環世界体感ドーム SceNERIUM:地球研オープンハウス2024 訪問記 08
2024年11月03日、総合地球環境学研究所(地球研)は地球研オープンハウス2024(以下同イベント,[1])を開催した。私も一般客として参加した。
SceNEプロジェクト(以下同プロジェクト)は研究で、サンゴ骨格年輪を中心とした高解像度の環境復原、ならびに、地域のステークホルダーの記憶や現代人の心情や行動に基づいて、自然(サンゴ)の記憶と人の記憶を重ね合わせることによって、人と自然の関係の高解像度データを導出することを発想した。その科学的なデータを、アートを媒介とすることによって異分野の研究者や地域のステークホルダー(利害関係者)と共有し、地域における在来知を再評価する。さらに将来の地球環境変動に対して回復力があり、共感を得やすい地域社会像を得るための未来集合知を創造することを目指している(図08.01,[2])。
同プロジェクトは、演劇をはじめとしたアートの手法を取り入れ、異分野の研究者、地域のステークホルダー、および、異なる世代の人の間において、エンパシー(他者の感情や思考を想像する能力、または、共感、感情移入、もしくは、自己移入)の獲得と未来思考の協働作業の促進を目指すための方法の開発と実践を行っている。これまでの研究ではモデル地域である喜界島において、過去の環境と社会の変革点における仮想SceNE(時代の窓)を演劇の舞台に設定し、異なる時代と環境下における人と環境の関係性について高解像度のイメージが共有できることがわかった。また科学とアートを融合するために、科学的な概念をアートで表現する方法の実践を研究者とアーティスト(演出家)が対等に話し合いながら進めている。
その一環として、「環世界体感ドーム SceNERIUM」で、同プロジェクトは、喜界島のサンゴ(図08.02)、喜界島での「100年かけて劇場をつくるプロジェクト」劇場計画案(図08.03)、および、環世界体感ドームSceNERIUM(図08.04)を展示した。SceNERIUMでは、喜界島の珊瑚礁の映像が上映された。
プレリサーチ期間で、同プロジェクトは科学とアートを融合するために必要な条件の導出を実施した。研究者とアーティストが寝食を共にしながら合宿を行い、研究者が共有した科学的な概念をアーティストが身体表現に落とし込む作業を繰り返すことによって、研究者とアーティストの境目が互いにわからなくなる感覚まで近づくことができた。また、同プロジェクトにおいて、研究者とアーティストが先導しながら地域を変容させていくのではなく、アートを媒介とすることによって、研究者とアーティストが地域住民と対等に情報交換や対話が生まれる仕組みとして、新しい祭りの制作を実施した。
喜界島の珊瑚礁や珊瑚礁文化を守るためは、単純な啓発よりも、むしろ上記の祭りが有効の様である([3],[4])。何故なら、ほとんどの人々は理屈ではなく、共感で動くからである。当然、これは、他の地域の自然環境保護や歴史・文化の保護にも当てはまる。
参考文献
[1] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“地球研オープンハウス2024”.総合地球環境学研究所 ホームページ.イベント.2024年度.2024年11月03日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/events/detail/230/,(参照2024年11月25日).
[2] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“SceNEプロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.研究一覧.実践プログラム.環境文化創成プログラム.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/26/,(参照2024年11月30日).
[3] 公益財団法人 世界自然保護基金(World Wide Fund for Nature:WWF)ジャパン.“「喜界島」サンゴの島の暮らし発見プロジェクト”.WWFジャパン ホームページ.WWFの活動.2020年06月19日.https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4341.html,(参照2024年11月30日).
[4] NPO法人 喜界島サンゴ礁科学研究所.“喜界島サンゴ礁科学研究所 ホームページ”.https://kikaireefs.org/,(参照2024年11月30日).