MEGASTARの星空は本当にリアルか?(その2)
(前回のお話)
子どもの頃からプラネタリウムに憧れ、自作に取り組んできた僕は、高校時代にオーストラリアで星空を見上げて素晴らしい天の川に出会い、日本に帰国。そのあと、久々に近所のプラネタリウムに出かけて、奇妙な事に気づきました。
(オーストラリアの天の川(左)とハリー彗星(右) 大平が撮影)
それは・・・
本物の星空と何か違うのです。
上映のはじめ、日没シーンから星空が現れてきてしばらくの間は違和感がないのです。
ところがその状態でずーっと星空を眺めていると、違和感に気づくのです。
星と星の間が真っ黒なのです。
そのプラネタリウムは、肉眼で見える最も暗い星とされる6等星まで、凡そ6千個の星を投影する機種でしたが、6等星と6等星の間が真っ黒で何もないのです。
それは、それ以上星を映していないから当たり前な話です。
でもホンモノの星空はそうではないのです。
明るい星はキラキラ光っています。
暗い星もあります。明るい星はまばらで、暗くなるほど数は多くなります。
肉眼でかろうじて見えるかすかな星は何千個もあるわけですが、それらの間には、見えるか見えないかわからないもっと暗い星があり(もっとたくさん)(、さらにそれらの間には、たぶん見えないけど何となくそこにありそうな星がもっとたくさんある。
その無限の繰り返しで、夜空の背景は何となくうっすらと薄明るいのです。
肉眼ではとうてい見えないくらい星がびっしりとあって、それらが薄明るいバックグラウンドの明るさを形成しているのです。
そしてそれがとても集中していて、特に明るい部分が天の川なのです。
400年前にガリレオガリレイが、初めて望遠鏡を星空に向けて気づいたとされること、天の川が膨大な星の集団である所以です。
わかるでしょうか?ようは無限の奥行き感があるのです。
ところが、そのプラネタリウムの星空ではそれが感じられなかったのです。
なぜなら、肉眼で見えるとされる星しか映していなかったからです。
この気づきは、高校生のころの話でした。
その違和感を払拭するプラネタリウムを作る技術はとてもありませんでした。
でも、肉眼で見えない星も再現すべきという考えはその頃から潜在的に意識に植え付けられたのです。
年月が過ぎて、大学を出て社会人になったころ。
新しいプラネタリウムを作ろうと思ったときに、肉眼で見えない星を限りなく再現していったら、高校時代に感じた違和感を払拭できると思いました。
大学時代に個人製作はむつかしいとされたレンズ式プラネタリウムの自作に成功した背景で、技術と知識は高校時代とは段違いでした。社会人の収入もあって、僕は思い切って11等星まで100万個の星を、天の川も全部星の集団で再現することを考えつき、それを実行に移そうと考えたわけです。
それから開発の苦労はあるわけですがそこはここでは省きます。
何はともあれ、その世界に類をみない、後にMEGASTARと名付けられることになるプラネタリウムは7畳の部屋で小さな産声を上げました。初めて天井に映した星空を見た瞬間、あのオーストラリアの星空がよみがえってきました。自分の思想が正しかったと裏付けられたと思いました。
でも、驚きはありませんでした。当たり前の事をやっただけですから。
技術がそれを実現してくれただけのことです。
さて、それを国際プラネタリウム協会のロンドン大会で発表して大いに驚かれたわけです。喝采でした。
ところがそのあと、国内で一般上映をして、少しずつ知られるに従い、今まで聞こえなかった異論がよく耳に飛び込むようになりました。
肉眼で見えない星を映すのはおかしい。ウソの星空だ、と断言する人まで現れました。
予想もしなかったことでした。
いくら存在しても、目で見えない星が見えたらウソじゃないかという事で、一見、筋が通っているのですが肝心なことが抜けています。MEGASTARは、目で見えない星は、目で見えない明るさで映している事実です。天文やプラネタリウムに詳しくない素人ならともかく、長年プラネタリウムに携わり、天文学の専門知識もあり、本物の星空にも親しんでいる人がそれを分からないわけがありません。だから驚いたわけです。なぜそんなことを言うのか?不思議で仕方ありませんでした。
けれど、そんな声をよそに、しかしMEGASTARは予想外の注目をされるようになりました。
イベント会場で何万人も人が集まり、テレビが連日報道しました。プロが作ったものは9千個で、このアマチュアが作ったのが100万個だ、すごいことだというわけです。
もちろんありがたいのですが、けた外れの数が独り歩きし、そのコンセプトの神髄がしっかり認知されたかというと微妙なところだったと思います。
いつしかMEGASTARはテレビドラマになり、コーヒーもCMでは、俳優の唐沢寿明さんが「これが世界一の星空か!」と歓声を上げます。上映会を開けばどこでも長蛇の列。認知されればされるほど、一方で、その星空のリアルさに疑問を呈する声もまた大きくなっていきました。
そして、極めつけは「大平さんが子供の頃から一人で作ってきたという一過性の話題があるだけ。実際、ほかの会社はどこも作ろうとしないではないか」
実際、MEGASTARはイベントでひっぱりだこでありながら、それを正式採用しようとする施設はなかなか現れませんでした。日本科学未来館などの例外を除いては、です。
「MEGASTARはエンタメ用には向いているかもしれないが教育用には向かない」
誰が言い出したのかはわかりませんが、意に反してその認識が独り歩きしていきました。不採用の際に言われたこともありました。
MEGASTARの星空はリアルか?その問いかけは、平行線のままでした。
そして、さて、ここでさらにその誤解に拍車をかける変化が起きるのです。
というか、それを自ら起こしたのです。
続く。