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チョコレートはどこから来たの?:地球研オープンハウス2024 訪問記 06
2024年11月03日、総合地球環境学研究所(地球研)は地球研オープンハウス2024(以下同イベント,[1])を開催した。私も一般客として参加した。
中央アフリカや東南アジアの熱帯地域では、多様な焼畑農法や小自作農がほとんどだった森林と農業のフロンティアが急速に均質的な景観の商業農地に転換されている。農業、休耕地、森林のモザイクからなるこれらのフロンティアは、複数の生態系サービスを提供し、社会的・文化的・生活的ニーズを支えており、先住民族コミュニティや地域住民が土地や資源に対する伝統的権利を有する地域でもある。土地利用の激化は、しばしば「持続可能な開発」や進歩として追求されるが、社会的にも生態系にも期待されるような成果をもたらさないことが多々ある。このような森林・農業フロンティアに住む先住民族や小規模農家は、様々な開発に関与し、適応し、抵抗してきたが、地元の権力者や国家、外部投資者の利益の代償として自分たちや自分たちの慣習上の利益が阻害されることに常に直面しており、こうした状況は森林や土地利用をめぐる政治、制度、権力構造の複雑さを反映している(図06.01)。
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野生動植物、家屋、および、商品作物などの写真が張り付けられている。
「チョコレートはどこから来たの?」で、FairFrontiersプロジェクト(以下同プロジェクト)は、学際的・超学際的な手法を用いて、「森林と農地の境界(フロンティア)は誰の権益で変化し、誰が利益を得て、誰が不利益を被るのか」や「生態系においても持続可能で、社会的に衡平な結果をもたらすことができる政策の選択肢にはどのようなものがあるのか」を問いかけていくことを伝えた(図06.02,[2])。
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図06.02.FairFrontiersプロジェクト。
チョコレートの原料であるカカオ豆の価格が高騰し、その国際相場は2024年04月に過去最高値をつけたことは、チョコレートメーカーなどの多くの企業にショックを与えている。その後、高騰は一服したものの、足元では西アフリカの供給懸念で再び上昇基調になりつつある。
その1つ目の理由は、カカオの不作である。世界の主要なカカオ生産国であるコートジボワールとガーナでは、天候不順によってカカオの収穫量は前年比3〜4割減少している。ガーナでは干ばつでカカオの木が枯れ、大雨による洪水で農地がダメージを受けた。地球温暖化による気候変動によって、コナカイガラムシ(Mealybug)とそれによって広がるカカオ新梢腫脹ウイルス病(cacao swollen shoot virus disease:CSSVD)や黒鞘菌(Phytophthora megakarya、エキビョウキンの一種)による損失が生じている。
現在、コナカイガラムシには殺虫剤の効果がなく、生産者ができることは感染した木を伐採したり、耐性のある木を繁殖させたりして病気の蔓延を防ぐことである。しかし、ガーナでは近年、2億5,400万本以上のカカオの木が失われているようである。
2つ目の理由は、生産国の財政状況の悪化である。2022年12月に、ガーナは事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った。ガーナでカカオを管理する政府の機関「ココボード」の活動が融資や運営資金不足によって一部滞ったという情報もある。国からの農家へのサポートがなければ、必要な肥料が届かない、カカオの病気をなおせないなどの問題が生じる([3],[4],[5])。
その一方で、株式会社 明治はメイジ・カカオ・サポートにより、カカオ豆の品質向上への技術支援、農家の生活向上、および、地域の環境保全・回復などの社会課題解決に取り組んでいる([6])。
パーム油は日常生活の中で様々な形で利用されている。その生産のためのアブラヤシ農園の開発が今、インドネシアの熱帯林(トラ、ゾウ、および、オランウータンなどの絶滅危惧種が多く生息する)を急激に減少させる大きな原因の1つになっている。この問題を解決するため、世界自然保護基金は現在、熱帯林環境の保全と、地域の暮らしや産業を両立させる「持続可能」なパーム油の生産に取り組んでいる。2018年07月には新たに、ボルネオ島の西カリマンタンで、小規模な農家と協力した取り組みが始まる([7])。
カカオやパーム油に関連する持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)を目指す活動を新たに学べたことに関して、同プロジェクトには深謝している([8],[9],[10])。
参考文献
[1] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“地球研オープンハウス2024”.総合地球環境学研究所 ホームページ.イベント.2024年度.2024年11月03日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/events/detail/230/,(参照2024年11月25日).
[2] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“FairFrontiersプロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.研究一覧.実践プログラム.土地利用革新のための知の集約プログラム.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/7/,(参照2024年11月25日).
[3] 株式会社 東洋経済新報社.“産地にいったい何が?「チョコレート危機」の実態 カカオ豆価格は1年で3倍、現地からも不安の声”.東洋経済ONLINE トップページ.ビジネス.食品.2024年04月07日.https://toyokeizai.net/articles/-/746128,(参照2024年11月26日).
[4] 株式会社 日本経済新聞社.“カカオ豆価格、再び最高値圏へ 伊藤忠商事山田氏”.日本経済新聞 トップページ.相場を読む.2024年11月21日.https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB129KP0S4A111C2000000/,(参照2024年11月26日).
[5] 株式会社 ユーザベース.“世界のチョコレートを脅かす壊滅的なウイルス”.NewsPicks ホームページ.2024年04月07日.https://newspicks.com/news/9910288/body/,(参照2024年11月26日).
[6] 明治ホールディングス株式会社.“メイジ・カカオ・サポート トップページ”.明治ホールディングス トップページ.サステナビリティ.https://www.meiji.com/sustainability/cocoa/,(参照2024年11月26日).
[7] 公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン).“小規模農家によるパーム油生産の改善支援活動”.WWFジャパン ホームページ.WWFの活動.持続可能(サステナブル)な社会を創る.2018年06月19日.https://www.wwf.or.jp/activities/activity/3646.html,(参照2024年11月28日).
[8] 外務省.“SDGsとは?”.JAPAN SDGs Action Platform ホームページ.https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html,(参照2024年11月28日).
[9] 株式会社 明治.“カカオはかみさまからのおくりもの 明治と、カカオと、SDGs”.明治 トップページ.食を知る・楽しむ.体験・おでかけ.https://www.meiji.co.jp/learned/cacaosdgs/,(参照2024年11月28日).
[10] 独立行政法人 日本貿易振興機構 アジア経済研究所.“パーム油にみるSDGsのためのサプライチェーン管理(インドネシア・マレーシア)《新興国発イノベーション》(道田悦代)”.アジア経済研究所 IDE-JETRO ホームページ.IDEスクエア.コラム.新興国発イノベーション.2020年02月.https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Column/ISQ000011/ISQ000011_003.html,(参照2024年11月28日).