弱きものを救うのは
小説投稿サイトエブリスタに載せている私の自作小説を転載しています。
但し、エブリスタ内のコンテストで賞を頂いている作品もいくつかあり、
それらはエブリスタ以外で公開することができませんので、
もし興味ある方がいましたら本家のサイトでどうぞご覧ください。
-----------------------------------------------------------------------------------目
目が覚めたら走っていた。走り続けていた。
僕の意思とは無関係に体は動き続ける。
暗闇の中で視覚に頼らず走り続けることが、ここがどこなのかも分からずにひたすら進むことが、どれほど恐ろしいか。
全方位が漆黒の闇の中で、僕の行く手を阻む得たいの知れない何かに、何度も体をぶつける。柔らかいものもあれば、涙が出そうなほど固いものもあり、生き物なのか、ただの物体なのかも分からない。
なにせ真っ暗闇だから、自分が一体どこに迷い込んでしまったのか想像すらつかない。もしかしたら僕はもう死んでいて、あの世でもなくこの世でもない、時空の隙間のようなところをただ彷徨っているのかもしれない。
恐怖で体を震わせる。
しばらく走り続けると、苦しみのあまり過呼吸になる。息をどれだけ吸っても苦しくてたまらない。毒ガスを吸い込んでいるかのような心地だ。
僕はそこから逃れるようにまたひたすら走るが、行けども行けども終わりが見えない。真っ黒な空間で、回し車を走るハムスターのように、1ミリも前には進んでいない。そんな滑稽な自分の姿を妄想し、僕は、絶望のあまり叫び出したい衝動に駆られた。
その時、背後から一筋の光が僕の体を細く照らした。
光と言うにはあまりに頼りない、糸のようなそれは、しかし精神崩壊寸前の僕には、神様から差し伸べられた救いの手に思えた。
細く遠くまで伸びた光は、僕の正面に一本の道と、その向こうに扉のようなものをうっすら浮かび上がらせた。
出口だ。やはり神様は僕を見捨てなかった。
僕は疲労で鉛のように重くなった体を何とか引きずりながら、ただ扉だけを目指し、脇目も振らず前へ進む。悪魔の差し金か、蛇のようなものが僕の体に巻き付いて行く手を阻もうとするが、そんなものに構っている余裕も体力もない。僕のすることは、ただ真っすぐにゴールを目指すことだけ。
少しずつ、少しずつ。悪夢から抜け出す扉が近づいてくる。
もう少し。あともう少し。
ゴールに飛びつこうとしたその時、僕はイヤな予感にふと足を止めた。
足元を見て、ひゅっと息を飲む。
道はそこで途切れていた。僕は危うく崖から転落するところだったのだ。
扉はもう目と鼻の先なのに。
絶望と体力の限界で、泣くこともできない。
ここで終わりなのか。僕は、誰に看取られることもなく、こんな暗闇の中で一人朽ち果てていくのか。
イヤだ。イヤだ。
助けて。助けて。
――タスケテ。
「あ、何かお知らせ来てる」
「ん?」
「ルンバが助けを求めていますだって。段差を感知して停止」
「玄関じゃない?」
「あー、そうかも。これ、手動で動かしてあげないとこのまま止まってるの?」
「そうだね」
「えー、走らせてからまだ20分だよ。絶対、掃除まだ途中でしょ」
「じゃあ助けに行ってあげれば?ただでさえ、あんたん家、あんな真っ暗でかわいそう」
「カーテンぴっちり閉めないと、外から丸見えなんだもん、うち。てか、かわいそうって。ルンバでしょ」
「そう、ルンバちゃん」
「ただのロボット掃除機じゃん。いいや。帰ってから再起動させるよ。セールいこ。早くしないと良いのなくなっちゃう」
「そだね、行こうか」
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