「今が一番楽しい」と言ってのけるい草縄職人の思いとは__井上産業

い草の一大産地である熊本県の八代地方。その歴史は長く、およそ500年前の室町時代まで遡ります。生産量は全国の約9割を占め、「い草といえば熊本」として全国から認知されています。そんな八代にい草と竹の工房『井上産業』があります。

画像1

八代産イ草を使った細縄(ほそなわ)製造にや竹を使った加工品などを生産を行っています。

画像2

話を伺ったのは代表の井上昭光(いのうえ あきみつ)さん。昭和34年に創業された『井上産業』の2代目で、現在は3代目の謙次郎さんと共に日々制作に励んでいます。

画像3

い草縄の編み師として、独自に開発した縄練り機で作るのは、猫伏(ねこぶく)・円座・枕・寝ござなど。

画像12

「い草を編み縄を撚って作っています。い草は細くてしなやか。い草をより合わせて作ることで細くても強度のある縄となります。最初はワラで作っていた時もありましたが、い草のほうがより細い縄を作れるんですよ」。

画像4

初めは植木や庭造りのため造園業との取引がメインでしたが、一般家庭でも使えるものをとさまざまなアイテムを作り始めた井上さん。

画像13

転機が起きたのは平成16年。九州新幹線の新八代・鹿児島間が開通された九州新幹線つばめの車両に「い草のれん」が採用されたことでした。西陣織風の座席や、金箔の壁、細部に木を使うなど、日本に昔から伝わる伝統技術と自然素材を体感できる列車として、当時話題となりました。

画像5

「それまで多かった造園関連の仕事が減ってきていた時だったので、縄のれんの採用は本当に嬉しかったんです。九州新幹線では洗面所と通路の間仕切りとして使っていただきました。のれんとしてはもちろんですが、一般的なのれんと比べて光を通すので圧迫感がなく、柔らかくやさしい雰囲気が出るんですよ」。

画像6

また、以前より飼っていた猫のために商品開発をしたいと思っていた10年前に出合ったのが、関西のデパートで催されていた猫にまつわる道具の展覧会で目にした『猫ちぐら』でした。元々猫ちぐらは、新潟や長野産の稲わらを編んで作った猫用の寝床の一種。東北にルーツを持つ民芸品のようなものですが、当時の展覧会で目の前であれよあれよと売れていく様子に驚きを隠せなかったそう。

画像7

「決して安くない、猫用の家。だけど皆、猫がこの中に入っていくのを想像してたまらないんでしょうね。すぐに製作者にアドバイスをもらい、八代に帰って制作を開始しました。しかしすぐに上手くはいきません。初めは縄だけで作っていたんですが、安定性や強度がありませんでした。そこで自社で加工している竹を使ってみたところ、骨組みの強度が上がり、見た目もクオリティも高い猫ちぐらを作ることができました」。

画像8

自然の素材で作る猫ちぐらは、コロンとした愛らしいフォルムとい草の香りが特徴。また、 い草は湿度・温度を調整し高い吸湿性や消臭効果が期待できる素材とあって、猫もリラックスできる空間を作ってくれます。

「実際作ってみて家の猫で試してみたんですけど、見た瞬間すぐに入ってくれたんですよ。いやぁ、嬉しかったですね」。

画像9

井上さんの挑戦はこれだけではありません。猫ちぐらをヒントに人が3人ほど入れるい草縄を使った茶室を開発。

画像10

お寺からの注文もあり、今後は受注販売で広げていきたいと話します。

画像11

現在『井上産業』には、18歳の社員がいます。てきぱきとい草縄の制作に取り掛かる姿は、熟練の職人のようにも見えます。

「若い社員も入って、自分のやりたい事もいろいろ出てきています。猫ちぐらや茶室、猫伏などは今後も力を入れて制作していきたいです。そしていつかは、パリで個展をしたいんですよ、私。夢は大きく持っておきたいじゃないですか。今が一番楽しいですね」。

未来を見る井上さんの言葉が、印象的でした。

イ草縄工房・竹 井上産業
八代市川田町東1063-2
0965-39-0055


いいなと思ったら応援しよう!