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いちご戦国時代
いちご戦国時代
冬になると季節柄、カフェ、パーラー、ファミリーレストラン、スイーツショップで取り扱われるいちご。間違いなく冬の果物の代表だろう。近年では農家直営のカフェも多くなり、正にいちご戦国時代だ。その隆盛は凄まじく、毎年各県で新品種いちごが誕生し、メディでも大きな話題となっている。
代表品種
各県を代表する品種を少しだけ羅列してみよう
栃木県 とちあいか 福岡県 あまおう 埼玉県 あまりん
静岡県 きらぴ香 香川県 さぬき姫 徳島県 さくらももいちご
佐賀県 いちごさん 愛媛県 あまおとめ 奈良県 古都華
茨城県 いばらキッス 宮城県 もういっこ 熊本県 ゆうべに 等
次は白いちご
パールホワイト しろうさぎ 初恋の香り エンゼルホワイト 淡雪 等
赤も白もほんの極一部。
今こうしている間にも、どこかで新たな品種が誕生しているかもしれない。
群馬県代表 やよいひめ
そんな数ある苺だが、ここ群馬県にも県を代表する苺が有る。それが「やよいひめ」だ。品種登録されたのは2005年。
登録年度は2005年だが流通自体は1990年代頃にはあった様に記憶している。上で紹介した苺に比べると色合いがやや薄く、赤と言うよりは、ピンクに近い、可愛いらしい色をしている。名前から分かる様に、「弥生」。つまりは他の品種が最盛期を過ぎた頃に味がピークになる。言うなれば春苺だ。近年では生産技術の向上もあり、味のピークが長く、1月中旬~春先まで楽しめる。しかし、やはりその名の通り是非春先に楽しんで頂きたい。
「やよいひめ」の地名度
群馬県生まれ、群馬県育ちの私としてみれば、物心が着いた頃から馴染みのある品種だが、全国を見渡せばどうやらそうでは無い様だ。近年はSNSを通して各県の青果店、専門店、仲卸など、同業の方々との交流も増えた。その中でやよいひめの取扱が極端に少なく、場所によってはその名前さえ知られていない。それは何故だろうか?私なりの仮説を立ててみた。
メディア戦略と農家の視点
群馬を除く各県で近年栽培される新品種のいちご。その多くがメディアで取り上げられる時、大半の見出しは「高級大粒いちご」。
つまり栽培過程において、県、農家がブランディングを固めて市場への投下している。品種もさることながら、箱のデザイン、ネーミング、コマーシャル等にも目を見張る物がある。
まずは箱のデザインだ。
印象としては西日本~九州にかけて箱のデザイン性が高く、高級感がある。何故この様な差が生まれるのか?これには農家の視点に大きな差がある様に思う。先に紹介した西日本から九州にかけては百貨店や高級果実専門店での取り扱いをイメージしてデザインやパッケージグが施されていることが伺える。それでは群馬県ではどうだろうか?群馬に有る苺農家を訪ねた事がある。そこで感じたのは納品先が百貨店や専門店ではなく、大手量販店が大半を占めていた。つまり、エンドユーザーの設定が大きく異なると言う事だ。果物に限らずブランディングを施す時、重要になるのがこの視点だろう。
次にネーミング。
埼玉県が押し出している「あまりん」は名付け親が笑点でお馴染みの落語家林家たい平師匠だ。著名人が名付け親となって話題を呼んだのも記憶に新しい。(余談だがあまりの親品種はやよいひめ)。近年登場する苺のネーミングと言えば、語呂感や覚え易さがある。一昔前で言えば、「おとめ」や「ひめ」もしくは「ベリー」がが主流だった。福岡あまおうの登場からその流れは大きく変わった様に思う。苺らしからぬ名前で、4文字以内。これがヒットの要因なのかもしれない。
いちごの例とは異なるが、柑橘でも、似たような事がある。
まず筆頭となるのは熊本県の「デコポン」だろう。そのユニークな見た目と親しみやすいネーミングがそれまでの柑橘のイメージを大きく変えた。
もう一つは愛媛県の「紅まどんな」だ。各産地毎で「紅まどんな」に似た特性(ゼリーの様な食感)を持った柑橘は登場していたが、それ程有名になる事は無かった。「紅まどんな」と言うネーミングの勝利だろう。
情報流布のスピード
「あまりん」が市場に登場した時に、驚かされた事がある。
それは一般消費者への認知の速さだ。
九州福岡県を代表する大粒苺「あまおう」
約20年程前にメディアで大きく取り上げられ、高級大粒いちごブームの火付け役となった。しかし、実はその歴史は深く、一般的に多く知れ渡ったのは市場に登場して20年ほど経ってからだった。
先述した「紅まどんな」もそうだ。
10年以上前から取り扱いを始めた様に記憶している。
一般的に認知度を高めたのはここ5年程だろう。
「あまりん」が品種登録されたのは2019年。
それらと比べた時に、「あまりん」の認知度の広がり方は驚異的と言えるだろう。SNS時代において、果実のマーケティングの成功事例と呼べるのではないだろうか?
群馬いちごの失策
上記で紹介した様に、群馬にも県を代表する苺が存在する。
先述した通り本来の苺がピークを終えた春先に真価を発揮する苺だが、それを知っている人はあまりにも少ない。
県を始め、生産者、販売元が糖度や甘さに着目するが故に、「やよいひめ」の本来の持ち味をないがしろにした結果だろう。
そして、「やよいひめ」を売り出したタイミングだ。
本来、ピークを終えた果物はそのシーズンの需要も下り坂になる。
勿論、いちごも例外では無い。「やよいひめ」が誕生した頃、3月は苺も下火になる頃だ。マーケティングや販売において、売れない時期に売るのは販売や営業のプロにとっても容易な事ではない。
売れる時期と売れるタイミングで売るのがセオリーだ。
図らずも高度な販売戦略が必要とさせる強みを持って生まれた「やよいひめ」。品質が高いだけに悔やまれる。
群馬いちごへの期待
しかし、時代は変わった。
インターネットの登場、SNSの普及、Eコマースの進展、いちご市場の需要の変化、これらの要因が揃った今、「やよいひめ」の勝機が垣間見える。
情報流布の速さは前述の通りだが、現代はEコマースと輸送によって「群馬いちご」を全国へ届ける事が出来る。
「夏いちご」も登場した事で、いちご需要は年間を通すものとなった。
「やよいひめ」は3月が最盛期となり、6月上旬くらいまで出荷される。冬と夏を繋ぐ、高品質いちごとして元々の強みを生かしたブランディングが可能となる。
HashimotoFrutisでは上記の特徴を生かし「やよいひめ」のを全国へお届けしようと思う
いちご戦国時代は始まったばかりだ。