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長命寺と道明寺

毎年、ひな祭りの頃になると並ぶ桜餅。
クレープタイプの長命寺と、もち米を粗く挽いた道明寺粉を使う道明寺とがあります。
ざっくりと長命寺が関東、道明寺が関西ですが、現代では関東でも道明寺をよく見かけます。
どちらも春を告げる菓子として昔から愛されていますよね。
皆様はどちらがお好きですか?

私はどちらも大好き!
どちらの食感も甲乙つけがたく、毎年どちらも買ってしまいます(笑)。
もちもちした生地と甘いこしあん、ふわりと香る桜の葉のほんのりした塩味。たまりません。

ところで、私はお花見をしたことがほとんどありません。
会社勤めの方は、仕事の一環としてお花見が恒例行事になっていたりもするのでしょうが(新入社員が場所取りをやらされたり)、ずっと非正規だったこともあり、ついでに接客業が多かったこともあって友人とは休みが違っていたりして、なかなか短い桜の咲き揃う期間には集まれなかったのです。

そんな訳で、桜とはテレビなどで見かけるものであり、車で通り過ぎるだけのものだったのです。
数年前、デジカメを購入した機会に、お花見の宴会はないけれど、写真だけでも撮ってみようかな、と地元の桜の名所に出かけました。
どこまでも続く桜並木が見事に咲き誇っていて、夢のような景色でした。のんびりと歩きながら、写真を撮っていたのですが、ふとあることに気づきました。

桜の匂いがする!

それまで私が感じていた桜の匂いは、すべて桜の葉の匂いでした。桜餅であったり、桜フレーバーのお茶であったり。だから、満開の桜の中で、その匂いがするとは思っていなかったのです。
ほんのりとかすかに、しかし確かに桜の匂い。
当時はまだ花粉症デビューしておらず、マスクをしていなかったから嗅ぎとれたのでしょう。それくらい、かすかな、控えめな匂いでした。
そしてたくさんの桜が咲き誇る名所であったから、初めて私の鼻に届いたのでしょう。

桜って、花の時期でも香るんだ。

もっとも、たくさんの桜の中には早咲きで葉桜になりかけているものもあったので、その匂いだったのかもしれません。
ただ、私にとっては初めての発見、そしてものすごい衝撃でした。
私は桜を目で、鼻で楽しみ、大満足して帰ったのでした。

それ以来、桜餅を食べるとあの時の風景が思い浮かびます。

薄くもやのかかったような春の空、鞠のように枝先で咲く花々の淡くも様々な色合い、春風に漂うかおり。
舌にひろがる甘みとかすかな塩味を楽しみながら、胸中にひろがる、あの景色。
すべてが渾然一体となる、あの感じ。

味覚や嗅覚だけでなく、その思い出が加わって、とても幸せな気持ちになります。
だから私にとって桜餅は少し特別な食べ物になりました。

昔の人たちもそんなふうに桜の時期を楽しんでいたのかもしれません。花の時期が終わると柔らかな葉を摘み取って塩漬けを始めます。そうして次の春の準備をしているのですね。繰り返し、くりかえし、そうして素敵な春の訪れを今に伝えてくれたのだと思うと、ありがたいことだな、と感謝せずにはいられません。

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