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第3章 毒の博物館 3-1 毒が招いた多様性と進化 コラム09 毒を使った果実の散布戦略:「特別展「毒」」見聞録 その21

2023年04月27日、私は大阪市立自然史博物館を訪れ、一般客として、「特別展「毒」」(以下同展)に参加した([1])。

同展「第3章 毒の博物館 3-1 毒が招いた多様性と進化 コラム09 毒を使った果実の散布戦略」で、毒を使った果実の散布戦略が言及された(図20.01,[2]のp.105)。

図21.01.毒を使った果実の散布戦略。

 カキノキの果実(柿)は甘柿(「富有」や「次郎」等)と渋柿(「西条」や「愛宕」等)に大別される。

柿の渋味のもとは水溶性タンニンで、これが口の中で溶けると渋く感じられる。

甘柿も幼果のときには渋味があるが、収穫時になるとタンニンが「水溶性」から「不溶性」へ変化するため、渋味が無くなる。

また、渋柿はアルコールや炭酸ガスを使って処理(渋抜き)することで、タンニンが「不溶性」に変化して甘くなる。干し柿にしても渋味は抜ける([3])。

柿に関しては、以下を参照のこと。ちなみに、みしらず柿(身不知柿)は渋柿の1種である([4])。

ビワ、アンズ、ウメ、モモ、スモモ、オウトウ(サクランボ)などのバラ科植物の種子や未熟な果実の部分には、アミグダリンやプルナシンという青酸を含む天然の有害物質(総称して、「シアン化合物」と言います。)が多く含まれている。一方で、熟した果肉に含まれるシアン化合物はごくわずかである。

果実を未熟な状態で食べてしまったり、果実を種子ごと食べてしまったりすることは稀なので、通常、果実を食べることによる健康影響は無視できる。

しかし、種子を乾燥して粉末に加工などした食品の場合は、シアン化合物を一度に大量に食べてしまう危険性が高まるので、ビワの種子の粉末は食べるべきではない。

高濃度のシアン化合物が検出されて回収が行われているビワの種子粉末食品のうち、特に濃度が高いものでは、小さじ1杯程度の摂取量でも、健康に悪影響がないとされる量を超えて青酸を摂取してしまう可能性がある。

ちなみに、青梅は熟していないので、シアン化合物が高濃度に含まれていることが知られており、そのままでは食べるのに適さないが、梅干し、梅酒、および、梅漬けに加工をすることで、シアン化合物が分解し、大幅に減少することが知られている(図21.02,[5])。

ビワの毒に関しては、以下で言及済みである。

図21.02.未熟なウメの果実。

バングラデシュやインドで発生しているライチが関係した急性脳障害は、同果実に含まれる植物性自然毒の摂取が原因であり、神経毒性L-アミノ酸ヒポグリシンの下位同族体であるα‐(メチレンシクロプロピル)グリシンの摂取によって生じたものと思われる。

ライチの類縁にあたるアキー果実もヒポグリシンが豊富で、栄養不良の児童がこれを摂取すると、用量依存性の中毒性低血糖脳症を誘発する。この症候群は、アキーを多食するジャマイカでよく知られており、2~10歳児に多く、重度の低血糖症と代謝性アシドーシスを発症する。臨床病態としては、数時間から数日の間に頭痛・口渇・発汗・嘔吐・嗜眠・発作・昏睡・死が生じる。患者は軽度から中程度の発熱をし、嘔吐は発症しないこともある。グリコーゲン/グルコースの体内蓄積量が少ない栄養不良児がアキーその他のムクロジ科果実(ライチ、ランブータン、リュウガン等)の未成熟仮種皮(aril)を多量に摂取すると、ほぼ確実に中毒性低血糖症候群にかかる(図21.03,[6])。

図21.03.向かって左から、未熟なライチの果実と熟したライチの果実。

「コラム09 毒を使った果実の散布戦略」の執筆時にこう思った。「植物は自我がないとはいえ、果実内の毒の量を巧みに調節することで、果実を食べる鳥類や哺乳類を巧みに利用するものだねぇ」。


参考文献

[1] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“特別展「毒」 ホームページ”.https://www.dokuten.jp/,(参照2023年07月23日).

[2] 特別展「毒」公式図録,180 p.

[3] 農林水産省.“甘柿と渋柿の違いについて、教えてください。”.農林水産省 ホームページ.消費者の部屋.消費者相談.過去の相談事例.果実・くだもの.2019年09月.https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1909/02.html,(参照2023年07月23日).

[4] JA会津よつば.“みしらず柿”.JA会津よつば ホームページ.農畜産物.くだもの.https://aizuyotuba.jp/products/kaki/,(参照2023年07月23日).

[5] 農林水産省.“ビワの種子の粉末は食べないようにしましょう”.農林水産省 ホームページ.消費・安全.食中毒から身を守るには.知識があればこわくない!天然毒素.2021年01月15日.https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/loquat_kernels.html,(参照2023年07月25日).

[6] 内閣府 食品安全委員会 食品安全総合情報システム.“米国疾病管理予防センター(CDC)、ライチ果実が関係した疑似ウイルス脳炎の推定原因を発表”.食品安全総合情報システム ホームページ.食品安全関係情報.2015年05月15日.https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04260660104,(参照2023年07月25日).

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