研究に役立つ生きものたち:理化学研究所 大阪地区 一般公開2019から学んだこと その08
PDF版は「研究に役立つ生きものたち」を参照。
2019年11月23日、私は理化学研究所 大阪地区(以下大阪地区)を訪れ、一般客として理化学研究所大阪地区一般公開2019(以下同一般公開)に参加した([1])。
「07.研究に役立つ生きものたち」で、生命機能科学研究センター(以下同センター)は実験動物として、ゼブラフィッシュ(図01,02,[2])、および、コナミドリムシ(クラミドモナス)(図03,[3])を展示した。
2015年10月24日、理化学研究所 神戸キャンパス 一般公開([4])が開催されたが、その展示の1つである「生きものたちを見てみよう!」([5])で、多細胞システム形成研究センター(現.同センター)は、キンカチョウ(図04,[6])、ソメワケササクレヤモリ(図05,[7])、および、ショウジョウバエ(図06,[8])などを展示した。
本記事で、これらの動物を用いる理化学研究所内外の研究を以下に示す。
1.学校法人 京都産業大学.“mRNAの安定性は遺伝暗号コドンの組み合わせによって変化する。その原因は「リボソームの減速」”.京都産業大学 ホームページ.#プレスリリース(2022年).2022年01月18日.https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20220118_345_release_ka01.html,(参照2023年03月19日).
三嶋雄一郎 京都産業大学 准教授と木村成介 京都産業大学 教授、ならびに、理化学研究所らの研究グループは、PACE法(Parallel Analysis of Codon Effects)を使って、小型熱帯魚ゼブラフィッシュの胚において、コドンがmRNAの安定性にどのような影響を与えるかを測定した。そして、「コドンを解読するリボソームの減速が、mRNAの分解を引き起こす」ことを突き止めた。また、この「リボソームの減速」は一時的なものであり、タンパク質合成時のトラブルによって引き起こされる「リボソームの異常な渋滞」とは異なる現象であることも示した。
2.国立大学法人 京都大学.“葉緑体タンパク質が働く場所を変化させ光合成の能力を柔軟に維持する仕組みを発見”.京都大学 ホームページ.最新の研究成果を知る.2021年12月23日.https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-12-23-2,(参照2023年03月19日).
山野隆志 生命科学研究科准教授、豊川知華 同博士課程学生(研究当時)、および、福澤秀哉 同教授らの研究グループはクラミドモナスを用いて、培地中のCO2濃度を測定しながら様々な培養条件におけるタンパク質Low-CO2 inducible protein B(LCIB)の局在変化を調べた。そして、LCIBの局在変化には、LCIBと結合するタンパク質LCICが必要であること、また、光合成が起こらない暗所や薬剤添加により光合成を停止させても、CO2濃度が約7µMを境にLCIBの局在が切り替わることを発見した。LCIBは、CO2と重炭酸イオン(HCO3–)の交換反応を触媒する酵素の構造的特徴を持つ。そのため、LCIBがピレノイドの周囲に局在する場合はピレノイドから漏れ出たCO2を捕捉する働きを、そしてLCIBが葉緑体全体に広がっている場合は外環境からCO2を取り込む働きをすると考えられる。
3.学校法人 沖縄科学技術大学院大学学園.“親とのコミュニケーションが学習に大切なわけ‐幼鳥が親鳥の唄う歌を学習する脳のしくみを解明 ヒナ鳥が、親が実際に“唄っている歌”を特定し、これを学習するための脳内メカニズムが明らかになりました。”.沖縄科学技術大学院大学 ホームページ.研究.研究関連ニュース.2022年08月16日.https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2022/8/16/social-connection-drives-learning-bird-brain,(参照2023年03月19日).
杉山(矢崎)陽子 沖縄科学技術大学院大学(OIST) 臨界期の神経メカニズム研究ユニット 准教授らは、歌を学習しているキンカチョウのヒナの青斑核と高次聴覚野の神経活動を3~4日に渡って記録した。始めは親の歌を聴いて学習する前にスピーカーから親の歌を聴かせ、次に親と一緒にケージに入れて直接歌を聴いて学習させ、またその後にスピーカーから親の歌を聴かせ、ということを繰り返した。
青斑核の神経細胞も高次聴覚野の神経細胞も、どちらもスピーカーから流れる親の歌より、親が直接ヒナに向けて歌を唄った時により強い聴覚反応を示した。高次聴覚野の神経細胞は歌の音の特徴に反応していたが、青斑核の神経細胞は親が歌を唄うこと自体に反応しているようであった。
さらに、ヒナが親の歌を聴いている時に青斑核-高次聴覚野の神経回路の働きを抑制すると、ヒナはいくら親の歌を聴いても、これを上手に学習できないことも分かった。
4.国立研究開発法人 理化学研究所.“哺乳類と鳥類の左右非対称性メカニズムの乖離を説明 -爬虫類で解く初期発生の謎-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2020.2020年01月09日.https://www.riken.jp/press/2020/20200109_1/index.html,(参照2023年03月19日).
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター個体パターニング研究チームの濱田博司チームリーダー、梶川 絵理子テクニカルスタッフⅠ、分子配列比較解析チームの工樂樹洋チームリーダーらの共同研究グループは、理研でモデル生物としてのリソース化を進めてきた爬虫類ソメワケササクレヤモリとスッポンを用いて調べた結果、鳥類と同様に、爬虫類も繊毛に依存せずに左右非対称となる仕組みを持つことを突き止めた。また、爬虫類と鳥類とで共通した仕組みは、脊椎動物が本来2つ持っているNodal遺伝子の使い分けが影響し、羊膜類の進化の中で哺乳類を導いた系統から分岐した後、爬虫類と鳥類に至る系統で獲得されたことを示した。
5.国立研究開発法人 理化学研究所.“細胞死を引き起こすサヨナラ遺伝子-存在しないと考えられていた遺伝子の発見-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2023.2023年02月02日.https://www.riken.jp/press/2023/20230202_1/index.html,(参照2023年03月19日).
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター動的恒常性研究チームのユ・サガン チームリーダー(理研 開拓研究本部 Yoo生理遺伝学研究室 主任研究員)、および、池川優子 大学院生リサーチ・アソシエイトらの国際共同研究グループは、ショウジョウバエにおいて従来存在しないと考えられていたアポトーシス関連遺伝子を発見し、サヨナラ(sayonara)と命名した。サヨナラ遺伝子は、これまでの定説とは異なり、哺乳類や線虫と同じ仕組みのアポトーシス制御に関わる重要な遺伝子であることが分かった。
「07.研究に役立つ生きものたち」と「生きものたちを見てみよう!」から、これらの実験動物が生命科学だけでなく、医療などを通じて現代社会に暮らす人々も支えていることを痛感した。その意味で、私はこれら2つのイベントに感謝している。
参考文献
[1] 国立研究開発法人 理化学研究所 大阪地区.“大阪地区一般公開2019 開催報告”.理化学研究所 大阪地区 ホームページ.お知らせ.2019年12月25日.https://osaka.riken.jp/open2019/report.html,(参照2023年03月17日).
[2] 国立遺伝学研究所.“ゼブラフィッシュ”.遺伝学電子博物館 ホームページ.生物種の遺伝学.https://www.nig.ac.jp/museum/livingthing15.html,(参照2023年03月17日).
[3] 国立大学法人 京都大学 大学院生命科学研究科 統合生命科学専攻 微生物細胞機構学分野.“Research”.微生物細胞機構学分野 ホームページ.https://www.molecule.lif.kyoto-u.ac.jp/research.html,(参照2023年03月17日).
[4] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“理化学研究所 神戸キャンパス一般公開 ホームページ”.2015年10月24日.https://www.kobe.riken.jp/openhouse/15/index.html,(参照2023年03月18日).
[5] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“展示とイベント 西エリア CDB,QBiC”.理化学研究所 神戸キャンパス一般公開 ホームページ.第1地区.イベント.2015年10月24日.https://www.kobe.riken.jp/openhouse/15/event3.html,(参照2023年03月18日).
[6] 株式会社 生命誌研究館(JT生命誌研究館).“RESEARCH 言葉とさえずりをつなぐ脳のむすびつき 小鳥がさえずるとき脳内では何が起こっている?”.JT生命誌研究館 トップページ.季刊「生命誌」.季刊「生命誌」70号.https://www.brh.co.jp/publication/journal/070/research_2,(参照2023年03月19日).
[7] 国立研究開発法人 理化学研究所.“新たな実験動物としてのソメワケササクレヤモリ -哺乳類の比較対象に適した爬虫類の遺伝子をカタログ化-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2015.2015年11月20日.https://www.riken.jp/press/2015/20151120_3/index.html,(参照2023年03月19日).
[8] 株式会社 生命誌研究館(JT生命誌研究館).“BRH Scope ショウジョウバエを使うわけ”.JT生命誌研究館 トップページ.季刊「生命誌」.季刊「生命誌」22号.https://www.brh.co.jp/publication/journal/022/sc_1,(参照2023年03月19日).