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コビアンと4度

Mi Refugio [Juan Carlos Cobián] 邦題:私の隠れ家
ピアソラによる甘美なバンドネオン・ソロのアレンジが後世で大人気を博している。バンドネオンを弾いていて、ソロに興味が出たら、大体まずこの曲に憧れると相場が決まっている。


冒頭は何なのか?

 冒頭では、EマイナーとDマイナーでそれぞれ4度の下行をする。まぁ、これは、とても分かりやすく、短調のモチーフを冒頭に引っ張ってきている。
 その後、左手がツーファイブで右手は4度の下行を繰り返しているのは、隠れ家を求めてさまよう表現だ、というのが平凡な読みというもの。


コビアンと4度

 平凡な読み以上のものを加えるとすれば、4度の下行というのは、コビアンの作曲において印象的に使われることが多い、ということがいえる。例を挙げれば、コビアンの(タンゴの文脈では)有名な作品をほとんど挙げることになる。

Mi Refugio - 私の隠れ家
Los Mareados - 酔いどれたち
El Motivo - 動機
Shusheta - 気取り屋

 いかがでしたか?タンゴの全ての作品を作曲家で層別して、4分の4拍子でいうところの白玉(2部音符)が4度である確率を分析すれば、そこそこ有意でいい線行くのではないか。

 上記の例だけでは、すこし説得力のある妄想程度にしかならないかしら?ここで、権威の名前を借りたい。Leopoldo Federicoは、曲のアレンジの中に、関係のある別の曲を混ぜ込むことがあり、これが大変いい。フェデリコ=グレラによるEl Motivoのアレンジでは、Mi Refugioのモチーフが引用されているほか、序盤と終盤に下図のような部分がある。コビアンの曲をアレンジする中でコビアンの曲のモチーフを引用していて、(上行とはいえ)4度を印象的に使っていて、これだけで、コビアンと4度に関係を見出すのには十分に思われる。

左:序盤(ギター) 右:終盤(バンドネオン右手)


ちなみに・・・

 アルバムとして残っている版のMi Refugioの演奏はやや装飾過多で、ルバートというか、拍子をはみ出しているが、Mauricio Berúによるドキュメンタリーにて比較的若そうな頃の映像として(!!)残っている版では、原曲とテンポに対して割と従順な演奏をしている。これなら、ピアソラのオクテートでのアレンジとソロで同じ節回しをしている箇所も見つけやすいかもしれない。

Mi Refugio (Piazzolla) ソロ右手

 ピアソラのアレンジは甘美で素晴らしい。テンポもコードも大胆にアレンジするのは、有り余る独創性のためだと思う。しかし、甘美な表面●●に惑わされてはいけない。ピアソラが原曲も、おそらく作曲家もリスペクトしてアレンジと演奏をしていたのであれば、後世の人間もまた原曲と作曲家をリスペクトするのでなければならない。