ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)関連記事まとめ 第02版
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2020年07月21日、MSD株式会社(以下MSD)は、9価HPVワクチン「シルガード®9水性懸濁筋注シリンジ(組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来))」(以下シルガード®9)について、9歳以上の女性を対象に、HPV6、11、16、18、31、33、45、52、および、58型の感染に起因する子宮頸がん(扁平上皮細胞がん、および、腺癌)、および、その前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)1、2、および、3、ならびに、上皮内腺がん(AIS))、外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2、および、3、腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2、および、3、ならびに、尖圭コンジローマの予防を効能・効果として、製造販売承認を取得した([1])。
2021年02月24日、MSDはシルガード®9を9歳以上の女性を対象に、上記の疾患の予防を効能・効果として、発売した([2])。
一方、2020年12月25日、MSDは4価HPVワクチン「ガーダシル®水性懸濁筋注シリンジ(一般名:組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)、以下ガーダシル®)」に関して、以下の内容に関する製造販売承認事項一部変更承認を取得した([3])。
効能または効果:ヒトパピローマウイルス6、11、16、および、18型の感染に起因する肛門がん(扁平上皮がん)およびその前駆病変(肛門上皮内腫瘍(AIN)1、2、および、3)、ならびに、男性での尖圭コンジローマの予防適応の追加。
用法及び用量:9歳以上の男性への接種対象拡大。
2021年11月26日、MSDは厚生労働省がヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に係る定期接種の積極的な接種勧奨の差し控え終了に関する通知「ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の今後の対応について」を自治体に発出したことを発表した([4],[5])。
また、2021年12月23日、HPVワクチンの供給体制に関するステートメントを発表し([6])、2022年02月04日、HPVワクチン訴訟に関するステートメントを発表した([7])。
私は一般社団法人日本癌医療翻訳アソシエイツ(以下JAMT:ジャムティ,[8])海外がん医療情報リファレンス([9])で翻訳ボランティアとして、米国国立がん研究所(NCI)や米国疾病対策予防センター(CDC)などによるHPV、特にHPVワクチンに関連する記事を翻訳している。
ここで、拙翻訳記事などを以下に示す。なお、原文はいずれもリンク先を参照。
l “HPVワクチン接種率低迷の「危機」― Noel Brewer博士との対談/NCIブログ~がん研究の動向~”.2016年02月17日.http://www.cancerit.jp/37870.html,(参照2022年06月24日).
2016年01月下旬、NCI指定がんセンター全69施設は、米国におけるHPVワクチン接種に関する合同声明を発表した。本合同声明はHPVワクチンの低接種率が続いている状態を「公衆衛生に対する脅威」と評し、親などの保護者が小児に接種するよう推奨し、そして、臨床医に「小児へのHPVワクチン接種を強く推奨することでがん予防を提唱する」よう要請した。
l “米国でワクチンが標的とする型のHPV感染有病率が低下/NCIブログ~がん研究の動向~”.2016年05月17日.http://www.cancerit.jp/38709.html,(参照2022年06月24日).
米国ではHPVワクチン接種の推奨以降、4価HPVワクチンが標的とする型のHPVによる感染が、10代女児で約1/3に低下したことが新規研究結果から示された。
l “CDCがHPVワクチン接種の推奨を更新”.2016年12月09日.https://www.cancerit.jp/53011.html,(参照2022年06月24日).
15歳未満の思春期においては、6カ月以上の間隔をおくHPVワクチン接種は3回でなく2回で十分であることを、CDCと米国予防接種諮問委員会(the Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)は新たな推奨で示した。
l “ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン”.2021年05月25日.http://www.cancerit.jp/38616.html,(参照2022年06月24日).
HPVワクチン、特にその重要性や安全性に関して、簡潔かつ詳しく記載している。
l “ISA101ワクチン+ニボルマブがHPV関連がんに奏効”.2018年10月18日.https://www.cancerit.jp/61021.html,(参照2022年06月24日).
Bonnie Glisson医師(MDアンダーソンがんセンター胸部・頭頸部腫瘍内科教授兼アベル―ハンガー財団特別教授)らはISA101ワクチン(強力な発がん作用を有するHPV16型が産生する主要ペプチドを標的とする)+ニボルマブの併用療法を実施した。
対象となった再発HPV16型関連がん患者24人のうち、22人は中咽頭がん患者、1人は子宮頸がん患者、1人は肛門がん患者であった。
8人(33%)で抗腫瘍効果がみられ、そのうち2人は完全奏効を示した。8人はいずれも中咽頭がん患者であった。奏効期間中央値は10.3カ月であった。
全生存期間中央値は17.5カ月、無増悪生存期間は2.7カ月、および参加患者の70%は12カ月まで生存した。
抗腫瘍効果がみられた8人のうち5人では依然として効果が認められている。
l “HPVワクチン―重要ながん予防手段を拡大”.2019年02月18日.https://www.cancerit.jp/62129.html,(参照2022年06月24日).
2018年11月、大統領府がん諮問委員会議長(当時)であるBarbara K. Rimer公衆衛生医師は米国の大統領および国民に対して、「がん予防を目的とするHPVワクチン接種―進展、接種の機会、新たな接種要請の呼び掛け」という報告書(以下同報告書)を発表した。
同報告書には過去5年間にわたる、米国などの全世界におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの最大限の使用に向けた進歩が記載されている。また、より多くの人々がこの極めて重要ながん予防ワクチン接種を確実に受けるための優先事項と方策についても記載されている。
l “AI二重染色検査により、子宮頸がん検診の精度と効率が向上”.2020年07月15日.https://www.cancerit.jp/66433.html,(参照2022年06月24日).
HPV検査による一次検診で陽性と診断された女性の追跡検査として、標準検査法である子宮頸部細胞診(パップテスト)と比較して、コンピューター・アルゴリズムが子宮頸がん検診の精度と効率を向上させたことが新たな研究で示された。この新たな手法は人工知能(AI)を使用して、二重染色の評価を自動化したもので、臨床所見に明確な意味を有するものである。
AIを用いた二重染色検査は、米国での現行の標準検査法であるパップテストの性能を凌ぎ、偽陽性結果の数を減少させ、不必要なコルポスコピー検査での確認を大幅に減少させた。
手動二重染色検査でさえ、HPV検査結果が陽性の女性の検診用に使用され始めたばかりである。AIを用いた二重染色検査を用いてHPV陽性の女性の検診ができるようにするためには、FDAによる追加承認が必要となる。この検査法が米国だけでなく日本でも承認・普及されれば、子宮頸がん検診が大幅に改善され、毎年何百万人も発生するHPV陽性の女性に影響を及ぼすことになる。
l “HPVが引き起こすがんの推計92%はワクチンにより予防可能”.2019年09月04日.https://www.cancerit.jp/63378.html,(参照2022年06月24日).
CDCの罹患率・死亡率週報(Morbidity and Mortality Weekly Report:MMWR)2019年8月23日号に掲載された調査結果によると、2012~2016年にかけて、毎年平均してHPV(ヒトパピローマ)関連がんが43,999件報告された、また、HPVが恐らく引き起こした推計34,800件のがんのうち、92%がHPVワクチンの対象となるHPV型によるもので、HPVワクチンの推奨を継続するとこれらのがんを予防できるとのことである。
余談だが、私はこの件に関するツイートで一時的に有名になったことがある(笑)([10])。
l “HPVワクチンが男性の口腔HPV感染に対する「集団免疫」をもたらす”.2019年11月06日.https://www.cancerit.jp/63849.html,(参照2022年06月24日).
HPVワクチンが男性の口腔HPV感染に対する集団免疫をもたらしていることが示唆されている。米国において、口腔HPV感染は70%を超える中咽頭がんの原因となっており、また男性における中咽頭がんの有病率は過去数十年間にわたり急増している。
生涯美味しい食事を味わうためには、男性こそ、このワクチン接種が必要である。それに、口腔HPV感染により、中咽頭がんに罹ってしまえば、食事もままならないわけだし([11])。美味しい料理を満喫できることこそ、人生の最大の喜びだからね。
l “ヒトパピローマウイルス(HPV)とがん”.2020年02月01日(更新日:2021年01月22日).https://www.cancerit.jp/1035.html,(参照2022年06月24日).
HPVとそれが引き起こすがんや疣に関して、簡潔かつ詳しく記載している。
HPVワクチン接種によるHPV感染予防と子宮頸がんのスクリーニングに関しても、簡潔かつ詳しく記載している。
l “【子宮頸がん検診】パップテストとHPV検査”.2020年08月26日.https://www.cancerit.jp/52727.html,(参照2021年06月24日).
子宮頸がん検診に関して、簡潔かつ詳しく記載している。
HPV/パップ同時検査とHPV検査の両者により子宮頸部腺がんを含む腺細胞異常の検出が向上する可能性もある。子宮頸部の腺細胞異常および子宮頸部腺がんは、扁平上皮細胞異常および扁平上皮がんと比較して頻度が低い。パップテストにおける腺がんおよび腺細胞異常の検出率は扁平上皮細胞異常および扁平上皮がん(図01)の検出率と比較して不良である。
現在日本では、子宮頸がん検診に関しては、細胞診単独法とHPV検査単独法は強い根拠があり、明らかな臨床上の有効性が期待できるので、積極的に推奨される(推奨グレードA)。一方、細胞診・HPV検査併用法は対策型検診では実施が推奨されず、任意型検診では個人の判断に基づく受診を妨げないものとする(推奨グレードC)([12])。
l “HPVワクチンの1回接種で発がん性感染症を予防できる可能性強まる”.2022年06月15日.https://www.cancerit.jp/72313.html,(参照2022年06月24日).
ケニア(医療資源が乏しい国々の1つ)で実施されたKEN SHE試験から得られた新たな結果から、HPVワクチンの1回接種は、発がん性HPV型による子宮頸部感染に対する若年女性での予防に極めて有効であることが示された。
KEN SHE試験(ケニア国内の3施設で実施)には15~20歳の若年女性2,275人が参加し、以下の3群に割り付けられた。
第1群は:2価HPVワクチン(サーバリックス)の1回投与を受けた。
第2群は:9価HPVワクチン(ガーダシル9、日本ではシルガード9)の1回投与を受けた。
第3群(対照群):髄膜炎菌性髄膜炎ワクチン接種を受けた。
登録から18カ月後、第3群(対照群)473人中36人(7.6%)で子宮頸部にHPV16型または18型の新規持続感染が認められた。一方、HPV ワクチン2種類のうち1種類の接種を受けた女性では985人中わずか2人(0.2%)であった。HPV16型または18型に対する両ワクチンの有効性は97.5%であった。
l “前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが低下”.2022年06月24日.https://www.cancerit.jp/72458.html,(参照2022年06月24日).
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者を対象とした大規模臨床試験である肛門がん/HSIL転帰調査(the Anal Cancer/HSIL Outcomes Research:ANCHOR)試験が全米25施設で実施された。
ANCHOR試験に、35歳以上のHIV感染者10,723人が参加し、高解像度肛門鏡検査(肛門・直腸の内壁を調べる検査)による高度扁平上皮内病変(high-grade squamous intraepithelial lesions:HSIL)検診を受けた。その結果、このうち4,459人がHSILと診断された。
HSIL患者は、治療群と無治療の積極的監視(現行標準治療)群にランダムに割り付けられた。治療群のほとんどの患者は診察室で電気メス切除(電流による熱で異常組織を破壊するために使用される術式)を受けた。
中央値で2年強の追跡調査の後、積極的監視群では21人が肛門がんと診断された一方、治療群では9人で、57%減少した。治療群の副作用の大半は疼痛や出血などの軽度なものであった。
ANCHOR試験の結果はHIV感染者におけるHSIL検診の推奨につながる可能性もあり、また、肛門がんのリスクは低いとはいえ増大している他の集団(例.男性との性交渉歴があるHIV陰性男性、他のHPV関連前がん病変やがんの病歴がある女性、臓器移植やその他の理由で免疫抑制状態にある人)に対する標準治療を変更する可能性もある。
ちなみに、肛門HSILの治療は子宮頸部HSILの治療と比較して難易度が高く、再発も多い。
肛門がんは一般集団では比較的まれだが、HIV感染者の間では4番目に多い。肛門がんの発生率は、HIV男性との性交渉歴があるHIV感染男性では10万人あたり89人、HIV感染女性では10万人あたり18.6~35.6人と推定される。一方、一般集団における肛門がんの発生率は、10万人あたり1.6人である。
肛門がんのほぼすべては、肛門細胞が発がん性HPVに感染することで生じる。
また、他の翻訳者による記事も紹介する。
l “HPVワクチンとCRPS、POTSの因果関係はないと結論(欧州医薬品庁レビュー)”.2015年12月11日.http://www.cancerit.jp/37000.html,(参照2022年06月24日).
2015年11月5日、医薬品安全性監視リスク評価委員会(Pharmacovigilance Risk Assessment Committee:PRAC)がHPVワクチンを接種した若年女性で報告された複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)と体位性頻脈症候群(Postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)に関するエビデンスについて、詳細な科学的レビューを完了したと発表した。このレビューでは、HPVワクチン(サーバリックス®、ガーダシル®/シルガード®、および、ガーダシル®9/シルガード®9)とCRPSもしくはPOTSの発症の関連を、科学的根拠が支持していないと結論した。即ち、ワクチンの接種方法の変更、あるいは現在の製品情報修正を行う理由はないというものである。言い換えれば、これらの報告はワクチン対象年齢層で想定される範囲内であるという結論が出たわけである。
l “口腔内のヒトパピローマウイルス(HPV)検出と頭頸部がんとの関連性が前向き試験で示される”.2016年03月08日.https://www.cancerit.jp/38034.html,(参照2022年06月24日).
アルベルト・アインシュタイン医学校(米国アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市)のIlir Agalliu医師とRobert D. Burk医師らによる前向き試験から、HPV16型による感染が一部の頭頸部がんの発症に先立って起きていることが確認された。
l “HPVワクチン接種により口腔HPV感染が減少”.2017年05月30日.https://www.cancerit.jp/55609.html,(参照2022年06月24日).
米国の若年成人を対象とした、HPVワクチン接種の口腔HPV感染に対する影響を調査した初めての大規模研究で、未接種群に比べて1回以上の接種群では、高リスク型HPV感染の有病率が88%低下したことが示された。
l “HPV(子宮頸がん)ワクチン:親が子供に接種させない本当の理由”.2018年11月27日.https://www.cancerit.jp/61381.html,(参照2022年06月24日).
ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らによる新たな調査データ研究によると、HPVワクチンを親が自分の子供に接種させないのは、ワクチン接種が若者の性行為を促したり、支援したりすることが心配なためであると医師らはこのワクチン推奨がなかなか進まない理由をしばしば説明しているが、この理由でワクチン接種をさせなかった親はごく一部であった。むしろ、子どもを予防接種から遠ざける親の懸念は、安全性への不安、必要性の欠如、HPVに関する知識の欠如、および、医師推奨がないことに集まる傾向であることが明らかになった。
l “HIV感染高リスク成人でのHPVワクチン接種率は低い”.2019年04月18日.https://www.cancerit.jp/62475.html,(参照2022年06月24日).
後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすHIVに感染するリスクの高い成人は、肛門がんや子宮頸がんの原因となり得るHPVに対するワクチン接種率が一般集団よりも低い傾向にあったことが、明らかになった。
ゲイまたはバイセクシャルの18~33歳男性では、約1/4(25.7%)が3回HPVワクチン接種を開始しており、6.2%が3回ワクチン接種を完了していた。
リスクの高いヘテロセクシャルの18~36歳女性では、約1/4が3回HPVワクチン接種を完了していた。
リスクの高いヘテロセクシャルの18~29歳男性では、3回HPVワクチン接種を開始していたのは全体のうちわずか11%であった。
トランスジェンダーの男女や性別不適合の人々でHPVワクチン接種を開始した人はいなかった。
非ヒスパニック系黒人の回答者のワクチン接種率は、他の人種/民族群と比較して非常に低かった。
上記の性的少数者こそ、積極的にHPVワクチン接種を受けるべきなのに(呆れ)。
l “HPVワクチンで子宮頸がんリスクが低下”.2020年10月18日.https://www.cancerit.jp/67194.html,(参照2022年06月24日).
スウェーデンの150万人以上の女児および女性を11年追跡した調査で、30歳までの子宮頸がんリスクは、4価HPVワクチンであるガーダシル®を接種した女性では、ワクチンを接種していない女性と比較して63%低い、即ち、ガーダシル®は浸潤性子宮頸がんリスクを大幅に低下させることが確認された。
実をいうと、私はこの記事を翻訳したかった(泣)。
l “検診とワクチン接種の標準化により子宮頸がん発生率は低下するも、他のHPV関連がんは上昇”.2021年06月04日.https://www.cancerit.jp/69252.html,(参照2022年06月24日).
2001~2017年までの米国がん統計プログラム由来657,317人のデータから、女性において、検診およびHPVワクチン接種に関する明確なガイドラインがある子宮頸がんの発生率は過去17年間で毎年1%低下したことが分かった、一方、検診が標準化されていないHPV関連がん、なかでも中咽頭がん、肛門がんおよび直腸扁平上皮がんの発生率は、同期間に増大しており、リスクのある特定グループでは5年以内に子宮頸がんの発生率を上回ると予測されている。
l “早期子宮頸がん患者に対する低侵襲手術が減少”.2021年06月29日.https://www.cancerit.jp/69492.html,(参照2022年06月24日).
LACC試験は約3年前に実施された大規模臨床試験である。LACC試験では、低侵襲手術(ロボット手術を含む)を受けた早期子宮頸がん患者は開腹手術を受けた患者よりもがんの再発率が高く、術後3年生存率が低かった。但し、LACC試験の対象であった低侵襲手術は、その84%がロボット手術ではなく従来の腹腔鏡手術であった。
New England Journal of Medicine誌2021年04月29日に掲載された最新研究によると、米国で早期子宮頸がん患者の治療にあたる外科医は、LACC試験の結果を受けて治療法を変更したようだ。LACC試験結果が発表された後18カ月間のうちに、低侵襲手術により子宮およびその周辺組織を切除(広汎子宮全摘)した患者の割合は58%から43%に減少した。
l “免疫療法薬ペムブロリズマブは再発、持続性、または転移性子宮頸がん患者の生存を改善”.2021年10月20日.https://www.cancerit.jp/70377.html,(参照2022年06月24日).
KEYNOTE-826試験では女性617人を免疫療法ペムブロリズマブ(キイトルーダ)群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。
両群には化学療法薬(パクリタキセルおよび、医師がシスプラチンまたはカルボプラチンどちらかを選択)も投与し、主治医の裁量でベバシズマブ(アバスチン)を投与することもできた。ペムブロリズマブを追加することにより死亡リスクが33%低下し、疾患進行または死亡の可能性が35%低下した。最も一般的な副作用は貧血(ペムブロリズマブ群:30.3%、プラセボ群:26.9%)、および白血球濃度の低下(ペムブロリズマブ群:12.4%、プラセボ群:9.7%)であった。
l “バルスチリマブ+ザリフレリマブ併用は進行子宮頸がん治療に有効”.2022年02月04日.https://www.cancerit.jp/71233.html,(参照2022年06月24日).
オハイオ州立大学総合がんセンターのアーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC-James)の研究者ら主導による多施設共同第2相臨床試験は、再発/転移性子宮頸がんの女性を対象に、PD-1阻害薬balstilimab[バルスチリマブ]およびCTLA-4阻害薬zalifrelimab[ザリフレリマブ]の併用療法を検証した過去最大の臨床試験である。
研究者らは、2種類の分子標的治療薬、すなわち治験用モノクローナル抗体薬バルスチリマブおよび治験薬ザリフレリマブは、進行/再発子宮頸がん患者に有効かつ持続的な効果をもたらすという仮説を立てた。研究者らは、米国、欧州、南米、およびオーストラリアの45の施設から、24~76歳までの女性155人を本試験に登録した。登録者全員が、プラチナベース化学療法による治療を受けていた。
全病勢コントロール率(部分奏効、完全奏効、安定の患者)は52%であった。腫瘍に細胞受容体PD-L1が発現している患者らの全奏効率は32.8%であり、安全性プロファイルは許容範囲であった。
l “1回のHPVワクチン接種でも子宮頸がん予防に有効―世界保健機関(WHO)”.2022年04月25日.https://www.cancerit.jp/71915.html,(参照2022年06月24日).
子宮頸がんを予防するには、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの1回の接種で十分であると、世界保健機関(WHO)の専門家グループが述べた。
現在、2回または3回の接種が推奨されているが、先週開催された予防接種に関する会議で専門家の戦略的諮問グループは、1回の接種でも同程度の効果があることを示す根拠があると述べている。
現在でも、HPV、特にHPVワクチンに関する多くの誤った情報、特に左右のイデオロギー集団、マクロビオティック団体、および、精神世界信者(要は毒電波)による流言がソーシャルメディア上に存在する。
私はこうした状況に憤慨している。そして、こうした流言に惑わされる人を1人でも減らすため、かつ、1人でも多くの人が正確な知識を得るよう促すために、筆者はJAMTの一翻訳ボランティアとしてHPVワクチン関連記事を翻訳し、紹介している。
上記の拙翻訳がHPVおよびHPVワクチンに関する正確な知識の普及・啓発に役立てるのならありがたい。
話は変わるが、上記の経緯から、HPV、HPV感染症(特に子宮頸がん)、ならびに、HPVワクチンに関する正確な情報を提供する文献・サイトも以下に紹介する。
1.HPV、HPV感染症、および、HPVワクチンの総説
l 一般社団法人 HPVについての情報を広く発信する会.“みんパピ!みんなで知ろうHPV(ヒトパピローマウイルス)プロジェクト ホームページ”.https://minpapi.jp/,(参照2022年06月25日).
「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」はHPV感染症の予防方法について学んでいく仕組みを作ることを目指している。
l MSD株式会社.“みらいを守る ワクチン・検診 子宮頸がん予防 トップページ”.https://www.shikyukeigan-yobo.jp/hope/from_teens/,(参照2022年06月25日).
キャッチアップ接種に関して簡潔に記載していので、このサイトは必読である。
l MSD株式会社.“子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp トップページ”.https://www.shikyukeigan-yobo.jp/,(参照2022年06月25日).
子宮頸がんに関連する知識がQ&A形式で、簡潔に記載している。
l 厚生労働省.“ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.感染症・予防接種情報.予防接種情報.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html,(参照2022年06月25日).
一般の方向けの情報、HPVワクチンに関する相談先一覧、医療機関・自治体向けの情報、および、関連情報などが記載されている。
l ジャパンワクチン株式会社.グラクソ・スミスクライン株式会社.“allwomen.jp すべての女性に知ってほしい 子宮頸がん情報サイト”.http://www.allwomen.jp/index.html,(参照2022年06月25日).
子宮頸がんに関連する知識が簡潔に記載されている。
l 薗部友良 監修.NPO法人 VPDを知って、子どもを守ろうの会 編.“ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど)”.0歳からのワクチン接種ガイド:ワクチンで防げる子どもの病気.初版第1刷,株式会社日経メディカル開発,2014年08月22日,p.52-53.
HPV感染症やHPVワクチンに関して、簡潔に記載している。
l 田中 正利 編.“各論 VI.尖圭コンジローマ”.性感染症 STD.第2版第1刷,株式会社南山堂,2008年04月22日,p.209-227.
尖圭コンジローマに関して、詳細に記載している。
l 公益社団法人 日本産婦人科医会.“子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために”.日本産婦人科医会ホームページ.公開情報.2022年05月02日.http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4,(参照2022年06月25日).
子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識、子宮頸がん検診の最新の知識、および、浸潤子宮頸がんの減少効果や9価HPVワクチンに関する情報を紹介している。
名古屋市で行われたアンケート調査では、24種類の「多様な症状」の頻度がHPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示された。HPVワクチン接種と24症状の因果関係は証明されなかった。
これまでに行われたHPVワクチンに関する多くの臨床研究を統合解析したコクランレビューによると、HPVワクチン接種によって短期的な局所反応(接種部位の反応)は増加するものの、全身的な事象や重篤な副反応は増加しない。
世界保健機関(WHO)による世界中の最新データも継続的評価においても、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題は見つかっていない。
2020年にスウェーデンから世界で初めて国家規模で浸潤子宮頸がんの減少効果を示す論文によると、スウェーデンの10~30 歳の女児・女性において、4価HPVワクチン接種は、国レベルでの大幅な浸潤性子宮頸がんのリスク減少と関連した。
l 林謙治 監修.佐藤武幸 著.家坂清子 著.三石 剛 著.HPV感染と予防対策:子宮頸がんと皮膚病およびHPVワクチンの効果.初版第1刷,株式会社 少年写真新聞社,2011年02月20日,74p,(写真を見ながら学べるビジュアル版 新・健康教育シリーズ).
HPV、HPVワクチン、ならびに、子宮頸がんや尖圭コンジローマなどのHPV関連疾患に関して、簡潔かつ詳細に記載している。また、学校教育でのHPV感染予防教育、具体的には、子供たちに対する正確な情報提供、子供たちが健康に成長する権利、教育分野に求められる健康教育の必要性、および、初交年齢の引き上げに関しても言及している(p.7-16)。
l クリフォード・ピックオーバー著,板谷史 翻訳,樺信介 翻訳.“HeLa細胞”.ビジュアル 医学全史:魔術師からロボット手術まで.第1刷,株式会社 岩波書店,2020年01月24日,p. 186(図02).
HeLa の名前は子宮頸がんで亡くなった米国バージニア州の黒人女性 Henrietta Lacks(ヘンリエッタ・ラックス)(1920-1951)に由来する。
1951年にGeorge Otto Gey (ジョージ・オットー・ゲイ) (1899 -1970)により分離され、細胞株として確立された。
ヒトパピローマウイルス18型(HPV18)の遺伝子を含み、いくつかの染色体の数は正常より多い。
l NPO法人 VPDを知って、子どもを守ろうの会.“ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど)”.「VPDを知って、子どもを守ろう。」 ホームページ.子どものVPD.https://www.know-vpd.jp/vpdlist/hpv.htm,(参照2022年06月25日).
HPV感染症やHPVワクチンに関して、簡潔に記載している。
2.HPV感染症、主に子宮頸がん
l 宇津木久仁子 著.子宮がん・卵巣がんの治療法と術後の暮らし方:専門医と534人の体験者が伝える.第1刷,イカロス出版株式会社,2008年12月30日,240 p.
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの患者にとって、治療、特に外科手術後の生活こそが「本番」であることを思い知らされた。
通常、外科手術前の患者は「術後のこと」まで頭が回らない。また、医師はこうしたがんの治療に手一杯で、患者の生活の質の向上を軽視しがちである。
患者にとっては、術後の排便・排尿、ならびに、性的活動が大事である。
外科手術は患者の性的活動を低下させる。また、この種の問題は非常に繊細な問題である。
l 小田瑞恵 著.子宮頸がん.初版,株式会社 主婦の友社,2014年05月20日,128 p,(よくわかる最新医学).
子宮頸がんの基礎知識、検査から診断までの流れ、治療、ならびに、術後の生活と注意点を分かりやすく記載している。
l 加藤友康 監修.最新 子宮がん・卵巣がん治療:“納得して自分で決める”ための完全ガイド.第1刷.株式会社 主婦と生活社,2018年03月05日,159 p,(「あなたが選ぶ治療法」シリーズ).
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの基礎知識、検査法、治療法、術後の生活、および、再発・転移時の治療・緩和ケアを分かりやすく記載している。
また、セカンド・オピニオン、家族や職場への伝え方、および、精神腫瘍学に関しても言及している。
l 加藤友康 監修.手術以後のすごし方 子宮がん・卵巣がん そのあとに….初版.株式会社 保健同人社,2015年06月30日,160 p.
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの患者にとって、外科手術後の生活こそが「本番」であることを思い知らされた。また、生存のためとはいえ、子宮や卵巣を失うことは、女性にとって、重大な意味を持つことも思い知らされた。
上記の状態に陥った人を救うものは、家族などの周囲の人とのコミュニケーションであることを痛感する。
心療内科や精神科でのカウンセリングもがん治療においては重要である。
がんの外科手術を受けた人にとって重要なことは、外科手術前の日常に戻ることではなく、その後の「新たな日常」を受け入れることである。
リンパ節切除後のセルフケア(p.101-134)は目に通す方がよい。
l 金尾祐之 著,竹島信宏 著.がん研有明病院 婦人科 最新治療ガイド:子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がんと診断されたあなたへ.第1刷.株式会社 新興医学出版社,2020年07月31日,116 p.
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの基礎知識、検査法、および、治療法を簡潔に記載している。また、膣がん、外陰がん、および、子宮肉腫に関しても記載している。
がん研有明病院における早期子宮頸がんに対する腹腔鏡手術と開腹手術の治療成績、および、がん研有明病院で使用されている子宮頸がん、子宮体がん、または、卵巣がんに対する抗がん剤も記載している。
HPVワクチン、免疫チェックポイント阻害薬、遺伝性卵巣がん、および、ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬に関しても記載している。
l 瀧澤憲 著.「子宮がん」と言われたら…:お医者さんの話がよくわかるから安心できる.初版,株式会社 保健同人社,2013年02月20日,128 p.
子宮頸がんと子宮体がんの基礎知識、検査・診断、および、治療法を記載している。
l 竹島信宏 監修,的田眞紀 著,加藤一喜 著,馬屋原健司 著.新 こちら「がん研有明相談室」子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん患者さんへのドクターズアドバイス.第1版.株式会社 新興医学出版社,2019年11月15日,152 p.
Q&A形式で、子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの診断・検査、治療、ならびに、再発・転移時の治療などを記載している。
がん研有明病院で実施されている治療法などを紹介し、かつ、専門用語の意味を分かりやすく解説している。
子宮頸部円錐切除術には、術中・術後出血、術後の痛み、感染、頸管狭窄、ならびに、早産のリスクが伴う(p.23)こと、および、子宮体がんはタイプ1、2に分類される(p.62-63)は覚える方がよい。
「Room1 子宮頸がん相談室」(p.14-56)を読むと、HPVワクチン接種の重要性を痛感する。
l 認定NPO法人 キャンサーネットジャパン.“ティール&ホワイトリボン ホームページ”.http://www.sikyukeigan.net/,(参照2022年06月25日).
子宮頸がんの予防・検診・治療に対する正しい知識を伝えることを使命とする。
なお、ティールアンドホワイトリボン(teal and white Ribbon)は、子宮頸がん啓発活動のシンボルである(図03)。
l 株式会社 日経BP.“BMJ誌から CINに対する治療で妊娠時のリスクが変わる 円錐切除が深いほど早産や低出生時体重のリスク増加”.日経メディカル Online ホームページ.医師TOP.特設サイト.海外論文ピックアップ.海外論文ピックアップ BMJ誌より.2016年08月25日.https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/bmj/201608/547981.html,(参照2022年06月25日).
CINに対する治療法によって、早産やその他のリスクが上昇するだけでなく、子が低出生体重児となるリスクや周産期死亡にいたるリスクの上昇も関係していた。
CINに対する治療は、早期産のリスクを有意に上昇させていた。
治療は、早期産のリスクを有意に上昇させていた。
適用された治療法も早産リスクに有意に関係していた。
治療無し群と比較した早期産リスクは、複数回の治療を受けた女性で高かった。
円錐切除の深さも早産リスクと有意な関係を示した。
自然早産、早期破水、絨毛膜羊膜、低出生体重、新生児ICU入院、および、周産期死亡は、治療歴のある女性に有意に多かった。
低出生体重リスクは、コールド・ナイフ円錐切除では2.51(1.78-3.53)、ループ式電気切除は2.11(1.51-2.94)、あらゆるアブレーションでは1.36(1.19-1.55)、および、レーザー・アブレーションでは1.07(0.59-1.92)だった。
これらの結果から、CINと診断された女性は、ベースラインの早産リスクが高いが、治療によって早産リスクはさらに上昇する、また、妊娠の転帰不良のリスクは、円錐切除の深さが増すとともに上昇しており、アブレーションに比べ切除のほうが高リスクだったことが分かった。
l 藤原恵一 監修,廣田彰男 監修.イラストでわかる 子宮がん・卵巣がん:副作用・後遺症への対処と、退院後を支援する.第1刷,株式会社 法研,2013年09月25日,159 p,(手術後・退院後の安心シリーズ).
子宮頸がん、子宮体がん、および、卵巣がんの基礎知識、治療法、治療による副作用と退院後の後遺症への対処の仕方、リンパ浮腫の予防・対処、心の悩みを軽くする方法(例.正確な知識を学ぶ)、ならびに、日常生活を楽しく充実させる方法(例.良質な睡眠を得る、趣味を充実させる、子宮や卵巣がなくても問題の無い性生活を送る)を記載している。また、公的支援制度や傷病手当金の利用も記載している。
3.子宮頸がん以外のHPV感染症、特に中咽頭がん
l 落合慈之 監修.耳鼻咽喉科疾患ビジュアルブック.第2版第1刷,株式会社 学研メディカル秀潤社,2018年09月15日,368 p.
耳疾患、鼻疾患、ならびに、口腔・咽頭・喉頭疾患の誘因・原因、病態、症状・臨床所見、検査・診断、ならびに、治療が詳しくかつ分かりやすく記載されている。
また、上記の疾患の診断・検査、主要徴候、治療法(特に外科治療)、ならびに、周術期口腔ケアも詳しくかつ分かりやすく記載されている。
なお、がんに関する記述は少ない。
l 三谷浩樹 監修.口・のどのがん:舌がん、咽頭がん、喉頭がんの治し方.第1刷,株式会社 講談社,2020年10月27日,102 p,(健康ライブラリー イラスト版).
主に口やのどのがんの治療法が記載されている。また、口やのどのがんの治療では、治療後における食事、発音、および、発声のリハビリテーション、口のケア、ならびに、運動が重要であることも思い知らされる。
4.HPVワクチンの安全性
l MSD株式会社.“日本のHPVワクチン安全性報告”.MSD Connect ホームページ.MSDの主要製品.ガーダシル®/シルガード®9 トップページ.解説コラム.https://www.msdconnect.jp/products/gardasil-silgard9/column/hpvv-safty/,(参照2022年06月25日).
厚生労働省は、HPVワクチンの積極的な接種勧奨の一時差し控え後、研究班を立ち上げ、全国疫学調査を実施した。その結果、HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」が一定数存在したことが報告された。これらの結果により、HPVワクチン接種と接種後に生じた症状との因果関係は言及できないという結論が出た。
一方、名古屋スタディにおいて、名古屋市は、HPVワクチン接種に関する被害者団体の要請を受け、独自に大規模な疫学調査を実施した。この調査では、2015年8月12日時点で名古屋市に住民票のある、1994年4月2日〜2001年4月1日生まれの女性71,177人を対象として、接種の有無による24項目の「多様な症状」の割合を比較した。年齢調整された分析で、HPVワクチン接種と24項目の「多様な症状」との間に有意な関連性は見出されなかった。いくつかの症状による病院受診の増加が見られたがが、生物学的関連性に起因するものとは考えにくいと結論づけられた。
そして、HPVワクチン販売開始から平成26年11月までの被接種者における副反応疑い報告の追跡調査結果が発表された。副反応追跡調査では、HPVワクチンを接種した約338万人を対象とした。発症日および転帰等が把握できた1,739人のうち、回復した人、または通院不要である人は1,550人の89.1%、未回復の方は186人の10.7%(被接種者の0.005%)であった。未回復の186人の症状は、多い順に、頭痛66人、倦怠感58人、関節痛49人、接種部位以外の疼痛42人、筋肉痛35人、筋力低下34人であった。
l 厚生労働省.“HPVワクチンに関するQ&A”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.感染症・予防接種情報.予防接種情報.ヒトパピローマウイルス感染症(HPVワクチン).2022年03月31日.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_qa.html,(参照2022年06月25日).
子宮頸がん、検診、予防、予防ワクチン、積極的な勧奨の差し控え、ワクチン接種後の症状に対する医療体制、および、9価HPVワクチン(シルガード9)に関して、Q&A形式で記載している。
上記の件に疑問がある人は、最初にこのページに目を通すことをお勧めする。
l 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会.“HPVワクチンについて”.日本婦人科腫瘍学会 ホームページ.市民の皆さま.https://jsgo.or.jp/public/hpv_vaccine.html,(参照2022年06月25日).
HPVワクチンの日本における接種状況、有効性、および、安全性に関して、簡潔に記載している。
l 一般社団法人 ピーキャフ・PCAF.“HPVワクチンの安全性についてのQ&A”.生命のゆりかごを守る運動「シャイン・キャンペーン」 トップページ.https://www.pcaf.jp/vaccine02.html,(参照2022年06月25日).
HPVワクチンの安全性に関して、Q&A形式で簡潔かつ詳しく記載している。
また、MSDマニュアル 家庭版([14])、がん情報サイト([15])、および、がん情報サービス([16]:一般の方は「一般向け」を押してください)での関連記事も参照する価値がある。
最後に、HPVとHPV関連がんに関する最新記事を紹介する。
国立研究開発法人 国立がん研究センター.“母親の子宮頸がんが子どもに移行する現象を発見”.国立がん研究センター トップページ.広報活動.プレスリリース.2021年01月07日.https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/20210107/index.html,(参照2022年06月25日).
小児がん患者2名の肺がんが、母親の子宮頸がんの移行によることが明らかとなった。これらの患者では、生まれて初めて泣いたときに、母親の子宮頸がんのがん細胞が混じった羊水を肺に吸い込むことによって、母親の子宮頸がん細胞が肺に移行したものであることが分かった。
免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブが投与された小児がん患者1名では、がんが消失するなど劇的な効果を示した。母親由来のがん細胞は子の免疫細胞から異物と認識されやすく、母親から子どもに移行したがんに対しては、免疫チェックポイント阻害治療が有効な可能性がある。
母親の子宮頸がんの発症予防は、母親の子宮頸がんが子どもに移行する可能性の低減につながる可能性があり、子の健康のためにも母親の子宮頸がんの予防は重要と考えられる。
この記事から、HPVワクチン接種の積極的推奨を痛感するね。
執筆後期
本記事で、拙翻訳である「HPVワクチンの1回接種で発がん性感染症を予防できる可能性強まる」と「前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが低下」の紹介に留めようと思った。
しかし、校正すべき箇所が思った以上に多かったので、結構時間がかかった。
また、国立がん研究センターによる記事「母親の子宮頸がんが子どもに移行する現象を発見」で言及された小児がん患者2名の肺がんという症例は稀とはいえ、私を驚愕させた。
本記事が読者の皆様のお役に立つのなら、有難い。
参考文献
[1] MSD株式会社.“9価HPVワクチン「シルガード®9水性懸濁筋注シリンジ」の製造販売承認を取得”.MSD ホームページ.ニュースルーム.2020年07月21日.https://www.msd.co.jp/news/product-news-0721-2/,(参照2022年06月24日).
[2] MSD株式会社.“9価HPVワクチン「シルガード®9水性懸濁筋注シリンジ」新発売のお知らせ”.MSD ホームページ.ニュースルーム.2021年02月24日.https://www.msd.co.jp/news/product-news-0224/,(参照2022年06月24日).
[3] MSD株式会社.“4価HPVワクチン「ガーダシル®水性懸濁筋注シリンジ」男性への接種対象拡大と肛門がんの予防適応の追加を取得”.MSD ホームページ.ニュースルーム.2020年12月25日.https://www.msd.co.jp/news/product-news-1225/,(参照2022年06月24日).
[4] MSD株式会社.“ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に係る定期接種の 積極的な接種勧奨の差し控え終了を受けて MSD株式会社のステートメント”.MSD ホームページ.ニュースルーム.2021年11月26日.https://www.msd.co.jp/news/product-news-1126/,(参照2022年06月24日).
[5] MSD株式会社.“ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に係る定期接種の 積極的な接種勧奨の差し控え終了を受けて MSD株式会社のステートメント”.MSD ホームページ.ニュースルーム.ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に係る定期接種の 積極的な接種勧奨の差し控え終了を受けて MSD株式会社のステートメント.2021年11月26日.https://www.msd.co.jp/wp-content/uploads/sites/13/2021/12/announcement_6_20211126.pdf,(参照2022年06月24日).
[6] MSD株式会社.“HPVワクチンの供給体制に関するMSD株式会社のステートメント”.MSD ホームページ.お知らせ.2021年12月23日.https://www.msd.co.jp/wp-content/uploads/sites/13/2021/12/announcement_20211223.pdf,(参照2022年06月24日).
[7] MSD株式会社.“HPVワクチン訴訟に関するMSD株式会社のステートメント”.MSD ホームページ.お知らせ.2022年02月04日.https://www.msd.co.jp/wp-content/uploads/sites/13/2022/02/announcement_2_20220204.pdf,(参照2022年06月24日).
[8] 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“一般社団法人日本癌医療翻訳アソシエイツ トップページ”.http://jamt-cancer.org/,(参照2022年06月24日).
[9] 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“海外がん医療情報リファレンス トップページ”.http://www.cancerit.jp/,(参照2022年06月24日).
[10] たけっち.“HPVが引き起こすがんの推計92%はワクチンにより予防可能 https://cancerit.jp/63378.html 久々の拙翻訳です。#HPVワクチン の啓発のために、一肌脱ぎましたわ。実を言いますと、この翻訳は私が頼み込んで行ったものです。”.たけっち twitter.2019年09月04日.https://twitter.com/take_judge/status/1168974332560891907,(参照2022年06月25日).
[11] 国立研究開発法人 国立がん研究センター.“中咽頭がん 療養”.国立がん研究センター がん情報サービス ホームページ.病名から探す.中咽頭がん.2018年11月29日.https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/follow_up.html,(参照2022年06月25日).
[12] 国立研究開発法人 国立がん研究センター.“科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」更新版公開”.国立がん研究センター トップページ.広報活動.プレスリリース.2020年07月29日.https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0729/index.html,(参照2022年06月24日).
[13] 日本コンベンションサービス(JCS)株式会社.“4年に一度開催される「健康未来EXPO 2019」は、大盛況の中でフィナーレを迎えました”.JCS トップページ.ニュース.イベント&講演.2019年05月16日.https://www.convention.co.jp/news/detail/contents_type=15&id=541,(参照2021年03月29日).
[14] MSD株式会社.“検索結果 最後に変更された内容 HPV”.MSDマニュアル 家庭版 ホームページ.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/SearchResults?query=HPV,(参照2022年06月25日).
[15] 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構.“サイト内検索結果「HPV」”.がん情報サイト ホームページ.https://cancerinfo.tri-kobe.org/search/submit_search/158,(参照2022年06月25日).
[16] 国立研究開発法人 国立がん研究センター.“サイト内検索結果「HPV」”.がん情報サービス ホームページ.https://cse.google.com/cse?cx=002254996418007392494%3Avtcccywlq_y&ie=UTF-8&q=HPV,(参照2022年06月25日).