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鎌田大地のゴールから考えるドライブシュート。デ・ブライネ本人による蹴り方解説付き。

今回はこちら。鎌田大地が決めたトップスピン(縦回転、順回転)で鋭く真下に落ちる、いわゆるドライブシュートを分析します。

ドライブシュートはキャプテン翼のイメージが強く、特に今のサッカー少年のお父さん世代の方々なんかは一度は練習しようとしてみた経験があるのではないでしょうか。実際に試合で使えるレベルでドライブシュートのようなボールを蹴れる選手はトップレベルでも少ない印象ですが、今回の鎌田のシーンのように低めのボールで落ちるボールは一定数見かけます。

あとは、縦落ちと言えばなんと言ってもデ・ブライネのフリーキックですね。フリーキックだと壁を越えないといけない分、高さが必要で上記のシーンに比べてキック自体の難易度は圧倒的に上がるんですが、それをいとも簡単にやってのけるのがデ・ブライネです。

デ・ブライネのこのフリーキック動画は、画角的に縦回転を生み出すメカニズムが最も分かりやすいので、後ほど解説します。

そして、何よりこの動画の面白いところはデ・ブライネ本人が蹴り方を解説してくれているところです。その点も後ほど詳しく見ていきましょう。

そもそもドライブシュートは有効?

まず、考えないといけないのはそもそもドライブシュートは実際のゲームにおいて有効であるのかという点です。蹴れる人が少ないからと言って無条件に価値がある訳ではないですし、その有用性を正確に理解した上で自分のプレーに取り入れるべく練習すべきかを判断すべきです。

ドライブシュートの利点は今回の分析対象である鎌田のゴールシーンに表れています。

僕はこのシーンを最初に見た時にキーパーは止められなかったのかという疑問を抱きました。僕はキーパーの技術については素人なので、キーパーをやっている方やキーパーコーチの方々に意見を聞いて考察した結果、キーパー側の改善点は考えられるものの縦に落ちるボールの処理は難しいという結論に至りました。

その理由は、ボールを触りに行くキーパーの動きとボールの動きのずれが最大化されるからです。これだけだと分かりづらいので順を追って説明していきます。

キーパーの予測と反応

まず、キーパーが飛んできたボールにどのように反応しているかを考えてみましょう。

一般にトップレベルの選手の全力シュートの初速は時速100km前後になると言われています。空気抵抗による減速や試合中はそこまで思い切り打てないことなどを考慮しても平均速度は時速70km(秒速約20m)くらいにはなると考えられるでしょう。

この場合、ペナルティエリアの外辺りからシュートを打った場合、キーパーの手元へは0.8~0.9秒の間に到達することになります。その間にキーパーは軌道を予測しそれに合わせて自分の身体のどこか(基本的には手or腕)がボールに触れるように自分の体を移動する必要があります。

そして、ボールを見てから動くまでの間には当然タイムラグがあります。視覚刺激が与えられてから動き出すまでの反応時間を計測するような研究は多数あり被験者や課題の種類によって値は大きく異なるのですが、どんなに単純な課題でも0.3秒ほど、判断を含むような課題になると0.7秒かかるようなこともあります。

ボールの動きを見て動作を完了するまでが仮に0.5秒でできるとして(実際にはもっとかかると思います)、ギリギリまでボールを見極めてから動いたとしてもその時点でボールは半分ほども来ていないことになります。鎌田のシーンを見れば分かりますが、ボールに回転がかかっていたとしてもこの時点ではまだボールの軌道に大きな変化は生じません。

よって、キーパーがボールを触りに行く際にはまだボールが変化していない時点でボールの軌道を予測して跳ぶことが必要になります。

変化の方向と反応のしやすさの関係

キーパーが予測したボールの軌道に合わせて跳ぶ時、自身の体の運動方向を変えられるのは基本的に地面が足に接している間です。力学的に言うと物体の運動を変化させるにはその物体に力を加えることが必要で、足が地面から離れてしまうと体には重力しか働かなくなってしまうため、ボールに合わせた調節はそれ以上できないことになります。

そう考えると、ボールが打ち出されてすぐの視覚情報からその後のボールの軌道を予測して跳んだ先と実際のボールの到達位置がずれてしまった場合、対応するには腕や足を動かしてボールを触りに行くしかありません。

まず、上図のようにこのずれの方向がキーパーの体の運動方向と平行な方向であった場合を考えてみましょう。これはカーブをかけたようなシュートに対応します。
この場合、変化量が大きいと触れない可能性はあるものの、触りに行こうとする方向とボールの方向は一致しているため、触ることのできる確率はある程度高いでしょう。

一方で、上図のようにキーパーの運動方向とボールが変化する方向のずれが大きい場合(垂直に近い場合)はどうでしょうか。これは鎌田のゴールシーンで生じた変化と同様の変化であると言えます。
この場合、キーパーから見るとボールを触りに行こうとしている方向からボールが突然消えてしまうような形になります。ボールに触れるためには予測した到達位置に対して伸ばそうとしていた手を下に下ろしてピンポイントで当てに行く調節が必要になります。
ボールが変化し始めるのはボールがゴールにかなり近付いた位置になるので、この対応はかなり難しいと考えられます。

以上のことから、ボールに変化を加えることによってキーパーが触りにくいシュートを打つことを考えると、キーパーの初期ポジションと狙う位置を結んだラインに直行する方向に変化するボールを蹴り込むことが有効であると考えられます。
ゴールの左下に蹴り込む場合はキーパーは左方向に真っ直ぐに近く跳ぶことになるので縦に落ちるボールを、左上に打つ場合にはキーパーも斜め左上に向かって跳ぶことになるので、左方向に曲がりながら落ちるようなボールが最も取りにくい可能性が考えられます。

ドライブシュートの蹴り方

以上がドライブシュートが実践上有効な技術になり得る理由です。

続いて、ドライブシュートの蹴り方を解説していきます。ドライブシュートが実際の試合で見られた代表的なシーンと言えばデ・ブライネのフリーキックかと思います。デ・ブライネが縦に落ちるフリーキックを解説している動画があったので、まずはその内容を基に考えてみたいと思います。

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