NHKアカデミア (1)「山中伸弥(生命科学者)」視聴記録

NHKアカデミア (1)「山中伸弥(生命科学者)」(以下同番組、[1])を視聴したが、番組自体の内容は、以下の財務省のトップセミナーのそれと同様である。

財務省.“令和3年度職員トップセミナー”.財務省 トップページ.広報・報道.広報誌「ファイナンス」.令和3年10月号.2021年06月01日.https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202110/202110l.html,(参照2022年04月28日).

奈良先端科学技術大学院大学で、山中らは2006年にマウスで、2007年にはヒトで、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPSC)を作成した。

この件に関しては、「山中さん、万能細胞を作ることは難しい、と言っておられましたが、実は植物の世界では非常に簡単ですよ」という島本功 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 植物分子遺伝学研究室 教授の発言のおかげで、山中らは一気に研究を進展させることができた。

この件から、山中は異分野の研究者との意見の交流を重要視している。

ここで、同番組で紹介された事柄に関連する記事を以下に示す。

1.      アイティメディア 株式会社.“iPS細胞の生みの親・山中教授が講演 「研究者になったワケ」「ゲノム編集への危機感」など語る(1/2)”.ITmedia News ホームページ.科学・テクノロジー.2019年08月23日.https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1908/23/news068.html,(参照2022年04月27日).

山中伸弥(以下敬称略)にとって、父親の死や彼が診てきた重度疾患患者から、「彼・彼女らを治すには、(臨床ではなく)研究するしかない」と一念発起したことが研究者としての原点になっている。


2.      株式会社 致知出版社.“山中伸弥氏が恩師・マーレー先生に教わった人生の指針”.致知出版社 トップページ.人間力・仕事力を高めるWEB chichi.人生.2021年03月02日.https://www.chichi.co.jp/web/20190304_yamanaka_vw/#,(参照2022年04月27日).

ロバート・マーレー グラッドストーン研究所所長(当時)は山中に、「研究者として成功するための秘訣を教えてあげよう。それはVWだ」、「vision and work hardだ」、および、「Visionの「V」と、Work hardの「W」、この2つを守れば、研究者として、人間として大丈夫だ」と伝えた。なお、「vision」は「見通し、展望、構想」を、「work hard」は「一生懸命に[勤勉に・身を粉にして・忙しく・せっせと]働く、熱心に取り組む、頑張る、バリバリ働く、精勤する、精を出す、大変努力する、コツコツ勉強する、猛勉強をする、切磋琢磨する」を意味する。

山中はマーレーの発言から、自分のビジョンかつ原点である「父のような、いまの医学では治せない患者さんがたくさんいる。そういう人たちを治せるとしたら、それは研究です。だから研究者になった」ことを思い出した。


3.      独立行政法人 日本学術振興会.“新規癌抑制遺伝子NAT1が細胞分化に必須の遺伝子転写を制御する分子機構”. 科学研究費助成事業データベース KAKEN ホームページ. 2018年03月28日.https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12215132/,(参照2022年04月28日).

4.      国立大学法人 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA).“Nat1はマウスES細胞の分化を誘導する特定のタンパク質の翻訳を促進する”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2016年.研究活動.2016年12月27日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/161227-140000.html,(参照2022年04月28日).

5.      国立研究開発法人 科学技術振興機構.“iPS細胞の発見をもたらした「必要」と「偶然」 —ノーベル生理学・医学賞を授賞した研究の背景(山中伸弥 氏 / 京都大学iPS細胞研究所所長・教授)”. サイエンス ポータル ホームページ.深く掘り下げたい 記事一覧.ハイライト 記事一覧.2019年09月04日.https://scienceportal.jst.go.jp/explore/highlight/20190904_01/index.html,(参照2022年04月28日).

NAT1(Novel APOBEC1 target 1、別名:eIF4G2、p97、またはDAP5)は、山中が1997年に、RNA編集酵素であるAPOBEC1のターゲットとして世界に先駆けて同定した遺伝子である。NAT1は様々な遺伝子の翻訳開始に関わる因子eIF4G1のC末端側アミノ酸配列の2/3と相同性を持つ構造を持ち、哺乳類細胞において恒常的に発現している。山中らはこれまでに、NAT1はマウス胚発生の初期段階で必須な遺伝子であることを報告している。また、NAT1を欠損させたマウス胚性幹細胞(embryonic stem cell:ESC)のコロニー(集合体)は、通常の扁平な形態から、ドーム状形態へと変化し、分化刺激に対して抵抗性を示すことも報告している。この特徴は、ES細胞において分化シグナルであるERKとGSK3を阻害することにより誘導される、より未分化な細胞が均一に存在する基底状態 (ground state)のESC と類似していた。

杉山逸未研究員と山中らの研究グループは、NAT1を欠損させたESCは、ground stateと類似する性質をもつこと、NAT1とeIF4G1はそれぞれ特異的な翻訳複合体を形成すること、NAT1はMap3k3の翻訳量を促進していること、および、NAT1欠損ESCはMap3k3を強制発現させることで分化方向へ促進されることを突き止めた。

ESCは1981年に初めて米国と英国の研究者が人工的につくりだした細胞で、ネズミから受精卵を取り出し、実験室で長期に受精卵の性質を維持したまま(受精卵の一部の細胞を取り出して)での培養に成功した細胞である。

なお、ESCには受精卵と共通する2つの性質がある。1つ目は、1つの受精卵が数十兆個の細胞に増える力があることと同様に、ESCもほぼ無限に増やすことができることである。2つ目は、ESCは受精卵と同様に、神経の細胞や肝臓の細胞など、少なくとも理論上はあらゆる細胞に変化できることである。

山中は京都大学 CiRA所長退任後、NAT1の働きを詳しく研究している。


6.      国立大学法人 京都大学 CiRA.“iPSコホートと機械学習を用いたアルツハイマー病再構成 -CDiPテクノロジーによる無病社会に向けた孤発性高齢疾患の解読-”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2022年.研究活動.2022年02月18日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220218-010000.html,(参照2022年04月30日).

井上治久教授(CiRA増殖分化機構研究部門、理化学研究所(理研)革新知能統合研究センターiPS細胞連携医学的リスク回避チーム(上田修功チームリーダー)客員主管研究員、理研バイオリソース研究センターiPS創薬基盤開発チームチームリーダー)、近藤孝之特定拠点講師(CiRA増殖分化機構研究部門、理研革新知能統合研究センターiPS細胞連携医学的リスク回避チーム客員研究員)、矢田祐一郎特別研究員(理研バイオリソース研究センターiPS創薬基盤開発チーム、研究当時)、および、池内健教授(新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野)らの共同研究グループは、孤発性アルツハイマー病(AD)の患者102人から樹立したiPSCからなるiPSコホートを用いて、102人分の大脳皮質神経細胞を作製し、複雑な孤発性ADの病態を細胞種および病態ごとの表現型(病的形質)に分解し、その背景の遺伝子データからADの臨床リアルワールドデータを再構成する「Cellular dissection of polygenicity(CDiP)テクノロジー」を開発した。

CDiPテクノロジーにより、細胞型・病態の表現型ごとに解析された遺伝的素因を基にした機械学習を通じて、ADコホート研究(ADNIおよびJ-ADNI)の臨床上の病態を再現することに成功した。本研究成果は、孤発性AD病態の予測および回避への貢献が期待できる。


7.      国立大学法人 京都大学 CiRA.“アルツハイマー病病因分子の産生量に影響を与える土壌微生物叢由来代謝物の同定〜土壌微生物叢 vs アミロイドβから新世代の微生物創薬へ〜”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2022年.研究活動.2022年03月02日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220302-190000.html,(参照2022年04月30日).

近藤孝之特定拠点講師(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門特定拠点講師、理化学研究所(理研)バイオリソース研究センター(BRC)iPS創薬基盤開発チーム客員研究員、理研革新知能統合研究センター(AIP)iPS細胞連携医学的リスク回避チーム客員研究員)、井上治久教授(CiRA同部門教授、理研BRC同チームチームリーダー、理研AIP同チーム客員主管研究員)、日本マイクロバイオファーマ株式会社らの研究チームは、日本の土壌に由来する微生物叢から抽出・精製した代謝物ライブラリと、アルツハイマー病(AD)患者由来iPSCから調製した大脳皮質神経細胞を用いて、土壌微生物叢の代謝物がADの中心的な病因分子の1つであるアミロイドβ(Aβ)の産生動態に与える影響を評価し、Aβ産生動態を変化させる代謝物として、ミロテキウム属の真菌が産生するベルカリンAと、ストレプトマイセス属の細菌が産生するMer-A2026Aを同定した。このように、微生物由来の代謝物ライブラリとiPSC技術を組み合わせることで、従来直接的に評価することが困難だった微生物叢と脳神経系の関連性を検証し、将来的なADのリスク因子探索や新たな微生物創薬につなげることができる。


8.      国立大学法人 京都大学 CiRA.“家族性アルツハイマー病を対象とした治験開始について”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2020年.研究活動.2020年06月04日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/200604-120000.html,(参照2022年04月30日).

井上治久教授(京都大学CiRA、京都大学医学部附属病院流動プロジェクトプロジェクトリーダー併任)、冨本秀和教授(三重大学医学部附属病院)、および、坂野晴彦准教授(京都大学医学部附属病院)らは、「プレセニリン1遺伝子変異アルツハイマー病に対するTW-012R(ブロモクリプチン)の安全性と有効性を検討する二重盲検比較試験および非盲検継続投与試験注1,2」を計画してきた。

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届を提出し、この度、医師主導治験を開始する運びとなった。

なお、2020年06月05日に治験が開始された。

 

9.      学校法人 慶應義塾.“iPS創薬で難聴治療薬を治験へ-Pendred症候群の難聴・めまいに対するシロリムス少量療法-”.慶應義塾 ホームページ.プレスリリース一覧.プレスリリース.2018年04月24日.https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2018/4/24/28-43790/,(参照2022年04月30日).

慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室の小川郁教授と藤岡正人専任講師らは、生理学教室(岡野栄之教授)との共同研究で行ったiPSCを用いた研究の知見をもとに、Pendred症候群の難聴・めまいに対する低用量シロリムス療法の医師主導治験を行う。


10.   国立大学法人 京都大学 CiRA.“筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんを対象とした治験開始について”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2022年.研究活動.2022年04月15日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220415-130000.html,(参照2022年04月30日).

井上治久教授(京都大学CiRA)らは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象としたボスチニブ第2相医師主導治験を計画してきた。この度、井上治久教授(CiRA)、和泉唯信教授(徳島大学脳神経内科)、髙橋良輔教授(京都大学医学部附属病院 脳神経内科)、江川斉宏院内講師(京都大学医学部附属病院 脳神経内科)、西山和利教授(北里大学病院 脳神経内科)、永井真貴子診療准教授(北里大学病院 脳神経内科)、花島律子教授(鳥取大学医学部附属病院 脳神経内科)、渡辺保裕准教授(鳥取大学医学部附属病院 脳神経内科)、および、杉江和馬教授(奈良県立医科大学附属病院脳神経内科)の実施体制にて、医師主導治験(以下本治験)を開始した。なお、本治験は、多施設共同 ALS 患者の前向きコホートであるJapanese Consortium for Amyotrophic Lateral Sclerosis research(JaCALS)(愛知医科大学 祖父江元学長、中央事務局 熱田直樹特命准教授)と連携して実施している。


11.   国立大学法人 京都大学 CiRA.“進行性骨化性線維異形成症(FOP)に対する医師主導治験の開始について”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2017年.研究活動.2017年08月01日.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/170801-140000.html,(参照2022年04月30日).

戸口田淳也 京都大学医学部附属病院 流動プロジェクト プロジェクトリーダー(ウイルス・再生医科学研究所およびiPS細胞研究所兼務)を中心とするグループが、希少難病である進行性骨化性線維異形成症(FOP)に対して、京都大学医学部附属病院において医師主導治験(以下本治験)を開始することになったと08月01日に発表した。

本治験にて使用される薬の候補であるラパマイシン(一般名:シロリムス)は、iPS細胞研究所(CiRA)の戸口田教授および池谷准教授らのグループによる研究成果により、FOP患者から作製したiPSCを使って効果が期待できる候補物質として見出された。CiRAで行った患者由来のiPSCを使った創薬研究で治験が行われるのは初めてのことであった。


12.   公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団(CiRA_F).“当財団の意義”.京都大学iPS細胞研究財団 ホームページ.一般の方.https://www.cira-foundation.or.jp/j/public/significance.html,(参照2022年05月01日).

CiRA_Fは、再生医療用iPS細胞の製造や品質評価などの技術を産業界へと「橋渡し」する機能を担うため、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から一部機能を分離する形で2019年9月に設立された。2020年4月1日に内閣府からの公益認定を受けた後、正式に「公益財団法人」として活動を開始した。

大学などで十分に研究が進んだはずの技術やアイディアが、費用や設備など様々な課題を超えられず実用化されないままの状態に留まってしまうことを「死の谷」と表現することがある。大学など多くの研究機関は「研究」するための機関であり、実用化するための流れが整っていないのが通常ゆえ、世界中で死の谷が発生し課題となっています。

米国では、民間企業が巨額投資することで立ち上がったベンチャー企業が橋渡しの役目を担うため、実用化までの流れが比較的スムーズであった事例がいくつも存在する。日本ではこのような道筋が整っていないので、当財団がその橋渡しの役割を担い、製造に多大なコストと技術が必要となるiPSCを、非営利機関には無償で、営利機関には低価格で提供している。


13.   国立研究開発法人 日本医療研究開発機構.“AMEDシンポジウム2017開催レポート:招待講演② レギュラトリー・サイエンスに基づくイノベーションの活性化(3)”.日本医療研究開発機構 トップページ.広報活動.AMEDシンポジウム2017開催レポート.2017年10月16日.https://www.amed.go.jp/pr/amedsympo2017_06-03.html,(参照2022年05月01日).

2017年4月以降、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は薬事戦略相談を「レギュラトリー・サイエンス総合相談(RS総合相談)・戦略相談(RS戦略相談)」と名称を変えて、一般のベンチャー企業にも提供するようにした。研究・開発資金の不足、規制への理解不足、開発戦略の欠如など、創薬、創医療機器における「死の谷」(基礎研究から実用化への障壁)を乗り越えるために、PMDAが相談に応じている。レギュラトリー・サイエンス戦略相談によって、PMDAの薬事のことをよく知った人材がポイントを指導できる。しかも、多くのサービスが無料である。

 

上記の同番組で紹介された事柄に関連する記事は思った以上に、多かった。また、これらの記事はiPSCの勉強の役に立った。

なお、私は翻訳ボランティアとして、がん関連記事の翻訳に携わっている立場上、以下の記事を紹介する。

国立大学法人 東京大学医科学研究所 広報・図書・情報処理委員会.“がん細胞からiPS細胞が樹立できない分子メカニズムを解明 ~新しいがん分子標的薬の開発に道~”.東京大学医科学研究所 ホームページ.医科研について.広報・出版物.プレスリリース.2022年04月27日.https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00167.html,(参照2022年05月01日).

山田泰広教授(東京大学医科学研究所 附属システム疾患モデル研究センター 先進病態モデル研究分野)らの研究グループは、希少難治性がんである明細胞肉腫(Clear Cell Sarcoma:CCS)のマウスモデルを利用して、がん細胞で活性化している細胞内シグナル経路が、がん細胞のiPSC化を阻害していることを明らかにした。また、その性質を応用することで、それぞれのがんに対応した分子標的薬を同定するスクリーニング方法を開発した。このスクリーニング方法を利用して、mTOR経路がCCSの治療標的となり、mTOR阻害剤が分子標的薬となりうることを示した。加えて、p38MAPキナーゼ阻害剤がmTOR阻害剤によるCCS増殖抑制効果を増強させることを見出した。

本研究成果は、がん細胞からiPSCが樹立困難である分子メカニズムを明らかにしただけでなく、その知見をもとに開発した薬剤スクリーニング方法が、がん細胞の治療標的を同定する方法として有効であることを示した。いまだに多くのがん種で効果的な分子標的薬が同定されていない。本研究で開発したiPSC技術を応用したスクリーニング方法は、がんにおける分子標的薬の同定や新規治療戦略の開発に貢献できる可能性がある。本研究成果は2022年4月27日(日本時間)、米国科学雑誌「Cell Reports」に公表された。



参考文献

[1] 特殊法人 日本放送協会(NHK).“山中伸弥 生命科学者”.NHKラーニング ホームページ.NHKアカデミア.https://www2.nhk.or.jp/learning/academia/video/?das_id=D0024300101_00000,(参照2022年04月27日).

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