日本のサウナブームについて『台湾』から考えさせられたこと
2023年もまだまだ止まらない、日本のサウナブーム。首都圏でも新店のオープンが相次ぎ、サウナファンが数多く足を運んでおります。しかしながら、昨今の物価高等の影響による温浴施設の閉店もみられ、このサウナブームの実像は何なのか、掴もうとしても掴みきれないのがもどかしくもあります。
サウナシーンの過熱する現状をみて「まるでタピオカブームのようだ」と口にされる方が、私の周りでも少なからずおりました。ブームに乗っかり新参が乱立することに抵抗感を感じ、下火になった日本のタピオカブームになぞらえていると推察します。しかし果たして、本当にそうなのでしょうか。
筆者はタピオカの愛飲家ではなく、タピオカブームの変遷を追えてはいませんが、そもそもタピオカの本質的価値とは何かが純粋に気になりました。タピオカ(ミルクティー)はもともと台湾発の文化で、サウナのように海外から輸入され、そして日本にブームをもたらしたという点では共通します。
そこで筆者はタピオカの本質的価値に触れたいと思い立ち、1泊2日の弾丸旅程で台湾まで足を運んできました。サウナブームの行方についてなにかヒントが得られるのではないか。そんな淡い期待があったのですが、実際に訪れてみるとタピオカにとどまらない、台湾と日本の関係性に驚かされました。
台湾で見出したタピオカの本質的価値
日本のタピオカブームと聞くと、私は「インスタ映え」「行列の演出による希少性」「仕入原価の安さによる新規参入のしやすさ」などを思い浮かべます。そしてパンデミックの到来により、数多くの事業者が淘汰された。過熱しすぎたブームの行く末は、情勢変化により下火を迎えたという認識です。
タピオカブームの変遷をまとめた記事をみてみると、新規事業者は本業とは別にタピオカブームにあやかる副業的な店舗展開が特徴になっており、コロナ後は新店が激減したとのこと。しかしながらタピオカミルクティー発祥店である『春水堂』や『ゴンチャ』などにおいては、状況が異なるようです。
特に発祥と言われる春水堂は「お茶文化の継承」を掲げており、お茶マイスター認定資格を持つスタッフに厳選しているとのこと。タピオカをお茶に投入したのは、若者でも楽しめるお茶の文脈を「編集」した結果であり、サウナも "ととのう" という編集文脈で人気を博した流れは共通していますね。
まず筆者が足を運んだのは日本にある春水堂です。普段なかなか口にしたことがないタピオカミルクティーですが甘さ控えめで上品な味わい、タピオカもチープな感じがなく、なめらかな食感がクセになりそうでした。春水堂が推奨する食事とのセットも違和感がなく、満足度の高い体験となりました。
そして台湾現地の春水堂へ。見た目は同じように見えますが、台湾現地のタピオカミルクティーは一味違いました。中国茶の繊細な味と深みが目立ち、さらにタピオカそのものの印象が覆されました。もはや腹を満たすためのものではなく、すべて完食したくなるほどの魅力がタピオカにはありました。
その想いが確信に変わったのは、台湾の伝統的スイーツ「豆花」を口にした時です。豆花にはタピオカに匹敵するトッピングを乗せるのが特徴で、紅芋や黒豆、豆腐の柔らかい食感がなんとも言えません。意外にもサウナ飯としても相性抜群で、腹持ちを気にせずスルリと食べられたことに驚きました。
実際に台湾を訪れてみて、現地のタピオカや豆花を口にするまでは、その本質的価値は想像できませんでした。一見お腹を満たすための食べ物であるように映りましたがそうではなかった。台湾独自の創意工夫と困難があり、あの絶妙かつスルリと食べられてしまう体験が実現しているのだと思います。
そのとき筆者が思い浮かべたのは「海外と日本におけるサウナの構図と同じだな」ということでした。例えばロウリュの価値をどこに見出しているか、サウナ室における呼吸のしやすさなどの本質的価値というのは、実際に現場を訪れてみて、自分で体験しないと掴めないという点が共通していました。
タピオカやサウナの事例からわかるように、それらの積極機会を多くの人々に持っていただくために、文脈を「編集」するというプロセスは必要不可欠なものです。では編集と本質的価値の関係性とはどのようにあるべきなのか。この点も台湾で少し気付きがありましたので、話を続けていきます。
雑誌「秋刀魚」が放つ客観的編集力とは
出版不況と叫ばれては久しい日本の書籍市場ですが、一方の台湾では年間の出版書籍点数が、日本の三倍にもおよぶというデータがあるそうです。かの有名な蔦屋書店も台湾の『誠品生活』をモデルにしていると言われ、その誠品生活も、東京・日本橋に店舗を構えています。出版大国、台湾ですね…
現地でさらに驚かされたのは、書店における日本書籍の陳列状況。日本語のまま陳列されていることはざらにあり、日本と台湾の独特な関係性が陳列から読み取れました。写真はアウトドア関連の雑誌コーナーですが、台湾においてもアウトドアの需要とニーズが数多くあるということがわかりますね。
そして書店で大いなる異才を一際放っていたのが『秋刀魚』という雑誌でした。調べてみると、日本でも取り上げないような日本のニッチトレンドを特集する雑誌であるとのこと。その独特な切り口と紙面内容であるにも関わらず、書店エントランスの目立つところで販促されていたのは衝撃的でした。
先に紹介した誠品書店のエントランスでは、昨今話題のChatGPTに並び、日本のBRUTUSと秋刀魚が表で陳列されていることに戸惑いを隠せませんでした。日本文化への憧憬と市場形成は果たして何から来るものなのか、筆者は秋刀魚の企画を辿るべく、台湾でバックナンバーを探ることにしました。
例えば「東京の夜の遊び方がわからない、という台湾人が多いから」という観点で「夜9時以降の東京」を特集に仕上げてしまう視点の鋭さ。「台湾人が見た日本を紹介することで、日本人が近すぎて気付かないことを発見できる。すごくいい文化交流だと思うんです」という慧眼ぶりに驚かれました。
果ては「九州の銭湯」に特化した特集さえもありました。例えば福岡市では銭湯の数が一桁に達しようというニッチな環境ですが、それでも一面の記事として取材をしていたところが印象的でした。そして、そのようなニッチな特集を、台湾の多くの方々が手に取られているという事実があります。
しかしそれでは「自分達の弱点が何かという事は自分では分からない。だからこそ、外からの視点で気付かされるものがある」と中の人は話しておられます。筆者はこの点において「編集」に客観性を持たせ、物事の本質的価値を明らかにするための示唆とヒントが隠されているように感じられました。
「編集」にはこれまでに存在しなかったクリエイティブな文脈を生み出す一方、発信側の思い込みと客観性を損なう恐れもゼロではありません。しかしながら客観性は自分ではわからないと敢えて認めることで、外からの視点を受け入れ、そして向き合うとする積極性が生まれるのではないと思います。
台湾から考える、ブームと文化の適切な距離
さて、サウナの話から大きく離れてしまいました。翻って、日本のサウナブームは外から見てみた時、果たしてどのように映るのでしょうか。過去、筆者は日本のサウナブームのことを海外で紹介したことがあり、こちらからの期待とは裏腹に、思わぬ反応の薄さに驚いたことがあります。そしてその時の私は、間違いなく外からの視点と客観性を欠いていたように思います。
台湾から帰国後、雑誌「秋刀魚」を調べるうちに、ある日本の書籍に辿り着きました。雑誌だけではなく音楽や思想、政治に至るまでの台湾文化についてのリアルを綴った書籍です。「サウナをブームから文化へ」という合言葉もありましたが、改めて文化とは何かということを考えさせられています。
秋刀魚では台湾人から見た日本の視点が書かれ、こちらの書籍では「日本人から見た台湾」の視点も書かれています。魯肉飯のくだりは「ズレ」の編集の事例として紹介されており、ここに本質的価値を考える上でのヒントがあると感じました。編集にはズレがつきもので。しかしズレは自分達にないものを埋めたいから、という理由で無意識に編集される懸念さえあります。
このズレを客観的に認識できなければ、文化を考える上での前提にさえ立てないのでは…という課題感を筆者個人は感じました。筆者がかつてサウナブームのことを海外で紹介した時、そのズレは間違いなく認識できていませんでした。ズレの損失が本質的価値の認識機会すら損なうのかもしれません。
最後に、タピオカブームのくだりが出てきたのは個人的に身震いがしました。イメージではなく、もっと本質的なことや実像が知りたい。サウナブームの実像をタピオカから知りたいと思い、台湾まで旅に出た。そして秋刀魚に出会い、帰国後に手にした本にこの旅の着地点があった。外の視点を獲得することで本質的価値を取り戻すという、とても大切な気付きを得ました。
~最後に~ 台湾のサウナ事情を紹介
以上、台湾を切り口にサウナのことを取り上げてきましたが、肝心の台湾サウナ事情を何も書けていなかったことに気付きました。台湾スイーツと秋刀魚のことで夢中になってしまい、結果的に二ヶ所の施設しか巡れなかったのですが、それでもよろしければご紹介していけたらなと思っております。
一軒目は、台北から地下鉄とバスでアクセスできる『皇池温泉御膳館』を訪れました。こちらは日本の草津温泉を彷彿とさせる白濁とした温泉が特徴で、ボナサウナとスチームサウナが併設されています。特筆すべきはスチームサウナで、熊本の湯らっくすにある「大阿蘇大噴火瞑想サウナ」さながらの天然蒸気地獄が楽しめます。水風呂はやさしい水温で水質滑らかでした。
一軒目は台湾の中心地、台北駅から徒歩圏内にある『天龍三温暖』です。日本の『大東洋』やフィンランドの『コティハルユサウナ』のように、サウナ施設と言えば、まずはネオンの看板から。このネオンに独自の魅力を見出し、最近は日本サウナの新店でも、ネオン看板を模した装飾が目立ちます。こうしたノスタルジーなデザインも、台湾サウナの特徴になり得ますよね。
日本式でサウナと水風呂が複数あり、レストランと宿泊環境が充実した施設環境でした。サウナは基本的にボナタイプで、事前にネットで調べましたが、どうやら台湾はストーン型のサウナストーブ流通が少ない模様です。これは離島という環境とサウナストーブを施工する業者の力関係に拠るところもあり、実は日本における沖縄のサウナ市場に似ているかもしれません。
その一方で、いわゆるサウナ飯の可能性に関しては末恐ろしさを感じております。先の天龍三温暖から徒歩圏内、台湾でも有名な『寧夏夜市』で食事をしたのですが、この牡蠣のオムレツと生姜のしじみ汁は、脳に電撃が走るほどの逸品でした。筆者が海外で食べたサウナ飯では筆頭かもしれません…
今回は台北のみの滞在でしたが、台湾全土でみると自然環境が豊富であると聞いております。先述のサウナ施設の事情から、もし今後台湾でサウナが流行するきっかけがあるとしたら、アウトドアサウナの可能性は高いのではないかと思います。世界的なブームでもありますが、アウトドアに関する需要は台湾でも高く、商業施設では写真のような特集コーナーもありました。
最後に、台湾においては『台湾サウナ協会』が2019年に発足されています。今後台湾におけるサウナ市場もますます活況となる可能性が考えられるのではないでしょうか。その時、台湾にもサウナの新店ができるかもしれないですし、台湾の方々が日本のサウナを訪れる日が来るかもしれませんね…!
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