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地域活性化起業人3年目。芋掘りや稲刈りを種目にしたアドベンチャーレースを企画【高山村のローカルキャリア#1】
「地域活性化起業人」という国の制度を知ってますか? 3年間の任期で、都市部の民間企業から地方自治体に派遣される人材のことを言います。地方創生を目的として整備された制度で、令和5年度のデータで779人が全国で活躍しているそう。高山村でも現在、3人の地域活性化起業人が村の中心地作りや農業振興、就農支援、関係人口創出のために奔走しています。まだ聞きなれない「地域活性化起業人」という制度ーー高山村ではどんな人が、どんな活動をしているのでしょうか? 株式会社アグリメディアより派遣されている林 祐太朗さんにインタビューしました。
高山村のローカルキャリア interview#1 林 祐太朗さん
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生まれ:群馬県渋川市
キャリアタイプ:地域活性化起業人
任期:2022年4月〜2025年3月まで(現在3年目)
ミッション:村の中心地「たかやま未来センター『さとのわ』」の立ち上げ、農業振興、みどりの村キャンプ場など村の施設を活用した関係人口作り
里山で育った原体験がキャリアのモチベーション。社内公募で高山村のプロジェクトに立候補する。
出身は渋川市なのですが、おじいちゃんの家がみなかみ町の旧新治村にあって、子どもの頃はよくそこで遊んでいました。山に山菜を取りに行ったり家族で収穫したお米を食べたり畑を走り回ったり……とても楽しい日々でした。そういう原体験から「地方の暮らしや経済、特に農業を支えたい」という思いが高まって、銀行勤務を経て株式会社アグリメディアに就職しました。アグリメディアは日本の農業ビジネスを経営、人材、農地活用などあらゆる面でサポートする会社です。結婚してから神奈川県に住宅を購入して、東京の本社に通いながらサラリーマン生活をおくっていました。
入社3年目の時に出身地の隣である高山村でのプロジェクトの社内公募がありました。高山村のことは知ってはいましたが、目立った観光施設や注目を集めるようなプロジェクトを聞いたことがなくて、「マイナーな村なので成功させるのは超たいへんそうな案件だな。」と人ごとに感じていました。でも会社の上司や家族に話すうちに、いや待てよ、とだんだん考えが変わっていきました。当時、僕が原体験を過ごしていたみなかみ町のエリアでは、すでに地域で頑張っているプレーヤーが多くいました。廃校を宿泊施設に再生した取り組みや、ラフティングなどのアクティビティで地域が盛り上がっているのも耳にしていました。他方、高山村ではまだ目立ったプロジェクトもプレーヤーもいません。でもだからこそ、自分が貢献できる余地があるのではないか、やりがいがあるのではないかと思い直すようになりました。アグリメディアでもともとやりたかった「自治体が抱える地域課題を解決すること」に思いっきりチャレンジができる案件で、しかも地元に近い場所。こういうチャンスはもう二度とないだろうと、立候補することにしました。
農業体験、収穫体験プログラムを立ち上げるも、限界を実感
2022年4月から「地域活性化起業人」として高山村での勤務が始まりました。任期は3年。一年目は村の中心地「たかやま未来センター『さとのわ』」のオープンに向けて主にラウンジエリアの立ち上げに従事しました。また、高山村の農家さんと連携して農業体験、収穫体験のプログラムも開始しました。主に首都圏に住む人たちに高山村に来てもらって、地元の農家さんと一緒に農体験をする企画です。
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ねらいとしては、高山村を好きになってもらうこと、農業に興味を持ってもらうことです。プログラムは無事に立ち上がり定期的に開催できるような仕組みもできました。一方で、僕個人としてはこの活動の限界を感じるようになります。というのも、「農業体験・収穫体験」という枠組みだと、関心を持ってくれる層が限定されてしまいます。その層がこれから急増していくというのは考えにくい。もっと別の切り口を増やしていかないと、高山村に来てくれる人、農業に関心を持ってくれる人の裾野が広がっていかないという危機感を抱きはじめました。
村内の田畑を巡る、農業振興としてのアドベンチャーレース
高山村の農業振興の新たな手段を模索する中で出会ったのがアドベンチャーレースです。アドベンチャーレースとは、ランニングやマウンテンバイク、サップ、クライミングなど色んなアウトドアスポーツを組み込んだチームレースです。
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本来は5-6日間かけて開催する競技なのですが、いくつかの種目だけを切り取ってイベントとして開催するケースが日本では多いです。実は高山村は、アドベンチャーレースのフィールドとして打って付けの場所なんです。手付かずの植生が残る森があり、大規模なイベントを開催できるキャンプ場がある。アドベンチャーレースのプロ選手の方々が高山村に集結し、2023年に試験的なイベントを開催しました。僕自身は、普通にレースを行うだけでは意味がなくて、参加者の方々をいかに高山村の農業に巻き込んでいけるかが肝だと考えていました。だからこそ、レースの中に「芋掘り」や「草むしり」、「稲刈り」の種目をねじ込んで、森だけでなく村内の田畑を巡るようなコースにしたのです。
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結果は、大成功だったと思います。レース参加者からも「畑での種目が一番楽しかった」という感想が届きました。村民の生活圏をコースにしたことで、村民と参加者との触れ合いも生まれ、多くの参加者が村民からの声援に励まされていました。このテストイベントで手応えを感じ、今年の3月に「アドベンチャーウィークエンド in 高山村実行委員会」を結成しました。代表は僕ではなく、村民の方が引き受けてくれました。プロ選手の田中正人さんも顧問に入って頂き、粒揃いのメンバーが集まりました。
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マウンテンバイクの元プロ選手の方の協力のもと、高山村の森の中に、自転車で走るためのコースが整備されました。適度な傾斜があって、適度に障害物である木が生えていて、自転車で走るとものすごく楽しいんです。村の資源である森林環境をこんなふうに活用できるというのも新しい発見でした。これからこのコースを多くの人に知ってもらい、遊びに来てもらいたいですね。
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高山村の隣町にUターン移住。任期後も高山村で活動していきたい
現在任期3年目。高山村で働き始めてから、自分が思っている以上にその魅力に吸い寄せられています。まず、一生住むつもりで購入した神奈川の自宅を売り払い、隣の渋川市にUターン移住しました。妻の妊娠が発覚しどこで子育てをしたいか考えた時、都会生活より田舎生活の方がしっくりくるようになっていました。
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高山村での仕事は僕にとっては非常にやりやすいです。色々な業務に関わらせてもらっており、こちらからの提案にも応じてもらえる。さらに、応援してもらえる。「いいじゃん、やってごらん」というポジティブな声が多くて、高山村という豊かな自然で暮らす人々のあたたかさを日々実感しています。
最後の一年は、農業と森林資源をつなげる活動にも力を入れていきたいと思います。そのために、みどりの村キャンプ村という施設を活用していきたい。ちょうど来週、キャンプ場を舞台に村のレザー作家さんのイベントを開催する予定です。 ちなみに、高山村の農業を泊まりがけで経験する「お試し地域おこし協力隊」というイベントの参加者も募集しているので、ここで宣伝させてください(笑)↓
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来年3月の任期後も高山村に関わっていきたいと思っています。高山村の良さをこのまま残していきたいし、まだ発掘されていない魅力を村外にアピールしていきたいし、この自然環境を活用していきたい。こんなに村に愛着ができるなんて自分でも驚いています。日本の自治体の悲しい運命としてよくあるのが、外から大きな資本が入って来て住民の意図しない開発が為されてしまったり、多額の費用をコンサル会社に投資して自立した運営ができなくなってしまったりというケース。高山村では「住民が主体となった地域づくり」が実現できるよう、自分の持っている力を尽くしていきたいです。
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●「高山村のローカルキャリア」の連載について
群馬県高山村で活躍する地域おこし協力隊、地域活性化起業人を取材していきます。書き手は2021年に東京から高山村に移住した私・山中麻葉。高山村の未来のために奔走しながら自身のキャリアを築く人たちの頑張りと、その想いをレポートします。
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2021年に夫と0歳の娘と高山村に移住。耕作放棄地を耕しマコモダケを栽培しながら、家族でアパレルのオンラインショップ「Down to Earth 」を営む。高山村への移住ライフ、仕事のことなどはinstagramへ。