公#26「スーパー店員脚力ウルトラという記事を読んで、アスリートの世界は、優秀な指導者に出会うことが、必須だと、あらためて理解しました」

                          「公共26」

「スーパー店員脚力ウルトラ」という記事を読んだ。スーパーの店員であれ、雇止めありのバイトの講師であれ、如何にも使えなさそうな工事現場の交通整理の爺さんであれ、脚力は必須。「歩けなくなったら、The Endだ」と、介護や福祉の現場では、耳にタコができるほど聞かされて来た。歳を取って、もうさして欲らしい欲を持つこともなくなったが、脚力は最後まで、維持し続けたいと思ってる。
 脚力ウルトラのスーパーの店員は(スーパー店員ではなく、スーパーの店員)岡山春紀さん(29歳)。走ることが好きで、高校時代は、熊本県の陸上の強豪校に在籍していたが、過度の減量で、故障を繰り返し、結果は出せなかったらしい。
 進学した東京農大で、一般学生として、陸上部のセレクションを受けようとするが、怪我が再発し、入部は叶(かな)わなかった。
 大学時代は、市民マラソン大会に出場していたらしい。長距離走者として、会社の実業団で、活躍したいと考えて、就職活動をするが、箱根駅伝に出場してない岡山さんに、興味を持ってくれる実業団は皆無。長距離のアスリートたちの文化世界、コミュニティというものは、間違いなく存在する筈だが、そのコミュニティの一員になるためには、箱根駅伝出場が、資格条件のようなものなのかもしれない。
 岡山さんは、コモディイイダというスーパーの採用面接を受ける。駅伝には出場している会社なので、努力次第で、駅伝で走るチャンスは巡って来る。
 コモディイイダに就職し、朝起きて、仕事に行くまでに、一人で走って、地道に練習をしていたらしい。
 最強市民ランナーと言われている川内優輝さんのやり方を、採り入れてみた。練習は、一日一回で、過度な練習はせず、疲労が溜(た)まれば、そこで練習をやめる。食事制限などはせず、自分に合ったアスリート飯を自炊することにした。そうすると、それまで何度となく苦しめられて来た故障が、嘘のように消えたらしい。無理をせず、自分のペースで走れば、まだ、20代で若手だし、怪我や故障に簡単に悩まされたりすることはなくなる。
 たとえ地味でも、目立たなくても、記録に残る結果が出なくても、ひたすら努力していれば、どこかで、誰かが見てくれていたりする。駅伝部の総監督の会沢は、東海大時代、100キロを走るウルトラマラソンで、日本代表に選ばれたことがあった。会沢は、若きアスリートの岡山さんに
「君のスピードでは、駅伝メンバー入りは、相当厳しい。陸上を続けたいのなら、100キロに挑戦したらどうか」と、勧めたらしい。岡山さんは、長い距離を走る練習でも、ペースは落ちなかったらしい。駅伝(箱根だと一区間20キロくらい)では、結果が出せないが、100キロを走るウルトラマラソンなら記録が出せると、会沢さんはきちんと見抜いて、岡山さんにアドバイスをした。
 学問の世界では、基本、自学自習で、古典を読んで、古典の中ですぐれた人に出会って、影響を受けて、学者として成長して行けるが、アスリートの世界は、リアルですぐれた指導者と出会うことが、必須だと想像できる。指導者が外国にいて、オンラインで指導を受けて、リアルと同様に成長して行けるのかどうかは、ITに疎いので、私には判断できない。
 ところで、岡山さんは、初めて参加したウルトラマラソンの世界選手権の選考レースで、いきなり優勝し、そのあとの世界選手権では金メダルを獲得した。まったく、無名の選手が、いきなり登場して、世界選手権で金メダルを取ると言ったことは、他のスポーツでは、ちょっと考えられない。
 そもそも、100キロ走る陸上の世界選手権の存在すらも、私はこの記事を読むまでは、知らなかった。一般の国民には、ほとんど知られてない、超マイナーな競技だと、多分、言える。
 日本代表に選ばれると、日の丸とJapanのロゴの入ったユニフォームは、支給されるらしい。写真を見ると、スニーカーは各人、違うものを履いている。靴、時計などは自前。無論、遠征費などもすべて自腹。マイナーな競技だと、テレビで放映されたりもしないので、スポンサーもつかない。スーパーの店員の給料で、海外遠征が可能なんだろうかと、老婆親切ながら懸念してしまう。
 岡山さんの実家は農家。スーパーでは、青果部に所属している。野菜の目利きは、農家の息子なので、最初からできたらしい。スーパーの店員になって、魚の目利きもできるようになった。野菜や魚の目利き力を身につけることは、別段、そう難しいことではない。実際に自分で調理して、食べていれば、自然に身について来る。
 私は、70'sの吉祥寺のオーガニックブームの生き残りだと自負している。70'sの吉祥寺には、オーガニックを看板にしている食堂や居酒屋などが、結構、あった。そういう店に行って、食べたり、飲んだりしてたわけじゃなく、オーガニックor オーガニックもどきの野菜や米、パンなどを売っている店に出向いて、食材を購入して、当時、住んでいた井の頭のアパートで、私は自炊をしていた。自分で調理をして、食べていれば、食材の良し悪しは、自ずと判って来る。
 岡山さんは、食材をきちんと見抜いて、自分で調理をして、食事をしている。それが、体調を崩さず、故障も起こさず、走れている最大の理由だと想像できる。
 練習で走っている時、練習後に、何を作って食べるのかを考えたりするらしい。まあ、ストイックな練習だと、こういう有象無象(食材や調理や食べるシーン)のイメージを頭の中で浮かべることは、NGだが、何を食べようかと思案したり、好きな女の子との次のデートのプランなどを夢想しながら走ったりするのも、全然、ありだと思う。「無」になって、走らなきゃいけないと説教をする指導者が、いたりするのかもしれないが、走ることは、どう考えても苦しいし、どんなことをしても、「無」にはなれない。私自身、「無」になって走ったことも、歩いたことも、かつて一度もない。歩けば、歩くほど、妄想が広がる。だから、歩くのは楽しい。50キロを歩いた生徒も、基本、同じじゃないかと、勝手に想像している。

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