破骨細胞と骨修飾薬と顎骨壊死:歯の病気は確り治していこう
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本記事には一般的な知識についての記載はありますが、利用者の方の個々の問題に対して医学的またはその他のアドバイスを提供するものではありません。私は本記事の内容の正確性の確保に努めておりますが、本記事の利用によって、利用者の方に何らかの損害が生じた場合でも、一切の責任を負うものではありません。
私は一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(以下JAMT:ジャムティ)([1])海外がん医療情報リファレンス([2])の一員として、「Jaw Problems Linked to Bone-Modifying Drugs Not as Rare as Once Thought」([3])の翻訳記事「デノスマブなどの骨修飾薬に起因する顎骨壊死はそれほど稀ではない」([4])を発表した。
内容は以下の通りである。
がんが骨転移した場合、患者は疼痛や骨折などの骨関連事象を緩和する骨修飾薬(骨吸収抑制薬)として、デノスマブ(Xgeva、日本での販売名:ランマーク、抗RANKL抗体製剤の一種)やビスホスホネート製剤(例.ゾレドロン酸)を投与されることが多い。しかし、こうした薬剤によって時として顎骨の一部が壊死することがある(これが顎骨壊死)。
Christine Brunner医師(インスブルック医科大学、オーストリア共和国インスブルック市)らは2000年から2020年までのオーストリアのある州に住む乳がん患者のデータベースを調査した結果、転移乳がん患者の約9%(639人中56人)が骨修飾薬(骨吸収抑制薬)投与後に顎骨壊死を発症したことを突き止めた。
しかも、デノスマブ投与患者はビスホスホネート投与患者と比較して、顎骨壊死発症率が高かった(12%対3%)。ビスホスホネート製剤投与後にデノスマブを投与された患者の顎骨壊死発症率が最も高かった(16%)。但し、両方の薬剤を投与されていた患者は非常に少なく、ビスホスホネート製剤投与から始まり、2010年にデノスマブが標準治療となった後にデノスマブに切り替えた可能性が高かった。
本研究の限界の1つは、患者が治療を開始する前に歯科検診を受けていなかったことである。そのため、治療開始前に、歯周病や歯の感染症(顎骨壊死の2大危険要因)に罹っていた患者の人数は不明である。
もし多数の患者に歯科基礎疾患があったのであれば、こうした疾患が顎骨壊死発症率を上昇させた可能性がある。
本記事で、破骨細胞、骨修飾薬、および、顎骨壊死に関する記事を紹介する。
01.破骨細胞
01.01.学校法人 昭和大学 薬理科学研究センター 歯学部.“研究内容”.昭和大学 薬理科学研究センター 歯学部 歯科薬理学講座 トップページ.https://www10.showa-u.ac.jp/~dpharmc/application.html,(参照2024年10月14日).
歯科薬理学講座は破骨細胞を研究対象にしているが、その役割、ならびに、その分化メカニズムの解明、その骨吸収装置の解明、および、骨吸収抑制剤の物理化学的・薬理学的・生物学的作用の解明を紹介している。
01.02.国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED).“骨を壊す「破骨細胞」がつくられる仕組みを1細胞解像度で解明―骨粗鬆症やリウマチなど骨破壊性疾患の新たな治療法開発に期待―”.AMED トップページ.ニュース.プレスリリース.2020年12月08日.https://www.amed.go.jp/news/release_20201208-04.html,(参照2024年10月14日).
l 破骨細胞は、古い骨を吸収することで骨の新陳代謝を担う重要な細胞であるが、その過剰な活性化は骨粗鬆症や関節リウマチ、歯周病、がん骨転移など、様々な疾患に伴う骨破壊の原因となる。今回、東京大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻免疫学分野の塚崎雅之特任助教と高柳広教授らの研究グループは、世界で初めて、破骨細胞が形成される仕組みを1細胞レベルで解き明かすことに成功した。
l 破骨細胞の形成過程をシングルセル解析によって調べることで、ひとつひとつの細胞の全遺伝子発現情報を取得し、機械学習アルゴリズムにより破骨細胞の分化経路と、それに伴う生物学的イベントおよび分子プロファイルの挙動を予測した。本予測が正しいことを、複数の遺伝子改変マウスを作成することにより証明した。
l 本研究により、破骨細胞がつくられる仕組みの詳細がこれまでにない解像度で明らかになり、破骨細胞を抑制する薬剤を開発する上で重要となる新たな分子標的が同定された。本成果は、破骨細胞が関与する様々な疾患の原因解明に資するのみならず、骨の破壊を防ぎ修復を促す新しい治療法の確立につながると期待される。
01.03.国立大学法人 東京科学大学.“「細胞内の過剰なコレステロールを低減することで破骨細胞分化が抑制される仕組みを解明」【田村篤志 准教授】”.東京科学大学(旧東京医科歯科大学) ホームページ.プレスリリース.2022年08月04日.https://www.tmd.ac.jp/press-release/20220804-1/,(参照2024年10月14日).
細胞内のコレステロールを選択的に包接するように設計されたβ-シクロデキストリン(β-cyclodextrin(CD))含有ポリロタキサンが、破骨細胞分化の過程で生じるコレステロール蓄積を低減させ、破骨細胞の分化を抑制することが発見された。一方、β-CD単体ではコレステロールの蓄積を抑えることができず、破骨細胞分化に影響しなかったことより、β-CDを超分子化したポリロタキサンが有効であることが明らかになった。
本研究は、ポリロタキサンにより細胞内の過剰なコレステロールを低減させることが破骨細胞分化を抑制する新たな方法になることを示唆しており、骨粗鬆症治療への応用が期待される。
02.骨修飾薬
02.01.静岡県立静岡がんセンター,大鵬薬品工業株式会社.“治療法”.SURVIVORSHIP JP トップページ.がんの骨への転移と日常生活.骨転移の治療法.https://survivorship.jp/bone-metastasis/treatment/02/index.html,(参照2024年10月14日).
骨修飾薬であるビスホスホネート製剤と抗RANKL抗体製剤、ならびに、その作用と副作用が紹介されている。
02.02.株式会社 日経BP.“ビスホスホネート製剤(悪性腫瘍関連)の解説”.日経メディカル ホームページ.医師TOP.処方薬事典TOP.がん治療関連薬.https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/5823eb6f2899a30a068b456a.html,(参照2024年10月14日).
悪性腫瘍関連ビスホスホネート製剤に関して詳しく解説している。
02.03.株式会社 日経BP.“デノスマブ製剤の解説”.日経メディカル ホームページ.医師TOP.処方薬事典TOP.がん治療関連薬.抗がん薬.https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/56569c975595b38010796633.html,(参照2024年10月14日).
デノスマブ製剤に関して詳しく解説している。
03.顎骨壊死
03.01.MSD株式会社.“顎骨壊死(ONJ)”.MSDマニュアル 家庭版 ホームページ.08.骨、関節、筋肉の病気.骨壊死.2021年 09月.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8%E3%80%81%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%80%81%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%AA%A8%E5%A3%8A%E6%AD%BB/%E9%A1%8E%E9%AA%A8%E5%A3%8A%E6%AD%BB,(参照2024年10月14日).
顎骨壊死に関する基礎知識が分かりやすくかつ詳しく記載されている。
03.02.国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター.“骨吸収抑制薬と顎骨壊死”.国立長寿医療研究センター ホームページ.病院.医療関係者の方へ.病院レター.病院レター第80号 2019年05月20日.https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/080.html,(参照2024年10月14日).
骨修飾薬と顎骨壊死に関して詳細に解説している。
03.03.医療法人社団 燦陽会 下北沢駅前歯科クリニック.“顎骨壊死の予防のために”.下北沢駅前歯科クリニック.ホームページ.BLOG.2023年11月.2023年11月30日.https://shimokita-dental.jp/2023/11/30/%E9%A1%8E%E9%AA%A8%E5%A3%8A%E6%AD%BB%E3%81%AE%E4%BA%88%E9%98%B2%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB/,(参照2024年10月14日).
薬剤関連顎骨壊死に関して分かりやすく記載されている。
03.04.国立大学法人 長崎大学.“これまでの治療法を180度転換させるデータを発表 ~顎骨壊死の発症予防治療において歯学部の研究グループが明らかに~”.長崎大学 ホームページ.Research.2021年度.2021年10月19日.https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science246.html,(参照2024年10月14日).
長崎大学歯学部口腔保健学の五月女さき子准教授らの研究グループは、抜歯を避けることが一般的とされる顎骨壊死予防治療において、実際には抜歯そのものは顎骨壊死のリスク因子にはならず、むしろ抜歯を避けることが逆に顎骨壊死発症率を有意に増加させることを明らかにした。これは、これまで一般的に推奨された予防策を180度転換させるものである。
これまで顎骨壊死の発症を予防するために、できるだけ抜歯を避けることが一般的な方針であった。今回の研究結果は、これまでのポジションペーパーで推奨された予防策を180度転換させるもので、骨修飾薬が投与されているがん患者で歯周病や根尖病巣などの感染源になりうる歯を持つ場合は、早期に積極的に抜歯をしたほうが顎骨壊死の発症は予防できることを示したものである。また、同グループではこれまでに抜歯前に骨修飾薬の休薬は必要ないことや、顎骨壊死の手術前にも同薬剤を休薬する必要はないことなども明らかにしてきた(いずれもポジションペーパーでは休薬が推奨されており一般的に休薬されるケースが多い)。今回の研究は骨修飾薬が投与されている患者において顎骨壊死の発症リスクを軽減するためには、抜歯を含む積極的な歯科治療が重要であることを示した。骨修飾薬が投与されている場合でも、薬剤を休薬することなく必要ながん治療と歯科治療の両者を受けられることが明らかとなり、顎骨壊死の予防を通してがん患者の健康増進や生活の質の維持向上に果たす役割は大きいものと考えられる。
執筆後記
本記事のタイトルは『仮面ライダーOOO』のサブタイトルのパロディーである。久しぶりに、がん関連記事を翻訳したから、調子に乗ってしまった(笑)。
実際、がんの有無にかかわらず抜歯を含む積極的な歯科治療を積極的に受ける方がよい。実際、私は右上の歯の歯根がボロボロになったので、その歯を抜いてもらい、入れ歯にしてもらった(図01)。そのおかげで、がんに罹っても安心して治療を受けられる。当然、がんの主治医だけでなく、歯科医等との相談も必須である。
参考文献
[1] 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“一般社団法人日本癌医療翻訳アソシエイツ トップページ”.http://jamt-cancer.org/,(参照2024年10月14日).
[2] 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“海外がん医療情報リファレンス トップページ”.http://www.cancerit.jp/,(参照2024年10月14日).
[3] National Cancer Institute.“Jaw Problems Linked to Bone-Modifying Drugs Not as Rare as Once Thought”.National Cancer Institute ホームページ.News & Events.Cancer Currents Blog.2024年09月26日.https://www.cancer.gov/news-events/cancer-currents-blog/2024/breast-cancer-jaw-osteonecrosis-antiresorptive,(参照2024年10月14日).
[4] 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“デノスマブなどの骨修飾薬に起因する顎骨壊死はそれほど稀ではない”.海外がん医療情報リファレンス ホームページ.がん記事一覧.乳がん.2024年10月09日.https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/nyuugann/post-29222.html,(参照2024年10月14日).