星なき夜の散文抄
今はただ、俺の目に映る君の表情が、濁らなければそれでいい
立ち尽くす夜は、どこまでも広く、ただ長い
無音の闇に吹く紫煙は、立ち上りて行く先を知らない
打ち尽くす度、猛る心を蠢く老木の枯れ枝が嘲笑い
声にもならない叫びは遠く掻き消される
そういう夜を、ただ惑う
骨脈、蠢動、嗤う末節
眼前には枯木
影は無様
警告の音叉
白骨は重く
肉は爆ぜ
関節は軋み
風は遮る
沈黙は止まず
草木は唄わず
星なき夜に光なし
ただ横たえる我が身に拠れば
無遠慮に照らす十条の灯りが
溶ける事は儘ならず
起き上がることも儘ならず
絶えた瞳に映す光は
どこか遠く、掴み難い
ただこの街を形作る
一つの部屋の明かりになりたいと
そう願って歩んできた。
その路に陰りはなくとも
遠く儚いことに変わりはなく
雪田の只中で見た光明は
夜の中でも何一つ
あの時と変わりはしなかった。
君と見る、それぞれの項を捲りながら
俺たちは、どうしても二人で居たかったから、そうしていることを知り
俺を見る
君の表情があまりにも、どうしてもそうしたかったのだと言わんばかりの悦びを湛えていることを知り
尚もって離したくはないと思う
我が身が世闇に溶けても、心の臓の鼓動は止まず
刺し貫く街の光も消えず。
ただ、離したくはないと刻む
世闇から身を上げて見る我が影は、無様な上に矮小で
嘆きたくなるその気持ちは
やはり君の
陰る世闇を打ち消したく
夜の闇に、荒れた吐息を吐き散らかす
俺たちは未だ不恰好で
それでも互いに寄り添いながら
離れ難い夜を追い憶い
そうでなければならなかったのだと
重くなる鼓動に気持ちを重ねる。
世闇のひび割れた道を振り返り、来た道が改めて
果てのない闇夜だと知る。
今はただ明日が
君にとって穏やかな
そんな日であることを願う
この路に間違いはなしと
誓い歩いたこの日々に
今は果てが、ただ一つ
街の小さな部屋の明かりであればいいと
待つ君の小さな瞳が
陰ることがなければと
ただ
切に願う。