『悪のオーナー:Mrマクマホン』から読み解く『X』の代償
昨年の今頃『Ⅹ』の物語としてレッスルマニア40年の歴史を自分なりに振り返ったつもりだった。ただ実際には今年の新日本プロレス1・4、5(レッスルキングダム&レッスルダイナスティ)と昨年から話題になっていたNETFRIX のドキュメンタリーシリーズ『悪のオーナー:MRマクマホン』を観て思った事を今回改めて加筆したい。そしてその事は今週末に行われるWWEロイヤルランブルからレッスルマニア41~来年の新日本プロレス1・4東京ドーム大会レッスルキングダム20へと繋がる1年大河に向けてのプロローグとなるような気がしている。
まず先に『悪の~』についての感想的なものとして、この40年をリアルタイムで観続け来たマニアにとってEP6は非常に視聴がしんどい踏み絵のような内容だった事を触れずにはいられないだろう。誤解を恐れずに正直な意見を言えば、元ジャニーズ事務所の優秀なタレントさん達による秀逸なドラマシリーズを今後見る際にそれは自分にとって障害になるのか?という話にも通じる。答えはNOである。それはM-1の過去映像等も然りである。しかし一方で出演作品を一切観たくない演者がいる事も事実である。ありきたりな結論だがあくまで視聴の判断は個々人に委ねられるものだと今は思う。
ヴィンスに対しては私も是々非々である。例えば大昔の話で言えば 1985年辺りを境に当時WWFの大物レスラー(ホーガンからアドニス辺りまで)が猪木時代末期の新日本から一斉に引き上げて来日しなくなった時代は大嫌いだった。今にして思えばこの年にレッスルマニアが始まったのだから当然なのだがこの辺りのヴィンスへの日本プロレスファンの感情は漫画『プロレススターウォーズ』にも描かれているので是非参照頂きたい。そしてWWEを定期視聴するようになった時代に気付いたのが『X』の物語であった。
レッスルマニア40年の歴史とは20年サイクルの繰り返しだったとも言えるし、ヴィンスによる納得のゆく容でのセルフリメイクだったとも思える。
20年は更に少年ファン開拓期の前10年と成長した彼らに向き合う期の後10年に分けられる。具体的には前者のヒーローがハルク・ホーガンからジョン・シーナに引き継がれ、後者はストーンコールドやロック達からザ・シールド世代の時代だった事が証明している。そしてこれはヴィンスによるどちらかと言えばポジティブな側面であり、その一方では優秀だがサイズが満たないベストテクニカルレスラー達がなかなか脚光浴びる事の無いネガティブな側面がWWEには常に存在していた。そんな優秀な彼らを10年に1度ファン達による異様な熱量で押し上げたのが『X(10)』の物語である。
『X』の物語については昨年語り尽くしたつもりだったが『悪の~』を観て改めてその物語の闇深さについて思い知らされた。それはまるで『X』の代償とも言える程に。。。レッスルマニア10でローマ数字たる『X』のゲートを最初にくぐって入場したのがオーエン・ハートだった。オーエンの悲劇については語るのが非常に辛い。彼は早すぎたAJスタイルズであったし、もし馳浩の凱旋帰国が日本人Jr戦線充実期の新日本で無ければ馳vsオーエンは飯伏vsリコシェより20年以上前に伝説を創れたのかもしれない。しかしおそらくオーエンのベストバウトはWMⅩオープニングマッチで実兄ブレットとの一戦となり、故に彼の記憶は悲しい物語となってしまったのだ。
日本では Abema 独占となってしまったが、2025年よりWWEは NETFRIX にて看板番組RAWの全世界配信に踏み切った。そのおよそ30年近く前の90年代半ば日本にスカパーの波で当時WWFのRAW放送が3週遅れで輸入された。当時はWCWナイトロの方がnWoブームで圧倒的需要があったが私はブレット・ハートのファンだったので大興奮だった。しかしその主役ブレットはあっさりとそこから消えた。『悪の~』で描かれたモントリオール事件である。何故当時の視聴背景を説明したのか?それはこれが 1997 年だった事に尽きる。そう!実は私がスカパーに加入したのは『PRIDEー1』つまりは高田vsヒクソン戦視聴の為であった。
1997年の秋。それはプロレスファンが何かを試された時期でもあった。
『最強』を謳っていた高田延彦がリアルファイト=ガチで当時プロレス側からは最大の侵略者?たるグレイシー柔術のヒクソンに敗れたのである。余談になるが私はスカパーにて自宅で視聴していた事もあるが正直それほどのショックを受けなかった。理由はいずれどこかで詳細に語りたいが既に私の大ファンだった高田延彦≒Uインターが消耗され尽くしていた。。。否!その全てで高田延彦がそれまでのあのオーラを全く魅せてくれなかった事に尽きたと今だから冷静に思う。それとほぼ同じころアメリカではブレットvsHBKによるモントリオール事件が起きた。その是非はともかくプロレス団体が他団体に移籍するレスラーに勝ち逃げ(実際には引き分け防衛で返上)される事を恐れ約束を破りゴングを鳴らし勝者を覆したのである。これもまたプロレス業界におけるガチであったのだ。私はこの2つの出来事をリアルタイム映像で体験したものとして『1997年のガチ』と記憶している。そしてプロレスというものを考えた時に真のガチとは何なのだろう?という問いの一つの答えが逆シャープシューターでゴングを鳴らされた後のブレットの表情に込められていると思っている。
結局ブレット・ハートのWCW移籍とは何だったのだろう?と今でも思う。本来であればスティングとのスコーピオンデスロックvsシャープシューター対決が期待されたのだろうが、それはツンツン頭の日本に良く来ていた時代のスティングが相応しくアメコミ『クロゥ』に変身したスティングのペイントが白でも赤でも世界観がスレ違っていたと思う。唯一良かった事は『Ⅹ』の物語レッスルマニア20の主役クリス・ベンワーとのベストテクニカルマッチが数回実現した事に尽きる。実際ベンワーの真のアメリカでの快進撃が始まるのもこの継承マッチを行ってからだったと思う。現在WWEにおいてオーエンとベンワーはその名前を挙げる事自体がタブーとされてきたと思う。『悪の~』の良い側面があるとしたらこの2人がその取り上げられ方はともかく再び歴史に光をあてられた事だと思う。
さて『悪の~』では知ってるつもりで全く私が認識してない事も多く取り上げられていた。クリス・ベンワー事件が現在にも続く脳震盪の影響に関するポリシーのきっかけになった事は全く知らなかった。ある時期までのプロレスマニアにとってステーキハウスリベラは聖地の一つだったと思う。まだコロナ禍となるちょっと前に私も何度か通ったがその際店長に思い切ってある質問をした。レスラーとの記念写真でクリス・ベンワーとAJスタイルズが隣に飾ってあったのでそれは意図的にか?伺ったところ別のマニアのお客様からアドバイスされたそうしたとの嬉しい回答だった。実際にベンワーとAJ達の米インディ世代に接点があったのかは不明であるのだが多くのマニアはそのフィニッシュからベンワーとダニエル・ブライアンに継承的な何かを感じていたと思う。ベンワーの悲しい事件からブライアンのNXT登場までが僅か数年と思われるとこの継承的な試合が実現できなかった事は本当に悔やまれてならない。。。
2016年 AJスタイルズの新日本からWWE移籍には心底興奮したのを覚えている。それはレッスルマニア32でレッスルマニア12でのブレットvsHBK(モントリオール前の名勝負)がアイアンマンマッチでのメインは無理としてもAJvsブライアンで再現されるのでは無いかと思ったからである。しかしAJがロイヤルランブルにサプライズ出場(余談だがこの登場とほぼ同時刻に新日本プロレスワールドで中邑真輔が退団会見を行っていたので当日私はWWEネットワークと2窓で同時視聴したのを覚えている)した直後に脳震盪ダメージによるウエルネスポリシーに従いブライアンがRAWでリタイアを宣言したのである。後にブライアンはこれを克服し復帰後AJ戦は実現(日本でも両国でのサモア・ジョーとの3WAYで実現)したのだがこの時のショックは個人的にはブロディ刺殺でハンセン戦(或いはハンセンとのタッグでロードウォリアーズ戦)が流れたくらいのものだったと言えば私がどれほど当時落胆したかお分かり頂けるだろうか?私はレスラーの怪我等を茶化すつもりは毛頭ない。しかしながら昨年何かに憑りつかれたように語った『X』の物語を今回『悪の~』を視聴し更に闇深く認識させられた。そして『X』の代償とはサイズを落とした現代プロレス界にも何等かを意味するものである気もしてならないのだが考え過ぎだろうか?
今回も長文になってしまったが『X』について昨年春のレッスルマニアXLでは終結できなかった先の物語を語って今回の締めとしたい。私はあの時点で4回目の『X』の物語の主役候補としてコーディ・ローズ、セス・ローリンズ或いはそれは女子に継承されイヨ・スカイ(元紫雷イオ)では無いかと予想していた。なんとなくそれも間違いでは無かったように思う。実際コーディクライベイビーズはその条件に限りなく符合していたとも思う。また実際の試合ではサミ・ゼインがグンター相手にDDT来日マスクマン時代の難技ブレ~~ンバスター(コーナーポストへの雪崩式垂直ブレーンバスター)を解禁した事で安易にこれを『X』的なものと判断もした。しかし現時点でのUpdateした見解ではやはりヴィンス不在のレッスルマニアに『X』の物語は降臨しなかったが結論になると思う。『X』の物語にはまるでAKB総選挙が本来の目的は秋元康氏によるゴリ推しを年に1回ヲタ投票で選抜メンバーを投票するイベントがメジャー化する事で結局TV露出度の高いタレントのオーバーキル勝利になってしまった結末になんとなく近いものを感じるのである。そしてこれはヴィンスが去ったWWEには必要のない物語になってしまったと1年経って感じる。ところがそれは全く予想しなかった別の舞台で花開いたのである。
実は私は『X』の物語は昨年新日本を辞めAEWに移籍したウィル・オスプレイに継承されたのだと内心思っていた。しかし心のどこかで『X』の匂いを素直にオスプレイから感じられない部分で葛藤もしていた。前にも語ったが私は 2017年にから新日本プロレスの動画視聴を辞めていたのでオスプレイの試合映像を観た事が無かった事もある。しかしいろんな理由で昨年末8年の歳月を経て新日本の映像視聴を解禁した。賛否覚悟で私は新日本でのオスプレイのベストバウトは例のラストマッチという結論であり、AEWでの2025年に入ってからの映像もようやく観た。これに関してはただただケニー・オメガも含めてオスプレイには何かを代表して謝りたい気持ちである。それは『君たちをテリー・ファンクにしてあげられなくて本当にすまない』であった。彼らは『X』の物語から解放された世界を既に選んだのである。
ここまで語ってきてもうお察しの方は多いと思うが4度目の『X』の継承者は 2025年の1・4~5ドームで史上初外国人レスラーでメインを締めたZSJザックセイバーJrである!やはり歴史とは終わってみないとわからないものだ。ただ恥ずかしながらそれは昨年ザックがブライアン・ダニエルソンと継承マッチを行った時点で気付くべきものだったのも事実であり、それはレッスルマニア時期に近かった。それにしても私の最も好きだったAJスタイルズは無理にしても前述のケニー・オメガもウィル・オスプレイも四皇『カイドウ』たるオカダ・カヅチカが在籍中には決してどんなに日本を死して優秀であっても外国人レスラー達はかつてのテリー・ファンクにはなれなかたのである。逆説的に言えばあの当時の全日本プロレスはテリーをエース?にしなければならない事情があったとも言えるのだが。。。
誰もいなくなった時にザックの類稀な才能は改めて『X』の継承者として浮かび上がったのである。またリコシェの存在も逆説的にそれを証明してくれた。ハイフライヤーとベストテクニカルレスラーとは似て非なるものである。ザックvsリコシェとは1.5とはいえ東京ドームのメインと言うリスクを承知で新日本が全世界に向けたはなったリクルートCMだったと思うと納得できる。この事は長年疑問?であったレッスルマニア11でのバンバン・ビガロとNFLスーパースターLTのメインを紐解く一つの鍵にもなった気がする。では海野翔太とは何を暗示していたのか?今週末WWEロイヤルランブルの勝者が確定した時点で今年の『物語』について語りたいと思う。