「京都大学 宇治キャンパス公開2022」見聞録04:23.放射線で見る
2022年10月23日、私は「京都大学 宇治キャンパス公開2022」(以下「宇治キャンパス公開2022」、[1])に一般客として参加した。
特性X線は、各元素に固有な波長の線スペクトルを示すX線である。内殻電離で電子が放出された後、空孔のできた軌道に外側の軌道から電子が落ち込み、軌道電子のエネルギー準位の差に相当するエネルギーが特性X線として放出される。K殻の空孔がL殻またはM殻の電子によって満たされた場合、それぞれKα−X線、Kβ−X線、L殻の空孔が満たされた場合、Lα−X線と呼ばれる(図23.01,[2])。
「宇治キャンパス公開2022」内の「23.放射線で見る」で、量子理工学教育研究センターは、X線を測定する半導体検出器(図23.02)とビームラインの様子(図23.03,[3])を紹介することで、粒子線励起X線放出(particle induced X‑ray emission:PIXE)法を紹介した。
PIXE法は、加速器で発生させたイオン(主としてプロトン)で励起される元素の特性X線を測定して分析を行う方法である。この分析法の特徴として、高感度な多元素同時分析法であること、非破壊分析が可能であること、比較的分析時間が短いことが挙げられる。様々な形態を取る環境試料を数多く分析する必要のある環境汚染研究において、これらの特徴を有するPIXE法は有利である。簡便な前処理で短時間に多くの元素分析が行えることは、時間的な変化を追跡したり、地域差を詳細に調べたりする環境モニタリングに最適な手法である。電子やX線励起による蛍光X線分析に比べ、X線スペクトルのバックグラウンドが低いことや、通常用いるSi(Li)検出器では、軽元素からのX線を検出しないことから、生物試料を構成する主要元素であるC、H、N、O等の軽元素マトリクス中の微量元素分析に最も適している。近年、励起源であるイオンビームをミクロンレベルに絞って照射を行えるようになり、微少領域の局所分析も可能になった(図23.04,図23.05,[4])。
PIXE法を用いて、100円貨(白銅)を調べたところ、銅とニッケル含むことが示された(図23.06,[5])。
PIXE法は各種材料の微量元素を非破壊的に分析することができる。それゆえ、医学、生物学、環境科学、農学、さらには文化財や遺跡に関連する人文科学など、様々な研究分野に利用されている。
1. 1回の測定で試料中に含まれるNa以上の重元素を同時に定量分析できる。
2. 数十µgの少量の試料でも分析できる.
3. 大気中にビームを取り出すと液体の試料などを直接に分析できる.
4. 1 µm径程度のスポットビームをスキャニング照射することによって,微量元素の試料中での空間分布をµmのスケールで測定し、各種元素の2次元濃度分布(元素マッピング)が得られる(マイクロPIXE分析)。
PIXE法を教えてくれたことに関して、量子理工学教育研究センターには深謝している。
参考文献
[1] 国立大学法人 京都大学.“京都大学 宇治キャンパス公開2022 ホームページ”.https://www.jimu.uji.kyoto-u.ac.jp/open-campus/2022/index.html,(参照2024年08月17日).
[2] 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構.“特性X線 とくせいえっくすせん”.原子力百科事典 ATOMICA ホームページ.原子力用語辞書.た~と.と.1998年02月.https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_1117.html,(参照2024年08月17日).
[3] 国立大学法人 京都大学 大学院工学研究科附属 量子理工学教育研究センター.“加速器の紹介”.量子理工学教育研究センター ホームページ.粒子線加速器.https://www.qsec.kyoto-u.ac.jp/accelerators.html,(参照2024年08月17日).
[4] 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構.“PIXE ぴくせ”.原子力百科事典 ATOMICA ホームページ.原子力用語辞書.P~T.P.2006年11月.https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_2365.html,(参照2024年08月17日).
[5] 認可法人 日本銀行.“100円貨(白銅)”.認可法人 日本銀行 ホームページ.銀行券/国庫・国債.日本のお金.現在発行されている銀行券・貨幣.https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/note/valid/issue.htm#p06,(参照2024年08月17日).
[6] 国立大学法人 京都大学 大学院工学研究科附属 量子理工学教育研究センター.“分析サービスの開始”.量子理工学教育研究センター ホームページ.分析サービス.https://www.qsec.kyoto-u.ac.jp/analysis.html,(参照2024年08月17日).
[7] 国立大学法人 東北大学 大学院 工学研究科 量子エネルギー工学専攻 加速器放射線工学講座 核放射線物理工学分野 寺川研究室.“PIXE研究”.寺川研究室 ホームページ.RESEARCH.https://anp.raris.tohoku.ac.jp/pixe/,(参照2024年08月17日).