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02.迷いの森~迷いの先のメッセージ~、および、03.我が家のバケット リスト~未来を描く時間~:超ECO祭2024 訪問記 02,03
同志社大学 商学部 瓜生原葉子(以下敬称略)研究室(以下瓜生原ゼミ)は、2024年11月09、10日にイオンモールKYOTOで「超ECO祭2024」を催した。なお、私は10日に参加した([1])。
「超ECO祭2024」のブースの2つである「迷いの森~迷いの先のメッセージ~」と「我が家のバケット リスト」で、瓜生原ゼミと厚生労働科学研究費補助金「行動科学を基盤とした科学的根拠に基づく臓器・組織移植啓発モデルの構築に関する研究(瓜生原班)」(以下同研究,[2])は、日本における臓器提供の現状を紹介した([3],[4],[5],[6],[7])。
現在の日本国内外の研究成果を調べると、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)から神経、心筋、血液など様々な組織や臓器を構成する細胞に分化することが報告されている。ただし、細胞や組織は臓器という立体的なものの一部にすぎない。そのため、立体的な臓器をつくる試みもなされており、小さな肝臓などを作ったという報告やミニ多臓器(肝臓・胆管・膵臓)の作製の報告もあるが、人間のサイズに見合う、あるいは人間の体内で機能するような大きく立体的な臓器ができたという報告はまだない([8])。
それゆえ、臓器移植は非常に有効な医療の1つとはいえ、IRODaT(International Registry on Organ Donation and Transplantation)の2021年の人口100万人あたりの臓器提供数は、米国(41.6)、スペイン(40.8)、韓国(8.56)、日本(0.62)例で、日本の少なさは際立つ。
日本は「本人の意思表示と家族の承諾」を要件とする。また内閣府「移植医療に関する世論調査」(21年)によれば、「提供したい」(39.5%)、「どちらともいえない」(35.8%)、「提供したくない」(24.3%)であり、啓発活動により、韓国程度には増えることも想定される。2023年の日本臓器移植ネットワーク(JOT)への移植希望患者の登録数は15,517人である。最近10年の年間移植数は100件前後で推移し、待機中に死亡する患者は300~450人ほどになる。1週間に8人が死亡する計算になる。
野党のある議員は、ドナーが大きく不足している事態を重く見て、「患者が脳死と判断される蓋然性が高い場合は、ドナーになることを家族に提案し、患者の情報をJOTに届け出ることを医療機関に義務化すべき」と提言している。現場の医療関係者の負担が大きいことから、法改正とともに診療報酬で評価をすべきと提言している。当面は特定機能病院に限る案が考えられる([9])。
一方、2008年の国際移植学会によるイスタンブール宣言により、国内の臓器移植の推進が求められる中、2010年07月17日「改正臓器移植法」が全面施行され、本人の意思が不明な場合にも、家族の承諾があれば脳死下の臓器提供ができることとなった([10])。
現在、膵島移植医療において、1型糖尿病に対する同種膵島移植と難治性慢性膵炎等に対する膵切除+自家膵島移植(先進医療技術)が実施されているが、次世代の膵島移植治療として、1型糖尿病根治の方法であるブタ膵島を用いた「バイオ人工膵島」の異種移植治療が開発されている。企業と連携し、日本で初めてとなるブタ膵島移植の臨床試験が目指されている。また、ヒトiPS細胞から膵島細胞を作成し、移植する研究も行われている([11],[12])。
また、2024年10月04日、東京慈恵会医科大学などの研究チームは、重い腎臓病の胎児に対し、ブタの腎臓の組織を一時的に移植する臨床研究計画を同大の特別委員会に提出した。異種移植が実現すれば、国内で初めてとなる。厚生労働省専門部会の審査などを経て、2026年度の実施を目指す([13])。
同種移植であれ、異種移植であれ、私は日本国内での臓器移植の普及を切望する。
また、瓜生原ゼミと同研究は医療のエコ活動と臓器提供の流れを紹介しながら、参加者に対して、対話を通して、あなただけの、家族だけのバケット リストを作るよう促した。そして、臓器移植に関するデータを用いた家族や大切な人との会話を促すだけでなく、データで見る臓器提供の現状も紹介した。(図03.01,図03.02,図03.03,3)。
なお、バケットリストとは、「死ぬまでにしたい100のこと」を書き留めるノートである。
bucketとは英語で「バケツ」を意味するが、bucketを使った熟語の中に”kick the bucket”というものがある。
「死ぬ」という熟語から転じて、アメリカではThe bucket list という習慣が生まれた。
死ぬまでにやりたいことを書き留め、リスト化し実際に行うという習慣である。
ちなみに、映画『最高の人生の見つけ方(原題:The bucket list)』で、大病を患った主人公2人は、それぞれのやりたいことを書き出して、残された余生をやりたいことをやるために過ごしてきた([14])。
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図03.03.臓器提供クイズ。
本人やその家族が臓器移植のドナーになっても、ならなくても、臓器移植とバケット リストを介して、自分達の生と死に真剣に向き合うことは好ましいことだと私は思う。なぜなら、死と向き合うことは、生とも向き合うということだからである。
参考文献
[1] 学校法人 同志社 同志社大学 商学部 瓜生原葉子研究室 医療のエコ活動研究会.“超ECO祭2024”.同志社大学 商学部 瓜生原葉子研究室 医療のエコ活動 ホームページ.https://www.medieco.net/%E8%B6%85eco%E7%A5%AD2024,(参照2024年12月07日).
[2] 国立保健医療科学院 図書室サービス室 厚労省Grant System担当.“行動科学を基盤とした科学的根拠に基づく臓器・組織移植啓発モデルの構築に関する研究”.厚生労働科学研究成果データベース ホームページ.https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/169344,(参照2024年12月07日).
[3] 学校法人 同志社 同志社大学 商学部 瓜生原葉子研究室 医療のエコ活動研究会.“ブース紹介”.同志社大学 商学部 瓜生原葉子研究室 医療のエコ活動 ホームページ.超ECO祭2024.https://www.medieco.net/s-projects-side-by-side,(参照2024年12月07日).
[4] 内閣府 大臣官房 政府広報室.“移植医療に関する世論調査(令和3年9月調査)”.内閣府 世論調査 トップページ.健康・医療.令和3年度(2021年).2021年12月10日.https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-ishoku/,(参照2024年12月08日).
[5] 公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク.“「いのちを救うきっかけが、会話のなかにあるかもしれない。」”.日本臓器移植ネットワーク ホームページ.普及啓発グッズ.https://www.jotnw.or.jp/goods/detail.php?id=243,(参照2024年12月08日).
[6] 公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク.“よくあるご質問”.日本臓器移植ネットワーク ホームページ.https://www.jotnw.or.jp/faq/,(参照2024年12月08日).
[7] 公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク.“臓器移植解説集”.日本臓器移植ネットワーク ホームページ.https://www.jotnw.or.jp/explanation/,(参照2024年12月08日).
[8] 国立大学法人 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA).“iPS細胞とは?”.CiRA ホームページ.もっと知るiPS細胞.よくある質問.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/faq_ips.html,(参照2024年12月08日).
[9] 一般社団法人 大阪府医師会.“時の話題 臓器移植が進まない日本”.大阪府医師会 ホームページ.医師・医療関係者のみなさまへ.刊行物.府医ニュース.令和6年度.2024年10月16日 第3087号.https://www.osaka.med.or.jp/doctor/doctor-news-detail?no=20241016-3087-2&dir=2024,(参照2024年12月09日).
[10] 公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク.“臓器移植法”.日本臓器移植ネットワーク ホームページ.臓器移植解説集.臓器移植概要 歴史と法律.https://www.jotnw.or.jp/explanation/01/04/,(参照2024年12月24日).
[11] 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター.“膵島移植プロジェクト―糖尿病の新しい移植医療―”.国立国際医療研究センター トップページ.https://www.ncgm.go.jp/080/suitou.html,(参照2024年12月09日).
[12] 認定特定非営利活動法人 日本IDDMネットワーク.“バイオ人工膵島移植プロジェクト”.日本IDDMネットワーク トップページ.研究の最前線.https://japan-iddm.net/cutting-edge-medical-technology/bio-artificial-islets/,(参照2024年12月09日).
[13] 株式会社 時事通信社.“ブタ腎臓移植計画を学内申請 実現すれば国内初、重症胎児に―26年度の実施目指す・慈恵医大など”.時事ドットコムニュース ホームページ.社会.2024年10月05日.https://www.jiji.com/jc/article?k=2024100400940&g=soc,(参照2024年12月09日).
[14] いろは出版株式会社.“死ぬまでにしたい100のことを書き留めるノート「BUCKET LIST」”.いろは出版株式会社 ホームページ.新着アイテム.雑貨.2024年03月27日.https://hello-iroha.com/new_item/bucket-list_201803/,(参照2024年12月10日).