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インドの稲わら焼きを日本から考えよう:地球研オープンハウス2024 訪問記 04

2024年11月03日、総合地球環境学研究所(地球研)は地球研オープンハウス2024(以下同イベント,[1])を開催した。私も一般客として参加した。


「インドの稲わら焼きを日本から考えよう」で、Aakashプロジェクト(以下同プロジェクト)が紹介された(図04.01,[2])。

(a)向かって右から、「どんな研究プロジェクトなの?」と「大気浄化、公衆衛生および持続可能な農業を目指す学際研究:北インドの藁焼きの事例」。
(b)向かって右から、「プロジェクト リーダーに聞いてみました。」と「Aakashプロジェクトからの問い」。
図04.01.Aakashプロジェクト。


北西インドでは、コメの収穫期が終わると大量の稲藁が焼却される。この作物残渣の焼却は、大量の汚染物質を大気中に放出し、10月から11月にかけて人間の健康や経済活動に深刻な状況をもたらしている。同プロジェクトでは、デリー首都圏を含めたこの地域の大気汚染を科学的に解明し、社会意識を高め、持続可能な農業のあり方を模索している。

デリー首都圏の大気汚染の原因究明には、発生源地域であるパンジャーブ地域と遠く離れているため、大きな不確実性がある。同プロジェクトでは、広域観測ネットワークを構築することで、現地の貧弱な観測データとのギャップを埋め、 衛星リモート センシング観測と様々な数値モデリング システムを用いて、大気汚染緩和のための科学的根拠に基づく政策立案を支援する。農家やステークホール ダーへの聞き取り調査によって、人々の意識を高め、社会経済的な解決策を促進する(図04.02)。

図04.02.An overview of Aakash project at RIHN。


同プロジェクトは藁焼きとデリーの大気汚染との関連性を示すための活動の一環として、2022年と2023年の秋にパンジャーブ州からデリーにかけて大気汚染の集中観測を実施した。その結果、11月上旬に藁焼きによる汚染物質がパンジャーブ州南西地域からデリーへ移動する様子が観測された。2年にわたる観測から、デリーの高濃度汚染期間と藁焼きの関連を時系列から比較検討することが可能になった(図04.03,2)。

図04.03.空気のよごれぐあい(PM2.5)。


これまでにパンジャーブ州では、4回のアンケート調査が実施された。そのうち2回は村の代表者に、村ごとの稲藁の管理方法や藁焼きをした水田の面積を質問した。それとは別に、パンジャーブ州全県2,200世帯および1村の全農家世帯を対象とした質問票による聞き取り調査を行った。その結果、大多数の農家が「大気汚染は問題であるが、デリーの大気汚染の主な原因はパンジャーブでの藁焼きではなく、デリー周辺の汚染源である」と回答した(2)。

 

上記の件から、パンジャーブ州全県の全農家世帯は、自分達がデリーの大気汚染を引き起こしていることに気付かなかったことを知った。この件に限らず、自分達が環境破壊などの愚行を犯していることに気付かない人は結構多いことも知った。なお、これは私なりの環境破壊などの環境問題に対する自戒でもある。


同プロジェクトは、藁焼きを止めるにはどうすればいいのかに対する2つの有望な選択肢として、(1)米から他の作物への移行と(2)稲藁のバイオマス燃料としての利用に焦点を当てて農家や組合などステークホ―ルダーへの聞き取り調査を実施した。それを踏まえて現在、日本企業、JICA、および、日本政府機関などとも協力して、新技術を現地に根付かせるための方法を模索し続けている(2)。

 

日本ではかつて、藁葺屋根をはじめとして、藁は住居や生活の中など様々なところで使われていた([3])。

現在でも、稲藁や籾殻は貴重な有機質資源なので、焼却せずにすき込みや堆肥として有効活用し、人と環境に優しい農業を推進するよう長岡市役所は呼びかけている([4])。


大気浄化と健康被害改善に向け、パンジャーブ地方における持続可能な農業への転換のためとはいえ、人々の行動を変えることは、非常に困難であることを知った。しかし、いや、それだからこそ、やるしかないという同プロジェクトの覚悟も知った。

また、本記事の執筆する過程で、日本ではかつて、藁は住居や生活の中など様々なところで使われていたことを知ったことは、私にとっては大きな収穫である。



参考文献

[1] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“地球研オープンハウス2024”.総合地球環境学研究所 ホームページ.イベント.2024年度.2024年11月03日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/events/detail/230/,(参照2024年11月09日).

[2] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“Aakashプロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.研究一覧.実践プログラム.地球人間システムの共創プログラム.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/6/,(参照2024年11月09日).

[3] 株式会社 クボタ.“【稲と住】 屋根や壁など生活のさまざまな場面で使われた藁”.クボタのたんぼ ホームページ.稲作の歴史.稲と衣食住.https://www.kubota.co.jp/kubotatanbo/history/life/living.html,(参照2024年11月17日).

[4] 長岡市役所.“稲わら・もみ殻は焼却せずに有効活用しましょう!”.長岡市 トップページ.産業・ビジネス.農林・水産関係.農家の皆様へお願い.2021年09月16日.https://www.city.nagaoka.niigata.jp/sangyou/cate04/nouka/inawara.html,(参照2024年11月17日).

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