試合で本当に使える"止める"技術とは。
川崎フロンターレの好調振りとともに再び注目を集めている風間八宏さんの提唱する"止める・蹴る"の技術。
今回は、その内の"止める"の方に注目し、試合で本当に使える"止める"技術について徹底的に考察してみたいと思います。
止める蹴る理論について
まず、風間さんの止める蹴るについての書籍の内、出版元から公表されている部分を基に考えてみましょう。ここで断っておきますが、一応僕はこの書籍に目を通してはいるものの、風間さんの理論を完全に理解できている訳ではなく、ここで風間さんの理論を否定しようとする意図はありません。ただ世間一般で"止める蹴る技術"として浸透してきていると感じられるものに対して個人的な見解を述べるというだけなので、そこは理解した上で読み進めて頂けると幸いです。
上の画像から分かるように、"止める蹴る理論"の基本はボールの上半分の一点を母趾球の辺りで触り、ボールを完全に静止させるというものです。
このボールの止め方は、トップスピンで転がってくるボールを逆向きに回転させる力を加えることで、ボールの回転を殺そうとするものであると言えます。
確かに、この触り方(力の加え方)をすると転がってきたボールの回転と逆向きの力を加えることはできますが、同時にボールを地面に叩きつけるような力を斜め下向きに加えることになります。
これによって、ボールが浮いてしまうのかどうかは様々な条件を考慮せねばならず、一概には言えませんが、ボールの真ん中を触った場合に比べると浮いてしまう確率が高くなってしまうのは確かです。実際に、以下の動画を見てみるとボールの上側を触った時にボールが浮いてしまう傾向があることが分かると思います。
ただし、上の動画からも分かることですが地面に叩きつけるような力が加わる分、浮いたとしてもボールが足元から大きく離れる確率は小さくなります。そういった意味ではボールの上側を触るというのはとにかく足元からボールを離さずにトラップしたいという時には使える技術かもしれません。
さらに、もう一つの例として最近よく見る中村憲剛選手の止める蹴るの練習を見てみましょう。36秒からの2つのシーンがとても分かりやすいので比較して見てみてください。
どちらのシーンでもボールに触れている位置はボールの上半分です。
1つ目のシーンでは、ボールの上側を触った後もボールに足を被せるようにしてボールを押さえつけていたので、ボールは綺麗にピタッと静止しました。
一方で、2つ目のシーンではボールに触った後、足をすぐに落としにいったので、ボールは少し浮いてしまい、ボールを静止させられたとは言い難いでしょう。
この2つのシーンの比較から言えることは、ボールの上側を触ってボールを確実に静止させようと思えばボールが静止するまでの間ボールの上半分に足を被せるようにして置いておかなければならないということであり、これは試合で使う技術としてはロスが大き過ぎるでしょう。
また、"止める蹴る理論"は、ボールによらず全て同じ位置を同じ足の部位で触るというもので、ボールに応じて触り方を調節する術がなく足元に止めるにもそれ以外の位置に止めるにも応用が効きにくい技術であると考えられます。ボールに応じて加えるべき力の大きさや向きは変わるのに全て同じ触り方をしろというのは無理があるでしょう。
トラップに用いるパラメータ
では、様々なボールを止めるために変動させる部分(つまりパラメータ)としては何が考えられるでしょうか。
ボールを止めるためには、ボールと足をうまく衝突させることが必要であり、衝突前後の挙動を決めるのは簡単に言うと、二物体の速度と反発係数(つまり衝突した時の跳ね返りやすさ)であると言えます。そう考えると、ボールを止めるために使えるパラメータは以下の3つにまとめられると言えるでしょう。
・足の引き方
足を引いてボールの勢いを吸収するようなイメージの動き。水平方向の足の速度。
・足の落とし方
足を鉛直方向に落としながら当てることでバックスピンをかけて止める。鉛直方向の足の速度。
・足を当てる位置
足の柔らかい位置に当ててクッションのように吸収するのか、硬い位置に当てて弾くのか。また、ボールのどの位置に当てるのか。
これら3つの組み合わせで"止める"技術が構成されていると考えることができます。
それでは、これを基にシャビの"止める"技術を見てみましょう。
シャビの"止める"技術
この動画はシャビがファーストタッチについて熱弁しているものですが、ボールへの触り方を見てみると、特に体の正面にボールを"止める"時に大袈裟なほどに足を落としボールを切るようにしていることが分かると思います。シャビは上で挙げたパラメータの内、足の落とし方を重要視していると考えて良いでしょう。
足を落とすことを強調するメリットとしては次のプレーへの移行が速くなることが挙げられます。もしも足を引くことを強調した場合、毎回タッチした足はボールから遠くに置くことになり、遠くに足を置かなければいけない分タイムロスも生じることになります。
ただし、典型的なコントロールオリエンタードで横向きに向きを変えながらボールに触るような場合は、自然に体の向きを変える動きで足を引く動きを実現しており、足を引きながら落とすような動きになっています。これは足の引き方と足の落とし方をうまく組み合わせた技術であると言え、これが"止める"技術の本質であると言えるでしょう。
"止める蹴る理論"について考察した際には試合の文脈で使える技術とは考えにくいと述べたのに、このような切り取った練習の動画でシャビの技術について語っても仕方がないので、今度はシャビの試合の動画を見てみましょう。
※ここから先は有料エリアになります。
単品購入は以下のマガジン内から該当記事を選んでご購入ください。
また、月額制の定期購読マガジンであればよりお得に、しかもこれまでの記事(約20本)もすべて読めますのでぜひ以下のボタンからご購読ください!
ここから先は
FC pSols magazine
フットボールを思考するマガジン。リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的な思考で変革する。を理念にFC psolsトレーニングチームが…
Kicking lab
キックコーチ田所剛之によるトップ選手のキック分析記事をまとめて読めます。過去の記事も全部読めます。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?