杉田恵理×北端祥人デュオリサイタル*ヴィオラとピアノの響きと歌心を味わい尽くす
杉田恵理×北端祥人
ヴィオラ&ピアノデュオリサイタル
2024年5月25日(土)17:00(16:30開場)
会場:IDEAREVE IKEGAMIホール
料金:4,000円 全席自由(未就学児のご入場はご遠慮願います)
主催:DUCK KEN(担当:本間)
後援:リスト・ハンガリー文化センター
お問い合わせ先:090-6304-4476 hommasama@gmail.com
https://duck-ken.jimdosite.com/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88/
ヴィオラはシンプルに「音で魅せる楽器」。クラシックのスタンダートな曲から、知られざる名曲、ヴィオラの魅力を最大限に引き出してくれるプログラムをお楽しみください。(杉田恵理)
すぎた・えり
桐朋女子高校音楽科、桐朋学園大学、クロンベルクアカデミー、ベルリン芸術大学、ハノーファー音楽大学卒業。クァルテット・ベルリン・トウキョウ、フィンランド放送交響楽団副首席奏者などを経て、ゲスト首席奏者として大阪フィル、新日本フィル、日本フィル、京響、メクレンブルク・シュターツカペレ、ドイツカンマーフィルブレーメン等に客演。
2012年ARD国際音楽コンクール特別賞を皮切りに、シューベルトと現代音楽国際コンクール第3位、ニールセン国際室内楽コンクール第2位、京都青山音楽賞バロックザール賞、ヨアヒム国際室内楽コンクール第3位、バンフ、ボルドー国際コンクール特別賞、オーランド国際弦楽四重奏コンクール優勝など多数受賞。
ハイデルベルクの春、エクサン・プロヴァンス、オスロ室内楽、ヒッツァカーなど数々の音楽祭に出演。
ソリストとして大阪フィル、フランクフルトシンフォニエッタ、フィルハーモニーバーデンバーデン、東京シティ・フィルと共演。ヴァイオリンを原田幸一郎、ヴィオラを岡田伸夫、今井信子、ハルトムート・ローデ、アミハイ・グロス、室内楽をオリヴァー・ヴィレの各氏に師事。
令和3年度坂井時忠音楽賞受賞。現在ドイツと日本を拠点に活動している。
現在ドイツと日本とで活躍するヴィオリストの杉田恵理さんが信頼を寄せるピアにストの北端祥人とリサイタルを行う。わずか70席の贅沢な空間でヴィオラを味わい尽くす。プログラムの選曲や杉田さんが感じているヴィオラの魅力についてお話をうかがいました。
ヴィオラの魅力を最大限に伝えるプログラム
———杉田さんは現在、日本とドイツの2拠点で演奏活動をされていますね。
もともと私はドイツを拠点にしていたのですが、コロナで帰国せざるを得ない状況になり、その後、日本での演奏の機会が増えたこともあって、現在は両方で演奏しています。
ソロ、室内楽、それからゲスト首席としてオーケストラで演奏したりしています。最近では、ドイツカンマーフィルブレーメンや、日本では新日本フィルや京都市交響楽団で演奏しています。また、今はお弟子さんをとったりはしていないのですが、友人がベルリンでミュージックスクールをはじめるとのことで、そこでレッスンを行う準備をしているところです。
———リサイタルも積極的に行っていますが、5月25日(土)のプログラムはどのように選曲されたのですか?
シューマンのヴィオラ作品といえば《幻想小曲集》作品73が有名で、私もよく弾いているのですが、今回は《アダージョとアレグロ》を取り上げることにしました。
この曲は原曲がホルンで、音域の近いチェロでもよく演奏されますね。ドイツでもよく弾かれていて、そこでドイツ的な深い味わいの素晴らしい演奏を聴いたんです。それで、いつかヴィオラでもこんな演奏ができたらいいな、と思っていて、今年の3月にベルリンと日本とでこの曲を弾きました。それがとても良かったので、もう一度弾きたいと思い、今回は北端祥人さんとの演奏を楽しんでいただきたいと思います。
———アンリ・ヴュッセルはあまり知られていない作曲家ですが、《アレグロ・アパッショナート》はどのような作品ですか?
ヴュッセルはフランスの作曲家で名教師でもありました。教え子のほとんどがローマ賞(フランス国家が芸術を専攻する学生に授与していた奨学金付留学制度。1968年に廃止されている)を受賞しており、その中にはアンリ・デュティユーや、管楽器の作品でよく知られているウジェーヌ・ボザの名があります。
今回演奏する《アレグロ・アパッショナート》はすごく情熱的な曲想で、テンポも速いです。そして、ヴィオラの曲としては珍しく、華やかでロマンティックな曲でもあります。
以前フランク・ブリッジの《アレグロ・アパッショナート》を取り上げたことがあるのですが、それに少し似た雰囲気がありますね。
———この曲との出逢いは?
たまたまYouTubeでみつけて、その演奏が気に入ったんです。それで楽譜を探したところ、入手できたので今回初めて演奏することにしました。
———次のラースロー・ヴァイネルも馴染みのない作曲家です。
ハンガリーの作曲家です。ユダヤ人で、戦時中に強制収容所に入れられてしまい、若くして亡くなりました。師であるコダーイに才能を認められていたそうなので、もっと長く生きられたらたくさんの作品を残してくれていたかもしれません。残念ですね。
ヴァイネルは以前、ヴァイオリンとヴィオラのデュオを弾いたことがあって、それがとても良い曲だったんです。それで、他の作品も弾いてみたいと思い、楽譜屋さんでこの《ヴィオラソナタ》の楽譜を見つけて購入したのですが、ずっと忘れてしまっていて(笑)。今回、選曲していたときにそのことを思い出しまして、録音を聴いてみたところとても良かったので、取り上げることにしました。
曲の雰囲気は、何となくバルトークに似ているかもしれません。力強さではなく、歌の美しさ、繊細なところですね。それから民族的な要素を取り入れているところに共通点を感じます。「おしとやかなバルトーク」といった感じかな。特に出だしが神秘的な雰囲気で美しい曲です。
最初のシューマンがポジティブな感じ。2曲目のヴュッセルも力強い曲。3曲目に静かで美しいこの曲を弾きますので、コントラストを味わっていただけたらと思います。
また、その次に北端さんのソロで、武満徹の《フォー・アウェイ》を聴いていただくのですが、この作品がまた神秘的な雰囲気で、3曲目の《ヴィオラソナタ》の出だしの部分と、繫がりのようなものを感じていただくと面白いと思います。
最後に演奏するヒンデミットのヴィオラソナタ(1939)は前半で弾く作品とはまた違った力強さのある作品です。ヒンデミットがヴィオラ奏者だったこともあり、彼の作品は、ヴィオラのかっこよさが最大限に発揮されていると思います。彼は、ベルリン芸大の作曲家の先生だったので、私もベルリン芸大で学んだこともあり、先生的な親近感を勝手に感じています。このヴィオラソナタ(1939)も、幅広い音域で力強いパワフルな音から繊細な音まで駆使し、リズムや和声のぶつかりや複雑な対位法を用いていて、とてもかっこよいヴィオラの魅力が味わえる作品となっています。このソナタが書かれた1939年の前は、ヒンデミット事件という有名な事件が起こり、ベルリンフィルで「画家マティス」を初演し、大成功していたヒンデミットがナチスドイツに目をつけられ、ゲッベルスによって「無調の騒音作家」、退廃音楽という批判を受け、フルトヴェングラー、エーリヒ・クライバーの擁護も虚しく、ドイツを去り、スイス、アメリカに亡命する大変なことが起きています。そういう暗く不穏にうごめく時代の空気もこのソナタからは感じられると思います。
深い音を響かせるピアニスト
———北端祥人さんとはよく共演されているのですか?
ベルリンでずっと一緒だった方で、これまでも何度か共演していただいています。でも、今回はコロナ以降、久しぶりの共演なのです。
先日、北端さんの奥様の守重結加さんと演奏したのですが、その時に北端さんが譜めくりに来てくださって(笑)、そのとき、北端さんが「ヒンデミット弾けますよ」とおっしゃったんです。ピアニストの方からヒンデミットを提案していただくのは初めてで。ヒンデミットをメインにしたプログラムを一緒に弾いてみたいな、と思い、このリサイタルが実現することになりました。
———ピアニストと一緒に音楽をつくるとき、お互いの考えをどのようにすり合わせていきますか?
弾きながらと合わせていくのと、話しながらと、両方ですね。ピアノの方は普段から一人で和声を作って演奏していますから、曲の分析力の高い方が非常に多いです。分析をもとに、ここはこう弾く、という理論派な方が多い。けれども、曲の中には、ヴィオラがリードした方が良いと感じる部分もありますので、そういうところは一緒に弾きながら、私がどのようにリードしていくかを示して、そのタイミングに合わせて弾いてもらう、ということもあります。
———相性が良い、と感じるピアニストのタイプは?
私の好みとしては、深い音色を持っているピアニストとのアンサンブルが好きですね。ヴィオラは中音域の楽器ですが、低音を響かせることもありますので、深い音を出してくださる方に相性の良さを感じます。北端さんも深い素晴らしい音色を持ってるピアニストで多方面でとても活躍されているので、久しぶりの共演を楽しみにしています。
ヴィオラならではの楽しみ
———コンサートを企画したり、プログラミングしたりする上で大事にしていることはありますか?
私はあまり知られていない名曲を発掘するのが好きで、そうした曲をできるだけプログラムに盛り込むようにしています。
昨年はヴィオリストの東条慧さんとヴィオラのデュオ曲ばかりを集めたコンサートを行いました。ヴィオラのデュオは演奏形態そのものが珍しいので、作品も限られてくるのですが、東条さんと二人でYouTubeを見たり、楽譜をみたりして、知られざる名曲の発掘にいそしみました。音源がない作品は二人で試し弾きしてみたり、楽しい作業でした。
ヴィオラは楽器自体も現存する楽器が少ないですし、曲もヴァイオリンに比べると圧倒的に少ないです。でも、知られていない曲を紹介して、皆に「良い曲だね」と言ってもらえるのが楽しいです。ヴィオラがなるべく華やかに聞こえる曲を選んでいますので、楽しんでいただけると思います。
――弾く側も、聴く側も、まだまだ未知の世界が広がっていて、それはヴィオラならではの楽しみ方ですね。
奏法に関してもそういう部分がまだあると思うのです。ヴィオラにも巨匠といわれる奏者がいらっしゃって「奏法」というものがあるわけですが、ヴァイオリンほど歴史が古くないこともあって、まだまだ現代の奏者たちがオリジナルのものをつくれる余地があるように思います。
ヴィオラとの出逢い
———そもそも杉田さんがヴィオラを始めたきっかけは?
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