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カレーおかわり!:地球研オープンハウス2024 訪問記 09

2024年11月03日、総合地球環境学研究所(地球研)は地球研オープンハウス2024(以下同イベント,[1])を開催した。私も一般客として参加した。


窒素はタンパク質や核酸塩基などの生体分子に必須の元素である。地球大気の78%は窒素ガス(N2)である。窒素はどこにでもある物質であるが、人類を含む生物の大半は安定なN2を利用できず、N2以外の形の窒素(反応性窒素、reactive nitrogen:Nr)を必要とする。人類の食事はタンパク質として窒素を摂取する手段でもある。限られた土地から多くの食料を得るには肥料となるNrが必要である。20世紀初期に実現したアンモニア合成技術(ハーバ ー・ボッシュ法)は、望むだけのNrを手に入れることを可能にした。合成されたNrは肥料に加えて工業原料にも用いられ、 人類に大きな便益を与えてきた。一方、人類が利用するNr の多くが反応性を有したまま環境へと排出されている。特に、食料システムの窒素利用効率(Nitrogen Use Efficiency:NUE)が低いことが大きな原因である。食料生産のNUEが低いことに加え、食品ロスやNUEが相対的に低い畜産物を好むといった消費面の課題もある。 化石燃料などの燃焼もNrの排出源となる。環境へのNr排出の結果、地球温暖化、成層圏オゾン破壊、大気汚染、水質汚染、富栄養化、および、酸性化などの多様な窒素汚染が生じ、人と自然の健康に被害を及ぼしている。窒素利用の便益が窒素汚染の脅威を伴うトレードオフを「窒素問題」と言う。人類の将来可能性が健全であるように、窒素問題を解決に導き、将来世代の持続可能な窒素利用を実現する統合知を得るために、Sustai-N-able(SusN)プロジェクト(以下同プロジェクト)が発足した(図09.01,[2],[3])。

(a)「プロジェクト リーダーに聞いてみました」。
(b)「Sustai-N-able(SusN)プロジェクトからの問い」。
図09.01.Sustai-N-able(SusN)プロジェクト。


同プロジェクトは、窒素問題の解決に向けて以下の3 つの画期的手法の開発を目指す。

1.窒素利用と窒素汚染の因果関係の定量解析を可能とするツールの開発。

2.他の地球環境問題と比べて十分に知られていない窒素問題の認識の浸透。

3.持続可能な窒素利用を実現するための将来設計の実践。

2023年度のフル リサーチ 1 では、自然・人間社会の窒素循環に関する解析やレビューを出版し、窒素問題の認識浸透のために制作したリーフレットも用いての多数のアウトリーチ活動を行い、国内外の窒素管理に関する活動の支援を積極的に行った(図09.02,2)。

図09.02.向かって左から、「みなさん、こんにちは!地球研の研究者の林健太郎です!」と窒素問題を伝えるイラスト(作画:中林まどか)。


窒素フットプリントは、人間活動により環境中に排出されるNrの総量で、窒素負荷に対する消費者影響の指標等として利用できる。日本の消費者の食生活改善(食品ロス・食べ過ぎの削減、1970年の和食への回帰)により、食の窒素フットプリントを46%削減できる(図09.03,[4])。

図09.03.「窒素フットプリントとは?」。


「カレーおかわり!」で、同プロジェクトはイベント「君のカレーはどんなカレー?~その窒素フットプリントを計ってみよう~」を催した。このイベントは、参加者にカレー1鍋分の合計金額と窒素フットプリントを知ってもらうものである。

このイベントで最初に実施された福引で、2,000円分の商品券を貰った(図09.04)。

図09.04.「君のカレーはどんなカレー?~その窒素フットプリントを計ってみよう~」と2,000円分の商品券。


次に、合計900円分のチキン カレーの材料を買った。このカレーの1鍋分のカレーの合計窒素フットプリントは18.9 g窒素で、1皿分のカレーの合計窒素フットプリントは2.4 g窒素であった。

家畜、乳製品、および、エビの窒素フットプリントは多いことがよく分かる(図09.05)。余談だが、私は基本的に、節約家である。

図09.05.Super Sustai-N-able Market。


環境中に過剰に存在するNrは、硝酸態窒素による地下水汚染、湖沼の富栄養化、窒素酸化物(NOx)等による大気汚染、地球温暖化・オゾン層破壊の原因物質である一酸化二窒素(N2O)の排出、土壌の酸性化、生物多様性の損失など、地球環境に対して様々な負の影響を及ぼす原因となる([5])。


一方、『Focus NEDO第84号』で、佐野亨 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)環境部主任研究員は「現状は、排ガスや廃水の反応性窒素を、エネルギーをかけて回収し、無害化して放出しています。脱硝のためのアンモニア(NH3)製造には大量のエネルギーを必要とし、無害化のためにエネルギーを投じてきたことになります。これをゲームチェンジし、極力エネルギーをかけずに無害化し、資源にすることを目指しています」と説明した。

NEDOによる2021年07月まで取り組んできた窒素循環に関連するテーマは2つあり、1つ目は産業廃水からのNrの高濃縮・資源化技術で、2つ目は燃焼器から排出されるNOxからのNH3創出プロセス開発である。

1つ目に関しては、廃水中窒素化合物のほぼすべてを省エネルギーでアンモニア態窒素に変換、N2Oの発生を抑え、資源化するための研究開発に取り組み、効率よく処理する微生物の候補を絞り込んだ。また、汚泥資源化のための破砕・混合技術を検討し、汚泥を56%減容化することに成功している。

2つ目の排ガス中のNOxに関しては、触媒を使って、省エネルギーで有用資源のNH3に変換する研究を行ってきた。1段階で直接NH3に変換するNOx-to-Ammonia(NTA)法と、2段階でNH3にする方法の2つがあり、いずれも良い結果を得ている([6])。


私はNr削減・資源化の進展に関して大幅に期待している。



参考文献

[1] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“地球研オープンハウス2024”.総合地球環境学研究所 ホームページ.イベント.2024年度.2024年11月03日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/events/detail/230/,(参照2024年11月30日).

[2] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“Sustai-N-able(SusN)プロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.研究一覧.実践プログラム.地球人間システムの共創プログラム.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/9/,(参照2024年11月30日).

[3] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 Sustai-N-ableプロジェクト.“Sustai-N-ableプロジェクト ホームページ”.https://www.chikyu.ac.jp/Sustai-N-able/index.html,(参照2024年11月30日).

[4] 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構).“窒素フットプリントに基づく日本の消費者の食生活改善による窒素負荷削減ポテンシャル”.農研機構 ホームページ.研究情報.研究成果.成果情報.農業環境変動研究センター 2018年の成果情報.https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/niaes/2018/niaes18_s15.html,(参照2024年11月30日).

[5] 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構).“(研究成果) 食料生産~消費がもたらす窒素負荷の長期変遷 - 窒素フットプリントから考える食の選択 -”.農研機構 ホームページ.プレスリリース・広報.プレスリリース.農業環境研究部門.2019年09月18日.https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/132353.html,(参照2024年11月30日).

[6] 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO).“反応性窒素の無害化から資源化へゲームチェンジを目指す”.NEDO WebMagazine トップページ.Focus NEDO.Focus NEDO第84号.https://webmagazine.nedo.go.jp/pr-magazine/focusnedo84/sp1-4.html,(参照2024年11月30日).

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