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エタり小説よろず請負! 短編仕立人 勅使河原まゆり『異世界転生ファンタジー編』
「さあ、勇者ケイよ! 魔王を倒し、この世に平和をもたらすのだ!」
王から下賜された言葉に、俺はなんだか誇らしい気持ちになった。トラックに撥ねられてよくわからない異世界に送り込まれたと知った時はどうしたものかと思ったが、世の中捨てる神あれば拾う神ありだ。
「伝令ーッ! 火急の伝令にございます!」
王宮の間に、泥と汗にまみれた兵士が飛び込んできたのは、その次の瞬間だった。王は訝しげにその兵士を見たが、火急と聞いては無下にはできないと見えた。
「ちょうど勇者殿も居られる。申してみよ」
兵士は水を持ってきた侍女に礼を言って飲み干すと、矢継ぎ早に話を始めた。
「魔王ガイエス、急死! 国境の砦よりの使者によれば、嫡男のガイウスが即位し──我が国との和議を結びたいと!」
一瞬、水を打ったような静寂から一転、わあ、と歓声が上がる。長きに渡る王国と魔国の戦争が終わるのだ。
この俺が、魔王を倒す必要もたった今無くなってしまった。仕方のないことだ。平和が一番だ。
おわ
「はい、ストップ。お邪魔します」
玉座の奥にドーナツ型の青い炎が現れたかと思うと、その中から髪の長い女が現れた。光沢のある黒髪に、この世界に渡る前に何度も見たセーラー服。俺も人のことを言えた義理はないが、この場においては異様な風体だった。
「あー、いいからそういう長ったらしい描写。そりゃ文字数稼ぎはいいんだけどさ」
何言って──。
「あのね、あんたの物語は終わったの。今風に言うと『エタった』の。打ち切りよ」
何を言っているのか分からなかった。女は構わず話を続けた。
「私はね、エタった物語を短編に仕立てる仕立人なの。だいたい四千字を超えれば短編扱いなんだけど、ファンタジーだし、一万字は欲しいわね」
よく見ると、周りの景色が灰色になっているのに気がついた。灰色の中で、誰もが動きを止めている。わけがわからなかった。
「ま、心配しないで。あんたの物語──私が膨らましてあげるから」
続く