家にありそうなもので微生物を研究してみました:理化学研究所 大阪地区 一般公開2019から学んだこと その05

PDF版は「家にありそうなもので微生物を研究してみました」を参照。

2019年11月23日、私は理化学研究所 大阪地区(以下大阪地区)を訪れ、一般客として理化学研究所大阪地区一般公開2019(以下同一般公開)に参加した([1])。

「02.家にありそうなもので微生物を研究してみました」(図01)で、生命機能科学研究センター(以下同センター)多階層生命動態研究チーム(以下同チーム,[2],[3])は、以下のものを展示・紹介した。

1.家にありそうなものを用いて、培養した微生物。

2.微生物の写真。

3.国城産業株式会社 ぜいたく三昧と糠がついた糠漬けを用いる糠漬けの作り方とこうした糠の中に生息する微生物。

4.同チームの研究。

図01.「03.家にありそうなもので微生物を研究してみました」。

「家にありそうなもので微生物を研究してみました」では、その気になれば、家庭にある日用品を使ってカビや細菌を培養できる、しかし、家庭で培養したカビや細菌は単離できないだけでなく、適切に管理できないので、ならびに、こうした微生物は環境衛生管理上の汚染だけでなく、食中毒や感染症も引き起こしかねない([4])ので、培養してはいけないことを同チームは伝えた。

(a)上:解説。
下.時計回りに、大塚製薬株式会社 ポカリスエット粉末、株式会社 ハイポネックス ジャパン ハイポネックス原液 6-10-5、寒天、および、森永乳業株式会社 クリープ。
(b)上.青い培地で培養されたカビ。青い培地はハイポネックス原液、ポカリスエット粉末、および、寒天から成る。
下.白い培地で培養された細菌。白い培地はクリープと寒天から成る。
図02.家庭にある日用品で培養された微生物。

同チームは上記の方法で培養したカビや細菌を用いて、チューブ入り山葵、チューブ入り辛子、チューブ入り生姜、および、梅干しの抗菌作用を示した(図03)。

山葵と辛子は抗カビ作用を示したが、抗細菌作用をあまり示さなかった。

生姜は抗カビ作用をあまり示さなかった。また、これらの細菌はブドウ球菌や大腸菌が多いためか、あるいは、生姜の揮発(芳香)成分が少ないためか、抗細菌作用もあまり示さなかった([5])。

梅干しは抗カビ作用をあまり示さなかった。また、クエン酸の含有量が少ないためか、抗細菌作用もあまり示さなかった([6])。

しかし、チューブ入り辛子+梅干しを同時に使用することで、抗カビ作用と抗細菌作用が示された。

(a)(研究背景)昨年の展示でそれぞれ確認。
(b)上.向かって左から、チューブ入り山葵、チューブ入り辛子、および、チューブ入り生姜。 中.上の調味料で処理されたカビ。
下.上の調味料で処理された細菌。
(c)上.向かって左から、梅干しとチューブ入り辛子+梅干し。
中.上の調味料で処理されたカビ。
下.上の調味料で処理された細菌。
図03.家庭にある日用品で培養された微生物を用いた食品の抗菌作用。

同チームは、ポンベ酵母の写真(図04)、ならびに、発酵食品とその中に生息する微生物の写真(図05)を展示した。

図04.ポンベ酵母 400倍。
図05.向かって左から、株式会社ますやみそ 生塩麹(上)とコウジカビ(下)、ならびに、株式会社 Mizkan なっとういち(上)と納豆菌(下)。

同チームは、国城産業株式会社 ぜいたく三昧と糠がついた糠漬けを用いる糠漬けの作り方とこうした糠の中に生息する微生物も展示した(図06)。

(a)つくりかた。
(b)芝井式糠漬け。
(c)糠床内の微生物。
図06.ぬかづけ、やってみました。

同チームは、適応進化ダイナミクスの理論的解析、ラボオートメーションを用いた大腸菌進化実験、代謝ダイナミクスの理論的解析、遺伝子発現の進化の方向性の理解、多くの共生細菌が辿るゲノム進化のプロセスの実験室での再現、および、細胞分化の不可逆性・安定性・階層性:数理モデルによる解析に携わっている([7])。

同チームは研究成果を多数発表している。なお、2022年12月14日、岩澤諄一郎 東京大学大学院 理学系研究科 大学院生(研究当時)と共に、大腸菌の進化実験から得られたデータを用いて、薬剤耐性進化を予測・制御する手法を新しく開発した。本研究成果は、病原菌の抗生物質耐性進化を抑制する手法開発や、工学・農学分野における有用微生物の育種につながると期待される([8],[9],[10])。

「02.家にありそうなもので微生物を研究してみました」から、私たち人類は微生物によって生かされていることを改めて痛感した。


参考文献

[1] 国立研究開発法人 理化学研究所 大阪地区.“大阪地区一般公開2019 開催報告”.理化学研究所 大阪地区 ホームページ.お知らせ.2019年12月25日.https://osaka.riken.jp/open2019/report.html,(参照2023年01月23日).

[2] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター.“チーム リーダー 古澤力 Ph.D.多階層生命動態研究チーム”.理化学研究所 生命機能科学研究センター ホームページ.研究.研究室.https://www.bdr.riken.jp/ja/research/labs/furusawa-c/index.html,(参照2023年01月23日).

[3] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター,国立大学法人 東京大学 生物普遍性研究機構.“古澤研究室 ホームページ”.http://www.furusawa-lab.ubi.s.u-tokyo.ac.jp/,(参照2020年12月01日).

[4] 日本防菌防黴学会 編集.菌・カビを知る・防ぐ 60の知恵:プロ直伝!防菌・防カビの新常識.第1版 第1刷,株式会社 化学同人,2015年06月20日,148 p.

[5] 学校法人 湘央学園.“バイオ通信No.1808「香辛料の抗菌効果 その2」”.応用生物科学科ブログ ホームページ.バイオ コース.2018年03月13日.https://sho-oh.ac.jp/blog/bio/2018/03/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E9%80%9A%E4%BF%A1no-1808%E3%80%8C%E9%A6%99%E8%BE%9B%E6%96%99%E3%81%AE%E6%8A%97%E8%8F%8C%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%80%80%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%92%E3%80%8D.html,(参照2023年01月29日).

[6] フマキラー株式会社.“お弁当の梅干しには本当に効果がある?お弁当を傷みにくくする方法と合わせて解説”.For your LIFE ホームページ.お役立ち情報.2021年06月04日.https://fumakilla.jp/foryourlife/566/,(参照2023年01月30日).

[7] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター,国立大学法人 東京大学 生物普遍性研究機構.“研究内容”.古澤研究室 ホームページ.http://www.furusawa-lab.ubi.s.u-tokyo.ac.jp/research/,(参照2023年01月31日).

[8] 国立研究開発法人 理化学研究所.“生命機能科学研究センター 多階層生命動態研究チーム チームリーダー 古澤 力(Ph.D.)”.理化学研究所 ホームページ.研究室紹介.生命機能科学研究センター(BDR).https://www.riken.jp/research/labs/bdr/multisc_biosyst_dyn/index.html,(参照2023年01月31日).

[9] 国立研究開発法人 理化学研究所.“微生物の薬剤耐性進化を大規模データから予測-適応度地形を用いた微生物進化の予測手法を開発-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2022.2022年12月14日.https://www.riken.jp/press/2022/20221214_1/index.html,(参照2023年01月31日).

[10] 国立大学法人 東京大学 大学院 理学系研究科・理学部.“微生物の薬剤耐性進化を大規模データから予測――適応度地形を用いた微生物進化の予測手法を開発――”.東京大学 大学院 理学系研究科・理学部 ホームページ.ニュース.プレスリリース.2022年 プレスリリース.2022年12月14日.https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2022/8199/,(参照2023年01月31日).

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