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「次世代スマート ホスピタル202X 治療」ロボット手術編:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 02-04

スマート ホスピタルの解説は既に、「展示物から「次世代スマート ホスピタル202X 診察」を振り返る:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 01」で実施済みである。

ロボット手術は腹腔鏡下手術の進化版と捉えることができる。腹腔鏡下手術とほぼ同じ傷で手術を行い、腹腔鏡下手術と同様、細長い手術器械をロボット アームに固定する。このロボット アームは術者が“コンソール”と呼ばれる場所に座って操縦する(ロボットが自動的に手術をするわけではない)。腹腔鏡下手術と比べて次のような長所、短所が挙げられる([1])。

長所

1.細長い手術器械に手首の様な関節機能があり、より細かい操作ができる。従って開腹手術や腹腔鏡手術では今まで届きにくかった部位にも到達し、よりきれいに切除できる可能性がある。

2.人間の手ではどうしても起こってしまう手振れが補正され、より正確な操作ができる。 開腹手術や腹腔鏡手術ではできないような繊細な操作が行えるので、術後の合併症(膵液漏など)を減らせたり、よりきれいな切除ができたりすることが期待される。

短所

1.ロボット アームを介しているので手術器械の先端で触った感触が分からない(触覚の欠如)。これを視覚で判断できるようになるには、十分な経験が必要である。

2.腹腔鏡下手術より手術時間が長くなる傾向がある(約0.5 - 1時間)。

3.手術中の出血などのトラブルが発生した場合の対処は、経験の浅い術者や施設では一般的に難しいとされている。

健康未来EXPO 2019([2])のテーマ展示「Da Vinciの世界へようこそ!」で、インテュイティブ サージカル合同会社は手術支援ロボット「Da Vinci Xi サージカル システム」(図02-04.01,[3],[4])を展示した。なお、呼吸器、心臓、消化器、泌尿器、および、婦人科における、このロボットによる手術は保険収載対象になっている([5])。

(a)サージョン コンソール。
(b)向かって左から、ビジョン カートとペイシェント カート。
図02-04.01.インテュイティブ サージカル合同会社 「Da Vinci Xi サージカル システム」。
撮影日:2019年04月05日。

一方、日本医学会総会 2023 東京 博覧会([6])の「次世代スマート ホスピタル202X 治療」で、株式会社 メディカロイドは手術支援ロボット「hinotori™」(図02-04.02,[7],[8])を展示した。なお、泌尿器における、このロボットによる手術は保険収載対象になっている([9])。

(a)向かって左から、オペレーション ユニットとモニタ カート。
(b)向かって左から、モニタ カートとサージョン コックピット。
図02-04.02.株式会社 メディカロイド 「hinotori™」。
撮影日:2023年04月22日。

実例として、大腸がんの手術は、がんから十分な距離を取ってがんができている部分の腸を切除し、まわりのリンパ節を取るのが基本である。

その方法には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術という3つの手法が存在し、現在の「大腸癌治療ガイドライン」では、開腹手術(腹を大きく切る)が標準治療になっている。

一方で、腹腔鏡手術(腹部にあけた小さな穴から小型カメラと細長い治療器具を挿入して手術を行う)が、現在増えている。

外科医の経験やチームとしての習熟度をふまえ、できる範囲で腹腔鏡手術が行われているが、現在、すでに大腸がんの手術の5~6割が腹腔鏡で行われている。

腹腔鏡手術には、開腹手術に比べて傷が小さくてすむので、痛みが少ない、腸管の回復が早い、社会復帰が楽といった利点がある。また、手術を執刀する側としては、開腹手術ではどうしても見づらい、肛門に近い深いところまでよく見えるという利点もある。

一方で、使える道具に制限があるという欠点がある。また、実際の手の動きと反対の方向に鉗子が動くので、自分の思い通りに鉗子を動かせるようになるまでにはかなりのトレーニングと、外科医のセンスが必要となるという欠点もある。

ロボット支援手術は、「Da Vinci」という手術支援ロボットを使った手術である。

2018年04月から、大腸がんのうち直腸がんのロボット支援手術が保険適用となることが決まった。

ロボット支援手術は、小さくあけた穴から小型カメラや治療器具を入れて行うことは腹腔鏡手術と同様である。そのため、腹腔鏡手術と同様、体への負担が少なく、小さなキズで痛みが少ない、回復が早いという利点がある。

鉗子の動かし方は、腹腔鏡手術と大きく異なる。ロボット支援手術では、三次元画像を見ながら4本のロボットアームを遠隔操作する。

腹腔鏡手術では実際の手の動きと反対の方向に鉗子が動くが、ロボット支援手術では、手の動きがそのまま鉗子に反映されるので、動かしたい方向に直感的に自在に動かすことが可能である。

また、ロボットアームの先端に取り付けられた鉗子には、人間の手のように複数の関節があるので、曲げたい方向に自由に曲げることができる。

さらに、実際の手の動きを縮尺して鉗子に反映させることもできるので、より繊細な動作が可能になる。

そのため、まだ経験の浅い医師でも安定した手術を行えるようになり、また、経験豊富な医師にとっても、手術のクオリティが上がる([10])。

私は両社の手術支援ロボットから、ロボット手術の概要と展望を知ることができた([11])。

私は両社などの奮闘によるロボット手術の発展に期待する。


参考文献

[1] 国立研究開発法人 国立がん研究センター 東病院.“ロボット手術について”.国立がん研究センター 東病院 トップページ.診療科・共通部門.外科系.胃外科.病気と治療について.https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/gastric_surgery/050/050/index.html,(参照2023年06月30日).

[2] 日本コンベンションサービス(JCS)株式会社.“4年に一度開催される「健康未来EXPO 2019」は、大盛況の中でフィナーレを迎えました”.JCS トップページ.ニュース.イベント&講演.2019年05月16日.https://www.convention.co.jp/news/detail/contents_type=15&id=541,(参照2023年06月30日).

[3] インテュイティブ サージカル合同会社.“Da Vinci by Intuitive”.インテュイティブ サージカル ホームページ.製品・サービス.https://www.intuitive.com/ja-jp/products-and-services/da-vinci,(参照2023年06月30日).

[4] 一般社団法人 日本ロボット外科学会.“Da Vinciについて Da Vinciの紹介”.日本ロボット外科学会 ホームページ.手術支援ロボット.https://j-robo.or.jp/robot/da-vinci/,(参照2023年06月30日).

[5] 一般社団法人 日本ロボット外科学会.“Da Vinciについて 保険収載”.日本ロボット外科学会 ホームページ.手術支援ロボット.https://j-robo.or.jp/robot/da-vinci/hoken/,(参照2023年06月30日).

[6] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2023年06月30日).

[7] 株式会社 メディカロイド.“hinotori™”.メディカロイド トップページ.製品情報.https://www.medicaroid.com/product/hinotori/,(参照2023年06月30日).

[8] 一般社団法人 日本ロボット外科学会.“hinotori™について hinotori™の紹介”.日本ロボット外科学会 ホームページ.手術支援ロボット.https://j-robo.or.jp/robot/hinotori/,(参照2023年06月30日).

[9] 一般社団法人 日本ロボット外科学会.“hinotori™について 保険収載”.日本ロボット外科学会 ホームページ.手術支援ロボット.https://j-robo.or.jp/robot/hinotori/hoken/,(参照2023年06月30日).

[10] 株式会社 Doctorbook.“大腸がんの手術の種類。新しい治療法の腹腔鏡手術やロボット手術って何?”.Doctorbook ホームページ.がん.大腸がん(結腸がん).https://doctorbook.jp/contents/16,(参照2023年07月04日).

[11] 国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院.“からだへの負担が少ない がん手術”.国立がん研究センター 中央病院 トップページ.https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/robot/index.html,(参照2023年06月30日).

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