見出し画像

劇団FAX『すきとおる冒涜』脚本のはなし②~今回の公演について~

【前回の記事】
劇団FAX『すきとおる冒涜』脚本のはなし①~食肉解体について~
(①を読んでなくても②単体でお読みいただけます)

2024年12月7~8日、
劇団FAX第30回公演
『すきとおる冒涜』
という舞台を上演する。

脚本家としてこの戯曲を書かせていただいた。
……といっても書いたのは大学3年生の冬。
7年前に上演した脚本が、
今になって再演する機会を得たというわけである。

再演するってことは、
それだけの価値があるってことだ。

……たぶんね!

少なくとも僕はそう信じている。
できることなら今回の再演版、
知り合い全員に観てほしい。
家族にも友人にも仕事でお世話になった人にも
ちょっと会ったことがあるだけの顔見知りにも。
(もちろん会ったことのない初めましての方にも)

なぜそんなに観てほしいかというと、
この脚本はちょっとばかり特殊なのだ。


脚本のストーリー

約90分の会話劇、登場人物は5人。
音響も照明もほとんど変化しない、
場面転換なしの一幕芝居。
大まかなあらすじはこんなかんじだ。

大雨の降るクリスマスイブの夜。
とあるカップルが雑居ビル2階のカフェを訪れる。
実はカフェの店員が男の昔馴染みで、
今夜のために店を貸し切ってもらったのだ。
女の妊娠も明らかになり、
ささやかなパーティは盛り上がる。
しかしそこへ女の義父がやってきた!
この闖入者の出現により、店内の空気は一変。
ギリギリの均衡は見るも無残に崩れ去るのだった。

そして前回の記事でも書いた通り、
この物語の重要なテーマのひとつに
「食肉解体」という題材がある。

解体と懐胎。
相反するこの同音異義語が、
奇しくも今回の物語を取り巻く二本柱だ。

話が少しそれるけれど、
僕が今まで書いた脚本のほとんどは
「観る人に楽しんでほしいな~」
というワクワク感で書いたもの。
それは舞台脚本でも、ドラマの脚本でも同じことだ。

でもこの脚本は違う。

お客さんを楽しませたいという意識は一切無くて、
どちらかというと正反対で、
みんなの感想も企画の成否も二の次で。
じゃあ何のために書いたのかというと、
自分のことを知ってほしくて書いたのだ。

この話は僕自身のダサさにも触れることになるけれど、
せっかくの機会だから書いてしまおうと思う。


初演について(2017年冬)

2017年 初演版『すきとおる冒瀆』公演ビラ
(宣伝美術:中村茉優子)

22歳当時の僕はイヤなかんじに擦り切れていた。
ドブの泥をカスで煮詰めた汚物を
クソで塗り固めてゴミ袋の形を保つことで
なんとか市井に紛れている精神状態だった。
逆に言えば繊細なフリで自意識をコーティングした、
恥ずかしいモラトリアムの塊だったのかもしれない。

要するに、いろいろ考えすぎなやつだった。

ちょうど同じ頃、僕は肉を食べるたびに
牛が屠畜される瞬間を想像せずにはいられなくなった。

それ自体は慣れれば平気だったから、
笑いながらみんなと肉を食べていたけれど、
ずっと意識の隅に引っかかっていたのは確かだ。

そしてまた同じ頃、僕のいた学生劇団では
ケラリーノ・サンドロヴィッチの『わが闇』
という戯曲が上演されようとしていた。
演出補佐として参加していた僕は、
戯曲を読みながら稽古場に通っていた。
詳しいことはここでは省くけれど、
このとき僕は『わが闇』の内容から
残酷なメッセージを深読みしてしまっていた。
物書きになることと幸せになることは両立できない」
という裏テーマがこの戯曲に潜んでいると、
勝手に読み解いて動揺していたのだ。
物書きになる気満々だった僕には深刻な問題だった。
(勿論ケラさんはそんなことを書いてたわけじゃない。
かなりキモい読み方をしてしまっていたと思う)

ともかくそんなモヤモヤで、
僕は身動きがとれなくなっていた。

『わが闇』の上演が終わった頃、
学生劇団の玉井先輩(現在は劇団FAX代表)と
同期の渡邉という男が
「冬に公演やるけど脚本書かない?」
と声をかけてくれた。
京都の色々な建物で上演したい企画ということで、
照明や音響をなるべく使わないことが条件だった。

最悪な感情の捌け口を求めていた僕は、
二つ返事ですぐさま執筆にとりかかった。
そして書き上がったのが今作の初演版だ。

いのちというものに対して、
なぜか考えずにはいられなかったことを
できるだけ詰め込んで書きたかった。
屠畜される肉牛の血、
これから生まれる子供の未来、
大切なものを踏みにじる人々の暮らし、
なんとなく先が見えてしまった自分の人生。
気持ち悪いと感じた身の回りの些細な言動も、
笑うしかない大きな大きな不条理も。
それらは原稿用紙に載せるのに申し分ない重量だった。
長い夜が明けて木々の間から陽が射すように、
筆を進めるにつれて気持ちが軽くなった。

本番は京都の計4会場で上演した。
地味なわりに内容の重たい芝居なので
引いてるメンバーやお客さんもいたけれど、
少なくとも自分なりにやってよかった公演になった。

つまりなんというか、厄介なことに、
思い入れの強い作品になってしまったのだ。
突っ伏した地面から見えた景色を描きとめた、
この作品がなければ今の僕はなかった。
僕の書きたいものもあのときからさほど変わらない。
エゴなのを承知でいうけれど、
僕がどんな人間かがなんとなくわかる物語だからこそ、
みんなに観てほしいと思ってたのである。


今回の再演について(2024年冬)

2024年 再演版『すきとおる冒涜』公演ビラ
(宣伝美術:桑木陽彩)

繰り返しになるけれど、
今回の再演版はいつにもまして
なるべく多くの方に観に来てほしい。

内容は初演版から大きくは変わらないけれど、
改めて学び直した屠畜関連の描写を中心に書き直し、
登場人物の関係もいくらか改稿した。
以前より気に入っているシーンもたくさんある。

演出・出演を兼ねて先導を切ってくれているのは、
松本梨花という類稀なるウルトラ才能ホルダーだ。
(再演版の改稿には彼女のアドバイスが不可欠だった)
他にも劇団FAXの常連メンバーに加え、
女優の彩辺実生さん、
お笑い芸人(スレンダーパンダ)のじゅんせいさん。
さらに頼もしいスタッフが準備を進めてくれている。
稽古は順調で日を追うごとに充実している。
もともとは自分のために書いた脚本なので
ちょっとだけ申し訳なさもあるけれど、
それ以上にありがたくて、嬉しくてドキドキしている。

良質な本番になるよう準備中なので、
ご興味の湧いた方はぜひ。


公演の詳細は下記の通りです。
ふだんお芝居を観ないという方にも
観やすい構成になっていますので、
ぜひ観に来ていただけたら嬉しいです。
当日、会場でお待ちしております!

劇団FAX第30回公演『すきとおる冒涜』
作 高矢航志 演出 松本梨花
■日時
2024年12月7日(土)18時
2024年12月8日(日) 13時/17時
■会場
遊空間がざびぃ(東京都杉並区西荻北5-9-12 そらの上)
■ご予約はこちら
■劇団FAXのHPはこちら




いいなと思ったら応援しよう!