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インステップキックの当てる位置は靴紐の結び目?最適なインパクト位置を数式で証明してみた。

インステップキックはサッカーのキックの中でもインサイドキックと並んで最も基本的な蹴り方でありながら、実はかなり難易度が高いキックです。

初心者はそもそもインステップと呼ばれる足の甲の部分に足を当てること自体が難しくトーキックに近い蹴り方になってしまうことが多いのはイメージがつくかと思いますが、ある程度ボールが蹴れる選手でも力の伝達にロスがありまだまだ伸び代を残していることが多いです。

今回の記事では、蹴り足の振りで生み出したエネルギーをロスなくボールに伝えるためのインパクトの仕方を詳しく解説します。

インステップのインパクトに関する一般的な認識としては

・硬いところに当てる
・靴紐の結び目あたりに当てる
・足首を固める

といったあたりが考えられるかと思いますが、それぞれの要素は本当に正しいのかを力学的に考えていきます。


力を逃さず伝えるには?

良いインパクトの条件は、蹴り足で生み出したエネルギーをボールにロスなく伝える、つまり蹴り足からボールへと力を逃さずに伝えることです。

そこで重要になるのが、力学の基本原理である作用・反作用の法則です。
簡単に言うと二つの物体が力を及ぼし合う場合、両者には逆向き同じ大きさの力が常に加わるということです。

ボールを蹴る場合で考えると、蹴り足からボールへ大きな力を加えるということはボールから蹴り足に対しても大きな力が返ってくることになります。

キックと同じ打撃系の動作で言うとパンチが分かりやすいかもしれません。壁を思い切り殴ると拳側にも衝撃が返ってきて拳を痛めるというのは容易にイメージできるかと思いますが、キックでもこれと同じことが起こりインパクト時には蹴り足にも大きな衝撃が加わることになります。

この衝撃によって足首がぐらついてしまうとボールに伝わるはずの力が逃げてしまい、インパクトの質が落ちてしまいます。

よって、良いインパクトを実現するための重要なポイントは足首がぶれないようにすることであると言えます。

これには大きく分けて2つのアプローチがあり、この後それぞれ詳しく解説していきます。

アプローチ①:足首を固める

良いインパクトの条件である、足首をぶらさないことを実現するための最もシンプルな方法は一般的にもよく言われる"足首を固める"ことです。

これはつまり足首の角度が変わらないように固定することですが、インパクトの質を考える上ではどの角度で固定するかが重要になります。

足首を固める=伸ばし切る

答えは足首を伸ばし切る(つま先が脛から離れる方向)ことです。

インパクト時にボールから蹴り足に返ってくる衝撃は基本的に足首を伸ばす方向に作用します。

この衝撃はかなり大きく足首が伸びないように筋肉が頑張って対抗するのは難しいので、足首を伸ばし切ることで関節の構造上それ以上は動けない形を作ってしまうことがポイントです。

この動きは特に初心者にとっては難しいのですが、簡単に練習法をあげるとするとインステップでの無回転リフティングです。

ちゃんと足首を伸ばさないとボールがつま先に当たってどうしてもバックスピンがかかってしまうので、自然と足首を伸ばす動きを引き出すことができます。

このような脱初心者のための練習法みたいな内容はまたいつか記事にします。

伸ばすのはインパクト直前だけ

足首を伸ばす動きに関して一つ実践的なポイントを挙げるとすると、足首を伸ばすのはインパクトの直前だけということです。

他の競技で言うとパンチは力を抜いておいて当たる瞬間だけ拳を握るとか、バッティングは当たる瞬間だけグッと力を込めるとか色々な例が挙げられますがこれに似たことがキックにも言えます。

これは実際に体を動かして体感するのが分かりやすいかと思いますが足首を思い切り伸ばした状態で膝を曲げ伸ばししようとすると筋肉の関係によって抵抗がかかるような感覚になり特に膝を曲げる動きが出しづらくなるかと思います。

また、同様にして足首を伸ばし切った状態から膝の曲げ伸ばしを高速で行ってみると、足首にスナップがかかるような形になりつま先が上がる向きの動きが誘導されやすくなってしまいます。

以上のことから足首の固定(伸ばし切る)が早過ぎると、足が振りにくくなるのに加えて実はインパクトの瞬間には固定が外れてしまいやすくなるので、足首の固定はインパクトの直前に行う必要があります。

初心者のインステップキックでは、早い段階から膝も足首も伸びて一本の棒のようになってしまって効率よく蹴り足を加速できない上に、蹴る瞬間には足首が曲がってしまうようなエラーがよく見られますが、これは足首の固定を適切なタイミングで適切な方法で行えていないことも一つの原因です。

アプローチ②:インパクトの位置を最適化する

もう一つはボールを当てる位置を最適な位置にすることです。1つ目のポイントとして挙げた足首の固定よりもこちらの方がインパクトの質に大きく影響します。

インパクトの位置としてはなんとなくつま先ではだめで靴紐の結び目に近い位置が良いとか、足の骨の硬いところに当てるだとか言われますが、本当に正しいインパクト位置はどこなのかを力学的なモデルを用いて正確に説明します。

この先は少し難しい数式が続きますが、最後の結果だけ見れば十分に内容は分かるので興味のある方以外は読み飛ばしてください。

剛体棒と質点の偏心衝突モデル

ここで使うモデルは下図のように、蹴り足を一本の棒(剛体棒、質量M、重心周りの慣性モーメントI)として速度Voを持った状態で質点(質量m、回転は考えない)にぶつけるというモデルです。

このモデルを用いて、下図のように衝突後のボールの速度をVb、蹴り足の重心速度をVg、蹴り足のインパクトした点の速度をVi、蹴り足の重心周りの角速度をω、蹴り足の重心からインパクト位置までの距離をa、反発係数をeとして衝突後の運動を計算してみましょう。

簡単に結論を述べておくと、蹴り足の重心にボールをインパクトさせるのが最適です。この先でその理由を厳密に説明しますが、わざわざ数式を用いて考えるメリットはなぜこれが最適かを理解できるだけでなく、最適な位置からズレた時の影響や、他の要素との貢献度の差を定量化できる点にあります。


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