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肉巻きおにぎりの話

みなさん、肉、巻いてますか。いいですよね、肉巻きおにぎり。知ってます?肉巻きおにぎり。肉で米を巻いてるあれね。

そもそもなんで生まれたんでしょうあんなわんぱく料理。


気になる人は自分で調べてみてください。


他人からきいているばかりじゃだめだ☆


失礼しました。ゴホン(咳払い)今回は肉巻きおにぎりの話です。


僕が生まれて初めて肉巻きおにぎりを食べたのは2020年の冬、高速バスで実家から金沢へ帰る際中のことでした。

名古屋から金沢へはおよそ四時間、途中一回の休憩をはさむ道程です。僕が予約したバスは16:00ごろ出発。ここでとある壁にぶつかりました。


夜ご飯どうしよう・・・


16:00出発のバスに乗る前にご飯を食べるとなると、僕にとっては相当早い夜ご飯になってしまうのです。それにその時間帯ではご飯を食べる準備ができていません。胃的に。心はいつでもハングリーなんですけどね。ええ、どうも胃的に。

しかし金沢に着くまで何も食べないとなると、これまた胃的によろしくありません。お腹がすくと気持ち悪くなるタイプの人間ですので。それじゃあどうしようかとバスの工程表を開いてみると、なんとサービスエリアで休憩があるではないですか!休憩は道程の2/3を過ぎたくらいのところ。そこぐらいまでならなんとかお腹も持ちこたえてくれるでしょう。

よっしゃ!!そこで買おう!!

そう決めた瞬間もうワクワクしっぱなしです。サービスエリアって牛串とか肉まんとか売ってるじゃないですか?ああいうのに興奮するタイプなので。そういう人間なので。そうしてバスに乗り込みました。

バスが走り始めて二時間と少し、休憩場所であるサービスエリアに到着しました。休憩時間は15分、発車時刻までに戻らなければバスに置いて行かれます。こっわ!腕時計の時刻をしっかり合わせてバスを降ります。すると外にのぼりが出ていました。


肉巻きおにぎり


と。


即決



しかし、既に並んでいるお客さんがいます。

おっと?これは急いで買わなきゃダメな奴だね?

普段は優柔不断な僕ですが、今日の注文は決まっています。そう、肉巻きおにぎりです。二個。お腹が空いているので。

時間を気にしながらお店に並びます。すぐ前の人に肉巻きおにぎりが手渡され、いよいよ僕の番です。


『肉巻きおにぎりを二つください。』


言えた!並んでいる最中に練習していた甲斐がありました。あとはおにぎりを食べてバスに戻るだけ!さ、肉巻きおにぎりを渡してちょうだい!!


「温めますか?」


!?


予想外の問いが返ってきました。さあどうしよう小石川、生まれて初めての肉巻きおにぎりの思い出です。せっかくならアツアツの肉巻きおにぎりを残そうじゃありませんか。


『温めお願いします』

「かしこまりました」


バタンッピッブーン(レンジですね)


一体何分温めるのでしょう。レンジの分数を見てみると、


三分

の表示がありました。

これは少しやばいんじゃないか?十五分の休憩で三分のロスは大きいです。しかし、もう温め始められているので待つしかありません。今まで生きてきて三分があんなに長く感じたのは最初で最後ですね。


健一!


あ、すいません珍の方を出してしまいました。チン!ですね、はい。温めが完了しました。早速食べましょう。蓋を開けてみると甘辛いたれの匂いが湯気と一緒に飛び出してきました。バスの出発まで残り僅か、急いで食べないと!!


割りばしを持ってホカホカ湯気の出ている肉巻きおにぎりにかぶりつきます。


ジュッ


火傷しました。しかし背に腹は代えられません。バスに置いて行かれずに金沢までたどり着かねば。

ああ、「ふうふう」して少しでも冷まして食べることができたらどんなに幸せか。なんなら「温め大丈夫です」と言った方がましだったんじゃないか?もうね、熱すぎて味分かってなかったですしね。

しかし!今更後悔してもあとの祭り。肉巻きおにぎりを詰め込むことに集中です。さらにここで思いもよらぬ真実が明らかになりました。


腹の虫がおさまらねえ・・・


そう、肉巻きおにぎり二個じゃお腹が満たされなかったんですよ。多分普通のおにぎりとか牛丼とか、そういうものだったらどれくらいでお腹いっぱいになるか予想できるんですがね。食べたことあるから。でも、あいにく肉巻きおにぎりは食べたことが無かったので全く見当がつきませんでした


ええい仕方ない。サービスエリアの売店でパンでも買おう!肉巻きおにぎりのゴミを捨て、一目散に売店へ。しかしコロナで利用者が減ったからなのか、ほとんど食べ物が売られていなかったのです。さてどうしたものか、バスの出発まであと五分、焦りに焦った僕は一つの結論を絞り出しました。


肉巻きおにぎりをもう一個買おう。


分かってんだよ、あんたらが何考えてるかは分かってんだよ。


じゃあ教えてくれよ!!どうしたらよかったのかをよお!!??


失礼しました。ごっほんごっほん。もうね、仕方ないのよ。あと五分で置いてかれちゃうのよ。もう買える物を買うしかないのよ。


お店に戻ってきました。お店の人も思ったことでしょうね。


「あ、さっきの人だ」


って。そしてこうも思うでしょうよ。


「え?なんでまた来たん?」


って。さっき店先で肉巻きおにぎり食べてた男がまた来たんですよ。ぜったい閉店作業のときに噂されますよ。「肉巻きおにぎり君」がいたって。そんな噂をサービスエリアに置いて行くわけには行きません。なんとかして自然に「二度目の肉巻きおにぎり」を買わねば!!

しかし小石川、伊達に大学生をやっておりません。かつて大学入試をくぐりぬけたはずの脳みそをフル回転させて言い訳を考えました。それがこちら。


『美味しかったんでお土産にしようと思って・・・』


素晴らしい。ひとりスタンディングオベーション。お店の人をいい気分にさせたうえで自然に肉巻きおにぎりを買えるというこの手段。とっさに考えたにしてはなかなかの完成度じゃないですか?さらにお土産と言うことで温めの時間も回避できるというね。バスの中で湯気もくもくの肉巻きおにぎりは流石に食べられませんが、まあ温めなければ大丈夫でしょう。

なんて自画自賛してたら時間がまずい!さあお兄さん、肉巻きおにぎりを頂戴!!バスの時間を気にしている僕に、お兄さんが肉巻きおにぎりを手渡しながら言いました。

「必ず温めて食べるようにお願いします!」

ごめんよお兄さん、バスの中にはレンジがないんだ。多分。確認してないけど多分ないと思うんだ。あるかもしれないんだけどね。うん、ごめんね。でもちゃんと食べるから。うん。約束するから。

肉巻きおにぎりを受け取って時間を確認してみると、バスの出発まで残り二分。ダッシュで戻ります。ものすごく走りました。普段全く運動していないので、脳から「走れ」と命令されたときのきんに君たちは唖然としていたことでしょう。パワー。


なんとか置いて行かれずに済みました。さあ、あとは優雅に肉巻きおにぎりを堪能しましょう。このご時世ですからバスの中でがっつり物を食べるということに抵抗もありましたが、肉巻き「おにぎり」ですしね。うん。おにぎりくらいはいいんじゃないですかね?

蓋を開けて肉巻きおにぎりとご対面。(五分ぶり、二度目)

・・・・

・・・・あれ?

血色悪くない?


そう、蓋を開けて姿を現したのは肉々しい体にテラッテラのたれを塗りたくられたあいつ・・・ではなく、白く固まった脂にまみれた青ざめた肉塊だったのです。見るからに固い。レジ袋の中を見てみると別添えのタレが入っていました。お兄さんの言葉が頭に浮かびます。

「必ず温めて食べるようにお願いします!」

ああ・・・そうよね・・・・。そういうことね・・・。しかし今更何を考えてももう遅い。目をつぶって願ってみても肉巻きおにぎりは冷たいままです。レンジって偉大ね。仕方ないから食べますよ。お兄さんと約束しましたしね。お土産じゃないけど。タレをかけた冷たい肉塊を箸で掴んで口へ運びます。二日徹夜した日の顔色みたいになってるこいつを。

にゅぎゅっシャリっ

口いっぱいに広がるクエスチョンマーク。

自分は一体何を食べているんだろう。美味い不味いじゃないんですよ。謎なんですよ。


肉らしきものに包まれたチンしてないサトウのご飯。

に、醤油とかを煮詰めたソースをかけたやつ。

冷えた肉巻きおにぎりじゃなかったです、あれは。

隣に座っているサラリーマン風のおじさんにしっかり見られながらなんとか食べきりました。おじさんも僕が何食べてるか分かってなかったでしょう。あれは分かってない顔でした。間違いなく。

これね、小石川考えたんです。
サービスエリアで食べた肉巻きおにぎりは、熱々で全く味が分からなかった。
バスの中で食べた肉巻きおにぎりは、もう肉巻きおにぎりなのかどうか判別できなかった。

つまりですよ、肉巻きおにぎり食べてないんじゃないかと。あの3つの肉巻きおにぎりは限りなく肉巻きおにぎりに近い何か。だったんじゃないかと。山岡士郎だったら間違いなく言ってますもん。「こんなのは肉巻きおにぎりじゃないよ」って。「1週間後、本物の肉巻きおにぎりをお持ちしますよ。」って。

だって今僕が「肉巻きおにぎり」を食べたとして、「今まで肉巻きおにぎり食べたことない人」が「肉巻きおにぎり」食べた時と同じくらいの感動が生まれますもん。「これが肉巻きおにぎりか!」ってなりますもん。

というわけで小石川は未だ肉巻きおにぎりを食べたことがありません。誰か連れてってください。「本物の肉巻きおにぎり」を食べられるところへ。お願いします山岡さん。

久々に美味しんぼが読みたくなってきました。
それではまた来週お会いしましょう。

ではまた!









いただけたら牛丼に半熟卵とかを躊躇なくつけます。感謝の気持ちと共に。