初めての領域の学び方
情報社会となった現在、専門家も専門知識だけでは不十分かもしれない、という少し耳が痛い記事を書きました。
そこから一歩進んで、なにかこれまでの知識やスキルでは解決できない問題に直面したとき、自分の専門分野ではない領域からヒントを得ようとすることの意味についてもお伝えしました。
では、具体的にどのように新たな分野を学んでいけば良いのでしょうか。
この記事では、初めての領域を効率よく学ぶための方法を考えていきます。
ちなみに私自身は、理学療法士として大学を卒業し、スポーツトレーナーとして働く中で解剖学や運動学、発生学、生理学、スポーツ医学、栄養学などを学んできました。さらにNLPという心理学と脳科学と言語学を合わせた資格も取得しています。
独学の学びとしては、東洋医学、タッチフォーヘルス、ホメオパシー、心理学、深層心理学、依存学、比較宗教学、考古学、優生学、薬学、経済学、マーケティング、その他にも多くの学問や分野について今現在も学び続けている途中です。
もちろんすべてに精通しているわけではなく、それぞれ濃淡が違う中で、相互に関係しあっていることを痛感しています。
そしてスポーツトレーナーの現場でも日常の中でも、知っていれば苦労せず解決できるのに、知らないから苦労していたな、ということが本当に何度もありました。
そこで同じようにいろんな分野を学んでいきたい、と思っている方に向けて私自身がどのようなことに気を付けて学んでいるかを共有したいと思います。
1. その領域の当たり前を受け入れる
専門外の分野を学ぶときにまず意識しておくべきなのは、その領域の「常識」を受け入れることです。私たちは自分の知識や経験に基づいて新しい情報の良し悪しを判断してしまいがちですが、新しい分野では過去の自分の常識が必ずしも通用するとは限りません。
たとえば、科学的な研究分野での「エビデンスによる再現性の重要性」と、デザイン分野での「他にはないクリエイティブの重要性」では各フィールドにおける価値が全く異なります。
一例を考えてみます。
たとえば、ある科学者が自分の研究成果を誰もわかってくれないという悩みを抱えていたとします。
そこで知り合いに促されるままデザインについて学ぶことになりました。
科学の世界では、データを正確に分析し、その結果をエビデンスとして示すことが重要です。研究論文やプレゼンテーションでは、データの信頼性や再現性が重視されます。科学者にとってこれらは「当たり前」です。
一方で、デザインの世界では、視覚的な印象やユーザー自身の体験が重要視されます。たとえば、デザインの基本的な原則である「色の調和」や「レイアウトのバランス」といった視覚的な要素は、科学的な分析や論理とは異なる価値観に基づいています。デザイナーにとって、これらは「当たり前」のことです。
科学者がデザインを学ぶとき、まずこの「当たり前」が違うということを受け入れなければなりません。
論理的なデータ分析だけでなく、色彩や構図などの感覚的な要素も、デザインの世界では重要な意味を持ちます。
このとき、「そこにエビデンスはあるのか」「どんな理屈があるんだ」
「デザイン分野はやっぱり納得できない」などと科学者としての当たり前をかざしてしまうような状態では、せっかくの学びの機会を失ってしまいます。
科学者がデザインを学ぶことで、プレゼン資料やポスターを作成する際にデザイン性を意識したら、伝えたかったメッセージがより効果的に伝わるようになりました。
つまり、その科学者にとって「自分の研究成果をわかってもらえない」という悩みの原因は、「伝え方」にあったのです。
このように、自分の悩みの原因が自分が想像もしていなかったところにある、というのは実はどの分野でも起こっています。
ただそれを「知らない」からその発想にならないだけなのです。
この例を理学療法士やトレーナーあるあるとして考えてみると、東洋医学の経絡や五行の概念を学ぶときに拒否反応が起こりやすいことが当てはまります。
経絡や五行と呼ばれるものは物質的に存在しているわけではありません(少なくとも現代科学では)。
でも鍼灸師や東洋医学を専門とする医師の方々にとってそれは「当たり前」なのです。
ということは、東洋医学を学ぼうとするときには、それを「当たり前」として一度受け入れることから始めてみよう、ということになります。
(決して、批判的な視点を持つな、ということではありません)
これがさらに抽象的な領域になるほど拒否反応が強くなる傾向にあります。
私個人としては、それらの分野が長い年月をかけても残存している事実にこそ意味があると考えています。
2. 簡単な書籍や割安なセミナーから始める
初めての分野では、専門的な書籍や高価なセミナーにいきなり飛び込むのは効率的でありませんし、何よりお金が無限にあるわけではないですよね。
最初は基礎的な内容を扱う簡単な書籍や無料・低価格のセミナー(オンラインでも良いと思います)から始めることをおすすめします。
今は「漫画で学ぶ〇〇」という書籍や、「〇〇初級編」と言った書籍が多くあります。まずはその分野の「当たり前」を知ること。それが重要です。
どんな分野にも基礎や基本は存在していて、それは初心者向けの書籍にも十分書いてあります。
しかし専門家ほど、いきなり専門書から入ろうとしてよくわからなくなり挫折します。まずはその分野の大枠を掴むことから始めることがおすすめです。
料理を例に考えてみましょう。料理初心者がいきなり複雑なフランス料理や日本料理の全菜を作ろうとすると、その技術や知識の要求度に圧倒されて挫折してしまう姿が想像できるのではないでしょうか。
まずは簡単なレシピが載った本や、初心者向けの料理教室から始めた方が現実的です。
例えば、シンプルで材料が少なく、手順も簡単な料理から始めて、包丁の使い方や火の扱い方など、料理の基礎スキルを学んでいくことで料理についての当たり前を知ることができます。
また、YouTubeやクッキングアプリを利用するのも一つの方法ですね。無料で手軽に体験できるという点で大きなメリットがありますが、一方で次章の「本物から学ぶ」という点では難しい側面もあります。
3. 本物から学ぶ
新たに学ぼうとしている分野に対して懐疑的な場合も、その分野を深めたいと決心した場合にも重要なことは、「本物から学ぶ」ことです。本物を探すことが一番難しいのですが、とにかくその分野で長年現場に立ち続けている人、結果を出し続けている人を探してみましょう。
現代だからこそ難しいのは、SNSのフォロワーが多いからと言って本物とは限らない、ということです。むしろその逆のことの方が多いかも。。(小声)
とにかくその人はどのくらい現場で結果を残しているのか、現在も現場に立ち続けているのか、という点は最低限確認してみてください。
その上で、その人が出している書籍やワークショップなどがあれば参加してみることをおすすめします。その分野を知っている人、とその分野に精通している人、では全く捉え方が違うなんてことはよくあります。
私自身、様々な治療手技や古典医学というものについて学んできました。
例えばロルフィングやキネシオロジーやアレクサンダーテクニークやホメオパシーなど挙げればキリがないのですが、そのいずれも誰から学ぶかに一番時間をかけていました。
探し方はネットや書籍からのときもあれば、知り合いを辿ったり、実際に何人もの施術を受けたりもしました。
たとえ自分にとって理解が及ばないような領域であっても、それで結果を出し続けている人がいるのなら、その分野にこそ自分の学びがある。
そして多くの場合、自分にとって理解できないものほど「本物ではない」人をつかまえて「やっぱり使えないものだった」と結論付けてしまう人が多いように感じています。
その中で個人的なおすすめとしては、ある領域の本物に出会えて、しかもそれが自分にとって大きな意味がありそうだと感じたなら、とにかくその人との接点を増やすことです。
コニュニティがあるならまず入ってみる、
ワークショップやセミナーがあるならとりあえず行く、
過去の書籍はどんどん読む。
そんな風にしてその人との接点を増やせば増やすほど、多くのことがわかってきます。教科書的なことではない何か。それが本物の人だけが持つ「上手くいくコツ」のようなものだと思います。
それは数か月数年でわかるようなものではないかもしれません。
でも本物の雰囲気の近くにい続けること、それはどの分野であっても非常に価値のあることであり、「自分の当たり前」をいつも良い意味で壊してくれます。
治療やトレーニング業界であればこの「本物に触れる」ということができますが、学問的な領域の場合はそれが難しいことも少なくありません。
そうなると書籍を通して学んでいくことがメインとなりますが、その時に気を付けていきたいことが、次の「否定や批判を前提としない」ということです。
4. 否定や批判を前提としない
新しい分野を学ぶときに陥りがちなのが、学ぶ前から既存の知識や価値観で新しい情報を否定したり批判的に見てしまうことです。
確かに批判的な視点そのものは重要ですが、最初から否定する姿勢でいると否定できそうなポイントばかり探してしまうことになります。
どんな分野にも「ブラックボックス」と呼ばれるような、
矛盾やいまだ解明されていないことが必ず存在します。
そこを突けばどんな分野でも批判することはできるのです。
しかし多分野の学びを深める意義はそこにありません。
むしろ、矛盾しているのになぜ効果があるのか、なぜいまだに活用されているのか、生き残っているのか、を考える方が価値があるとは思いませんか?
例えば東洋医学では陰陽五行論と呼ばれる考え方が基礎になっています。
五行と呼ばれる5つのエレメントの中に、季節や食べ物、感情から臓器まですべて割り振られていて、それらが互いに影響しあっている、というのが陰陽五行論の基本的な考え方です。
これを、なぜそう言えるのか。と突き詰めて考えていくとある程度は現代科学でも説明できる部分はあるにせよ、すべてを説明しきることは難しいです。
だからそれができなければ使えない怪しい理論だ、と切り捨ててしまうのはあまりにももったいないと思うのです。
いまだに東洋医学を中心に治療をしている医師もいるくらいですし、何より現代西洋医学が台頭するまでは日本でも主流の医学でした。
その事実から考えると、「まだ」現代科学で説明しきれないだけで何か意味があるのではないか、という前提でまずは活用していみるといいのではと思います。
(なぜ西洋医学が台頭してきたのかも考えるに値する問いですね)
懐疑的な状態であればリスクが少ないことから実験してみるのがおすすめです。例えば五行に合わせて日々の食事を変えてみるとか、感情の変化と味覚の変化をメモして照らし合わせてみるとか。それならもし仮に東洋医学が全くの嘘医学だったとしてもあなたに損害はないはずですから。
否定的な態度を持たず、なんでもやってみようという姿勢で新しい知識に触れることは、学びの効果を高め、創造性を刺激し、他分野のより深い理解に繋がります。
まず否定的な姿勢から始めない。
これは新たな分野の学びを始めるときにぜひ意識しておいてもらいたいことです。
5. 中途半端でいい
そして最後に、ある意味一番大事なことでかつ専門家ほどできないであろう、「中途半端でいい」という話をしたいと思います。
とにかく専門家で職人気質な人ほど、完璧主義になりがちです。
でも実践的な学びとはそうではないと思うのです。
多くのことを知れば知るほど、理解できる深さが変わってきます。
なぜならあらゆる分野で似たような現象が起こるからです。
理学療法分野で筋膜のつながりを理解して、腓腹筋と背筋のように、一見離れている筋同士がつながっていることを理解することと、マーケティング分野でリストの数と売上との関係を理解することは似ているのです。
知っていれば当たり前でしょ、ということも、
知らなければ「その二つは関係ないこと」になる。
だから最初は初心者向けの書籍で十分なのです(もしくは初心者向けのセミナーやワークショップ)。
そして違うなと思ったら中途半端のまま置いておく。
それすらいつか繋がってきます。
だから中途半端になることを恐れる必要はないし、お金もかけなくていいし、大きなリスクを背負う必要もない。
だけどとりあえず行動を始めてほしいのです。
頭だけあーだこーだ言っていても何も変わりません。
そして目の前で起きている現象をありのまま見る、ということは実はとても難しいことなのだと知ってください。
なぜなら知識の偏りがあればあるほど、知っている領域の中でしか考えられないから。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
新たな領域の学びを始めるときに気を付けてほしいポイントについてまとめてきました。
とにかく人は変わりたくない生き物であり、
これまでの自分の当たり前を否定されることに恐怖を感じています。
だから新しい学びをするほどに、
「今まで自分は何をやっていたんだろう」と感じるような出来事にも出会います。
それすらも受け入れて、もっと楽しく、もっと良く。
その好奇心と向上心を大切にして様々な領域の学びを深めていきましょう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回からはより具体的に、分野を絞りながら導入の学びになるような記事にしていこうと思います。
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