」

 ここより、第3話本編となります。

ラクレス王と記憶

 コーカサスカブト城・王の間。
 そこかしこで歯車が動く音が響く中、対峙するシデジームとラクレス様。シデジームが余裕たっぷりに「私を殺す気なのですね?」と語りかける。
 ラクレス様は何一つ感情を読み取れぬ表情で、シデジームを見ている。

 シデジームは自分は壁画の秘密を知っていると言い出す。その口調には誰も知らぬ秘密を知りえた愉悦と高揚がない交ぜになっている。
 やはりそうか、と納得するラクレス様。その脳裏にあるのは、シデジームの声に重なっていた女性の声が残した「約束、守ってくださいね」の言葉。
 淡々と「お前、べダリアの記憶を」と、ラクレス様は自らの仮説が事実であることを確かめる。

 シデジームは自分に協力すれば何でも教えると言う。自分が圧倒的優位に立っていると酔いしれているせいか、態度も言葉も慇懃無礼である。
 眉一つ動かさないラクレス様。しかし、「協力……」とだけシデジームの言葉を繰り返した声音には、かすかに威圧感と感情が色づく。
 ラクレス様の微妙な変化に気づいていないシデジームは、〈協力〉の交換条件としてオージャカリバーZEROを渡せとラクレス様に要求する。

 短い沈黙。ラクレス様はわずかに顔をうつむけ、考えるような素振りを見せると、玉座の前からおもむろに歩き出す。ゆっくりと腰に差したオージャカリバーZEROを抜き、剣を手にしたままシデジームに歩み寄る。
 シデジームはそんなラクレス様を見て、自分の要求が通ったと確信し、優越感と高揚感に染まった笑い声が抑えきれない。

 シデジームの目の前で立ち止まると、ラクレス様は無言でオージャカリバーZEROを両手で捧げ持ち、そのまま差し出す。その仕草は自然で、表情も態度も何気ない。
 すぐには手を出さず、一国の王を手懐けた満足感を味わったシデジームが、いよいよオージャカリバーZEROを手にしようとしたその時。

 ラクレス様がオージャカリバーZEROを縦に回す。上になった剣の柄を素早く両手で握り直すや、目にもとまらぬ早業で上段から剣を振り下ろす!シデジームの右腕が斬られ、体液がこぼれる。切り落されないのが不思議なくらいだが、腕を押さえたシデジームは数歩後ずさる。

 すかさずラクレス様はオージャーカリバーZEROのレバーを引く。一瞬で傷口を直したシデジームが交渉の余地はないようだと怒りの声を上げる。
 シデジームの言葉を無視して、ラクレス様は王鎧武装の構えを取り、オオクワガタオージャーへと変身する。

 さて、今はシデジームは死んだべダリアさんを取り込んでいると思われます。どのような仕組みによって本来のシデジームよりもはるかに高度な思考力を得ているのでしょうか。
 死んだばかりの死体は生物としては死んでいますが、細胞単位ではまだ生きているものもあります。そのまだ生きている細胞、特に脳細胞にシデジーム特有の能力でアクセスすることで、取り込んだ死体(今回であればべダリアさん)の記憶情報を得たり、その脳の持ち主と同等の思考が可能になる、と捉えればいいのでしょうか。
 そこに短時間で到達するラクレス様の頭脳よ……。

 そういえばラクレス様、王鎧武装するまで二言しか話してないです。わずかな声色の変化で、一言目から二言目への間に、べダリアさんについてだけでなく、国王に対する態度にも、その要求のあつかましさにも、シデジームに対する諸々の負の感情が深まっているのが分かります。

 シデジームの前に立つまでの表情も仕草も態度も自然体であるからこそ、その後のオージャカリバーZEROの一撃の強さと鮮やかさ、そこに込められたラクレス様の思いが際立ちます。

ラクレス王とキングスウェポン

 にらみ合うシデジームとオオクワガタオージャー。先に動いたシデジームが、オオクワガタオージャーに丸い塊を放つ。オオクワガタオージャーがオージャカリバーZEROで切り裂く。丸い塊は液体をまき散らし、オオクワガタオージャーの視界を遮る。再び視界が開けた時にはシデジームの姿は消えていた。

 オオクワガタオージャーの背後に回り、雄たけびを上げて飛びかかってくるシデジーム。オオクワガタオージャーは予測していたかのように振り向き、その一撃をキングスウェポンで受け止める。すかさずオウジャカリバーZEROを水平に一閃させる。至近距離で攻撃を食らったシデジームは、吹っ飛ばされながらもかろうじて着地する。

 体勢を整え直したシデジームに向け、今度は鎌モードのキングスウェポンが放たれる。回転しながら不規則な軌道を描いて襲い来るキングスウェポンを、シデジームがしなやかな体さばきで避ける。

 シデジームがキングスウェポンに気を取られている間に、オオクワガタオージャーが間合いを詰め、立て続けに剣を振るう。シデジームが体を振ってかわす。互いに剣を撃ち込み合うが、オオクワガタオージャーが勝り、シデジームが弾かれる。

 シデジームの背後に飛んできたキングスウェポンが、その体を切り裂く!シデジームが前へとよろめく。オオクワガタオージャーは、戻ってきたキングスウェポンをいつの間にか銃モードに切り替えて待ち構え、シデジームの腹へゼロ距離射撃をぶち込む!シデジームが今度は後ずさる。さらに撃ち込まれる銃弾!

 間合いを取ったシデジームが、自分の剣を鞭モードに変えて反撃する。
 オオクワガタオージャーも、キングスウェポンとオージャカリバーZEROを連結させて薙刀モードに変え、四方八方から飛んでくるシデジームの鞭を華麗にさばきつつ間合いを詰める。

 ついにシデジームの前まで来ると、上から切り下げる。ふらつきながら回り込もうとするシデジーム。剣なら届かない間合いだが、薙刀モードなので返す刃が届く。斬撃の強さにシデジームの体が回転しながら宙に浮く。そこへオオクワガタオージャーが渾身の力で上段に構えた薙刀を振り下ろす!
 攻撃を受けて床に転がったシデジームは、その勢いを利用して素早く立ち上がる。

 シデジームが構える間もなく、光り輝く矢が飛んできて、シデジームを貫く!その矢の強さは凄まじく、シデジームの体は宙に浮いて、何メートルも後ろに吹っ飛ばされる。
 他の王たちのための席が置かれた円状の壇の上に落ちるシデジーム。大きなダメージを立て続けに食らい、立ち上がるどころか起き上がることもできず、ただ苦しみ悶えている。

 シデジームに撃ち込まれた矢は、オオクワガタオージャーがキングスウェポンを弓モードに変えて放ったものだった。シデジームが立ち上がれないことを見定めてから弓を下ろすと、ゆっくりと歩き出す。

 文章だと伝わらないと思うのですが、シデジームが謎の液体を放ってから矢を撃ち込まれて倒れるまで、かなりの速さで展開されます。どれくらい速いか、映像で確かめてください。速すぎてYouTubeでは良く分からない所もあるくらいです。これはBlu-rayでコマ送りで楽しむべき。YouTubeよりキレイに見られるはず(ダイレクトマーケティング)。

 それはそれとして、オオクワガタオージャー=ラクレス様の無駄なく隙が無く合理的で、それゆえに容赦が全くない連続攻撃、アクション好き、武器格闘好きにはたまりません。
 キングオージャーZEROの自動操縦による戦闘のシークエンスは、ラクレス様がベースですね。戦闘パターンのデータを取る時に、べダリアさんにアレをやれコレをやれと言われて、時には黙々と、時には言い合いをしながら型を見せているラクレス青年の姿を想像しました。 

ラクレス王と宣告

 おもむろに歩み寄るオオクワガタオージャーに、仰向けに倒れたままのシデジームが、このままでは死ぬと切実に訴えかける。それが何だと意に介さず、オオクワガタオージャーは歩を進める。彼が近づくほどに死が近づくこの状況を打破すべく、喘ぎながらもシデジームは話し続ける。
「壁画の秘密、ずっと知りたかったんですよね?……ハスティー家が何十年と待ちわびていた……違いますか?」

 立ち止まるオオクワガタオージャー。王鎧武装を解いたラクレス様は、オージャカリバーZEROを手にすると、再びシデジームに歩み寄る。
 無言で歩み寄るラクレス様の圧に押されてか、シデジームは半身を起こして床を後ずさりつつ、ここが正念場とばかりに言いつのる。自分を生かしたほうが賢明であり、貴重な研究結果を知る唯一の方法である……。
「べダリアも、そう望んでいるはずです」
 シデジームは確信していた。この名こそが、ラクレス様に対する最大の盾になるはずだ、と。

 シデジームの言葉に、ラクレス様は笑みを見せるが、その眼差しは冷たい。表情を一変させ、眼光鋭くシデジームを見下ろす。シデジームの思惑は裏目に出た。
「お前ごときが、べダリアを語るな」
 ラクレス様は打ち据えるように言い放ち、身を沈める。

 儚げに微笑むべダリアさん。全てを受け入れたような慈愛に満ちたその笑みは美しい。見上げたその眼差しの先にあったのは……。

 ラクレス様が渾身の力を込めて、オージャカリバーZEROをシデジームの腹から背へと貫き通す。シデジームの腕がだらりと落ちる。
 ラクレス様はオージャカリバーZEROを引き抜き、なおもシデジームから目を離さずに立ち上がる。
 シデジームが小さくうめき、上体が後ろに倒れる。仰向けになったまま、ぴくりとも動かない。

 動かないシデジームを見つめていたラクレス様が、驚いて目を見開く。シデジームの体が中心から割れ、何もかも溶けて消えてしまった。残ったのはべダリアさんの亡骸だけ。死に顔が穏やかなことがせめてもの救いか。

「……君はシュゴッダムの秘密を知り過ぎた……。知り過ぎた者は処刑……」
 王として告げる非情な言葉とは裏腹に、絞り出すような声には優しさと親しみと悼みの色がある。べダリアさんを見つめるラクレス様の目は涙で潤んでいる。湧き上がる感情を抑え、ラクレス様は「君もそう望んでいたはずだ」と彼女に語りかける。永遠に、その返事は得られない。

 シデジームの命乞いとそれに対するラクレス様の場面。
 べダリアさんの思考回路を借りているだけの仮初めの状態で、都合のいい記憶を取り出してべダリアさんをちらつかせること、それがどれ程べダリアさんとべダリアさんの人生に対する侮辱になるのか、全てのスケールが小さいシデジームには恐らく永遠に分からないことでしょう。
 何だか、AIで故人のデータを取り込んで、仮想世界に故人のアバターを作ることに近い気がします(←個人の偏見です)。

 ラクレス様、ここでもセリフは「それが何だ」と「お前がべダリアを語るな」の二言だけです。それなのに、見ている側にはシデジームがラクレス様の地雷原のど真ん中を駆け抜けたことが分かります。

 ラクレス様がシデジームを刺す直前の、べダリアさんの笑顔のカットがいいんですよねえ。全部分かってるというか、それでいいとでも言いたそうな感じが、切なくてたまらないです。

 あの笑顔を浮かべていたのはラクレス様の中のべダリアさんなのか。シデジームが最後にアクセスしたべダリアさんの感情を映像にしたものか……物語の余白ってこういうことですよね。

 YouTubeのコメントに「あえて変身を解いたのは、ラクレスとしてべダリアさんを手にかけたのは自分だとするため」みたいな意味のことが書いてあって、なるほどなと思いました。

 シデジームに対しては情け容赦のかけらもなかったラクレス様が、べダリアさんに対しては一転して非情になり切れないのも切ないです。もう彼女が生きていないからこそ、ようやく本心をにじませることができる……大切なものほど何らかの形で遠ざかってしまうラクレス様の人生、過酷すぎやしませんか(号泣)。

 それはそれとして、王鎧武装を解いた姿で、傷だらけでボロボロとはいえどシデジームを貫いたラクレス様の剛腕ぶりは、やはり人並外れている気がします。

ラクレス王とコフキ

 シュゴッダム。コーカサスカブト城内・研究室。
 机の上に並ぶ、色とりどりの飴が入ったガラスの小瓶と、二輪のマーガレットを生けた花瓶。主のいない机の上を、静かに見つめているラクレス様。

 その背後では、コフキさんが潔白を訴えている。コフキさんの前にはボシマールさんが立ち、べダリアが襲われたのはなぜかと執拗にコフキさんを追及する。
 研究所に入れるのは城の者と研究員だけであり、襲撃してきたバグナラクはオージャカリバーZEROを狙っていたのだ、と。

 怪訝な顔で剣の名を口にするコフキさんを、ボシマールさんが突き飛ばす。強く押されたコフキさんは、自分の椅子にへたり込むように座る。
 ボシマールさんがなおもコフキさんに右手の人差し指を突き付けて「お前がスパイだ」と断言する。戸惑いつつも何も分からないと容疑を完全否定するコフキさん。

 それまで二人の問答、というかボシマールさんの尋問を背中で聞いていたラクレス様が、側近の名を呼ぶ。「スパイは君だったりしてな」
 ラクレス様は緩やかに二人の方へと振り返ると、右手をボシマールさんに向け、優雅な笑みをたたえて彼を見つめる。「君も立派な候補だろう?」

 一瞬の間を置き、ボシマールさんがいっそわざとらしいほど満面の笑みを浮かべる。右手を胸に置き、ご冗談を、と言いつつ一礼する。
 何故か小指だけを立てた右手を丸めて口元に添え、含み笑いをしながらコフキさんの前から離れる。

 今度はラクレス様がコフキさんにべダリアさんの研究結果の在り処を尋ねる。コフキさんは、べダリアさんはどこにもデータを残しておらず、渡せるものは何もないと答える。

 証明できるか、と問うラクレス様。コフキさんは一つ息を呑み、自分がまた一から研究を続けると決意を語る。コフキさんが言うや言わずや、ラクレス様が威厳と威圧を込め、厳しく問いかける。
「いずれは、処刑されてもか?」

 コフキさんの顔には、以前の弱弱しい風情はない。しっかりした声で「骨、拾ってくださいね」と言って浮かべた笑みには、覚悟を決めた者が持つ清々しがあった。

 研究室の場面。
 べダリアさんがいない机の上を、初めは寄れるだけ寄って飴の入った瓶を見せて、あまり前と変わらないような印象付けをしておきます。
 次のコフキさんとボシマールさんのやり取りではロングショットにし、さらに視点を少しずつずらしながら長回しで撮ることで、本当は机の上もその周りも何もかもがキレイに片付けられていて、飴はべダリアさんに供えられたものだとそれとなく分かるようになっています。

 べダリアさんが生きていたころは「片付け?何それ飴より美味しいの?」と言わんばかりに乱雑に大量の物があったので、より一層の寂寥感をかき立てられます。

 飴と一緒に手向けられていた花瓶のマーガレット(でいいんだよね?)ですが、マーガレット全体の花言葉として「心に秘めた愛」というのがあるそうです。なんかもうここでグッときます。
 ギリシャ神話においては月の女神アルテミスに捧げられた花として、「誠実」「貞節」「慈悲」「安らぎ」のシンボルとなっているそうです……まんまべダリアさんじゃん(´;ω;`)ウッ…。そもそもアルテミスが気が強くって情が深い性格なので……べダリアさんじゃーん( ノД`)シクシク…

 そういえば、アルテミスにまつわる神話で、オリオンを愛していたアルテミスが、双子の兄であるアポロンに騙されて、オリオンを自ら手にかけてしまうというものがありまして……大切な人を自らの手で死なせてしまうって……ラクレス様とべダリアさんじゃーん(ノД`)・゜・。

 「私を忘れないで」という意味もあるらしく、親しい人やお世話になった人などが引っ越したとか退職したとか、そういう時に感謝を込めて贈る場合に、ポジティブなイメージで使うようです。
 べダリアさんへ手向ける花にユリなどではなくマーガレットを使うことで、悲壮感が強まらず、彼女は遠くに行っただけ、というニュアンスを汲むこともできるでしょうか。

 色数が多い花には、その色ごとの意味があります。白いマーガレットは「心に秘めた愛」「誠実」「信頼」だそうです。そして本数にもまた意味があります。1本なら「運命の人」、3本なら「愛しています」、これ以上増えると愛の度合いが増していきます。増やし過ぎると本数によってはネガティブな意味になる場合もありますが、それはまた別の話。

 基本的には送る相手に対する深い愛情を示すものです。そしてここが大事なのですが、どうも2本の場合の花言葉はない(もしくは2本で使うケースが多くないため、簡単な検索では出てこない)模様です。
 これといった意味が付けられていない(探し出せない)2本であることは、お互いに対してどうにも名前を付けられない感情を持っていたであろうラクレス様とべダリアさんを絶妙に表していて、これを特に説明もなく花瓶に生けておくだけという演出に、天才かと思いました。
 
 机を見つめているラクレス様の心の内はどんなものだったのか。背中に哀愁が漂いそうなものですが、彼は王としてこの場にいるため、毅然としていて、そんな気配は一切ありません。でもここまで見てきた視聴者たちには伝わるものがあるのです……演技と演出の組み立てが高度過ぎます。

 ボシマールさんによるスパイ容疑の尋問。ここも短いながら本当に上手いです。
 シデジームが研究所を襲撃した時、べダリアさんが取り込まれた後にコフキさんが研究所に来たのでしょう。
 べダリアさんが襲われた場に居合わせたなら、コフキはそのことをラクレス様たちに説明しているはずです。

 起動していないオージャカリバーZEROをバグナラクが持ち帰ってもただの剣です。秘密だって解明されていません。
 それでも本当にオージャカリバーZEROを狙っていたのであれば、剣を手にしたらさっさと立ち去ればいいのです。べダリアさんの机の上を荒らす必要も、コフキさんを襲う必要もありません。

 シデジームの襲撃は、べダリアさんがオージャカリバーZEROの起動条件に一歩近づいた時と思われますが、それは偶然だったのか、狙って行われたものなのか。襲撃の目的はそもそも何だったのか。それは実行犯かその指示をした者にしか分かりません。

 シデジームがオージャカリバーZEROを手にした時には、完全に起動したとは言えない状態でした。べダリアさんを取り込んでいた状態だったのに、シデジームのラクレス様への攻撃は純粋に敵を倒そうとするものでした。
 オージャカリバーZEROは、本当に偶然の積み重ねで起動しました。

 つまり、シデジームが最初からオージャカリバーZEROを狙っていたと断言できないのです。だから現場に居合わせ、オージャカリバーZEROが起動する瞬間を見ていたコフキさんは、怪訝そうにオウム返しをするわけですね。

 ボシマールさん一人だけが、確信を持って語っています。コフキさんは弁舌があまり立ちそうにないので、二人きりであれば口八丁手八丁でスパイに仕立て上げられて投獄されていたかもしれませんし、それだけでは済まなかったかもしれません。

 ラクレス様は特にコフキさんをかばおうとはしませんが、ここぞというタイミングをとらえて、ボシマールさんを黙らせ、逆に追い込む手腕はさすがです。それもボシマールさん一人を締め上げるのではなく、彼の言葉を利用して可能性を語り、さりげなく牽制しています。
 知を司るボシマールさんにぐうの音も言わせないラクレス様、本当にどれだけ賢いのでしょう。

 さてはて、ラクレス様自身はいつどの時点で誰がスパイかとの確信を抱いたのでしょうか。
 スピンオフ第3話公開時点で、ある程度の数の視聴者(知らされていないはずの出演者たちまで)がスパイが誰かを察知していたようなのですが、なんと私は気付いていなかった(笑)。

 確かに本編をTTFCで見返したら、これでもかと言わんばかりにアイツの手癖や口癖、笑い方が散りばめられていました。
 おのれディケイド……!(←違う)

 テレビ放映や見逃し配信などをご覧の視聴者はもう知っていることですが、今まで未見でこれから様々な媒体で最初からご覧になるという方、たまたまお立ち寄りいただいた方のために、本編の感想で触れるまでは一応伏せておきます。え?ソレは無理?でもそれは何もかもアイツが……おのれディケイド!(←だから違う)

 結局、べダリアさんの研究結果はどこにもなく、コフキさんは一から色々やり直すことを決意します。スパイの正体は掴めず、ただ身近にいることだけが判明していて、実際にべダリアさんが命を落としたこの時点において、それは死と隣り合わせを意味します。

 べダリアさんに「国の秘密を知ったから処刑する」とかねてから宣告していたラクレス様が、同じように国の秘密を探ろうとするコフキさんに「スパイに命を狙われるかもしれないから止めろ」と言えるはずがありません。
 ラクレス様が示せる優しさは、非情かつ冷徹に「たとえ処刑されてもか」とコフキさんの覚悟のほどを問うことだけ。

 それまで見てきたラクレス様とべダリアさんに通い合っていたもの、そしてシデジーム襲撃の際に見せたラクレス様の行動とを考え合わせれば、コフキさんの答えは自ずと決まったようなものです。「骨、拾ってくださいね」と笑顔で言える信頼の強さが、コフキさんの覚悟の強さであり……ああ、行間が深いなあ!

ラクレス王と約束

 コーカサスカブト城・王の間。
 何かを振り返るような表情をしていたラクレス様は、感傷を振り払うように一度目を閉じ、天井の壁画を仰ぐ。
 王の間の扉が開く音がして、ドゥーガさんがラクレス様を呼ぶ。ラクレス様が短く返事をすると、ドゥーガさんは手のひらに乗せた包みを開きながら歩み寄る。「べダリアの遺灰から、このような物が……」

 ドゥーガさんはラクレス様の前で立ち止まり、ハンカチのような小さな布の上の、さらに小さな黒い球体を示す。
 黒い球体に目を落とし、ラクレス様は「これは……」とつぶやく。ドゥーガさんが淡々と「処分いたしますか?」と尋ねる。

 ラクレス様もまた淡々と「いや、私が引き取る」と答え、ドゥーガさんの手の上の布ごと球体を両手で包み込み、そのまま自分の方に引き寄せる。
 静かにドゥーガさんがラクレス様の前から下がる。

 ドゥーガさんが去ったすぐ後、ラクレス様は布を開く。真っ黒い球体を包んだ布でくるんで磨く。煤が落ち、本来の球体の表面が現れたのか、摩擦音がする。手を止め、布を開く。驚きに目を一瞬だけ見開く。表情がかすかに変わる。

 布の中の、まるで大きな飴玉のような赤い球体を見て、ラクレス様が息を呑む。脳裏に、べダリアさんと約束を交わした時の記憶が蘇る。べダリアさんが死んだ時にはその骨を拾って欲しいと言われたこと。自分の隣りで、自分に渡そうとした飴の包みを開け、飴玉を丸飲みしていたこと。

 透明感がある赤い球体を右手の指でつまみ、ラクレス様は美しい宝石を透かし見るように、王の間に差し込む光にかざす。光を受けて球体が輝く。球体の中を通り抜けた光を追うように、間近の左側の床に視線を落とす。
 床には、球体の中を通って屈折した光が落ちている。いかなる工夫と技術によるものか、床には光の屈折によって拡大されたチキュー語の文章が映し出されている。

 その文章を読み、思わずと言った風に声を立ててラクレス様が笑う。してやられたというような笑い声も笑顔も、一人の青年のものである。
 胸にこみ上げた思いを抑えるように息を整え、どこか納得したように小さくうなずく。「研究は終わっていたのか」
 まるでそこにべダリアさんがいるように語りかける声には、親しみと驚きと賞賛がある。

 ぶっきらぼうにべダリアさんが「私を舐めないでください」と言う。
 その声が聞こえたように、ラクレス様は光にかざしていた赤い球体を見やり、その手を自分の正面に下ろす。赤い球体を見つめて優しく微笑む。
 愛おしそうにラクレス様が「ああ、そうだな」と言う。
 満足そうに微笑むべダリアさん。

 球体を手にしたまま、ラクレス様はゆっくりと後ろへ、玉座の方へと体を向ける。

 シュゴッダムがそういう風習なのか、べダリアさんは火葬になりました。だから「骨を拾え」と約束を交わしたのですね。火葬であれば、短時間で色々済みますから、ラクレス様のもとに早く研究結果が届きます。

 べダリアさんは全てが解き明かされる前に死ぬ場合を想定し、壁画の謎を先に解き、タイミングを見計らって自分の体内に研究結果を取り込み、誰にも知られずに研究結果が確実にラクレス様に届くようにしたとは、何て切なく哀しい決意でしょう。

 死因が何であれ、べダリアさんの火葬は極秘裏に行われるはずです。そこにラクレス様の代理として立ち会うのはドゥーガさんであること、そして彼の目の前で骨を拾う約束を交わせば、彼は自分の遺灰の中の異物を必ずラクレス様に見せるだろうと想定しないとできない計画です。
 べダリアさんは、武官として、国王の側近としての振舞い方を何気なくずっと見ていて、何だかんだでドゥーガさんもとても信頼していたのだと思います。

 べダリアさんが見込んだ通り、ドゥーガさんはラクレス様に彼女の遺品を見せました。恐らくドゥーガさんもそれこそが本当にべダリアさんが拾って欲しかったものだと気付いたはずです。
 しかし、べダリアさんが自らが灰になってもラクレス様に手にして欲しいものについて、ドゥーガさんは余計なことを一言も口にしません。ラクレス様の心の内を慮って妙な態度も取らず、淡々と報告だけをします。
 王の側近たるドゥーガさんが、スパイが城内を暗躍していることを知らないはずはないので、変に感づかれる振る舞いはしません。

 ドゥーガさんは、べダリアさんの遺品を処分するかと淡々と尋ねます。
 それが大事な物であればあるほど、どこにいるかも分からないスパイに大事なものだと気取られてはならないのです。肚が練れた武人であり、色々を知り、それを飲み込む胆力と賢さがあるからこそ、ドゥーガさんはラクレス様の側近たりえていることが分かります。

 大事なものだと知られてはならない遺品ですから、ラクレス様も淡々と引き取ります。ドゥーガさんが王への礼儀として丁寧に手渡しても、そこに意味が生まれてしまいます。ラクレス様が自分で手に取ることで〈礼を取るまでもないくらい価値がないもの〉となります。上手いわあ……。

 王の間に一人たたずむラクレス様が壁画の謎を知る時、ここで一気に、深かった行間の仕掛けが明かされます。
 べダリアさんがバリボリと棒付きキャンディーをかじっていたこと。
 「私を舐めないでください」と(おそらく折に触れて)言っていたこと。
 あえて飴玉をラクレス様に見せたこと。飴玉を丸飲みしたこと。骨を拾えと約束を交わしたこと。全てが終盤で鮮やかに収束します。

 煤で汚れた球体は、べダリアさんが丸飲みした飴玉(に似せた物)でした。そしてべダリアさんは分かっていました。人と言うものは、透き通った美しい物を光にかざさずにはいられないことを。自分が遺した物であれば、なおさら〈ラクレス青年〉は、それを光にかざすであろうことを。

 これもべダリアさんの思い通り、ラクレス様は赤い球体を光にかざします。床に映し出された文章を読んだ時、友だちにイタズラを仕掛けられてまんまとやられた、一人の青年になっていたように見えました。
 研究は終わっていたと知った時、ラクレス様はどこか誇らしげでした。自分が見込んだべダリアさんは、やはり素晴らしい研究者だったのだと。

 もはやラクレス様の胸の内だけにしかいないべダリアさんとの会話は、優しく温かく、愛おしさに満ちたものです。ラクレス様の表情も声も、悲痛なものを一切感じさせません。悲壮さを見せられるよりもはるかに、もうべダリアさんがいないことに対して、視聴者側が様々な感情を持たずにいられません。

 そしてこの優しい笑顔がよく似合う青年こそが、本来の〈ラクレス・ハスティー〉だと視聴者だけが知り得るのです。
 ああ、短い場面に込められた情報量の多さと濃度の高さ……!

 ちなみに、ここで映し出された文章を含め、チキュー語を解読した猛者たちがいらっしゃるので、ご興味がある方はそちらの方々のサイトもご覧になるとより一層『王様戦隊キングオージャー』を楽しめると思います。
 私?私はそういう作業は……ゲフンゲフン。

終章

 後ろへと体の向きを変えて歩き出すラクレス様。歩みつつ、彼はその頭上にシュゴッダムに古くから伝わる王冠を乗せる。

 重々しい語り部の声が流れる。
〈始まりの国、シュゴッダム。運命と使命を一人背負いし、孤高の王〉
 玉座の後ろ、巨大な騎士の立像へと歩み寄るラクレス様。
〈その名も、ラクレス・ハスティー〉

 巨大な騎士の立像の下で、ラクレス様がオージャーカリバーの台座にオージャカリバーZEROを差し込む。
 絶えず動いていた城内の歯車の回転が止まる。ラクレス様の王冠とオージャカリバーZEROが黄金色に輝く。

 止まった城内の歯車が、普段とは逆向きに高速で回転する。巨大な騎士の立像が、音を立てて緩やかに沈み込む。王の間全体が振動し、パラパラとそこかしこで小さな破片が落ちる。ラクレス様だけが微動だにしない。
 王冠の中心の赤い宝玉がひときわ輝く。ラクレス様がオージャカリバーZEROから手を離す。オージャカリバーZEROが下から立ち昇るまばゆい光に包まれる。

 上昇する光の奔流の中、ラクレス様が見上げる先に、うっすらと何かが現れる。それは徐々にはっきりとした形を成し、ついには色とりどりの大きな宝玉が飾られた黄金色の王冠となる。光の奔流が消えても、王冠はゆっくりと回りながら宙に浮いている。

 ラクレス様が両腕を広げ、王の威厳をもって凛々しく王冠に語りかける。
「この私にさらけ出すがいい!さらなる秘密を!」
 命じるがごとく、受け取るがごとく、王冠へと右手を差し伸べる。

 まずはお断りを。終盤のナレーションも、作品内より引用しております。

 さて、ラクレス様がオージャクラウンを呼び出す場面。めっちゃステキ!とにかくカッコいい!それ以外言うことあります?(反語)

 そしてコーカサスカブト城の仕掛けのスケールの大きさ!
 コーカサスカブト城については、本編でも色々とあるので、本編の感想時に触れます。

〈これは、のちにシュゴッダム史上最悪の王と呼ばれた、とある男の物語である〉

 コーカサスカブト城。快晴の空のもと、城の裏側の暗い窓に、赤地にクワガタをかたどったシュゴッダムの紋章が現れる。

 ここで第3話本編が終了となります。
 最後に字幕が現れて、このスピンオフ自体がテレビシリーズ、つまり本編の第2話と第3話の間のエピソードだと明かされます。
 第3話がほぼ9分ですが、情報の濃度がより圧縮されてますね。

 さて、このスピンオフが本編第2話と第3話の間だとするなら、ラクレス様、相当に忙しいです(本編未見の方は、一度そちらをご覧ください)。
 米国ドラマ『24』のジャック・バウアー並みに大変です。有能が過ぎるとこうなってしまうのか……。

 時系列を整理しようとして、時差とか色々考えなくちゃいけなくなるので放棄しました。恐らくそういう方面が得意な別の猛者がおやりになっているでしょう(遠い目)。

 第3話が最初に公開されたタイミングは、いつだったかしら?(←日付調べる気がない)初めてこのスピンオフを見た時、ラクレス様は全然本気出してなかったんだなと思いました。
 多分、第42話でも強さの底は見せてない気がします。気になる方は、第1話から一気見してください。

 とにかくこのスピンオフ全体の話の構成、演出、全ての演者の演技と、どれをとっても素晴らしく、日本にいる何らかの表現活動をしている人たちは全員が見た方がいいんじゃないかと思いました(←偉そう)。

 細かいことは、各場面において感想だか妄想だか考察だかを爆発させてしまっているので、もう書くことないな(笑)。おかげでスピンオフの感想とは思えないほど長くなりました。後悔はしていません(*‘∀‘)

初出:2024年1月23日 2024年5月12日加筆修正

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