見出し画像

【読書メモ】クリティカル・ビジネス・パラダイム

タイトル:クリティカル・ビジネス・パラダイム
著者:山口 周
出版社:プレジデント社


第一章 クリティカル・ビジネス・パラダイムとは?

これらの企業が短期間に非常な成長を遂げた理由は一つしかありません。それは、「市場に存在しない大きな問題を、企業の側から生成することに成功したから」です。(中略)これらの企業は「新たな問題を発見」したのではなく「新たな問題を生成」したのです。

ではどのようにして、彼らは市場に新たな問題を生成したのでしょうか。答えは「あたかも哲学者やアーティストのように、社会を批判的=クリティカルに眺め、考えることによって」です。

アファーマティブ・ビジネス・パラダイム
投資家、顧客、取引先、従業員などのステークホルダーの既存の価値観や欲望を肯定的に受け入れ、彼らの利得を最大化させることを通じて自己の企業価値の最大化を目指すビジネス・パラダイム

クリティカル・ビジネス・パラダイム
投資家、顧客、取引先、従業員などのステークホルダーの価値観を批判的に考察し、これまでとは異なるオルタナティブを提案することを通じて社会に価値観のアップデートを起こすことを目指すビジネス・パラダイム

従来のソーシャル・ビジネス(中略)とは対照的に、クリティカル・ビジネスでは、運動を開始する時点では必ずしも多数派のコンセンサスが取れていないアジェンダについて取り組む、というのが大きな違いです。

多くの人が考えているのと異なり、実は「問題」というのは「現状」の中に内在しているわけではないのです。(中略)「問題」というのは、元からどこかにあって発見されるようなものではなく、私たちが認知的に「新たに生成するもの」だからです。
デザイン思考は(中略)新しい問題を認知的に生成することは原理的にできません。

第二章 クリティカル・ビジネスを取り巻くステークホルダー

現在の私たちは、顧客の美的・倫理的感性を引き上げるようなクリティカル・ビジネス・パラダイムを必要としているのです。

顧客はその要望、欲求を伺って充足させるべき相手ではなく、むしろ消費を含めたライフスタイル全般に関わる思考・行動様式を改めるために批判・啓蒙の対象になるというのがクリティカル・ビジネス・パラダイムの考え方と言えます。

第三章 反抗という社会資源

私たちは「敵との大きな差異には我慢できるものの、味方との小さな差異には我慢がならない」からです。

否定神学では、神に関する知識や理解を「神とは何か?」という論点に基づく考察ではなく、「神とは何でないか?」という論点に基づく考察を通じて把握しようとします。

第四章 クリティカル・ビジネス・パラダイムの背景

英国の哲学者、ケイト・ソパーは、近年、特に一定の世代以下で顕著に見られる、環境や社会へ配慮したライフサイクルや消費スタイルは「自己利益を抑制すること」・・・つまり一種の「痩せ我慢」によって駆動されているのではなく、むしろ「環境や社会への配慮が自己利益として内部化されること」によって駆動されている、と指摘しています。

第五章 社会を変革したクリティカル・ビジネスの実践例と多様性

第六章 アクティヴィストのための10の弾丸

(1)多動する
「体を動かす=物理的な多動」と「心を動かす=精神的な多動」、両者に共通しているのは「常識の相対化」ということです。
ロシアの文芸批評家、ビクトル・シクロフスキーは、慣れ親しんだ日常的な事物を奇異で非日常的なものとして知覚するための手法として「異化」を提案していますが、(中略)クリティカル・ビジネスのアクティヴィストにもまた、この「異化」が求められているのです。

(2)衝動に根ざす
米国の思想家、ラルフ・ウォルドー・エマソンは「内心に潜む確信を語れば、それは普遍に通じる」という言葉を残しています。

(3)難しいアジェンダを掲げる
「難易度の高い挑戦的なアジェンダ」には、優秀でモチベーションの高い人を惹きつける一方で、凡庸でモチベーションの低い人を逆に遠ざけるという、クリティカル・ビジネスにおあつらえ向きの非対称性があるのです。

(4)グローバル視点を持つ
クリティカル・ビジネスの実践においては、市場開拓の方向性を「ローカル・メジャー」の方向から「グローバル・ニッチ」に転換する必要がある、ということです。

(5)手元にあるもので始める
経済学者のスーザン・アシュフォードは端的に「Feedback is resource=フィードバックは経営資源である」と指摘していますが、この資源は「とにかく始めること」によって増やすことができるのです。

(6)敵をレバレッジする
もし批判が大きなエネルギーを生み出すのだとすれば、立ち上げ初期段階におけるクリティカル・ビジネスのアクティヴィストは、むしろ、積極的に権威ある立場の人物や組織からの批判を受けるよう、挑発的な態度を取ることすら求められると言えるかもしれません。

(7)同志を集める
多くのリーダーは、メンバー間での摩擦を避けるため、このプロセスにおける混乱期=ストーミングを避けようとする傾向がありますが、このプロセスを経なければ活動期=パフォーミングに至ることができないという点に留意してください。

(8)システムで考える
システムリーダーが用いる一つ目のコンピテンシーは「より大きなシステムを捉える」能力です。
システムリーダーが用いる二つ目のコンピテンシーが「生成的な対話を促す能力」です。
システムリーダーが用いる三つ目のコンピテンシーが「リアクティブからアクティブへとフォーカスを移す能力」です。

いまからおよそ2500年前、システムリーダーの理想について述べた賢者がいます。
 悪いリーダーは、人々から蔑まれる。
 良いリーダーは、人々から敬われる。
 最高のリーダーは、人々に「私たちがやった」と言わせる。
老子のこの言葉は、クリティカル・ビジネスのイニシアチブをとるリーダーにとっても、非常に示唆に富んだものだと思います。

(9)粘り強く、そして潔く
優れているように思えるアイデアはイノベーティブではなく、イノベーティブなアイデアは優れているようには見えない。
アジェンダや基本的なビジネスモデルのアイデアに関しては「粘り強く」こだわりながらも、方法論やアプローチに関してはできるだけ早く試して「潔く」修正していく、ということです。

(10)細部と言行を一致させる
どんな場所に本社を置いているか、本社がどんな作りになっているか、どんな人事制度を採用しているか、どんな人材を採用し、重用しているかといったことが、すべて意味を生み出す情報になっているのです。

第七章 今後のチャレンジ

(1)フォロワーシップの醸成
リーダーはイニシアチブをとって動き始めるだけではリーダーになれません。そのイニシアチブに賛同し「あなたの言ってることは正しいと思う」と賛同する人、つまりフォロワーが生まれた瞬間に、リーダーシップという現象が立ち現れ、その人は初めてリーダーになることができるのです。つまり「リーダーの不足」という問題は「フォロワーの不足」という原因によって生まれている、ということです。
カギになるのは「賛意を表明する最初の人」、つまり「ファーストフォロワー」です。

(2)情報の拡散と共有
モスコヴィッシの研究は、少数派が多数派に影響を与えるには、いくつかの条件があることを明らかにしています。(中略)その条件を簡単にまとめれば「少数派が、自信を持って、魅力的に、一貫して、ラディカルに主張する」というものです。これらの条件が揃ったとき、少数派の意見は社会を変革する大きな影響を生み出します。

(3)クリティカル・ビジネスの製品やサービスの利用
クリティカル・ビジネスをある社会が生み出せるかどうかは、その社会における「消費行動の成熟度合い」が重要だということです。

(4)クリティカル・ビジネスへの関与
特に今後、増加するであろう思われるのが、多少は退屈であっても、安定的に収入が得られる仕事を本業としてやりながら、強く共感できるクリティカル・ビジネスのイニシアチブにも何らかの形で関与する、という働き方です。

(5)資金提供と投資
クリティカル・ビジネスのイニシアチブに対して、資金提供者として関わるアプローチには大きく二つのやり方があります。
一つ目のアプローチは、クラウドファンディングのスキームです。
(中略)二つ目のアプローチが、インパクト投資です。

(6)教育と学習
私たちは知らない問題やイニシアチブについては心を働かせることができません。だから学び続けましょう。フランシス・ベーコンの言った通り「知は力」なのですから。

(7)ネットワーキングとコミュニティ
ネットワーキングとコミュニティ形成は、クリティカル・ビジネスを取り巻くエコシステムを強化し、個人や組織間の協力を促進するために不可欠です。

日本社会にとって最大のチャレンジ
逸脱者によって多数派の規範がアップデートされる「開かれた社会」を築く。
「創造と破壊」「逸脱と秩序」が同時に成立してバランスをとっている動的平衡の状態を社会に生み出していくこと、これが私たちに求められている最大のチャレンジなのだと思います。

感想

山口周さんの本は毎回学びが多いですが、今回は特に元気が出る内容に感じました。クリティカル・ビジネスへの関与や資金提供/投資に関する具体的な事例(それもすぐに始められるような事例)が挙がっていることで、自分でもできるかもと思える内容でした。小さなことでよいから始めてみようかと、フツフツと思いが沸いてきています。

いいなと思ったら応援しよう!