渡米24日目 いよいよ初登校!?
今日は朝からリビングが騒がしい。今日からいよいよ子ども達も地元の小学校に通い始める。いつもは10時ぐらいまで寝静待っていた子供達も7時すぎには起きてきて、長男も7時半になると「早く出よう。遅刻しちゃうよ」と慌てている。学校の始業時間は8時。学校には徒歩5分ぐらいで着くのだが、なんとなく気持ちが落ち着かないのだろう。
7時50分過ぎにリンカーン学校に着くと、すでに多くの親子連れが集まっていた。長男の元には同じ学年の男の子達が集まってきてくれた。長男と学年が離れていて入り口が異なる次男は、「もう僕も行くね」と新しく買ったリュックを背にひとり颯爽と校舎の中に走っていた。今日から初日。子ども達は大丈夫だろうか。だが、ここは彼らの世界。あとは子ども達に任せるしかない、
それにしても普段は閑静であまり通りに人通りの少ないこの街角に実はこんなに親子連れが住んでいたのかと思うほど、見送りにきた親たちと同じ道を辿って帰宅ながら、妻と感心してしまった。やはり、学校に通わないとまるで陸の孤島のように地域からも孤立してしまう。少しずつ地域のお父さん、お母さん達とも仲良くなれればいいなと思う。
帰宅後、僕も10時からの授業に備えてエマーソン大学へと向かった。今日はFoundations of Image and Sound Production(映像と音響制作の基礎)クラスの初日だ。これまでのドキュメンタリー番組の取材と制作の経験を考慮して、通常3年のプログラムを2年半で終えることができるAdcanced Standing(特待生)に選ばれた僕は、比較的自由にコースを選ぶことができ、実は先週まで別のクラスに登録していたのだが、このFoundationクラスを履修していないと、カメラや照明、音声機材や編集スタジオの予約など様々なリソースへのアクセスに支障をきたすことがわかってきて、学部長や担当教授に相談し、急遽このクラスに変更してもらったのだった。他にも同じ懸念を抱いた特待生のクラスメイトがいて、二人が同時に移動することになったため、基礎クラスは二つに分割されることになり、少人数の7人での再スタートとなった。
担当教授のDavidはビルゲイツを彷彿とさせる出立で、すでにエマーソンで25年を教えているベテランだという。元々は技術畑出身で、普段はアプリ開発やウェブデザイン、ゲーム開発などの分野にも精通しているがフィルムメーカーではない。彼のプロフィールを読んで圧倒されたが、だが同時に彼が映画製作者ではないことも分かった。このクラスへの参加を通じて、果たして僕が何を得ることができるのか。その懸念をクラスの冒頭で思い切ってぶつけてみることにした。
「私は映画監督になるためにエマーソンで学びたいと考えています。できれば他のクリエイティブなクラスでは得られない、映画作りにとって必要となる技術的なことをこのクラスを通じて学べればと考えていますが、それは叶いますか?」
「よく右脳と左脳、クリエイティブとテクニカルな側面を分けて人は考えたがりますが、僕はそれは互いに繋がっていると考えています。僕のクラスではそれを同時に学んでいきます」
そしてこのクラスに参加する生徒の中には僕のように映画志向の人もいれば、実験的アートやアニメーションやドキュメンタリー志向の生徒もいて、経験値も年齢も千差万別なので、それぞれのニーズに合わせたトレーニングができるように配慮するとのこと。確かに7人の少人数クラスなのでそれも可能かもしれない。
映画監督や脚本家を本業としながら大学でも教えている他の担当教授と比べて正直少し刺激に欠ける気がしたが、きっと彼のもとで学べることも多いだろう。僕はこのクラスを通じて、これから作品を作るにあたって基本となる機材へのアクセスなどに馴染みつつ、クリエイティブな側面でもひとつの表現スタイルにとらわれない視点や技術を養っていければと思った。
またクラスの終盤、AIがクリエイティブな分野にも今、大きな影響を及ぼしてきていて、新たなテクノロジーをアートに取り入れる動きも盛んであることなどに話が及んだ。
「テクノロジーが僕の目のハンデも克服してくれるかもしれない。いや、そのハンデを武器に変えるぐらいの表現を追求したい」
クラスが終わってから、Davidに僕自身の目のことについても状況をシェアした。苦手意識から入るのではなく、自分のこれまでの安全領域(コンフォタブルゾーン)を打ち破ってテクノロジーをうまく取り入れていきたいと思っていた矢先だったので、ちょっと他のクラスと毛色の違うこのクラスが与えてくれる化学反応は予測不能で面白いかもしれないと感じた。
帰宅後、学校初日を終えた子ども達は落ち着いた様子で、次男は仲のいい友達が早速できたらしく、でもそのうちの一人が近いうちに日本に帰国するので寂しいと話していた。またランチタイムに出たピザがこれまで食べたことがないほど美味しかったという。
一方、長男は日本語の先生がいるクラスを除いて授業の内容が全くわからなかったらしく、また日本人の他の生徒も離れた席に座っていて、何もわからないまま一日が終わってしまったという。でも「学校に行きたくない」というリアクションではなかったので、ひとまずほっとした。まずは日々学校に行くところから始めよう。心の中でそう思いながら、ふたりの学校初日の話に耳を傾けていた。
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