「株式会社ニデック 未来にeyeを」レポート:健康未来EXPO 2019から学んだこと その02
詳しくは「人工網膜システム.pdf」を参照してください。
2019年04月05日、私は一般客として健康未来EXPO 2019(以下EXPO 2019)に参加し、ブース「株式会社ニデック 未来にeyeを」(以下同ブース)を見学した(1)。
株式会社ニデック(以下ニデック)は1971年07月07日設立の、愛知県蒲郡市に本社を置く眼科医向け手術装置/検査診断装置/電子カルテ・診療支援・ファイリングシステム/眼内レンズの設計、開発、製造、販売、修理、賃貸、および、輸出入企業である(2)。
ニデックは同ブースで、人工網膜システム(デモンストレーション機)を展示した(図01)。
図01.株式会社ニデックの人工網膜システム(デモンストレーション機)。
撮影日:2019年04月05日。
人工網膜は、人工視覚の一種である。
人工視覚(Visual Prosthesis)は視覚神経への電気刺激によって失明者の視覚を再建する工学システムである。人工眼(Artificial Vision)とも言われる。
眼球や脳の視覚皮質へ電気刺激を行うと光を感じることが古くから知られているが(電気的閃光)、人工視覚はこの原理に、基づいている。実例として、網膜や脳の視覚皮質のある1点を電気刺激すると1つの点が見え、複数箇所を刺激すると複数の点を見ることができる。従って、十分な刺激点があれば物の形がわかるようになり、そして、将来はより高精細な視覚情報を再建できると考えられている(3)。
生体内は電解質溶液で満たされているため、細胞の近くに電極を置くことで細胞と電極が離れていても電気信号が細胞に伝わる。それ故、現在では、電極を網膜や脳の神経細胞近傍に置き、神経細胞を電気刺激する方法が採用されている。しかし、この方法は細胞膜の外側から電気刺激を行うため、より多くのエネルギーが必要である。これが、人工視覚を実用化する際の最大の障壁になっている。この問題を解決するために東京工業大学 工学院機械系 ライフエンジニアリングコース 八木研究室は、再生医学と微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems:MEMS)技術(4)を融合した「バイオハイブリッド型人工視覚」の研究開発に取り組んでいる(3)。
人工視覚は電気刺激する場所の違いにより、脳刺激型、視神経刺激型、網膜刺激型(日本では人工網膜とも言われる)、バイオハイブリッド型、および、化学刺激型の5種類の人工視覚が各国で研究開発されている(3,5,6,7 )。
ニデックは網膜刺激型人工視覚の一種である脈絡膜上経網膜刺激(Suprachoroidal Transretinal Stimulation:STS)型のものを開発している。STS型は網膜上刺激型(網膜上から網膜を電極で刺激する)と網膜下刺激型(網膜の下側に電極アレイが設置される)の課題を軽減する第3の方式として開発された、ニデックらによる日本の人工視覚プロジェクトが考案した日本独自の型である。STS型は、強膜に刺激電極アレイを設置し、硝子体内に帰還電極を置き、これらの2つを使って、外側から内側方向に網膜を貫通するように電気刺激を行う。他の方式と比較して、組織への安全性や電気刺激の信頼性が高く、比較的丈夫な組織へのインプラント手術が可能といった利点がある。他の国々でも、こうした網膜を貫通させる方式の電気刺激に関する研究が始まっている(図01,5)。
人工視覚、特にニデックの人工網膜システムの使用時に回復される視覚は、生来の視覚とはかなり異なっている。具体的には、視覚は49画素のものとして認識され(図02)、かつ、単純な電光掲示板と同様の複数の光の点で構成される簡素で粗い輪郭の画像として認識される可能性がある(図03,8)。
図02.人工網膜システムの視覚。
49(=7×7)画素の人工網膜システムの視覚が示される。
図03.人工視覚を使って「N」という文字を見た時の、脳内の画像イメージ。
参考文献8から引用。
ニデックによると、こうした粗い画像でも、各種の試験やシミュレーションの研究により、「大きな文字が読める」や「障害物があることがわかる」といった行動が可能になると予測されている。たとえ生来の視覚と同等ではなくても、人工視覚による視覚の回復により、患者の行動範囲が広がり、かつ、1人でできる動作が増えるとすれば、新規の医療機器としての人工視覚の開発と実用化には、大きな意義があるとのことである(8)。
実際、ニデックと国立大学法人 大阪大学大学院医学系研究科 不二門尚教授らによる「進行した網膜変性症に対するSTS型人工網膜装置の医師主導治験」(以下同治験)が、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)が公募した平成28年度「医療機器開発推進研究事業」に係る公募(1次公募)に採択された(9)。
一方、岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科(医学部)眼科学分野と自然科学研究科(工学部)高分子材料学研究室も独自の人工網膜を開発している(10)。
私は同ブースを訪れたことで、以下の様に確信した。ニデックなどの企業や大阪大学などの研究機関などが1日でも早く人工視覚を普及させることで、失明疾患患者が光を取り戻すことを私は期待する。
参考文献
1 日本コンベンションサービス(JCS)株式会社.“4年に一度開催される「健康未来EXPO 2019」は、大盛況の中でフィナーレを迎えました”.JCS トップページ.ニュース.イベント&講演.2019年05月16日.https://www.convention.co.jp/news/detail/contents_type=15&id=541,(参照2019年10月14日).
2 株式会社ニデック.“会社概要”.ニデック ホームページ.企業情報.https://www.nidek.co.jp/company/outline.html,(参照2019年10月14日).
3 東京工業大学 工学院機械系 ライフエンジニアリングコース 八木研究室.“人工視覚プロジェクト ホームページ”.八木研究室 トップページ.研究.神経インタフェース・細胞工学.http://www.io.mei.titech.ac.jp/research/retina/index-j.html,(参照2019年10月14日).
4 株式会社メムス・コア.“MEMSとは?”.メムス・コア トップページ.http://www.mems-core.com/service/mems.html,(参照2019年10月14日).
5 株式会社ニデック.“人工視覚の種類”.ニデック ホームページ.企業情報.人工視覚の研究開発.人工視覚って何?.https://www.nidek.co.jp/company/artificial_sight/about_artificial_sight/type.html,(参照2019年10月14日).
6 東京工業大学 工学院機械系 ライフエンジニアリングコース 八木研究室.“バイオハイブリッド型人工眼の研究概要”.八木研究室 トップページ.研究.神経インタフェース・細胞工学.人工視覚プロジェクト ホームページ.http://www.io.mei.titech.ac.jp/research/retina/abst-j.html,(参照2019年10月14日).
7 国立研究開発法人 科学技術振興機構.“視覚神経刺激による視覚機能代行―人工眼 八木 透”.J-STAGE トップページ.BME.18巻(2004) 4号.書誌.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmbe1987/18/4/18_4_36/_article/-char/ja,(参照2019年10月14日).
8 株式会社ニデック.“人工視覚のポイントを押さえよう”.ニデック ホームページ.企業情報.人工視覚の研究開発.人工視覚って何?.https://www.nidek.co.jp/company/artificial_sight/about_artificial_sight/point.html,(参照2019年10月15日).
9 株式会社ニデック.“「進行した網膜変性症に対するSTS型人工網膜装置の医師主導治験」が AMED公募 平成28年度「医療機器開発推進研究事業」に採択”.ニデック ホームページ.ニュース・イベント.ニュース.2016年03月16日.https://www.nidek.co.jp/news-event/news/entry-2497.html,(参照2019年10月14日).
10 国立大学法人 岡山大学大学院 自然科学研究科 物質生命工学専攻 高分子材料科学研究室.“岡山大学方式人工網膜 ホームページ”.高分子材料科学研究室 ホームページ.http://achem.okayama-u.ac.jp/polymer/hyoushi.html,(参照2019年10月14日).
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