建築好きなら読んでおきたい『月刊たくさんのふしぎ』10+1選【建築・都市編】
福音館書店からでてる『月刊たくさんのふしぎ』は、1985年4月創刊。対象年齢が小学校3年生からとありながら、その内容の濃さとヘンタイさ加減が異常で甘く見るとヤケドします。
「ふしぎ」を知ると世界がかわる!
自然や環境、人間の生活・歴史・文化から、数学・哲学まで。あらゆるふしぎを小学生向きにお届けする科学雑誌「たくさんのふしぎ」。第一線で活躍する研究者や専門家が、世界にあふれるふしぎを、子どもたちが自ら感じ、考え、理解していけるよう導いていきます。
(福音館書店HP)
前回、歴代の『月刊たくさんのふしぎ』から、特に建築好きなら読んでおきたいラインナップ10選を【住まい・生活編】と題して発表しました。
でも『月刊たくさんのふしぎ』は、まだまだ読みたいものがいっぱいです。そこで今回は、前回紹介し切れなかったものを【建築・都市編】としてご紹介します!
それでは【建築・都市編】10選をどうぞ!
1
「ある都市のれきし:横浜・330年」北沢猛、内山正(1986年1月号・第10号)
まだこれからというのに惜しくも癌で亡くなられてしまった北沢猛先生が書いた横浜の歴史。江戸時代の小さな村から始まった横浜が次第に現在の姿になっていく過程を丁寧に描いています。最後に読者へ示される「町かどにれきしをさがす」ためのヒントは、北沢さんから私たちに贈られたプレゼント。
2
「あけるしめる でるはいる」赤地経夫
(1995年12月号・第129号)
写真家・赤地経夫さんが世界各地の建物のうち、特に開口部に注目して紹介する内容。開けたり閉めたり、あるいは人や風や光が出たり入ったりする開口部にはいろんな物語がつまっています。作中、赤地さんは自分の家づくりを進めるなかで、娘とのさまざまな対話を通して、開口部やそこにこめられた時間の価値を解き明かしていきます。
3
「地下につくられた町・カッパドキア」大村次郷
(1990年7月号・第64号)
写真家・大村次郷さんに導かれて旅立つトルコ・カッパドキアへの旅。広大な地下都市がつくられた歴史やそこで営まれた生活、そのための工夫が紐解かれていきます。本文中、見開きページで「地下都市の断面図」が掲載されていて建築好きには堪らない。ちゅうか、小学校低学年でカッパドキアを知れる『たくさんのふしぎ』はステキ。
4
「屋上のとんがり帽子」折原恵
(2002年9月号・第210号)
ニューヨークに建ち並ぶビルの屋上を眺めていると、不思議な物体が。この物体=給水タンクの役割や仕組み・構造が丹念に解き明かされています。この号でもやっぱり「給水タンクと水道のしくみ」と題して見開きで大きく断面図が描かれていて楽しい!このタンクが実は木製で、その理由や造られ方を知れるのも面白い。
5
「シュヴァル 夢の宮殿をたてた郵便配達夫」
岡谷公二、山根秀信
(2003年2月号・第215号)
情熱に駆られるあまりにたった一人で宮殿をセルフビルドしてしまった孤高のヘンタイ、郵便配達夫シュヴァルの生涯がナント小学生向けに書かれていて、しかもその作者がちゃんと岡谷さんという大サービスぶり!やわらかなタッチでシュヴァルの生涯を描きつつ、ちゃんと彼の造った宮殿は詳細な写真付きで鑑賞できるよう配慮されてます。
6
「中にはいってみよう」葉山勉
(2010年11月号・第308号)
作者は建築家であり大学教授でもある葉山勉さん。建物のなかに入ったときの驚きを疑似体験できる構成は、小学生に「空間」を実感的に理解してもらおうという配慮に満ちています。古今東西の名建築を題材に、ギザギザ、グルグル、まっすぐ、ぐにゃぐにゃ、などなどいろんな「空間」を堪能できます。裏表紙にはフツーの洋室が載っていて秀逸。
7
「迷宮へどうぞ」種村季弘、川原田徹ほか
(1989年1月号・第46号)
なんと迷宮がテーマ!実際の迷宮から伝説上の迷宮まで、西洋もあれば日本のものもあり。とにかく迷宮のオンパレードで、しかも著者が迷宮研究の第一人者・種村季弘って豪華すぎ!この本自体が迷宮に見立てられていて、読書体験は迷宮体験だという。複雑な迷路ほど面白い。次はどんな迷宮に挑戦する?と最後に著者は挑発します。
8
「バルセロナ建築たんけん」森枝雄司
(1992年3月号・第84号)
タイトルが直球ですが、エディトリアル・デザイナーの森枝さん(前回紹介した「トイレのおかげ」の作者)が、バルセロナの有名建築をあれこれ紹介してくれます。もちろんメインディッシュはガウディ。そのほか、ガウディはじめモデルニスモ建築がバルセロナのどこに分布しているかが、都市の成り立ちとも関係することまで紹介するマニア振り。
9
「パリ建築たんけん」森枝雄司
(1994年12月号・第117号)
「バルセロナ建築たんけん」と同じく森枝さんによるパリの建築紹介。ポンピドー・センターやルーブル、オルセー、アラブ世界研究所などの定番建築を巡りつつ、エッフェル塔の歴史を紐解いたり、新しい都市づくりについてラヴィレットのパポンさんに教えてもらったりといった子ども目線のお勉強メニューが却って新鮮です。
10
「街は生きている」小山泰介
(2013年7月号・第340号)
普段なにげなく通り過ぎてしまう街の姿に眼差しを向けてみる。そうすると街の姿が絶えず変わり続けていることに気がつく。そんな発見を促してくれる不思議な内容です。見開きページは街の一部を捉えた写真と、その部分を大きく拡大した写真の組み合わせ。拡大写真からは街を構成するあんなものやこんなものの肌理に迫ります。もう街を素通りできない笑
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以上、10選でした。あと、この他にも番外編として、鳥瞰図の仕組みと不思議を教えてくれる「鳥の目から見たら」(1988年6月号・第39号)や、ヨーロッパの町や村が森と築く関係について紹介する「ドイツの黒い森」(1997年11月号・第153号)、古今東西の橋を味わい尽くす「はしをわたらず はしわたれ」(1991年5月、第74号)もなかなかの読み応えです!
さて、2回にわたって「建築好きなら読んでおきたい『月刊たくさんのふしぎ』【住まい・生活編】10選」と「同【建築・都市編】10選」をご紹介してきました。
福音館書店の月刊誌はまだまだ魅力的なシリーズがあります。そこでまた機会を改めて、『月刊たくさんのふしぎ』の姉妹本『月刊かがくのとも』を対象に、「建築好きなら読んでおきたい『月刊かがくのとも』10選【ぎじゅつのとも編】」をご紹介したいと思いますのでしばしお待ちを。出羽出羽!
【追記:2021年12月8日】
あたらしく建築・都市に関する最新刊が出版されましたので追記いたします。
11
「コンクリートってなに?」細田暁・小輪瀬護安
(2021年1月号・第442号)
わたしたちの生活にとっても身近ながらも、その実態についてなんとなくしか知らなかったりするコンクリートについて、どうやってつくられているのか、どうやって現場で施工されるのか、そもそもなぜ固まるのか、ダムやトンネルはどうやってつくられるのか、補修はどうやって行うのかなどをわかりやすく解説。そして古代ローマから現代に至るコンクリートでつくられた有名建築の紹介も。あわせて弱点や課題についても言及されてる盛りだくさんな内容です。
(おわり)
月刊「かがくのとも」もぜひ。