兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター訪問記
2023年11月03日、私は兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター(以下神戸陽子線センター,図01,[1])の病院見学ツアーに参加した。なお、この病院見学ツアーは神戸医療産業都市 一般公開2023の一環でもある([2])。
陽子線治療はある一定の深さでエネルギーが最大になる現象(ブラック ピーク)を利用した治療で、正常細胞へのダメージを抑えた治療が可能となる。 陽子線治療は、計画用CT撮影から治療開始まで約2週間の治療準備期間が設けられている。それは治療で使用するボーラスやコリメーターの作成と、その検証といった幾つかの過程を踏んでから治療開始となるためである([3])。
陽子線治療の流れは、以下に示す通りである(3)。
1. 診察
o まず放射線治療医が問診・診察を行う。
o これまでの画像診断や病理診断等の結果から陽子線治療の適応があるかどうかを判断し、照射する範囲、照射線量、照射回数等の治療方針を決定する。
2. 治療計画用CT撮影(図02)
o 診察にて治療を行うことが決定した際は治療計画CT撮影を行う。
o 治療計画用CTは、放射線治療と同じ体勢で行うため照射精度を左右する重要な行程になる。患者にとって困難な体位は避けるが、固定具を使って両腕を挙上させ、頭頸部固定用の専用の枕やお面を作成する。
o 呼吸によって位置が変化する部位は、呼吸性移動量を測定し、治療に反映させている。
o 治療する際の目印として、治療部位周辺にマジックで線を書く(お面に書く場合と直接皮膚表面に線を書く場合がある)。
3. 陽子線治療計画
o 一般的に放射線治療で用いられる線量は、診断領域と比べて非常に大きく、同じ照射範囲への再照射は許されない。さらに正常組織の線量を可能な限り小さくし、癌病巣へ照射するため、緻密な治療計画を立案する必要がある。
o 治療計画用CTで撮影した画像から、陽子線治療計画装置にて適切な照射方向、門数等の照射条件を決定する。
o 決定した照射条件から、病気の形状や、体表面からの深さに合わせて陽子線の広がりを調整するボーラスやコリメーターを作成する。スキャニング法での治療の場合はボーラスやコリメーターはない。
4. 治療計画の検証作業
o 陽子線治療計画装置にて作成された治療計画が問題ないか専用の測定器を用いて、実際に測定して確認する。
5. 陽子線治療開始
o 照射部位によって異なるが、おおよそ治療終了まで15分程度かかる。 治療計画用CT撮影時に作成した専用の固定具を使用し、体を固定する。そこで位置照合のためのX線写真撮影を行い、治療部位の位置確認を行う。計画された位置と誤差1mm以内になったら、陽子線の照射を行う。
神戸陽子線センターの陽子線治療装置は、シンクロトロン加速器による世界初のユニバーサル ノズルを搭載し、ブロードビーム照射とスキャニング照射の切り替えを可能にした装置で、2つの治療室のどちらでも両方の技術が使える設計になっている。将来的には患者が治療台に寝たままの状態でブロードビーム照射とスキャニング照射を組み合わせて、より精度の高い治療の実現が可能になる。また、照射時の位置合わせに有用なロボットアーム搭載型の6軸補正システム、最新のモンテカルロ法を用いた線量分布計算を可能にする治療計画装置など最新で最高レベルの装備を備えている(図03,[4])。
陽子線治療に必要な装置が、陽子を加速する「加速器系」、加速された陽子線を治療室まで運ぶ「輸送系」、陽子線を患者に照射する「照射系」、および、陽子の加速度や照射量を制御する「制御系」から構成されることが、Proton Solution Modelから示される。
神戸陽子線センターの待合室と治療室はそれぞれ2室ある。
1室は小児用で、海をモチーフとしたかわいらしいデザインとなっている(図04,図05,4)。
もう1室は大人用で、シックなデザインとなっている(図06,4)。
神戸陽子線センターは兵庫県立こども病院に隣接し、互いに院内電話で通話可能で、医療情報も共有できるシステムになっている。両院の小児専門スタッフが互いに確りと連携し連絡を取り合うことで、安全に高度な治療を実施できる(図07,[5])。
一方で、2015年10月24日、私は神戸低侵襲がん医療センター(図08,[6])の病院見学ツアーに参加した。なお、この病院見学ツアーは神戸医療産業都市・京コンピュータ一般公開の一環でもある([7])。
神戸低侵襲がん医療センターで使用されている放射線治療装置は、サイバーナイフ(CyberKnife VSI、第1治療室、図09)、トモセラピー(TomoTherapy HD、第2治療室、図10)、および、トゥルービーム(TrueBeam、第3治療室、図11)で、いずれもX線を外部照射するものである([8],[9],[10])。
神戸低侵襲がん医療センターと神戸陽子線センターの両者を訪れたことで、私は両者の相違、ならびに、X線治療と陽子線治療の相違だけでなく、その役割や使命を確認できた。
また、X線治療と比較して、陽子線治療は非常に経費や手間が掛かることも痛感した。実際、前者の治療装置と比較して、後者のそれらは非常に大規模、かつ、複雑なわけだし(当然、製造や維持も、経費や手間が非常に掛かる)。
参考文献
[1] 兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター.“神戸陽子線センター ホームページ”.https://www.kobe-pc.jp/index.html,(参照2024年05月07日).
[2] 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構.“事前申込制のイベント”.神戸医療産業都市(KBIC) 2023 一般公開 トップページ.https://www.fbri-kobe.org/kbic/ippankoukai/2023/event-entry/,(参照2024年05月07日).
[3] 国立研究開発法人 国立がん研究センター 東病院.“放射線治療 陽子線治療”.国立がん研究センター 東病院 トップページ.共通部門のご案内.放射線技術部.放射線治療技術室.2022年09月16日.https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/radiation_technology/treatment_technique/ProtonBeamTherapy/20180627190046.html,(参照2024年05月25日).
[4] 兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター.“院内施設の紹介”.神戸陽子線センター ホームページ.センター紹介.https://www.kobe-pc.jp/facility.html,(参照2024年05月25日).
[5] 兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター.“小児がん治療”.神戸陽子線センター ホームページ.https://www.kobe-pc.jp/childhood.html,(参照2024年05月26日).
[6] 医療法人社団 神戸低侵襲がん医療センター.“神戸低侵襲がん医療センター ホームページ”.https://www.k-mcc.net/,(参照2024年05月25日).
[7] 公益財団法人 計算科学振興財団.“FOCUS施設 一般公開”.計算科学振興財団 ホームページ.イベント案内.https://www.j-focus.or.jp/event_seminar/entry-953.html,(参照2024年05月25日).
[8] 医療法人社団 神戸低侵襲がん医療センター.“放射線治療”.神戸低侵襲がん医療センター ホームページ.当センターのがん治療.https://www.k-mcc.net/therapy_radiation.php,(参照2024年05月26日).
[9] 国立研究開発法人 国立がん研究センター.“放射線治療の種類と方法”.がん情報サービス ホームページ.診断と治療.放射線治療.2023年04月24日.https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/rt_03.html#anchor3,(参照2024年05月26日).
[10] 国立研究開発法人 国立がん研究センター 東病院.“X線治療”.国立がん研究センター 東病院 トップページ.共通部門のご案内.放射線技術部.放射線治療技術室.2023年07月31日.https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/radiation_technology/treatment_technique/PhotonBeamTherapy/20180704194704.html,(参照2024年05月26日).